7-33.捕食学術誌に出版する意図

2019年3月19日掲載。

白楽の意図:捕食学術誌に論文を出版するのは研究先進国は少なく、主に研究中等国だと思っていたし、そのことを示したデータや論文をいくつか見た。でも、誰でもズルして得したい。偉い研究者がネカトしてきたように、偉い研究者も捕食学術誌に論文を出版するだろう。研究先進国のデンマークの研究者が捕食学術誌に論文を出版する意図を調べたナメメ・シャゲイ(Najmeh Shaghaei)らの2018年の論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

2015年から2016年の間に南デンマーク大学の研究者が出版した6,851論文から31報の捕食論文を特定した。これらの論文の著者にインタビューし、先進国からの研究者も開発途上国の研究者と同じ理由で捕食学術誌に論文を出版していることを明らかにした。つまり、捕食学術誌がマズイという意識の欠如、原稿処理の速さと出版プロセスの容易さ、他の学術誌で不採択になった原稿の出版機会としてなどである。しかし、調査結果は、論文をより多くの研究者に読んでもらいたいこと、捕食学術誌は原稿への対応が早いことなども動機だったことを示していた。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:Being a deliberate prey of a predator: Researchers’ thoughts after having published in predatory journal.
    日本語訳:捕食学術誌に意図的に出版した餌食研究者の考え
  • 著者:Shaghaei, N., Wien, C., Holck, J.P., Thiesen, A.L., Ellegaard, O., Vlachos, E. and Drachen, T.M.
  • 掲載誌・巻・ページ:LIBER Quarterly, 28(1), pp.1–17
  • 発行年月日:2018年
  • DOI: http://doi.org/10.18352/lq.10259
  • ウェブ:https://www.liberquarterly.eu/articles/10.18352/lq.10259/
  • PDF:

★著者

  • 第1著者:ナメメ・シャゲイ(Najmeh Shaghaei)
    https://twitter.com/najmehshaghaei
  • 写真: https://libereurope.eu/blog/dt_team/najmeh-shaghaei/
  • 履歴:https://at.linkedin.com/in/najmeh-shaghaei-91065426/de
  • 国:デンマーク
  • 生年月日:イラン生まれ? 現在の年齢:50 歳?
  • 学歴:北キプロスのギルネアメリカン大学(Girne American University)で経営学の研究博士号(PhD)取得:2013年
  • 分野:図書館学
  • 論文出版時の地位・所属:図書館長・南デンマーク大学:University Library of Southern Denmark as Head of Library – Campus Sønderborg,

南デンマーク大学:University Library of Southern Denmark – Campus Sønderborg,
https://www.sdu.dk/en/om_sdu/byerne/soenderborg

●3.【論文内容】

【1.序論】

省略

【2.方法】

2015年から2016年の間に南デンマーク大学が出版した6,851論文から31報の捕食論文を特定した。捕食論文の割合は、0.45%だった。

31論文の著者の内、インタビュー選定基準は、南デンマーク大学の教員・博士院生で、かつ、論文の第一著者とした。

インタビューは、電子メールによる公開の1:1インタビューで行なった。

以下、合計6人の教員・博士院生がインタビューに応じてくれた。数字は2015-2016年の出版論文数で、( )はその内の捕食論文数である。若手研究者は博士院生を含む。

回答者 1  若手研究者  理学   1(1)
回答者 2  上級研究者  医学  6(1)
回答者 3  若手研究者  理学  7(1)
回答者 4  上級研究者  工学  2(1)
回答者 5  上級研究者  経営学 4(1)
回答者 6  若手研究者  理学  1(1)

【3.結果】

私たちの方法で見つけた捕食論文の数は31報で、多分、実際の捕食論文数よりも少ないと思えるが、それが、今回の私たちの限界だった。

★3-1.捕食学術誌への投稿動機

6人にインタビューした結果は、捕食学術誌に論文出版した時、研究者自身が選択した場合と、スーパーバイザー/同僚/上司の勧めだった場合があった。

また、捕食出版社からの勧誘もあった。ある研究者は会議で発表後、会議論文を出版しないかと捕食出版社から勧誘された。

数人の回答者は捕食出版が問題視されていることをまったく知らなかった。 出版のスピードが早い、編集が少なくてすむ、どうしても論文として出版する必要がある、不採択論文を他の学術誌に出版する必要性などが、高い論文掲載料や学術誌の評判が悪いことよりも重要だと考えた。

さらに、学術的プレッシャーが捕食学術誌の選択につながった。 少なくとも2人は、1)問題の学術誌の「インパクトファクター」が高いとされていること、および、2)デンマークの権威あるBFI(Danish Bibliometric Research Indicator)のリストに掲載されている学術誌だから選択した、と回答した。なお、BFIリストの学術誌はデンマークの研究助成機関が「合格」と認定した学術誌リストである。

もちろん、インパクトファクターは偽物の可能性がある。 インパクトファクター(Journal Impact Factor)はユージン・ガーフィールド(Eugene Garfield)によって導入された数値で、現在はクラリベイト・アナリティクス社(Clarivate Analytics)によって学術誌引用レポート(Journal Citation Reports:JCR)の索引データから計算されている。 それは権威ある数値とみなされている。

ところが、捕食学術誌は学術誌引用レポートに採録されていないので、「本当の」インパクトファクターがない。それで、いくつかの捕食学術誌はいい加減なインパクトファクター、あるいは単に偽のインパクトファクターを使う。

さらに、多くの“危険な”捕食学術誌は、質の高い学術誌と全く同じ名称の学術誌名、または非常によく似た学術誌名を使っている。

★3-2.捕食学術誌への投稿経験

ほとんどの回答者は、捕食学術誌での論文出版は簡単だと感じた。つまり、従来の真正学術誌とほとんど同じプロセスだっだ。従来の真正学術誌の査読のように 何人かの著者は原稿を改訂し追加の情報を加えななければならなかった。他の人たちは、フィードバックが欠如していることや原稿への修正要求が限定的だと感じた。

中高年の回答者の一人は、学術誌のウェブに発表された彼の論文のレイアウトが破損していたとのことだった。それで、彼は修正してもらおうと編集者に連絡したが、出版社は修正してくれなかった。

回答者の一人は、査読者になることを志願した。この経験を通して、回答者は査読者として不採択にした論文原稿が、同じ出版社の別の学術誌に掲載されたことを知った。回答者はその後この学術誌に論文発表しないことにした。

一般に捕食学術誌は、従来の真正学術誌に比べ、投稿原稿に素早く対応してくれた。このことは、回答者の何人かは肯定的に受け取っていた。

★3-3.研究者の考え

すべての回答者にとって学術誌を選択する最も重要な基準は、できるだけ多くの人に論文を読んでもらえることだった。 そのためには、学術誌のコミュニケーション機能とその評判の両方が重要である。論文の読まれ度合いに比べれば、論文掲載料の高額さはそれほど重要ではないと、研究者たちは考えらていた。

2番目に重要な事項は、論文がオープンアクセスとして公開されるということだった。回答者は、オープンアクセス論文は購読者だけが利用できる論文よりも頻繁に読まれていること、そしてオープンアクセス論文はより頻繁に引用されていることを知っていた。 また、彼らは全員、オープンアクセス論文とデータによって、世界規模で国際共同研究を行なうことが可能になったと感じていた。

上級職の回答者のうち2人は、彼らの学科が特定分野ごとに選定した質の高い学術誌リストを用意していると述べた。 彼らはそのリストが真正学術誌を選択するのに役立ち、非常に効率的で時間の節約になると感じているそうだ。 なお、彼らは昇進のために、与えられた時間内に研究成果を論文に発表するプレッシャーにさらされているとも感じているそうだ。

一部の回答者は、捕食学術誌は出版までのプロセスが迅速でかつ簡単だという利点を挙げていた。 出版された論文の質と適切な読者の多さは非常に重要だが、回答者は投稿、受理、出版の間の迅速なプロセスを評価していた。

★3-4.出版慣行

この部分では、大学から論文出版への何らかのプレッシャーを経験したかどうか、そして論文出版に対して報酬が与えられたかどうかを研究者に尋ねた。

2人の若手回答者は、大学院コースの修了(博士論文執筆?)と就職の面接の準備などで、さまざまな種類のプレッシャーを受けていると述べた。 従って、論文を出版し前進することがキャリア上の最大関心事で、自分の研究成果を論文に出版できることはとても重要で、学術誌が課す論文掲載料はさほど重要ではない。

他の回答者はそのようなプレッシャーを経験していない。しかし、論文発表は大学から奨励されていた。論文出版による報奨金はないが、少数の回答者は大学の同僚から褒められたと回答した。

●4.【関連情報】

①【捕食学術リスト】
捕食学術誌への悪ふざけリスト(1)
捕食学術の記事リスト(1)

●5.【白楽の感想】

《1》母数

読んでしまってから文句を言っても仕方ないのだが、というより、読まなければ文句の言いようがないが、この論文は、調査対象の捕食論文が31報と少ない。その上、インタビューした著者が6人とは、メッチャ、少なくて、論文として成り立たない、と白楽は思う。南デンマーク大学の研究者・院生の一般論としても勿論、「デンマークの研究者は・・・」などと一般化はできない。

論文の意図は優れているのだけれど、サンプル数が少なすぎで、論文は役に立たない。

《2》論文の意図

上記《1》のように、この論文は役に立たないと思っていながら、ナンカ、この論文に引っかかっていた。

そして、ある日、「はあー、なるほど」と腑に落ちた。

ほとんどの大学は所属の教員・院生に捕食学術誌に論文を出版しないよう警告している。しかし、さほど効果がない。

でも、所属大学の図書館長がその大学の教員・院生の誰々がいつ捕食論文を出版したかを知っている。そして、どういう意図でその捕食論文を出版したかを問い合わせてくる。となると、教員・院生は“軽い気持ち”で捕食論文を出版できない。

要するに、「私たちは監視していますよ。あなたが論文数を増やしたい意図でガラクタ論文を出版しているのを見ていますよ」と、学内の教員・院生に警告しているのだ。

この視点でみると、この論文はとても役に立つ。これが、この論文の真の意図だと理解した。深読みしすぎ?

《3》デンマークBFIリスト

デンマークBFIリスト(Danish Bibliometric Research Indicator)は有用そうである。2019年版「BFI list of series 2019 (excel)」で20,237学術誌が、「BFI list of publishers 2019 (excel)」で1,259出版社がリストされていた。

ビールの捕食誌リストがウェブから消滅しているので、デンマークBFIリストは、捕食誌を特定するリストの1つとして有効な気がする。

なお、デンマークBFIリストの1,259出版社に、「Japan」の単語がついてる出版社は「Japan Scientific Societies Press」の1社しかリストされていない。勿論、「Nihon」「Nippon」はゼロです。日本はこれでいいのでしょうか?

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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