2022年11月15日掲載
ワンポイント:学術誌が撤回すべき論文を3年も放置していた事例。アジャグベはコーク大学の院生。2015年(28歳?)、コーク大学のネカト調査委員会は前年に出版したアジャグベの「2014年11月のPLoS One」論文をデータねつ造、著者在順違反と結論した。論文撤回を学術誌「PLoS One」に要請したが、学術誌の怠慢で、撤回要請から3年後の2018年9月20日まで論文は撤回されなかった。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
オルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe、Olurotimi Bankole Ajagbe、ORCID iD:?、写真出典、保存版、②)は、アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コーク(コーク大学)(University College Cork)・院生で、専門は疫学だった。
2015年(28歳?)、コーク大学のネカト調査委員会は前年に出版したアジャグベの「2014年11月のPLoS One」論文をデータねつ造、著者在順違反と結論した。
コーク大学は論文撤回を学術誌「PLoS One」に要請した。
しかし、学術誌「PLoS One」の怠慢で、撤回要請から3年後の2018年9月20日まで論文は撤回されなかった。
学術誌が撤回すべき論文を3年間も放置していた事例。
ユニバーシティ・カレッジ・コーク(コーク大学)(University College Cork)。写真出典。なお、この写真は「著作権フリー」。
- 国:アイルランド
- 成長国:不明
- 医師免許(MD)取得:不明
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2014年に院生として論文を発表した時を27歳とした
- 現在の年齢:40 歳?
- 分野:疫学
- 不正論文発表:2014年(27歳?)
- 発覚年:2015年(28歳?)
- 発覚時地位:コーク大学・院生
- ステップ1(発覚):第一次追及者は指導教員で共著者のズバイル・カビール上級講師(Zubair Kabir)と思われる
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②コーク大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:1報
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:退学処分(推定)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明: Olurotimi Ajagbe | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2014年に院生として論文を発表した時を27歳とした
- xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
- 2011年1月~2015年10月(24~28歳?):アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コーク(コーク大学)(University College Cork)・院生:疫学
- 2014年(27歳?):後で問題となる「2014年11月のPLoS One」論文を出版
- 2015年(28歳?):ネカト発覚
- 2015年8月26日(28歳?):論文撤回を学術誌「PLoS One」に要請
- 2015年10月(28歳?):コーク大学・退学処分(推定)
- 2018年9月20日(31歳?):ようやく論文撤回
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚の経緯
2014年11月(27歳?)、ユニバーシティ・カレッジ・コーク(コーク大学)(University College Cork)・院生のオルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe)は、後で問題となる「2014年11月のPLoS One」論文を出版した。
「2014年11月のPLoS One」論文を出版
- Survival analysis of adult tuberculosis disease.
Ajagbe OB, Kabir Z, O’Connor T.
PLoS One. 2014 Nov 19;9(11):e112838. doi: 10.1371/journal.pone.0112838. eCollection 2014.
ネカト発覚の経緯は不明だが、ネカトの内容は、内部の人しかわかないデータねつ造・改ざんである。院生・アジャグベの指導教員で共著者のズバイル・カビール上級講師(Zubair Kabir、写真出典)が見つけて、コーク大学(University College Cork)に通報したと思われる。
コーク大学はネカト調査を始めた。
2015年(28歳?)、コーク大学(University College Cork)はネカト調査の結果、第一著者のオルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe)だけをネカト者とした。
2015年(28歳?)、カビール上級講師(Zubair Kabir)は学術誌「PLoS One」のアイラテクス・プエブラ編集部長(Iratxe Puebla、写真出典)に論文の撤回を要請した。
2015年7月1日(28歳?)、プエブラ編集部長は院生・アジャグベに連絡した。
2015年8月26日(28歳?)、数回の電子メールの後、院生・アジャグベも論文撤回を認めた。
★学術誌の不作為不正
上記したように、2015年にアジャグベもカビール上級講師も論文撤回を了承した。学術誌「PLoS One」のアイラテクス・プエブラ編集部長(Iratxe Puebla)も対応した。
1年6か月後、論文は撤回されなかった。
2016年2月12日(29歳?)、それで、カビール上級講師はプエブラ編集部長に論文撤回を促すべく、「問題の論文ができるだけ早い機会に撤回されれば幸いです」とメールした。
それから1年1か月が過ぎた。まだ、論文は撤回されなかった。
2017年3月21日(30歳?)、カビール上級講師はプエブラ編集部長に再び、論文撤回を促した。やんわりと、しかし、前回より強く、「アイルランドからのご挨拶! 順調に進んでいることを願っています。本学の研究公正の観点から、直ぐに撤回下さい。深刻な問題です」と伝えている。
さらに、1年3か月が過ぎた。まだまだ、論文は撤回されなかった。ナンジャラホイ。
2018年6月6日(31歳?)、カビール上級講師はプエブラ編集部長に重ねて撤回を要請した。
2日後、2018年6月8日(31歳?)、プエブラ編集部長から、遅延を謝罪する電子メールをカビール上級講師は受け取った。但し、撤回が遅れている理由は知らされなかった。
翌日、2018年6月9日(31歳?)、プエブラ編集部長から、撤回通知の草案をカビール上級講師は受け取った。「コメントを添えて、6月14日までに返事をいただければ幸いです」とあった。
その3か月後の、2018年9月20日(31歳?)、ようやく論文が撤回された。
→ 撤回公告:Retraction: Survival Analysis of Adult Tuberculosis Disease – PMC
要するに、学術誌「PLoS One」に論文撤回を要請しても、学術誌「PLoS One」はグズグズして、実際に論文が撤回されるまで、3年間もかかったのだ。
この間、4報の論文が「2014年11月のPLoS One」論文を引用した。つまり、グズグズしている間に、二次被害をもたらしているのだ。この責任が学術誌「PLoS One」にある。
なお、電子メールのやり取りを「撤回監視(Retraction Watch)」が入手したので、上記の「学術誌の不作為不正」が明らかになっている。
以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が入手電子メール集の冒頭部分(出典:同)。全文は20ページ → http://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2018/12/00068-Released-Records.pdf
●【ねつ造・改ざんの具体例】
★「2014年11月のPLoS One」論文
「2014年11月のPLoS One」論文の書誌情報を以下に示す。2018年9月20日、撤回された。
- Survival analysis of adult tuberculosis disease.
Ajagbe OB, Kabir Z, O’Connor T.
PLoS One. 2014 Nov 19;9(11):e112838. doi: 10.1371/journal.pone.0112838. eCollection 2014.
2018年9月20日(38歳)の撤回公告はネカト箇所を以下のように指摘している。 → Retraction: Survival Analysis of Adult Tuberculosis Disease – PMC
結核患者が複数回カウントされ不正確である。つまり、結核患者数がねつ造・改ざんされた。また、2つ以上のカテゴリーで、危険因子の統計分析の数値がねつ造・改ざんされ、不正確である。
さらに、連絡著者(アジャグベ)は、共著者の承認なしに論文原稿を投稿した。著者在順違反である。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年11月14日現在、パブメド(PubMed)で、オルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe)の論文を「Olurotimi Ajagbe [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、「2014年11月のPLoS One」論文・1論文がヒットした。論文は撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年11月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでオルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe)を「Ajagbe」で検索すると、本記事で問題にした「2014年11月のPLoS One」論文・ 1論文が2018年9月20日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年11月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、オルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe)の論文のコメントを「Ajagbe」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》学術誌の怠慢・不作為
アジャグベ事件は、院生・オルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe)のデータねつ造・改ざん事件だが、学術誌「PLoS One」が論文撤回を3年間も放置していた点を浮き彫りにした事件である。
なお、その間、共著者が3回も論文撤回をするよう催促していた。
学術誌「PLoS One」は単純な論文撤回に3年間もかかった説明をしていないが、多分、単なる怠慢だと思われる。
大多数の院生・研究者は学術誌・編集部は、かなりシッカリとネカトに対応していると思い込んでいる気がする。しかし、実際は、かなり質が悪い面がある。学術誌「PLoS One」の今回の怠慢・不作為は珍しい特殊なケースではない。
別記事で書いたが、事実は以下のようだ。
エリザベス・ビック自身の経験で、ビックが学術誌・編集部にネカトを告発してから4~5年経っても、781報/1016報=77%、つまり、77%の論文は撤回も修正もされなかった。 → 7-97 ビックのネカト告発方法 | 白楽の研究者倫理
つまり、学術誌・編集部の4分の3以上が、ネカト通報を無視または無対応という「学術誌・編集部のネカト調査不正」をしているのだ。(材料科学:ロングウェイ・イン(尹龙卫、Longwei Yin)(中国) | 白楽の研究者倫理)
悪いことに、「学術誌・編集部のネカト調査不正」を調査し、批判する人はとても少ない。だから、アジャグベ事件で、論文撤回を3年間も放置しても、誰も批判されない、解雇されない、責任を取らない。学術誌「PLoS One」は倒産しない。
《2》学術界から排除
アジャグベ事件の院生・オルロティミ・アジャグベ(Olurotimi Ajagbe)は、アイルランドのコーク大学(University College Cork)・院生だが、顔写真から、アフリカからの留学生と思われる。
パブメド(PubMed)で検索すると、今回問題にした「2014年11月のPLoS One」論文しかヒットしなかった。
つまり、最初の論文で、データねつ造・改ざんし、しかも、共著者に断りもなく勝手に投稿した。
その後の論文発表もないことから、結局、学術界から排除されたと思われる。
ネカト事件としては小さな事件だが、このような小さな事件は数の上では多いと思う。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2018年12月18日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:The waiting game: A university requests a retraction. Then it waits three years. – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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