法学:「修士号」:パブロ・カサード(Pablo Casado)(スペイン)

2018年10月23日掲載

ワンポイント:カサードはスペインの下院議員に在職まま、2014年、33歳で、フアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)で法学(行政法)の修士号を取得した。2018年4月、修士号の不正取得が指摘されたが、その渦中の2018年6月、37歳で、野党・国民党の党首に選出された。修士号問題は裁判中で、議員辞職していない。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

パブロ・カサード(Pablo Casado、写真出典)は、2011年、30歳で野党・国民党からスペインの下院議員に当選した。2014年(33歳)、議員在職のまま、フアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)で法学(行政法)の修士号を取得した。

2018年4月(37歳)、修士号取得から4年後、フアン・カルロス国王大学で取得した修士号の不正が指摘された。

カサードは修士号取得は不正ではないと主張している。

2018年6月(37歳)、修士号の不正取得が糾弾される中、カサードは野党・国民党の党首に選出された。

2018年10月22日現在、カサード事件は裁判中で、決着はついていない。

フアン・カルロス国王大学(King Juan Carlos University:Universidad Rey Juan Carlos)。写真出典

  • 国:スペイン
  • 成長国:スペイン
  • 修士号取得:フアン・カルロス国王大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1981年2月1日
  • 現在の年齢:43歳
  • 分野:法学
  • 最初の不正:2014年(33歳)
  • 発覚年:2018年(37歳)
  • 発覚時地位:スペインの下院議員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は新聞「eldiario.es」のゴンザロ・コルティゾー(Gonzalo Cortizo)記者で、新聞に記事を掲載
  • ステップ2(メディア): 「eldiario.es」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①フアン・カルロス国王大学。②裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)。
  • 不正:修士号取得
  • 不正論文数:
  • 時期:キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。内訳 ↓

  • ⑩損害額(大雑把)の場合:盗博をした政治家・学長は、その国と政界・大学の権威・公正・信頼を失墜させ、学術界を腐敗させた。普通の国の現職大統領・首相は1000億円、閣僚または学長は100億円、知事または議員は10億円(大雑把)。議員なので損害額は10億円(大雑把)

●2.【経歴と経過】

  • 1981年2月1日:スペインで生まれる
  • 2003年(22歳):スペイン国民党(PP)・入党
  • 2007年(26歳):マドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)で学士号取得:法学
  • 2007-2014年(26-33歳):フアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)で経営学の学位と行政法の修士号を取得
  • 2007年(26歳):マドリード州議会議員
  • 2011年(30歳):スペイン下院議員
  • 2018年4月(37歳):修士号の不正が指摘される
  • 2018年6月(37歳):国民党の党首

●3.【動画】

【動画1】
パブロ・カサードの説明動画:「パブロ・カサード:修士号の擁護(PABLO CASADO vuelve a defenderse a cuenta del MASTER) – YouTube」(スペイン語)1分59秒。
Todo Radioが2018/08/06 に公開

【動画2】
ニュース動画:「シフエンテスへの修士号授与教授がパブロ・カサードの3つの科目を承認した(El director del MASTER de CIFUENTES aprobó a PABLO CASADO tres asignaturas) – YouTube」(スペイン語)1分25秒。
EL PAISが2018/06/20 に公開

●4.【日本語の解説】

パブロ・カサード – Wikipedia

2007年から2014年には、フアン・カルロス王大学から経営学の学位と行政法の修士号を得たと主張しているが、その正当性が論争の対象となっている。

★2018年7月26日:スペインプレスspainpress1:国民党パブロ・カサード新党首修士号問題 エンリケ・アルバレス・コンデ(当時の責任者)「論文持っていない。」

出典 → ココ

国民党パブロ・カサード新党首がマドリードのホアン・カルロス1世大学で2008年から2009年に受講し、修士号を得ていたが、一切論文などが見つからない件で(2018年7月)25日、当時カサード新党首が受講していた修士課程の卒業を認定する責任者であるエンリケ・アルバレス・コンデ元教授(公文書偽造の疑いで捜査中)はマドリード裁判所に対し、「論文は一切残っていない。」と文書で回答したことが分かった。

マドリード裁判所は同教授に対し、パブロ・カサード新党首が授業を受け、修士号を得た証拠として論文の提出を命じていた。

一方、コンデ元教授は生徒らの論文を保管しなければならない規則はないと指摘し、現在裁判所から容疑がかかっている他の元生徒3人の論文も一切持っていないと回答したとのこと。

ホアン・カルロス1世大学ではカサード新国民党党首以外にも、マドリードのクリスティーナ・シフエンテス前州首相(元国民党)や、国民党高官の家族なども同様の事態が起こっており、マドリード州裁判所では同大学教授、元教授、事務員など合計14人に対し調べを行っている。

★2018年7月24日:スペインプレスspainpress1:パブロ・カサード国民党新党首の修士号偽造疑惑でスペン司法当局が大学教授2人に証拠提出を命令

出典 → ココ

2008年から2009年にかけマドリードのホアン・カルロス国王大学で、パブロ・カサード国民党新党首が4単位で取得したとされる修士号が、偽造されたものではないかとの件で、スペイン司法当局は同大学の教授2人に対し、カサード新党首が行った論文などを8月2日までに提出するよう命じたことが分かった。

以下略

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★修士号の不正取得疑惑

2018年3月21日、デジタル日刊紙「eldiario.es」は、マドリード州・知事のクリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)がフアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)の法学コースを修了していないのに、修士号を取得していた、つまり、修士号はねつ造だと指摘した。
→ 法学:「経歴詐称」:クリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)(スペイン) | 研究倫理(ネカト)

カサードは同じフアン・カルロス国王大学で修士号を取得していて、シフエンテス事件の波及でカサードの修士号疑惑が勃発した。

2018年4月10日(37歳)、デジタル日刊紙「eldiario.es」記者が「疑問と解説」形式で記事にした。
→ 2018年4月10日のゴンザロ・コルティゾー(Gonzalo Cortizo)記者の「eldiario.es」記事(以下の写真も):Siete preguntas sobre el máster de Pablo Casado

フアン・カルロス国王大学での修士論文を手にするカサード。

疑問1.修士号の取得にいくつの科目と単位を取ったのか?
カサードは22科目のうち4科目のみを履修した。バリデーション(合法化)申請が承認され修士号に必要な60単位のうち20単位を取得すればよいとされた。

疑問2.授業への代理出席は、誰が許可したか?
クリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)の時と同じエンリケ・アルバレス・コンデ教授(Enrique Álvarez Conde、写真出典)が許可した。カサードは大学の本部でコンデ教授に会って許可を得た。

疑問3.カサードのバリデーション(合法化)に誰がいつ署名したか?
フアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)の当時副学長だったフェルナンド・スアレズ(Fernando Suárez)が、2009年2月9日、22科目のうち18科目を取らずに修士号を取得できることをカサードに許可した証明書(バリデーション)に署名した。

疑問4.修士号疑惑での対応は透明だったか?
国民党の広報担当副室長は、30人のジャーナリストの前で、1時間半の説明をした後、記者会見を行なった。その後、制限付きではあったが、いくつかの質問を受け付けた。また、カサードの修士論文のタイトルを読み、ページ数や参考文献の詳細についても詳しく述べた。しかし、論文には口座番号や家族の住所などの個人情報が含まれているとの理由で、ジャーナリストの写真撮影を拒否した。

疑問5.カサードはフアン・カルロス国王大学の修士号を取得しているのか?
カサードは修士論文を大学に送付するよう指示しなかったので、修士号を所有していないと説明した(白楽の読み違え? 修士号を取得したと主張していると思ったが・・・)。カサードは、授業に出席していないし、試験にも合格していないが、修士号を取得できたと公言していた。

★ハーバード大学の大学院学位もおかしい?

カサードは、「私はフアン・カルロス国王大学の修士号を取得しているだけでなく、スペインでもう1つ、米国ではハーバード大学とジョージタウン大学の2つ、計4つの大学院学位を取得しています」と述べた。

驚いたことに、ハーバード大学の学位は、スペインのマドリードにあるビジネススクールで、2008年6月16日から6月19日までの4日間通っただけで、取得した学位だった。入学資格はなく、授業料は2000ユーロ(約24万円)とべらぼうに高い値段だったが、カサードは、自分で払ったのか、当時、マドリード州議会副議長だったので州からの奨学金をもらったのか覚えていないとのことだ。

教師は、米国のハーバード大学・ケネディスクール(Harvard Kennedy School)の公共政策・上級講師のロバート・D・ベン(Robert Behn、写真も)だったそうだ。米国のハーバード大学で同じ講義が開設されているが、同じ時間数の講義を受ければ8,800ドル(約88万円)だそうで、スペインで受講した方が安いとのことではある。

★学士号もおかしい?

さらに、2007年、カサードが26歳の時、マドリード・コンプルテンセ大学(Complutense University of Madrid)で法学の学士号を取得した時も異常に早いと疑念がもたれている。

マドリード・コンプルテンセ大学で学位を認定する組織「CES Cardenal Cisneros」はカサードを特別に優遇していないと述べ、優遇を否定した陳述書を発表した。

★裁判

2018年5月(37歳)、フアン・カルロス国王大学でのカサードの修士号取得不正は裁判になり、マドリード裁判所は国家質評価保証機構(ANECA:National Agency for Quality Assessment and Accreditation)にカサードの修士号取得に関する調査と報告を求めた。

一方、フアン・カルロス国王大学も調査を始めた。

2018年8月6日(37歳)、マドリード裁判所の判事は、修士号取得での贈収賄罪でパブロ・カサードの正式な起訴を要求する陳述書を最高裁判所に送付した。

2018年10月22日(37歳)現在、カサード事件は最高裁判所の裁判中で、結論はでていない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》大学と政治家の腐敗

スペインの大学・学長と政治家がグルになってネカト腐敗をしている。

シフエンテス(左)、カサード(右)https://www.elplural.com/politica/espana/imputan-companeras-pablo-casado-master_200568102

本記事のカサード事件に登場するマドリード州・知事だったクリスティーナ・シフエンテスとフアン・カルロス国王大学の学長だったフェルナンド・スアレスはネカトまみれだった。

2018年2月、マドリード州・知事のクリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)は、修士号取得が虚偽だったことが発覚し、2018年4月、53歳でマドリード州・知事を辞任した。
→ 法学:「経歴詐称」:クリスティーナ・シフエンテス(Cristina Cifuentes)(スペイン) | 研究倫理(ネカト)

2016年、フアン・カルロス国王大学(Universidad Rey Juan Carlos, URJC)のフェルナンド・スアレズ学長(Fernando Suárez)は多数の文章を盗用した。
→ フェルナンド・スアレズ(Fernando Suárez) | 研究倫理(ネカト)

学長と政治家がグルになった場合、どの組織が不正を調査し糾弾できるのか? スペインは学長と政治家が腐敗していたが、幸いなことに、メディアはまともだった。メディアが学長と政治家のネカトを糾弾した。

ひるがえって、日本は主要メディアが弱い。独自取材が少なく、ほとんどの記事は「大本営発表」の御用記事である。東京大学医学系教授のネカトは東京大学がシロと発表すれば、主要メディアはそれ以上追及しない。スペインを笑えない。

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア。英語版:Pablo Casado – Wikipedia。日本語版:パブロ・カサード – Wikipedia
② 2018年4月10日のゴンザロ・コルティゾー(Gonzalo Cortizo)記者の「eldiario.es」記事:Siete preguntas sobre el máster de Pablo Casado、(保存版)
③ 2018年4月11日のイグナシオ・エスコラー(Ignacio Escolar)記者の「eldiario.es」記事:Pablo Casado sacó su máster con solo cuatro trabajos que suman 90 páginas | España | EL PAÍS、(保存版)
④ 2018年4月12日のイグナシオ・エスコラー(Ignacio Escolar)記者の「eldiario.es」記事:El “posgrado en Harvard” de Pablo Casado fue un curso de cuatro días en Aravaca。 グーグル翻訳:パブロ・カサドの「ハーバード大学院」はアラバカで4日間のコースでした、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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