ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)(米)

2023年1月25日掲載 

ワンポイント:ディクソンはデラウェア大学・準教授のスター科学者で、大気の二酸化炭素が増え、海洋がそれを吸収することで海洋が酸性化し、サンゴ礁が消滅すると主張し、気候変動と環境問題の売れっ子の科学者である。ところがこの主張のベースになる魚の行動に関する論文が再現できないと「2020年1月のNature」論文で指摘された頃から、デラウェア大学がネカト調査に入り、2022年8月(39歳?)、ネカト調査委員会がクロと結論した。論文撤回は1報だが、「パブピア(PubPeer)」では、2009~2022年(26~39歳?)の14年間の7論文が疑念視されている。いずれ、デラウェア大学・準教授を辞職(解雇)するだろう。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

【追記】
・2023年2月13日の「 Science」記事:Journal declines to retract fish research paper despite fraud finding | Science | AAAS

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson、Danielle L. Dixson、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のデラウェア大学(University of Delaware)・海洋科学・政策科大学院(School of Marine Science and Policy)・準教授で、医師免許は所持していない。専門は海洋生物学である。

ディクソンはデラウェア大学のスター科学者である。

大気の二酸化炭素が増え、海洋がそれを吸収することで海洋が酸性化し、魚の行動が変わり、サンゴ礁が消滅すると、研究論文で示し、気候変動と環境問題の時流に乗った科学者である。

2020年1月(37歳?)、ところが、ディクソンの複数の論文は再現できないと「2020年1月のNature」論文で指摘された。

同じ頃、デラウェア大学にネカトの告発があり、デラウェア大学はネカト調査に入った。

2022年8月(39歳?)、デラウェア大学・ネカト調査委員会はディクソンをクロと結論した。

2023年1月24日(40歳?)現在、論文撤回は1報だが、「パブピア(PubPeer)」では、2009~2022年(26~39歳?)の14年間の7論文が疑念視されている。

ディクソンは、いずれ、デラウェア大学・準教授を辞職する(解雇される)だろう。

科学庁(NSF)から75万ドル(約7500万円)の助成を受けているので、ネカト事件は科学庁(NSF)が扱うと予想される。

デラウェア大学(University of Delaware)。写真出典

デラウェア大学(University of Delaware)のルイス地区(Lewes)にある地球海洋環境大学(College of Earth, Ocean and Environment) 。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:オーストラリアのジェームズクック大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2005年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 現在の年齢:41 歳?
  • 分野:海洋生物学
  • 不正論文発表:2009~2022年(26~39歳?)の14年間
  • ネカト行為時の地位:オーストラリアのジェームズクック大学・院生、米国のジョージア工科大学・助教授、デラウェア大学・助教授と準教授
  • 発覚年:2020年(37歳?)
  • 発覚時地位:デラウェア大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は弟子で院生のポール・レインガング(Paul Leingang)がデラウェア大学に通報
  • ステップ2(メディア):「Science」、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②デラウェア大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが大学のウェブ公表なし(△)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:1報撤回。他に6論文が疑念
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし。検討中?
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:DANIELLE L. DIXSON Curriculum Vitae

  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2005年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 2005年(22歳?):米国のタンパ大学(University of Tampa)で学士号取得:海洋科学
  • 2012年(29歳?):オーストラリアのジェームズクック大学(James Cook University)で研究博士号(PhD)を取得:海洋科学
  • 2013~2015年(30~32歳?):米国のジョージア工科大学(Georgia Institute of Technology)・助教授
  • 2015~2019年(32~36歳?):米国のデラウェア大学(University of Delaware)・海洋科学・政策科大学院(School of Marine Science and Policy)・助教授
  • 2015年(32歳?):米国のホワイトハウス(White House meeting)で講演
  • 2019年(36歳?):デラウェア大学・準教授
  • 2020年1月(37歳?):ネカトと大学に告発された
  • 2022年8月(39歳?):デラウェア大学・ネカト調査委員会がクロと結論
  • 2022年8月(39歳?):不正研究が「Science」誌で報道される
  • 2023年1月24日(40歳?)現在:デラウェア大学・準教授職を維持

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
キャリア紹介動画:「Meet Danielle Dixson, Assistant Professor in the School of Marine Science & Policy – YouTube」(英語)3分34秒。
udceoe(チャンネル登録者数 238人)が2015/09/11に公開

【動画2】
研究紹介動画:「Women of Research: Danielle Dixson – YouTube」(英語)1分28秒。
University of Delaware(チャンネル登録者数 1.09万人)が2015/10/27に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★スター科学者

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)は米国のスター科学者である。

米国・先進国は大気中の二酸化炭素(CO2)を気候変動の原因となる「悪」だとしている。

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)の研究は、二酸化炭素が多いと、二酸化炭素が過剰に海水中に解け、海水のpHが下がる。その結果、魚の行動が変化し、サンゴ礁(写真出典)が荒廃するという論旨である。

この論理は、現代の気候変動防止、環境科学、二酸化炭素(CO2)放出削減の政策にピッタリなので、ディクソンはモテモテの海洋生物学者なのだ。

2012年(29歳?)、ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)は、オーストラリアのジェームズクック大学(James Cook University)で研究博士号(PhD)を取得した。

その後、米国のジョージア工科大学でポスドクおよび助教授として4年間勤務した。

2015年(32歳?)、米国のデラウェア州ルイス地区(Lewes)にあるデラウェア大学・地球海洋環境大学(College of Earth, Ocean and Environment)で自分の海洋生物学実験室(marine biology lab)を構築した。

ディクソンは、多数の論文を出版し、高額の研究費を獲得し、成功した科学者になった。 デラウェア大学の、イヤ、米国のスター科学者になった。

2015年12月2日、32歳(?)の若さで、ホワイトハウス会議(White House meeting)で国会議員やスタッフ向けに海洋酸性化に関する講演をした。海洋酸性化は、大気の二酸化炭素を過剰に吸収することで、海洋の pHが地球規模で継続的に低下することである。 → UD’s Dixson discusses ocean acidification at White House briefing(以下の写真も)

2019年6月(36歳?)の「Science」誌はディクソンの研究を記事にまとめている。 → 2019年6月20日の「Science」記事:A growing sensory smog threatens the ability of fish to communicate, navigate, and survive | Science | AAAS

「Science」誌を含め、ディクソンの研究はメディアで頻繁に取り上げられてきた。

★獲得研究費

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)の獲得研究費を調べると、2016年にゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団(Gordon and Betty Moore Foundation)から 105万ドル(約1億円)の助成金を受け取り、2017年に科学庁(NSF)から75万ドル(約7500万円)の助成金を受け取った。 → Grantome: Search:Danielle Dixson

NSF 2017
Standard IOS

CAREER: Losing Nemo- the impact of changing seas on mutualistic behavioral interactions
Dixson, Danielle / University of Delaware

★「2010年1月のEcol Lett.」論文

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)は、オーストラリアのジェームズクック大学(James Cook University)・院生の時、下記の「2010年1月のEcol Lett.」論文を出版した。

海洋のCO2分圧は過去1世紀で急速に増加し、海洋の酸性化を促進し、海洋生態系を乱している。

「2010年1月のEcol Lett.」論文で、サンゴ礁に生息する魚は、海洋酸性化の影響を特に受けやすく、深刻な行動や感覚障害を起こしている、と報告した。

2020年1月、ところが、上記論文の10年後、ディーキン大学(Deakin University)のティモシー・クラーク準教授(Timothy D. Clark、写真出典)らは、ディクソンの「2010年1月のEcol Lett.」論文の結果は再現できないと「2020年1月のNature」論文で指摘した。

クラーク論文では、サンゴ礁の消滅に影響すると報告された海洋酸性化による魚の活動・行動の変化はなかったと報告している。

クラーク論文は、CO2濃度の濃さは、サンゴ礁の魚の活動・行動に大きな影響を与えない、つまり、ディクソン論文の結果を再現できないと結論した。

★「2014年8月のScience」論文

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)を米国のスター科学者に押し上げたもう1つの研究論文は、ジョージア工科大学・助教授の時に出版した「2014年8月のScience」論文である。

この論文では、サンゴ礁は世界的に減少傾向にあり、サンゴ礁が海藻にとって代わられている状況を報告している。

海藻が豊富になると、海藻を食べる動物が増える。海藻を除去しサンゴを補充しない限り、サンゴ礁は回復しない。

魚取りが盛んで海藻が優勢な岩礁から放出される化学物質でサンゴは消滅するが、魚取りが禁止されサンゴが優勢な岩礁から放出される化学物質にサンゴは引き寄せられる。

それで、サンゴ礁の回復のためには、劣化したサンゴ礁を管理し、サンゴや魚を引き寄せる切っ掛けを作る必要がある。

★ニック・ブラウン(Nick Brown)

以下は、ニック・ブラウン(Nick Brown)の記事をベースにしている。 → 2021年5月6日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者のブログ記事:Nick Brown’s blog: My minor involvement in the investigation of some strange articles from marine ecology

「Science」誌のマーティン・エンセリンク(Martin Enserink)から調査してとの依頼を受けたネカトハンターのニック・ブラウン(Nick Brown)は、ディクソンの「2014年8月のScience」論文のデータが妥当かどうかを調べた。

ニック・ブラウンが分析した内容は以下のPDFファイル(2021年5月10日更新)にまとめられている。以下はその冒頭部分(出典:同)。全文(13ページ)は → https://megalodon.jp/2023-0115-1400-13/www.meta-systems.eu/nickbrown/blog/dixson/20210510%20-%20Analysis%20of%20the%20Dixson%20et%20al.%20data%20set.pdf

ニック・ブラウンはディクソンの「2014年8月のScience」論文の「生データ」セットをウェブにアップした(エクセルファイル http://www.meta-systems.eu/nickbrown/blog/dixson/Dixson et al. 2014 Raw Data .xlsx、ファイルの日付は 2016年9月)。

「2014年8月のScience」論文のデータを読み解くと、15種類の魚の行動を観察するために864,000の個の測定数値メモを作成したことになると、ニック・ブラウンは分析した(エクセルファイルの19ワークシートの最初の15シート)。

というのは、6か所で捕獲した15 魚種の各20 匹の魚を、10サンプルの水中で、1分あたり12 回の観測をそれぞれ2分間、2セット実施したと論文は記載している。それで、測定回数を計算すると、20 x 6 x15 x 10 x 2 x 2 x 12 = 864,000となる。

86万4千個の測定点それぞれに魚種、魚の数、捕獲場所、水の種類、実験番号、観測番号が付けられていることになる。

つまり、「生データ」(「生データ」の用語はエクセルファイルのタイトルに使われているが、本当の「生」データではないとニック・ブラウンは指摘している)は、86万4千個の測定点で構成されている。

86万4千個の測定点は非常に膨大なので、最初は紙の実験ノートに記録したとしても、ある時点で、論文発表レベルの分析をするのに、コンピューターに入力したはずだ。

ところが、重要なことだが、このエクセルファイルのデータの一部に矛盾点がある。それで、このエクセルファイルのデータをそのまま使って分析し、論文発表した可能性は非常に低い。

実際、データセットからいくつかの統計的数値を抽出しようとすると、魚の数が20匹ではなく21匹になったりで、データのエラーを回避するなんらかの必要がでてきた。

データセットの作成者は、これらの奇妙な結果やデータの矛盾に気付き、データセットを修正したハズだ。

万一、彼らがこの問題に気付かなかったとしたら、論文に発表した結果にいくつかの矛盾がでてくる。

ところが、ティモシー・クラークが指摘したように、「2014年8月のScience」論文のデータ、及び他の複数のディクソン論文のデータは非常に均一で美しい。

マーティン・エンセリンク(Martin Enserink)の「2022年8月のScience」記事が指摘しているように、ディクソン研究室が示した他のデータセット(すべて Excel ファイル)にも同様の問題がある。

一方、不思議なことだが、論文に発表された図表の元となる生データファイルは存在しない。

実際の生データを共著者の間で共有して分析する方が手間がかからないし、信頼性ははるかに高くなるのに、なぜこのように加工したデータセットしか、ディクソンは公表しないのか?

加工したデータセットしか公表しないこの状況は納得しにくい。

データねつ造・改ざんを隠蔽したというなら、納得できる。

★マーティン・エンセリンク(Martin Enserink)

マーティン・エンセリンク(Martin Enserink、写真出典)はオランダを拠点に活動している「Science」誌の編集者である。

以下は、エンセリンクの記事をベースにしている。 → 2022年8月9日のマーティン・エンセリンク(Martin Enserink)記者の「Science」記事::Star marine ecologist committed misconduct, university says | Science | AAAS

2022年8月x日、デラウェア大学(University of Delaware)は、ネカト調査の結果、ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)をクロと認定した。ディクソンの3論文の撤回を要請し、助成金を支給している科学庁(NSF)に報告した。[白楽注:ネカト調査報告書は未公開]

撤回を要請した3論文の中に「2014年8月のScience」論文がある。この論文は、2022年8月9日に撤回された。

マーティン・エンセリンクはネカト調査報告書(オリジナルではない編集版)を見ている。

その報告書は、二酸化炭素(CO2) レベルの上昇が魚の行動に劇的な影響を及ぼすと発表したダニエル・ディクソンの論文には、ズサンなデータ処理、研究記録のズサンな管理、データシート内でのコピーと貼り付け、多くのエラー、動物倫理基準違反があった、と指摘していた。

マーティン・エンセリンクは、ネカト調査報告書に対するコメントをディクソンに依頼したが、ディクソンは応じなかった。

ただ、ディクソンの弁護士であるクリスティーナ・ラーセン(Kristina Larsen、写真出典)は、「ディクソンは聡明で勤勉な女性科学者です。ディクソン博士を有罪としたい科学者たちの悪意のある標的にされただけです。ディクソンを不正とみなすあらゆる申し立てを断固否定し、ネカトとの結論に対して積極的に上訴します」と述べた.

海洋生態学者の間では、ディクソンへのネカト告発に対する賛否が大きく分かれている。

告発者がディクソンに嫉妬・羨望し、自分のキャリアを向上させるためにディクソンを告発したという見方をする研究者がいる。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina, Chapel Hill)の海洋生態学者ジョン・ブルーノ教授(John Bruno、写真出典)は、ディクソンの研究を紹介する記事を 2014年、「Science」誌に書いている。 → 2014年8月22日の「Science」記事:How do coral reefs recover? | Science

「ディクソンへの告発はストーキングと嫌がらせです。私がこれまで研究界で経験した中で最も不快で恥ずべきことの1つです」、とブルーノ教授はツイートした。

一方、「2020年1月のNature」論文の共著者でディクソン告発者の1人であるノルウェー科学技術大学(Norwegian University of Science and Technology)の生態生理学者・フレドリック・ユトフェルト教授(Fredrik Jutfelt – Wikipedia)は、次のように述べている。

The Swedish ecophysiologist Fredrik Jutfelt.jpg
By Fredrik Jutfelt – vedlegg til mail fra fotograf/rettighetshaver, CC BY-SA 4.0, Link

「デラウェア大学はある程度まともな調査をしました。ただ、ネカト委員会が疑わしいとした20報のディクソンの論文のうち、7報しか調査しなかったことに失望しました。また、ディクソンに対する制裁を報告書が記載していないのにも失望しました」。

★他の問題論文

ネカト報告書では、「2016年5月のProc Biol Sci.」論文にもネカトがあったとした。

論文では、データ収集には、準備、再調整、清掃、バケツ交換などを休憩なしで継続して作業したとあるが、実験実施日は2014年11月12日~11月24日の13日間と記載されていた。

ところが、ネカト調査委員会が実験遂行経過から必要な実験実施日数を計算すると、1日12時間実験したとして22日間もかかった。

その指摘を受けてと思われるが、2022年7月8日、ディクソンは、実験実施日は2014年10月5日~11月7日であると論文を訂正し、実験遂行に20日間を追加し、計33日間とした。

さらに、2つの水路を同時に使用したと訂正し、観測効率が実質的に2倍になったと読めるように訂正した。

そうなると、2つの水路の2匹の魚を、5秒ごとに位置を確認し記録したことになる。ネカト委員会はこの観察方法を理解するのに「途方に暮れた」と述べている。[白楽注:つまり、ウソっぽいということだ]

第一著者のアンナ・スコット(Anna Scott、写真出典)はオーストラリアのサザン・クロス大学(Southern Cross University)・講師で、論文訂正に同意した。

ところが、ネカト調査委員会の質問に、スコット講師は答えない。

上記とは別の、スコット講師は共著者ではない、以下の「2014年4月のNature Clim Change」論文にもデータねつ造・改ざんがあったと思われる、とネカト調査委員会は指摘している。

★室員が告発に協力

ディクソン研究室の元メンバーの数人はネカト調査に協力した。

そのうちの 1 人で元ポスドクのザラ・コワント(Zara Cowan、写真出典)は、撤回された「2014年8月のScience」論文のデータセット内に多くの重複があると、最初に特定した。

デラウェア大学のディクソン研究室の博士院生だったポール・レインガング(Paul Leingang、写真出典)は、2020年1月、ディクソンのネカト疑念をデラウェア大学に最初に告発した。

彼はその後すぐにディクソン研究室を去り、告発者の広範なグループに参加した。

レインガングは、2016年からディクソン研究室の博士院生だったが、ディクソンの研究発表に疑念を抱くようになり、2019年11月以降、彼はディクソンの活動を密かに追跡することにした。

論文で記載した実験データを収集するのに必要な時間をディクソンが実験に費やしていなかったことを裏付ける詳細なメモ、チャットの会話、ディクソンのツイートなどの証拠を、レインガングはネカト調査委員会に提供した。

ネカト調査委員会は、レインガングの説明と記録に説得力があると判断し、「博士院生にとって非常に困難な作業をし、かつ、ディクソンのネカト疑念を最初に大学に告発し、ネカト委員会に協力したのは大変な勇気が必要だったろう」、と彼を称賛した。

【ねつ造・改ざんの具体例】

上記したので省略するが、簡単に書くと、実行していないのに膨大な実験をしたかのようなデータを論文に記載したデータのねつ造・改ざんである。

複数の論文で同様なデータのねつ造・改ざんをしている。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年1月24日現在、パブメド(PubMed)で、ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson、Danielle L. Dixson)の論文を「Danielle L. Dixson [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008~2022年の5年間の36論文がヒットした。

2023年1月24日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2014年8月のScience」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年1月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでダニエル・ディクソン(Danielle Dixson、Danielle L. Dixson)を「Dahlman-Wright」で検索すると、本記事で問題にした「2014年8月のScience」論文・ 1論文が懸念表明の後、2022年8月9日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年1月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson、Danielle L. Dixson)の論文のコメントを「Danielle L. Dixson」で検索すると、本記事で問題にした「2014年8月のScience」論文を含め2009~2022年(26~39歳?)の7論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》スター科学者 

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)の場合、スター科学者の「スター」たる所以が、データねつ造・改ざんによる優れた研究成果だったというわけだ。

ネカト事件では時々見られる典型的事件である。

ただ、事件にならなくても、人間社会での「優れた人」はネカトに似たような不正で偉くなる人はいる。その割合が多いか少ないか、白楽はわからない。

人間社会での成功のメカニズムを十分把握していないが、その人の能力(含・持って生まれた才能)や努力だけではないのは確かで、運もあるだろうし、時代もある。

昔、白楽が若い頃、研究者としての成功の秘訣は「運鈍根」だといわれた。

この「鈍」は、「不正を許容する」態度も含まれるので、こういう人生訓が成功の秘訣だとすると、偉い研究者に「隠れ不正」が相当数いることになる。

ディクソンは「不正」を承知で実行し、研究界のスター科学者になったと思われる。かなりの「鈍」力があったわけだ。

多くのネカト者と同様にディクソンは確信犯である。「防ぐ方法」は研究界から排除することだろう。

なお、研究者として成功する方法に、「ネカト」「ネカト以外の不正」「クログレイ」がどれほどあるのか一度調べてみたいと思っている。

と書いたけど、調べようがない。信頼できるデータを集めるのは不可能(に近い)だろう。

なお、「上司に好かれる」の対極にあった白楽は、「研究者として成功する方法」がわかったところで、それを意図して避けるヒネクレ体質が根幹にある。思うに、この体質が白楽の人生を複雑にしてきた。あなたにも似たようなコマッタ体質がありますか?

2023年1月24日(40歳?)現在、ディクソンはデラウェア大学・準教授職を維持している。米国の大学では、ネカト者が直ぐには解雇されないのは、なんか不思議である。

ダニエル・ディクソン(Danielle Dixson)

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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】

① 2020年1月8日のティモシー・クラーク(Timothy D. Clark)らの「Nature」論文(白楽は無料の要旨のみ閲覧):Ocean acidification does not impair the behaviour of coral reef fishes | Nature
② 2021年5月6日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者のブログ記事:Nick Brown’s blog: My minor involvement in the investigation of some strange articles from marine ecology
③ 2022年2月17日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Science issues expression of concern nine months after one of its reporters uncovers potential misconduct – Retraction Watch
④ 2022年8月9日のマーティン・エンセリンク(Martin Enserink)記者の「Science」記事:Star marine ecologist committed misconduct, university says | Science | AAAS
⑤ 2022年8月9日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Science retracts coral reef recovery paper more than a year after a report on allegations in its own pages – Retraction Watch
⑥ 2022年8月9日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者のブログ記事:Nick Brown’s blog: An interesting lack of randomness in a published dataset: Scott and Dixson (2016)
⑦ 2022年8月10日のジョン・ロス(John Ross)記者の「Times Higher Education」記事:Fish research probe catches Delaware ecologist | Times Higher Education (THE)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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