「論争」:イグナシオ・チャペラ(Ignacio Chapela)(米)

2017年7月11日掲載。

ワンポイント: 米国のカリフォルニア大学バークレー校・助教授(メキシコに生まれ育った男性)が、2001年11月(42歳)、遺伝子組換えトウモロコシがメキシコの野生トウモロコシの遺伝子を汚染しているという「2001年のNature」論文を発表し、大きな論争を引き起こした。ネカトはない。損害額の総額(推定)は0円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.論争勃発の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

イグナシオ・チャペラ(Ignacio H. Chapela、イグナチオ・チャペラ、写真出典)は、メキシコに生まれ育ち、1987年(27歳)に英国のカーディフ大学で研究博士号(PhD)を取得し、1995年(35歳)に米国のカリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)の助教授になった。専門は微生物生態学(遺伝子組換え生物(GMOs)と環境)である。医師ではない。

2001年11月(42歳)、遺伝子組換えトウモロコシがメキシコの野生トウモロコシの遺伝子を汚染しているという「2001年のNature」論文を発表した。

この論文をめぐって、遺伝子組換え作物の賛成派と反対派の両派が大論争となった。研究方法のバイアスやデータねつ造・改ざんも調査されたが、結局、ネカトはなかった。

この事件の日本語解説は、たくさん(3つ以上)あった。

最初に書いておくが、白楽の遺伝子組換え生物(GMOs)に対する態度は、純粋に生命科学的知識・考え方に基づき、賛成である。

また、白楽は、賛成派・反対派のいずれの関係者・組織から、カネ(研究費、講演料、執筆料など)を貰ったり、便宜をはかってもらったことはない。家族・親族に関係者はいない。本記事も純粋にネカト問題の視点から調べはじめた。結果として、ネカトはなかったが、記述した。カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:メキシコ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のカーディフ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1959年9月12日
  • 現在の年齢:57 歳
  • 分野:微生物生態学
  • 最初の論争論文発表:2001年(42歳)
  • 発覚年:2001年(42歳)
  • 発覚時地位:カリフォルニア大学バークレー校・助教授
  • ステップ1(発覚):発表論文の内容に多くの研究者が反応した
  • ステップ2(メディア): 『ネイチャー』誌など
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:
  • 問題:論争論文の発表
  • 論争論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は0円
  • 結末:辞職なし
http://www.thoughtandawe.net/biology/botany/gmos-and-the-risk-to-our-genetic-heritage/

●2.【経歴と経過】

主は出典:Ignacio H. Chapela (born September 12, 1959), Mexican biologist, researcher | Prabook

  • 1959年9月12日:メキシコのメキシコ・シティに生まれる
  • 1984年(24歳):メキシコのメキシコ国立自治大学(National Autonomous University of Mexico)を卒業。生物学専攻
  • 1987年(27歳):英国のカーディフ大学(Cardiff University)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1987年7月23日(27歳):Laura Garcia-Morenoと結婚
  • 1987-1988年(27-28歳):米国のコーネル大学(Cornell University, Ithaca, New York)・客員教授
  • 1989-1991年(29-31歳):スイスのサンド社Sandoz, Ltd)・研究員
  • 1992-1993年(32-33歳):米国のコーネル大学(Cornell University, Ithaca, New York)・客員教授
  • 1994年(34歳)-現在:メキシコ・オアハカ(Oaxaca)に菌研究所(Mycological Facility)設立し、所長
  • 1995年(35歳):カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)・助教授。
  • 2001年11月(42歳):すぐ大論争となった「2001年のNature」論文を発表
  • 2005年(45歳):カリフォルニア大学バークレー校のテニュア(academic tenure)を得る
  • 2017年7月10日現在(57歳):現職を維持、研究と社会活動をしている

●3.【動画】

【映画】
『食べ物の未来』(The Future of Food)に出演
2004年 ‧ ドキュメンタリー ‧ 1時間 30分。オフィシャルサイト → ココ
1分53秒の紹介動画(英語)。The Future of Food (Trailer) from Lily Films on Vimeo.
以下のリンクが切れた時 → 保存版

【映画】
2008年/フランス、カナダ、ドイツ/ドキュメンタリー/1時間49 分『モンサントの不自然な食べもの』(The World According to Monsanto)に出演
1分51秒の紹介動画(英語、日本語字幕付き) → https://vimeo.com/ondemand/uplinkcloud018/190706248?autoplay=1
『モンサントの不自然な食べもの』 from UPLINK Cloud on Vimeo.

【映画】
2011年ドイツ・米国共同制作のドキュメンタリー映画(1時間31分)。オフィシャルサイト。「科学者が攻撃される ― カネの磁力下の遺伝子工学(Scientists under Attack – Genetic engineering in the magnetic field of money」の紹介動画(英語)3分20秒
DenkmalFilm が2010/11/23 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

【動画】
イグナシオ・チャペラ(Ignacio H. Chapela)の解説「遺伝子組換え生物の環境問題(Environmental Consequences on GMOs by Dr. Ignacio Chapela)」(英語)6分05秒
monsatanovideo が2012/05/23 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

【動画】
2014年11月14日、イグナシオ・チャペラ(Ignacio H. Chapela)がカリフォルニア大学バークレー校のキャンパスで演説する。「私たちの農場だ!(OUR FARM! Ignacio Chapela )」(英語)13分43秒
FoodFirstVideo 2015/03/05 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

●4.【日本語の解説】

日本語記事が多数ある。以下は一部。

★2002年06月13日:Kristen Philipkoski:『ネイチャー』誌が遺伝子組み換え作物汚染の論文を撤回、関係者の間で激しい論争

出典 → ココ、(保存版

メキシコのトウモロコシのさまざまな在来種が、遺伝子組み換え品種で汚染されているという論文が、科学雑誌『ネイチャー』誌に昨年発表されたが、最近同誌はこの論文を撤回した。しかし、この展開をめぐって、新聞のコラムニスト、バイテク企業、広告会社の間で激しい論争が巻き起こっている。

一流科学雑誌が今年4月に、メキシコのトウモロコシが遺伝子組み換え品種に汚染されているという内容の論文を撤回したことは、バイオテクノロジー業界のイメージ戦略にとって大きな勝利だった。

しかし今、バイテク業界がこの勝利をどうやって手に入れたかということが、激しい論争の的になっている。

事の発端は、カリフォルニア大学バークレー校で環境科学、政策および管理を教えているイグナシオ・チャペラ助教授が書いた論文だった。内容は、メキシコのトウモロコシのさまざまな在来種が、遺伝子組み換え作物に汚染されているというものだ。

この論文は、イギリスの科学雑誌『ネイチャー』誌の2001年11月29日号に掲載されたが、これに対してバイテク業界から非難の嵐が巻き起こった。とくに、農業分野のバイテクを推進する『アグバイオワールド』のメッセージボードでの批判は激しかった。

続きは → ココ、(保存版

★2004年10月25日:GMOウオッチャー 宗谷 敏:「リスク&ベネフィット」論争のゆくえ〜データが揃いこれから本番?

出典 → ココ、(保存版

発端は01年11月28日付「ネーチャー」誌にカリフォルニア大学バークリー校の研究者らが、メキシコ南部オアハカ州とプエブラ州の野生トウモロコシから、GMトウモロコシの遺伝子を発見したと発表したことにある。メキシコにおいては98年からGMトウモロコシ作付けは禁止されており、当該野生種の採取地域は以前GMトウモロコシが作付けられていた地点から約100キロ離れていた。

メキシコにはトウモロコシの原種が存在していたためもあり、ジーンフロー(遺伝子流出)問題を巡って凄まじい論争が勃発した。推進派は研究手法を疑問視するなど激しいキャンペーンを展開し、02年4月に至り「ネーチャー」がイグナシオ・チャペラ助教授らのこの論文掲載を遂に撤回するという前代未聞の珍事へと発展していく

続きは → ココ、(保存版

★2009年2月24日:農業情報研究所(WAPIC):メキシコ・オアハカの野生トウモロコシのGM汚染 新研究が再確認

出典 → ココ、(保存版

メキシコ国立自治大学の研究チームが、オアハカ地域で採取した2000近い野生トウモロコシのサンプルのおよそ1%に組み換え遺伝子を発見した。

2001年、オアハカ地域の野生トウモロコシに初めてGMトウモロコシの遺伝子を発見したカリフォルニア大学バークレー校のDavid QuistとIgnacio Chapelaの研究は、研究手法をめぐる批判の集中砲火を浴びせられた。

研究を公刊したNature誌が掲載したことを遺憾と表明、研究には決定的な欠陥があったと認める騒ぎにまで発展した。その後、この発見を裏付ける研究や、否認する研究が相次いだが、いまではこの決定的に重要な問題がうやむやままに忘れ去られようとしている。

しかし、Molecular Ecology誌に発表された新たな研究は、David Quist and Ignacio Chapelaの主張を改めて支持するものという。

続きは → ココ、(保存版

●5.【論争勃発の経緯と内容】

★論争の背景

本事件は、遺伝子組換え生物(GMOs)の安全性に関する論文の論争である。

遺伝子組換え生物(GMOs)の論文内容の判断は難しい。一般に、研究者の95%は賛成派または反対派から巨額のお金を貰っている。賛成派または反対派から独立した研究者は5%しかいない。

従って、科学論争をしていても、一皮むけば、カネが絡んでいる。厳格に研究公正が守られていると単純には思いにくい。

個々の研究者だけでなく、大学の学科・学部全体、学会、国立研究所、政府行政機関の見解・発言・決定もカネ絡みになることが多い。

本記事での遺伝子組換え生物(GMOs)の賛成派は、モンサント社(Monsanto)、デュポン・パイオニア社(DuPont Pioneer)、 ダウ・アグロサイエンス社(Dow AgroSciences)などの巨大企業である。こういう賛成派はわかりやすい。

遺伝子組換え生物(GMOs)の反対派は、環境保護団体のグリーンピース (NGO) などである。こういう反対派もわかりやすい。

★2001年11月:論争論文を出版

2001年11月(42歳)、イグナシオ・チャペラは、以下の「2001年のNature」論文を院生のディビッド・キスト(David Quist)と共著で発表した(写真はチャペラ(左)、キスト(右):出典)。

メキシコでは遺伝子組換えトウモロコシの栽培は禁止されていた。ところが、そのメキシコの野生トウモロコシに遺伝子組換えトウモロコシの遺伝子が見つかったのだ。それも、野生トウモロコシの1%に見つかった。

つまり、遺伝子組換え作物はコントロールされた農場で育てて、外部の自然界には決して流布しないとされていたが、実際はそうではなく、ジーンフロー(遺伝子流出)が起こり、自然界を汚染していたのである。

それで、賛成派のバイオテクノロジー企業と反対派の環境保護団体が、それぞれの科学者を巻き込んで、壮絶なバトルを展開した。

本来は遺伝子組換え作物に対する金儲け・思想・政策のバトルだが、いわば代理戦争のように、論文の賛成・反対合戦になった。論文の結果を好まない人たちは、あら探しとして、論文データの正確さや研究方法論の妥当性を攻撃することになる。

2002年4月、シアトルのワシントン大学(University of Washington, Seattle)のメッツ(Metz M)、そして、チャペラと同じカリフォルニア大学バークレー校のカプリンスキー(Kaplinsky N)が、チャペラの「2001年のNature」論文方法論を批判した。以下の2論文。

2002年4月(42歳)、学術誌「Nature」編集部は、結論に至る証拠が不十分という理由で、一度、チャペラの「2001年のNature」論文を撤回した(という記述があるが、実際は、していない?)。

話が脇道に逸れる。

実は、カリフォルニア大学バークレー校の植物・微生物学科は、ノバルティス社(バイオテクノロジー企業)に出版前の論文原稿を見せることで、巨額の資金提供をしてもらう契約をしようとしていた。チャペラはその契約に強く反対していた。

一方、タイミングとして、チャペラのテニュア(academic tenure)審査が行われていた。カリフォルニア大学バークレー校の雇用委員会は全会一致でチャペラのテニュア授与に賛成だった。

2003年、ところが、カリフォルニア大学バークレー校の植物・微生物学科はチャペラにテニュアを授与しなかった。

例えば、分子細胞生物学科でノバルティス社と関係が深いジャスパー・ライン教授(Jasper Rine、写真出典)は黒幕の1人だった。

ライン教授は、チャペラがノバルティス社との契約に反対しているので、嫌がらせで、テニュアを授与しないようにと言動していた。

2005年、しかし、チャペラにテニュアが授与された。

話を戻す。

Allison Snow
6-20-05
Jo McCulty photo

2005年、米国のオハイオ州立大学(Ohio State University)のアリソン・スノウ(Allison Snow、写真出典)の研究チームは、チャペラが「2001年のNature」論文で分析したメキシコ南部オアハカ州のトウモロコシと同じ場所で実験をし、ジーンフロー(遺伝子流出)が起こっていないとする論文を発表した(以下)。

さて、「2001年のNature」論文は間違っていたのだろうか?

【2017年での理解】

本ブログはネカト・ブログで、遺伝子組換え生物(GMOs)の是非を議論するブログではない。そして、イグナシオ・チャペラの論文にネカトはなかった。

とはいえ、メキシコの遺伝子組換えトウモロコシの論争はどう決着したのか、それとも、決着していないのか気になるでしょう。

2017年7月10日現在、どうなっているのだろう? 下記の3つの記事から探ろう。

① 2008年11月12日のレックス・ダルトン(Rex Dalton)記者の「Nature」記事:Modified genes spread to local maize : Nature News、(保存版
② 2014年7月1日のローラ・バルガス=パラダ(Laura Vargas-Parada)記者の「Nature」記事:GM maize splits Mexico : Nature News & Comment、(保存版
③ 2016年5月26日のアレックス・テイラー(Alex Taylor)記者の「Thought and Awe」記事:GMOs and the Risk to our Genetic Heritage – Thought and Awe、(保存版

トウモロコシはメキシコと米国では、国民にとっての重要性が異なる。

メキシコでは、トウモロコシは国家のアイデンティティである。白トウモロコシの82%が、小規模農場で、商業的ではなく伝統的な品種で植え付けられ、人間の食物として栽培される。一方、米国では、大部分のトウモロコシは家畜の飼料、また、エタノール燃料を生産するために、大規模農場で栽培される。

メキシコに植えられたトウモロコシの約75%は収穫したトウモロコシから種子をとり、撒く。だから、ジーンフロー(遺伝子流出)が起こっていると、メキシコのトウモロコシ全体の遺伝子が変化し、深刻な問題を引き起こす可能性がある。

そして、その後、遺伝子組換え作物(GMOs)が野生株と交配し雑種ができている証拠が多数集まっている。

チャペラの「2001年のNature」論文の結論は正しかった。

一方、これまでのところ、この雑種が遺伝的多様性をおびやかしてはいない。もちろん、将来の保証はないが現状では深刻な問題を引き起こしていない。

世界的なコミュニティが遺伝的多様性をおびやかすリスクを軽減する対策も立てている。例えば、国際トウモロコシ・コムギ改良センターCIMMYT)が遺伝子バンクを設けている。また、Svalbard Global Seed Vault – Crop Trustが、北極近くの島の山の地中深くに種子保管所を作り、作物品種を分類して保管している。

●6.【論文数と撤回論文】

2017年7月10日現在、パブメド(PubMed)で、イグナシオ・チャペラ(Ignacio H. Chapela)の論文を「Chapela IH[Author]」で検索した。1994~2004年の11年間の9論文がヒットした。

「Chapela I[Author]」で検索すると、1993~2017年の25年間の14論文がヒットした。

2017年7月10日現在、撤回論文はない。

●7.【白楽の感想】

《1》論争テーマの論文の真偽

巨大なカネが絡む研究分野の論文の真偽は難しい。何を信じてよいのか、基準がない。

論文の結論が中立ということはない。必ず、どちらかに有利な結論になる。その場合、バイアスがかかっている可能性は、一般的には否定できない。

ただ、論文にネカトがあれば、直ぐに指摘されるので、イグナシオ・チャペラの「2001年のNature」論文にネカトがないのは確かだろう。

問題は、論文のバイアスである。巨大なカネが絡む研究分野の論文には、カネ絡みのバイアスがある。
→ 助成金バイアス – Wikipedia

これをどのように抑止できるのだろうか? 論文では、研究費の出所、利害関係の記載が求められる。しかし、それで抑止できていない。

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Ignacio Chapela – Wikipedia
② 2004年2月18日のジョン・ロス(John Ross)記者の「Anderson Valley Advertiser」記事:The Sad Saga of Ignacio Chapela, by John Ross [GMO contamination of Mexican corn, University of California, Berkeley, professor, tenure, corporate influence, Nature magazine]、(保存版
③ 2016年5月26日のアレックス・テイラー(Alex Taylor)記者の「Thought and Awe」記事:GMOs and the Risk to our Genetic Heritage – Thought and Awe、(保存版
④ 記事はたくさんある。
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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