リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra)(米)

2023年1月20日掲載 

ワンポイント:ヴィエストラはセントルイス・ワシントン大学(Washington University in St. Louis)の著名な教授で72歳である。撤回論文は1報しかないが、「パブピア(PubPeer)」で19論文が疑念視されている。単純な間違いからネカト確実の画像まである。ヴィエストラ自身がネカト者とは思えないが、疑念の指摘を受けるとヴィエストラ自身が丁寧に対応し、画像の元データを示し、誠実な印象を受ける。しかし、ビックが解析すると、元データそのものが偽造されていたり、学術誌と密約してコッソリ画像を訂正していたり、裏の黒い部分があちこちに噴出した。この事件は「学術誌のネカト対応不正」事件でもある。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。2022年ネカト世界ランキングの「5」の「10」である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra、Richard D Vierstra、Richard David Vierstra、Rick Vierstra、 iD:https://orcid.org/0000-0003-0210-3516、写真出典)は、米国のセントルイス・ワシントン大学(Washington University in St. Louis)・教授で米国科学アカデミー・会員である。医師免許は持っていない。専門は植物学である。

2021年(70歳)に、「パブピア(PubPeer)」でヴィエストラの「2019年4月のCell」論文にデータ異常があると指摘された。

2023年1月19日(72歳)現在、上記論文を含め「パブピア(PubPeer)」で19論文が疑念視されている。

ヴィエストラ自身は、ネカト者とは思えないが、基本姿勢は、①ネカト者と思えるのに共著者をかばう。②ネカトと思えるのに、データを「ウッカリ」間違えたとし、論文を訂正する。③ データ異常を訂正しても論文の結論に影響しないと主張して、論文を撤回しない。④批判者の指摘の内、都合の悪い部分は無視する。⑤大学にネカト調査を依頼しない。という①~⑤の対処である。

まず、①②③方式で、疑念の指摘をに対して丁寧に対応し、「パブピア(PubPeer)」に画像の元データを示し、誠実な対応をしている、と思われた。

しかし、①②③方式での対応にアチコチ破綻が生じてきた。すると、④⑤方式で対応した。

白楽が思うに、画像の異常には単純な間違い(と思える)画像もある。他方、ネカト確実の画像もある。後者もあるので、事実としてネカトをしていた。となると、①②③方式では無理がある。

また、元データだと示した画像をビックが解析すると、示された元データそのものが偽造されていた。

さらに、学術誌と密約してコッソリ画像を訂正していた。

結局、論文のすべてのデータとその解釈、そして論文の結論は全く詐欺的で信用できない。

ヴィエストラはしかし、セントルイス・ワシントン大学にネカト調査を依頼しない。

大学のネカト調査がないので、当然、誰も公式には処分されていない。研究公正局も関与していない。

ヴィエストラは72歳なので、このままズルズルと引き延ばしている内に、誰かにドンと強く押され、大学を退職するだろう。そうなると、事件は闇に埋もれる。

セントルイス・ワシントン大学(Washington University in St. Louis)・ダンフォース・キャンパス(Danforth Campus)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ミシガン州立大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1951年生まれ。仮に1951年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:73 歳?
  • 分野:植物学
  • 不正疑念論文発表:2001~2022年(50~71歳)の22年間
  • ネカト行為時の地位:ウィスコンシン大学マディソン校・教員、そして、セントルイス・ワシントン大学・教授
  • 発覚年:2021年(70歳)
  • 発覚時地位:セントルイス・ワシントン大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)とエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が「パブピア(PubPeer)」で指摘
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学は調査していない。
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:1報撤回。他に18論文が疑念
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Legacy-Society-Founding-Richard-Vierstra.pdf

  • 生年月日:1951年生まれ。仮に1951年1月1日生まれとする
  • 1976年(24歳):コネチカット大学(University of Connecticut)で学士号取得:植物学
  • 1980年(28歳):ミシガン州立大学(Michigan State University)で研究博士号(PhD)を取得:植物学
  • 1980~1984年(28~33歳):ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin–Madison)・ポスドク
  • 1984~2015年(33~64歳):同大学・教員。準教授、正教授
  • 2015年(64歳):セントルイス・ワシントン大学(Washington University in St. Louis)・教授
  • 2018年(67歳):米国科学アカデミー・会員に選出された → Richard D. Vierstra
  • 2022年(71歳):不正研究が指摘される
  • 2023年1月19日(72歳)現在:セントルイス・ワシントン大学・教授職を維持

●5.【不正発覚の経緯と内容】

リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra)の事件は単純なネカト事件ではない。また、ヴィエストラ自身がネカト者とは思えない。

論文データの異常さを指摘されると、ヴィエストラは誠実に対応し、返事をし、データを修正する。しかし、その誠実と思える対応や修正データに疑念があるのだ。

以下、話が曲がりくねるが、ご覚悟、よろしいか?

では、レオニッド・シュナイダーのブログ記事の流れに沿って話しを進めよう。出典を示していない画像の出典もココ。  → 2022年6月13日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Rick Vierstra probably meant well – For Better Science

★獲得研究費

リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra)は1991~2021年の31年間に30件のNIHグラントを受領している。以下出典 → Grantome: Search:Richard Vierstr:

★レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)の指摘

2022年1月xx日(71歳)、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)は「パブピア(PubPeer)」で、リチャード・ヴィエストラの「2011年12月のPlant Cell」論文の問題点を指摘した。その時のシュナイダーの告発名は「Anopheles theileri」だった。

図6CのRpt2a-3のブロットの赤枠部分が異常だと指摘した。

上図の赤枠部分を拡大し、画像のコントラストを操作すると、以下のように赤丸部分がカバーされていることがわかる。図の出典:https://pubpeer.com/publications/F7CFB7D8C445936BBB686B72FF1270

ヴィエストラは直ぐに対応し、「パブピア(PubPeer)」で次の回答をした。

この図を作る時、何か奇妙なことが起こったように見えます。右側のイムノブロット図で、別の画像の一部がRpt2a-3のブロットの画像の一部の前面に移動してしまいました。覆いを取ると、rpt2a-3の完全なゲルが現れます。結果を隠す意図はありませんでしたが、申し訳ありませんが、間違いが起こりました。この異常がいつ発生したかは定かではありません。最終的な図を学術誌「Plant Cell」に送信したときなのか、または図を受け取った学術誌「Plant Cell」が出版する過程でそうなったのか、いつ起こったのかはわかりません。正しい図6を添付し論文を訂正しました。(出典:https://pubpeer.com/publications/F7CFB7D8C445936BBB686B72FF1270

修正したRpt2a-3のブロットの図を以下に示す。図の出典:https://pubpeer.com/publications/F7CFB7D8C445936BBB686B72FF1270

「2011年12月のPlant Cell」論文の図の異常は、単純な間違いだったと思われる。つまりズサンだった。

ヴィエストラの対応はまともである。

ヴィエストラは他の論文でも、写真をゴチャゴチャに混ざった図の掲載が、パブピアで指摘されている。

ズサンな図の作成だが、「誠実な間違い(honest mistake)」で、重大なネカトだとは思えない。

ヴィエストラは研究公正に努め、ラボは全体的に正直に思えた。

★「2019年4月のCell」論文

2021年7月xx日(70歳)、リチャード・ヴィエストラの「2019年4月のCell」論文にも図の異常が指摘された。

以下の図2A-Cの酵母アッセイのバックグランド(BD)は何もないように見える。次に示す同じ論文の図1A-Bのバックグランド(BD)とは大きく異なる。

同じ論文の図1A-Bの酵母アッセイのバックグランド(BD)は実験した痕跡が見える。図の出典:https://pubpeer.com/publications/C45207BE001345375719A6DE22E14A

同じように図2Fの顕微鏡写真も赤枠で囲った写真は、真っ黒で、データがないように見える。

図7Aと図7DでH3のバンドが同じである。図の出典:https://pubpeer.com/publications/C45207BE001345375719A6DE22E14A

この「2019年4月のCell」論文では他の図の異常も指摘されている(本記事では省略)。

ヴィエストラは直ぐに対応し、「パブピア(PubPeer)」で次の回答をした。

あなたと同じように、私たち著者も正確な科学的データを公開することに真剣に取り組んでおり、あなたの指摘を真剣に受け止めています。幸いなことに、問題だと指摘されたすべての図の元データが見つかりました。現在、「Cell」誌と協力して間違いを修正しています。

正確さを確認するために、他のすべての図も調べました。私たちの観点からは、指摘された図の一部は実際には正しく、一部は間違っていました。間違いの原因を探りました。最初に論文原稿を投稿した図はすべて正しいようです。

ところが、出版前に図の改善/再配置を繰り返している間に、いくつかの図がさまざまな著者によって変更/置き換えられました。一連の図ファイルのタイムスタンプがあるので、変更が誤って導入された時期を確認できました。間違いは複数の作成者が関与する一連のエラーの組み合わせで、作成者の誰も最終的に掲載された論文の図に問題を見つけられませんでした。重要なことは、これらの図の間違いは、「Cell」論文の結果や解釈を決して変更するものではなく、誤って図を置き換えることで簡単に修正できます。(出典:https://pubpeer.com/publications/C45207BE001345375719A6DE22E14A

2022年3月、「2019年4月のCell」論文の正誤表が発行された。正誤表では、「図7とS1のエラー」が修正され、「両方のエラーが論文の結果やデータの解釈に影響を与えなかった」とした。 → 2022年3月17日:CORRECTION

植物科学コミュニティは、ヴィエストラとヴィエストラ研究室員、「Cell」誌・編集者、エルゼビア社(Elsevier)の研究公正へ前向きな一連の対応に感謝した。

★「2019年4月のCell」論文:後日談

「植物科学コミュニティは、ヴィエストラ・・・の研究公正へ前向きな一連の対応に感謝した」のだが、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は、もう一度、「2019年4月のCell」論文のデータを点検した。

すると、ナント、ヴィエストラが「生データ」として提供した酵母アッセイのデータは、そもそも、偽造データだったことが判明した。

まず、酵母アッセイの「生データ」の明度を上げた図を見てもらおう。図の出典:https://pubpeer.com/publications/C45207BE001345375719A6DE22E14A

ビックは上図を示して、次のように疑念を表明している。

酵母アッセイを示す著者提供の生データについては真正かどうか確信が持てません。論文として出版された図と「生データ」として提供された図の両方に、通常観察される形状や位置に小さな不規則性がなく、非常に規則的に見えます。完全に黒い背景にほぼ完全に白い円のように見えます。(出典:https://pubpeer.com/publications/C45207BE001345375719A6DE22E14A

ビックはまた、図6ABCの電気泳動図に同じ領域があると指摘した(以下の図の同色枠で示した部分)。この部分にはバンドがない。画像全体を引き延ばす工作をしたと思える。

こうなってくると、酵母アッセイと電気泳動ゲルの両方でデータねつ造・改ざんがある。

他も合わせて、論文のすべてのデータとその解釈、そして論文の結論は全く詐欺的で信用できないことになる。

ビックはさらに驚くべき事実を見つけた。

エルゼビア社(Elsevier)の学術誌「Cell」とヴィエストラは、「2019年4月のCell」論文が出版された直後に「コッソリ」、論文を訂正していたのだ。

どうしてわかったというと、学術誌「Cell」の論文は最初に出版された直後に「PubMed」に送付する。ところが、「2019年4月のCell」論文の図7は「PubMed」に送付した図と異なっていた。

以下の上の図が「2019年4月のCell」論文の図7BEで、下の図は「PubMed」の図7BE(最初の出版論文)である。出版時に同じ図(着色枠)を使用したことを知って、コッソリ、訂正したのだ。図の出典:https://pubpeer.com/publications/C45207BE001345375719A6DE22E14A

つまり、恒久的とされる科学的記録を学術誌「Cell」とヴィエストラは、「こっそり」改ざんしていたことになる。

学術誌「Cell」編集部が著者に断りなく図を変更するとは考えられないから、ヴィエストラが依頼・要求し、学術誌「Cell」編集部が依頼・要求に応じ、コッソリ、変更したと思われる。

ヴィエストラは問題だが、「Cell」誌も大いに問題である。

ビックのこの指摘に、ヴィエストラは「Cell誌はコッソリ、訂正していない」と返事している。

「Cell誌はコッソリ、訂正していない」のは当然で、ヴィエストラと相談して訂正したのだと思う。それにしても出版した論文のデータを、告知なしで変えるのは、学術誌のルールに違反している。

そして、ヴィエストラは、「筆頭著者のリチャード・マーシャル(Richard Marshall)はもはや私の研究室にいません。そして、あなた(レオニッド・シュナイダー)が最近示した懸念のことをコメントするようマーシャルに伝えたけれど、まだ応答してくれていません」と答えた。

つまり、責任は全部、筆頭著者のリチャード・マーシャル(Richard Marshall)にあると受け取れる回答をしている。まあ、実際のネカト者はマーシャルなのだろう。

★リチャード・マーシャル(Richard Marshall)

上記のように、リチャード・ヴィエストラの「2019年4月のCell」論文の図の異常が問題視されていた。

論文の第一著者はリチャード・マーシャル(Richard Marshall、写真出典)で、ヴィエストラはマーシャルが画像の作成をしたと述べている。

つまり、マーシャルがネカト者の公算が高い。

さらに、2021年11月、著者がマーシャルとヴィエストラの2人しかいない「2018年4月のeLife」論文でもネカトが指摘された。

問題の画像は図4、図補足1、パネルDである。まず、論文に発表された図を示す。

この図4、図補足1、パネルDを以下に示すように、コントラストを変えると、赤枠で示した部分は同じ画像に見える。

2021年12月、指摘された翌月、ところが、ヴィエストラは、画像は多少似ているが、生データを詳しく調べると、それらが同じではないと主張した。

その後、9か月の間、数回のやり取りがあった。

そして、2022年9月2日、「2018年4月のeLife」論文は撤回された。

撤回公告」で、ヴィエストラは、次のように述べている。

責任著者として、私はこの論文を撤回します。

ウエスタンブロットに説明できない異常と、すべての実験と実験を担当した最初の著者であるリチャード・マーシャルが作成した共焦点蛍光顕微鏡写真が不適切だからです。

研究の重要な点に関して、私は論文のすべてが有効であるという確信を持てません。現在、論文のいくつかの部分の実験を繰り返しており、近い将来、適切かつ厳密な確認データを提供したいと考えています。

従って、文献の混乱を避けるために、現時点ではこの論文を撤回するのが賢明だと思いました。

これらのエラー/不規則について読者にお詫び申し上げます。私は最後著者として、この出版物の研究公正を確保する責任がありましたが、明らかに「ゲートキーパー」役を失敗しました。責任著者である私・リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra)は、この撤回に同意します。なお、第一著者のリチャード・マーシャルにも連絡しましたが、彼はコメントもエラー/不規則の説明もしませんでした。

なお、マーシャルは、2022年9月22日、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログで、「研究費をもらったのはヴィエストラだ」とコメントしている。つまり、ヴィエストラに責任があると、言いたい印象だ。

★ファージャン・リー(李发强、Faqiang Li)

ヴィエストラの論文のデータ異常はすべて、リチャード・マーシャル(Richard Marshall)のせいに帰せられるかとかと言うと、そうではない。

「パブピア(PubPeer)」で疑念視されているヴィエストラの19論文の内の5論文しかマーシャルは共著者になっていない。

別の論文では別の室員がネカトをした可能性が高い。

その1人が、ファージャン・リー(李发强、Faqiang Li、写真出典)である。

「パブピア(PubPeer)」で疑念視されているヴィエストラの19論文の内の4論文でファージャン・リーは共著になっている。

ファージャン・リー(李发强)は、ヴィエストラ研究室のポスドクだったが、2015年に中国に帰国し、現在、華南農業大学生命科学学院(华南农业大学生命科学学院、South China Agricultural University)・教授に就任している。 → Prof. Faqiang Li李发强

ファージャン・リー(李发强)がネカト者と思われる論文は、中国帰国後に出版した「2019年12月のPlant Cell」論文でも見られた。なお、この論文でもヴィエストラは共著者になっている。

2022年5月、ビックが図4Aの赤枠が同じ画像を90度回転した画像だと指摘した。図の出典:https://pubpeer.com/publications/6C61C4C78951C4A05770F0DC7AEEFE

画像の異常を指摘されヴィエストラはファージャン・リー(李发强)に対応を求めた。

ファージャン・リー(李发强)は、ウッカリ間違えましたと論文を訂正した。

レオニッド・シュナイダーはこの対応に、画像を90度回転しているので、「ウッカリ」じゃないだろうと批判している。

確かに、意図的だと、白楽も思う。

ファージャン・リー(李发强)はヴィエストラ研究室のポスドクとして出版した別の「2014年2月のPlant Cell」論文でも画像の重複使用が指摘されている。

2022年5月、ビックが指摘した。図の出典:https://pubpeer.com/publications/8D9F5C3263740B1D624A099E6443EA

【ねつ造・改ざんの具体例】

既に述べた。再掲しない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年1月19日現在、パブメド(PubMed)で、リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra、Richard David Vierstra)の論文を「Richard Vierstra[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の150論文がヒットした。

2023年1月19日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、.「2018年4月のeLife」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年1月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでリチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra、Richard David Vierstra)を「Vierstra」で検索すると、本記事で問題にした.「2018年4月のeLife」論文・1論文が2022年9月2日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年1月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra、Richard D. Vierstra、Richard David Vierstra)の論文のコメントを「”Richard D. Vierstra”」で検索すると、本記事で問題にした「2018年4月のElife」論文を含め2001~2022年(50~71歳)の22年間の19論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》「マズイ」姿勢 

ヴィエストラ事件で、リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra)自身はネカト者とは思えないが、誠実なボスにありがちな「マズイ」姿勢に固執した。

「マズイ」姿勢 とは、①ネカト者と思えるのに共著者をかばう。②ネカトと思えるのに、データを「ウッカリ」間違えたとし、論文を訂正する。③ データ異常を訂正しても論文の結論に影響しないと主張して、論文を撤回しない。④批判者の指摘の内、都合の悪い部分は無視する。⑤大学にネカト調査を依頼しない。

事件の経緯を見れば、ヴィエストラは特定の室員がクロ(ネカト行為)だと確信していると思えるのに、ぎりぎりまで、シロだとかばう。

この室員がクロだと言えばいいと思うし、大学の公正なネカト調査を依頼すればいいのに、執拗にかばう。

日本の多くのネカト事件でも、有力ボスや大学上層部は「マズイ①~⑤」姿勢を保つケースが多い。

何故かと言えば、「隠蔽」「かばう」行動慣習が身に沁みついているからだ。

不幸なことに、この2つの行動慣習が、研究公正を促進する気持ちよりかなり大きい。

また、多分、責任者である自分の非を指摘されるのも恐れている。

《2》ネカト調査

レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がヴィエストラの論文の異常を「パブピア(PubPeer)」で指摘し、ヴィエストラは「パブピア(PubPeer)」で返事をしている。ネカト指摘に対応するヴィエストラの姿勢は誠実に思える。

さらに、ヴィエストラとシュナイダーの間に個人的なメールのやり取りもある。

それで、シュナイダーは、ネカト調査を所属大学に依頼する事をヴィエストラに提案している。

しかし、ヴィエストラはそれを無視している。

どうして、公式なネカト調査を嫌うのだろう?

上記した「隠蔽」「かばう」行動は米国人もする。人によるが、その行動様式が強い人もいる。

ただ、白楽にはそれだけとは思えない。

ヴィエストラ自身がネカト行為に実際に関与していたのだと、白楽は推測した。

その関与がバレるのを恐れているのだと思う。

《3》不可解

ヴィエストラは、ポスドクから正教授までの36年間(28~64歳)をウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin–Madison)で過ごした。

36年間も務めたのに、どうして、64歳になってから、セントルイス・ワシントン大学(Washington University in St. Louis)に移籍したのか?

移籍したのは2015年である。

この不可解さを、シュナイダーが指摘している。

何もニュースになっていないが、推測すると、ヴィエストラは、ウィスコンシン大学マディソン校にいられない状況に陥った。

公式な報道はないが、2015年の少し前にネカト告発があって、ウィスコンシン大学マディソン校はネカト調査をし、ヴィエストラはクロ濃厚寸前だったのではないのだろうか。

それで、大学と示談交渉をし、ヴィエストラはウィスコンシン大学マディソン校を去ることで、ネカト追及・公表なしの契約をしたのではないだろうか。

この過去があるので、ネカト調査を所属大学に依頼する事をシュナイダーに提案されても、ヴィエストラはそれを無視した。

なお、2015年、ヴィエストラ研究室のポスドクだったファージャン・リー(李发强)は中国に帰国している。

《4》人柄

ヴィエストラ事件は興味深い。

リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra)は研究公正であろうと、「かなり」誠実に批判者に答えている。

しかし、室員が論文データをねつ造・改ざんしたのはほぼ確実である。

そのような時、ボスである教授、それも70歳を過ぎた、もう退職してもいい教授、米国科学アカデミー・会員の尊敬されていた教授はどう振舞うのか?

責任ある立派な学者という矜持を保ちつつ、弟子の不始末にどう向き合うのか、なかなか興味深い。2022年ネカト世界ランキングの「5」の「10」になったのは納得できる。

リチャード・ヴィエストラ(Richard Vierstra)https://archive.md/wip/4yE4O

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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】

① 2022年6月13日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Rick Vierstra probably meant well – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

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