ジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)(ノルウェー)

2021年6月9日掲載 

ワンポイント:スオは中国出身でオスロ大学(University of Oslo)・準教授になった。2018年2月(58歳?)、「パブピア(PubPeer)」でスオの論文に画像の重複使用が指摘された。2019年7月5日(59歳?)、オスロ大学・ネカト調査委員会は、スオの10論文にネカトを見つけたが、実行犯を特定できなかった。論文の第一著者の多くは中国人の研究者で、中国で実験し、生データは中国にあり、オスロ大学では調査できなかった。オスロ大学はスオを研究業務から外す処分を科した。3論文が撤回。「パブピア(PubPeer)」では、2005~2019年(45~59歳?)の18論文にコメントが付いている。調査報告書はウェブ上に公表されている(一部クロ塗り)。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

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白楽の研究者倫理
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo、ORCID iD:?、写真出典)は、中国で生まれ育ち、ノルウェーのオスロ大学(University of Oslo)・ノルウェー・ラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)・準教授、臨床検査医学クリニック(KLM)のグループリーダーになった。医師ではない。専門は病理学である。

オスロ大学・ノルウェー・ラジウム病院のネカトと言えば、2006年のヨン・スドベ (Jon Sudbø)事件が超有名である。ノルウェーの研究倫理はスドベ事件に大きな影響を受けている。今回の事件とは無関係だが、何かと言及された。 → ヨン・スドベ (Jon Sudbø) (ノルウェー)改訂 | 白楽の研究者倫理

スオは、中国人の若い研究者をノルウェーのオスロ大学(University of Oslo)に留学させ、逆に、オスロ大学の研究者を中国に連れていくという、国際研究交流を仲介していた。

2018年2月(58歳?)、「パブピア(PubPeer)」の匿名者がスオの論文にデータねつ造があると指摘した。

スオの同僚で論文の共著者でもあるトロンド・ストッケ上級研究員(Trond Stokke)は、「パブピア(PubPeer)」の指摘に気がついて、オスロ大学に公益通報した。

オスロ大学はネカト調査委員会を設け、合計16報の論文を洗い出し、広範囲にわたる調査をした。

2019年7月5日(59歳?)、ネカト調査委員会は、10論文にネカトあり、1論文にネカトなし、5論文は判断保留、と発表した(判断保留の箇所を白楽は読み違えているかも)。

時間のかかる調査にもかかわらず、ネカト調査委員会は、実際のネカト実行者が不明だと結論した。

それにもかかわらず、研究のまとめ役であるジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)に責任があるとし、スオを研究活動がない部署に配置換えした。

その後、スオの3論文が撤回された。

2021年6月8日(61歳?)現在、「パブピア(PubPeer)」ではスオの2005~2019年(45~59歳?)の18論文にコメントが付いている。

オスロ大学病院・ノルウェー・ラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)。写真出典

  • 国:ノルウェー
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし?
  • 研究博士号(PhD)取得:中国のxx大学?
  • 男女:男性
  • 生年月日:仮に1960年1月1日生まれとする。根拠は写真の見た目
  • 現在の年齢:64 歳?
  • 分野:病理学
  • 不正論文発表:2005~2019年(45~59歳?)の15年間
  • 発覚年:2018年(58歳?)
  • 発覚時地位:オスロ大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は「パブピア(PubPeer)」の匿名者だが、それを同僚のトロンド・ストッケ上級研究員(Trond Stokke)が見て、大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①オスロ大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。全文は78頁 → https://forbetterscience.files.wordpress.com/2021/03/mainreport_2019-anonymisert-versjon.pdf
  • 大学の透明性:匿名発表(Ⅹ)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:3論文撤回。2005~2019年(45~59歳?)の18論文に「パブピア(PubPeer)」でコメント
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を大きく降格(▽)
  • 処分:研究活動できない部署に配置換え
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:河南省(郑州大学)医药科学研究院

  • 生年月日:仮に1960年1月1日生まれとする。根拠は写真の見た目
  • 19xx年(xx歳):中国のxx大学(xx)で学士号取得
  • 19xx年(xx歳):中国のxx大学(xx)で研究博士号(PhD)を取得
  • 19xx年(xx歳):中国の鄭州(ていしゅう)大学(Zhengzhou University)・電子顕微鏡研究室・研究員(?)
  • 1991年12月(31歳?):ノルウェーのオスロ大学(University of Oslo)・ノルウェー・ラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)・研究員(?)。後に準教授
  • 2018年2月(58歳?):不正研究が発覚する
  • 2019年7月(59歳?):研究業務から切り離される

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★中国とノルウェーの架け橋

ジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)は、中国出身でノルウェーのオスロ大学(University of Oslo)・ノルウェー・ラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)・準教授になった。

論文の所属には記載されていないが、スオはオスロ大学在職と同時に、中国の鄭州(ていしゅう)大学(Zhengzhou University)にも在職していた。

中国人の若い研究者をノルウェーのオスロ大学(University of Oslo)に留学させ、逆に、オスロ大学の研究者を中国に連れていくという、研究上の国際交流を仲介していた。

https://bjsjth.cn/Html/News/Articles/9111.html

★発覚の経緯

ノルウェーのオスロ大学病院(Oslo University Hospital)(OUS)・癌研究部門のトロンド・ストッケ上級研究員(Trond Stokke、写真出典)は「パブピア(PubPeer)」のサイトに自分の名前を入れて、自分の論文にだれかがコメントしていないか、時々、チェックしていた

2018年2月4日(58歳?)、「パブピア(PubPeer)」のサイトで自分の論文がヒットした(PubPeer)。初めてのヒットだった。

ストッケ上級研究員の「2011年のPLoS One」論文に画像の重複使用が有ると、匿名者がコメントしていた。

詳しく見ると、明らかに同一の画像が使用されていた。しかし、自分は画像の重複使用をしていない。誰がこの不正を行なったのか?

論文の最期著者で連絡著者は臨床検査医学クリニック(KLM)のグループリーダーであるジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)だった。

ストッケ上級研究員はオスロ大学の調査を要請した。

★調査

2018年2月(58歳?)、臨床検査医学クリニック(KLM)は、ネカトだとしたらその重大さと範囲が問題になるので内部調査をするようオスロ大学に依頼した。

オスロ大学・ネカト調査委員会は、「パブピア(PubPeer)」のコメントに基づいて、合計16報の論文を調査した。

16報の論文を調査は、大規模で時間のかかる作業である。

ネカト調査委員会は16論文のうちの3論文を綿密に調査した。すると、「パブピア(PubPeer)」で指摘されているよりもさらに深刻な問題が見つかってきた。

患者データの開示に関して、インフォームドコンセントを取得していないことが判明した。

そして、論文の生データはほとんど保存されていなかった。こうなると、データねつ造の可能性が無視できくなる。

2019年7月5日(59歳?)、ネカト調査委員会は、10論文にネカトあり、1論文にネカトなし、5論文は判断保留、と発表した(判断保留の箇所を白楽は読み違えているかも)。

以下は2019年7月5日の調査報告書の冒頭部分(出典:同)。全文は78頁 → https://forbetterscience.files.wordpress.com/2021/03/mainreport_2019-anonymisert-versjon.pdf

★処分と対処

広範囲にわたり、長期間の調査をしたにもかかわらず、ネカト調査委員会は、実際のネカト実行者が不明だと結論した。

それにもかかわらず、ネカト調査委員会は臨床検査医学クリニック(KLM)のグループリーダーで研究のまとめ役であるあるジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)にネカトの責任があると指摘した。

ジェンヒー・スオは、調査した16論文中の12論文の最後著者であり、4論文では共著者だった。

オスロ大学病院(Oslo University Hospital)の研究・教育の責任者であるアーレン(ド)・スメーラン(ド)教授(Erlend Smeland、写真出典)は、ネカト実行犯を特定するためのさらなる調査をしないと述べた。

「ネカト調査委員会は、徹底的な調査をしたのでこれ以上の情報を入手することは非常に厳しい。今回の調査は、私たちができる最大の調査でした」、とスメーラン(ド)教授は述べた。

「誰が実際に不正行為を行ったのかは不明なままなのですか?」との記者の質問に、スメーラン(ド)教授は「はい」と答えている。

主要な理由は次のようだ。

第一著者の多くは、所属が中国の大学である。しかも、実験作業のかなりの部分が中国で行なわれていた。生データや実験資料の大半は存在しないか、あるいは、中国に保存されていると思われる。少なくとも、オスロ大学にはそれらは保存されていない。従って、オスロ大学の調査委員会はある線以上を調査できない。

それで、ジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)が自分のグループの研究活動を管理できていなかった責任があるとした。生データや実験資料の大半をチェックできない状況なのだから妥当な判断だろう。

処分はジェンヒー・スオを研究活動ができない部署に配置換えし、大学は研究費を支給しないとした。

ネカト調査委員会は、また、制度上の問題の改善を求めた。

1つは、研究倫理教育の欠如がその背後にあると指摘し、研究倫理教育の充実をもとめた。

もう1つは、データ管理問題であり、実験データの収集・保存がいい加減だったので、その仕組みとツールの充実をもとめた。

【ねつ造・改ざんの具体例】

2019年7月5日の調査報告書では、図表を示してねつ造・改ざん箇所を解説しているが、ノルウェー語である。白楽は挫折。

以下は、撤回された3論文に絞って、問題画像をパブピアで探った。

★「2011年のPLoS One」論文

重複使用が有るとストッケ上級研究員が最初に気がついた「2011年のPLoS One」論文。2020年5月8日に撤回された。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/5DA3AA9160BBAC2A47E60DD0BE3552?utm_source=Chrome&utm_medium=BrowserExtension&utm_campaign=Chrome

★「2013年のPLoS One」論文

「2013年のPLoS One」論文。2020年4月29日に撤回された。ジェンヒー・スオは責任著者ではない。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/523FCFCEA837825D57D5274A80BC42?utm_source=Chrome&utm_medium=BrowserExtension&utm_campaign=Chrome

★「2013年7月のPLoS One」論文

「2013年7月のPLoS One」論文。2020年8月5日に撤回された。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/0CE03FC7F392ACC8A806BC64AE7BE2?utm_source=Chrome&utm_medium=BrowserExtension&utm_campaign=Chrome

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年6月8日現在、パブメド(PubMed)で、ジェンヒー・スオ(Zhenhe Suo)の論文を「Zhenhe Suo[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の107論文がヒットした。

2021年6月8日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年6月8日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジェンヒー・スオ(Zhenhe Suo)を「Zhenhe Suo」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、 2論文が撤回されていた。

「2011年12月のPLoS One」論文が2020年5月に、「2013年3月のPLoS One」論文が2020年4月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年6月8日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジェンヒー・スオ(Zhenhe Suo)の論文のコメントを「Zhenhe Suo」で検索すると、2005~2019年(45~59歳?)の18論文にコメントがあった。

18論文の内の14論文でノルウェー・ラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)のジャーン・ネスランド教授(Jahn M. Nesland)が共著者になっていた。

●7.【白楽の感想】

《1》事件の深堀 

ジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)は中国とノルウェーの架け橋の担っていた。

だから、中国人の若い研究者をノルウェーの研究室に呼んで、研究させ、論文を出版させた。そのお礼として、スオを著者に共著論文を書くというギブ・アンド・テイクをしていた。

18論文の内の14論文でスオの上司であるノルウェー・ラジウム病院(Norwegian Radium Hospital)のジャーン・ネスランド(Jahn M. Nesland、写真出典)が共著者になっていた。

ノルウェー側はスオの上司であるネスランド教授が、ギフト・オーサーシップ(gift authorship、贈呈著者)の役得を得ていたと思われる。

このギブ・アンド・テイクの中で、ノルウェーの研究室に呼ばれた中国人の若い研究者はとにかく論文を出版しなければならない。

で、ねつ造データでもいいから論文を出版を、ということになったのだろう。

チェックする立場のスオもスランド教授も、論文が増えるから、チェックが甘くなる。それで、中国人たちは「ねつ造データでも論文出せばいいんだよ」と先輩から後輩に言い伝えてきたのではないだろうか。

この構造の中で、多数のネカト論文が出版された、と白楽は思った。

《2》防ぐ方法

スオ事件の教訓として、オスロ大学は研究倫理教育とデータ管理の改善が必要だと結論した。

研究倫理教育とデータ管理の改善はした方がいいけど、ネカトを防ぐ決定的な策ではないように思う。

中国の腐敗したネカト文化をオスロ大学に持ち込ませない。つまり、若手中国人を受け入れないことが第一だ。

どうしても受け入れたいなら、若手中国人への監視強化、研究室の透明化・風通し、そして、ネカトに対する強い処分も必要だ。

中央がジェンヒー・スオ(索振河、Zhenhe Suo)。受賞。出典不明

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●9.【主要情報源】

① 2021年3月22日のクルスティン・グラニュリ(Kristin S. Grønli)記者の「Forskningsetikk」記事:Varsla om omfattande fusk ved OUS og UiO | Forskningsetikk
② 2021年3月30日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:The communal misconduct by Zhenhe Suo in Olso – For Better Science
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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