2019年11月29日掲載
ワンポイント:2012年2月7日(34歳?)、研究公正局は、クレイトン大学(Creighton University)・医科大学院・研究助手(研究事務・データベース管理)のザック(女性)が、2008-2009年(30-31歳?)に1件のNIH研究費申請書で、領収書の偽造(ねつ造)、被験者登録書のねつ造、大学職員にウソをつき、研究助成金を盗んだと発表した。2012年1月23日から5年間の締め出し処分を科した。ザックは研究博士号(PhD)を持っていない。出版論文もない。研究者でもない。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
●1.【概略】
コーリーン・ザック(Calleen S. Zach、ORCID iD:?、女性、顔写真見つからない)は、米国のクレイトン大学(Creighton University)・医科大学院・研究助手(研究事務・データベース管理)で、研究博士号(PhD)はなく、研究者ではなかった。
2012年2月7日(34歳?)、ネカト発覚の経緯は不明だが、研究公正局は、ザックが2008-2009年(30-31歳?)に1件のNIH研究費申請書で、領収書の偽造(ねつ造)、被験者登録書のねつ造、大学職員にウソをつき、研究助成金を盗んだと発表した。
研究公正局は、ザックに2012年1月23日から5年間の締め出し処分を科した。5年間の締め出し処分はかなり重い処分である。と言っても、研究助手(研究事務・データベース管理)には効果の薄いペナルティである。
クレイトン大学(Creighton University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国?
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1978年1月1日生まれとする。根拠希薄だが、 2008年の時を30歳とした
- 現在の年齢:46 歳?
- 分野:精神医学
- 最初の不正論文発表:2008年(30歳?)
- 不正論文発表:2008-2009年(30-31歳?)の2年間
- 発覚年:2009年(31歳?)
- 発覚時地位:クレイトン大学・研究助手(研究事務・データベース管理)
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①クレイトン大学・調査委員会。②研究公正局
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:改ざん
- 不正論文数:論文の不正ではなく、1件の研究費申請書での不正
- 時期:
- 職:事件後に発覚時の地位を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから 5年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明
- 生年月日:不明。仮に1978年1月1日生まれとする。根拠希薄だが、 2008年の時を30歳とした
- xxxx年(xx歳):xx大学で学士号を取得
- xxxx年(xx歳):クレイトン大学(Creighton University)医学部・精神病学の研究助手(研究事務・データベース管理)
- 2008年と2009年(30・31歳?):NIH研究費に偽造報告
- 2009年(31歳?):不正が発覚(推定)
- 2012年2月7日(34歳?):研究公正局がネカトと発表
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ネカト
コーリーン・ザック(Calleen S. Zach)は米国のクレイトン大学(Creighton University)・医科大学院の研究助手(研究事務・データベース管理)で、研究博士号(PhD)を持っておらず、研究者ではない。
2012年2月7日(34歳?)、ネカト発覚の経緯は不明だが、研究公正局は、ザックが2008年と2009年に2つのNIH研究費申請書で、領収書の偽造(ねつ造)、被験者登録書のねつ造、大学職員にウソをつき、研究助成金を盗んだと発表した。
具体的には、2008年のグラント・R01 HD046991の継続的な以下の申請で、被験者登録番号をねつ造した。
- 2009年4月8日、NICHD、NIHへの1年間延長リクエストの手紙
- 2009年6月30日、NIHへの追加資金の申請書
- 2008年と2009年、クレイトン大学・研究倫理審査委員会(IRB)への報告書
研究公正局は、論文でのネカトではないが、政府の研究費絡みのネカトは連邦政府の規則(42 CFR 93.103)で定義されている研究不正行為であると結論付けた。
研究公正局は、ザックに2012年1月23日から5年間の締め出し処分を科した。5年間の締め出し処分はかなり重い処分である。と言っても、研究助手(研究事務・データベース管理)には効果の薄いペナルティである。
★グラント・R01 HD046991
ザックが虚偽報告したグラント(R01 HD046991)は誰が主任研究者だったのか?
主任研究者は、パトリシア・サリバン(Patricia Maureen Sullivan、写真出典)だった。
サリバンは、「障害のある子どもの暴力を暴露した結果」というテーマで2004年から5年間で525,402ドル(約5,254万円)の研究費をNIHから獲得していた。しかし、トラブルを起こした2009年以降、獲得できていない。
→ Violence Exposure Outcomes in Children with Disabilities – Patricia Sullivan
なお、パトリシア・サリバンは2015年12月29日に69歳で亡くなった。ということは、ザック事件が起こった2009年はその6年前で、サリバンは 63歳ということになる。 → Sullivan, Dr. Patricia Maureen, Ph.D. | Obits | omaha.com
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2019年11月28日現在、パブメド(PubMed)で、コーリーン・ザック(Calleen S. Zach)の論文を「Calleen S. Zach [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。
「Zach CS[Author]」で検索しても、0論文がヒットした。
★撤回論文データベース
省略
★パブピア(PubPeer)
省略
●7.【白楽の感想】
《1》研究助手
研究助手(研究事務・データベース管理)が虚偽の研究申請書を書いたことで研究公正局がネカトと判定し、5年間の締め出し処分を科した。5年間の締め出し処分は研究者にはかなり重い処分であるが、研究助手(研究事務・データベース管理)には効果の薄いペナルティである。
とはいえ、研究公正局としてはこうするほか、手がない。
そもそも、研究助手のこの手のネカトを研究者の論文ネカトと同類に扱うことに無理がある。現状では、詐欺罪として、警察が捜査し検察が起訴すべきだろう。できれば、ネカト罪を新設し、警察が捜査し検察が起訴すべきだろう。
現在のシステムでは、研究費申請書中のねつ造・改ざんは、ネカト者が研究者であろうが研究助手であろうが、研究助成機関としては大きな問題である。研究事務のねつ造・改ざんを極力なくしたいために、5年間の締め出し処分という厳罰を科したのだろう。
研究事務のネカトの結果、研究費が止められてしまった場合、研究者の被害は甚大である。
研究公正局の報告書はパトリシア・サリバンのことを全く触れていない。多分、今回の事件で、パトリシア・サリバンにはまったく責任がなかったのだろう。その場合、パトリシア・サリバンの研究費を止めてしまうのはいかがなものか?
《2》研究助手のネカト
研究助手(研究事務・データベース管理)のネカト問題はテクニシャンのネカト問題と共通項が多い。
以下、テクニシャンのネカトについて述べた「メラニー・ココニス(Melanie Cokonis) 」の再掲である。
●【事件の深堀:テクニシャンのネカト】
一般的論として、テクニシャンのネカトを理解しよう。
テクニシャンは理系大卒で博士号はもっていない。研究費申請書は書かない。基本的には論文も書かないし、学会発表もしない。「基本的には」と書いたが、論文を書くテクニシャンもいる、共著者に入るテクニシャンもいる。学会発表するテクニシャンもいる。ボスは、有能ならドンドン使う。
但し、博士号がなければ、独立した研究者にはなれない、自分が代表になって研究費を申請することはできない。
ボス(研究者)から指示された作業をするのがテクニシャンの仕事で、それが論文にならなくても責任はない。つまり、実験作業の結果に責任はない。 実験作業の結果はボスの責任であり、成果でもある。それがノーベル賞をもらった実験作業でも成果はボスのものである。
ノーベル賞をもらうような実験作業ならやりがいはあるだろうが、そうでなくても、とにかく、実験作業の結果に責任はない。
だから、テクニシャンは研究ネカトをする必要がない。「どうして?」研究ネカトをしたのだろうか?
★テクニシャンのネカト件数
研究公正局のローレンス・ローデス(Lawrence J. Rhoades)の論文「ORI Closed Investigations into Misconduct Allegations Involving Research Supported by the Public Health Service: 1994-2003」は、米国・研究公正局の1994~2003年の10年間の分析を記載している。
その10年間に、研究公正局に研究ネカトの告発が1,777件あり、調査に入ったのが274件で、調査の結果、クロが133件だった。 階級別に分類すると、調査に入った274件の内、テクニシャンは47件(17%)で準教授に次いで多く、クロは31件(24%)だった。職階別でネカトを比べると、テクニシャンが最も多かったのである。
階級 | 調査件数 | 割合(%) | クロ | 割合(%) |
教授 | 44 | 15 | 6 | 5 |
準教授 | 55 | 20 | 24 | 16 |
助教授 | 30 | 11 | 13 | 10 |
ポスドク | 44 | 16 | 27 | 20 |
研究助手 | 22 | 8 | 17 | 13 |
院生・学生 | 22 | 8 | 14 | 11 |
テクニシャン | 47 | 17 | 31 | 24 |
不明 | 13 | 5 | 1 | 1 |
計 | 274 | 100 | 133 | 100 |
日本ではテクニシャンという職種が発達していないので、ネカト問題では軽視されがちである。
上記の表を眺めると、白楽の日本のネカト事件の調査結果(拙著:『科学研究者の事件と倫理』)と大きな違いがあることに気が付く。
ネカト者を職階別に比べると、米国ではテクニシャンが最も多いが、日本では50代後半の医学部教授が最も多いのである。この違いは日米間で際立っている。
★テクニシャンの研究ネカトの理由
では、米国で、テクニシャンが「どうして?」研究ネカトをするのだろうか?
コロンビア大学名誉教授(精神医学)のドナルド・コーンフェルド(Donald S.Kornfeld、写真出典)が2012年の論文に書いている (「Perspective: Research Misconduct: The Search for a Remedy」 Academic Medicine: July 2012 – Volume 87 – Issue 7 – p 877?882、doi: 10.1097/ACM.0b013e318257ee6a)。
テクニシャンが血液サンプルを集めた時刻の記録が、実際に集めた時刻ではなかった。なぜ改ザンしたか? テクニシャンは、プロトコルに記載されたスケジュール通りに血液サンプルを集められなかったからだ。
テクニシャンに能力以上の仕事量が割り当てられていたと、米国・研究公正局の調査委員会は結論している。また、そのテクニシャンは血液サンプルを集めた時刻が重要だとは知らなかったと述べている。
この場合、ボス(研究者)の指示が不適切、あるいは、ボスとのコミュニケーションが不適切だと、白楽には思える。
ボスがテクニシャンに作業を指示する時、「採血時刻は重要だ」と伝えるべきだし、作業量は多すぎないか(少なすぎないか)をチェックするのはボスの仕事である。
ましてや、ネカトがあったとしても、実験をやり直すなどして研究室内で処理すべきだろう。研究室外の研究公正局に研究ネカトを告発してしまうなんて、白楽には異常な気がする。
ドナルド・コーンフェルドは、
テクニシャンは科学界のメンバーではない。職業規範の感覚は低く、研究結果と自分の収入は無関係である。そして、ネカトすることの重大さと、その後自分の身に降りかかる不幸の重大さを理解していない。そのような状況なのに、もっとデータをだすようにという圧力を強くかけられている。
と書いている。
これが実態なら、「米国の生物医学で研究ネカトをする職階は、テクニシャンが最も多い」のに納得する。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:2012年2月7日:NOT-OD-12-046: Findings of Research Misconduct
② 2012年2月2日のミーガン・スクデッラリ(Megan Scudellari)記者の「Scientist」記事:Multitude of Misconducts | The Scientist Magazine®
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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