リチャード・エッカート(Richard Eckert)(米)

2024年11月5日掲載 

ワンポイント:2024年8月13日(68歳?)、発覚から5年後(遅いですね)、研究公正局は、メリーランド大学(University of Maryland)・教授兼学科長だったエッカートの2件の研究費申請書、2008~2017年(52~61歳?)の10年間の13報の発表論文にねつ造・改ざんがあったと発表した。2024年8月1日から8年間の締め出し処分を科した。エッカートは多額の研究費(約19億4千万円)を得ていた。撤回論文は1報。パブピアでの疑惑論文は28報。ネカト調査欠陥、学術誌の怠慢あり。国民の損害額(推定)は20億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

リチャード・エッカート(Richard Eckert、Richard L Eckert、ORCID iD:、写真出典)は、米国のメリーランド大学・医科大学院(University of Maryland School of Medicine)・生化学/分子生物学科の教授兼学科長で医師免許は持っていない。専門は生化学・分子生物学(皮膚生物学)である。

2019年1月(63歳?)、メリーランド大学(University of Maryland)は、匿名の告発を受け、エッカートのネカト調査を開始した。

匿名の告発者はエッカート研究室の元室員または同僚と思われるが、白楽は特定できなかった。

2020年1月7日(64歳?)、メリーランド大学がネカト調査を終え、クロと判定し、研究公正局に報告した。

エッカートはメリーランド大学を辞職した(させられた)。

2024年8月13日(68歳?)、発覚から5年後(遅いですね)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、メリーランド大学(University of Maryland)・生化学/分子生物学科の教授兼学科長だったエッカートの2件の研究費申請書、13報の発表論文にねつ造・改ざんがあったと発表した。

2024年8月1日(68歳?)から8年間の締め出し処分を科した。8年間の締め出し処分はかなり重い処分である。

パブピアが指摘した疑惑論文は、2001~2020年(45~64歳?)の20年間の28論文で、研究公正局が問題視した13論文は、2008~2017年(52~61歳?)の10年間に出版された論文である。

ネカト調査に欠陥があり、学術誌の撤回作業に怠慢があった。

メリーランド大学・医科大学院(University of Maryland School of Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:イリノイ大学アーバナ校
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1956年1月1日生まれとする。1986年にケースリザーブ大学(Case Reserve University School of Medicine)・助教授に就任した時を30歳とした
  • 現在の年齢:68 歳?
  • 分野:生化学・分子生物学
  • 不正論文発表:研究公正局の指摘では2008~2017年(52~61歳?)の10年間の13論文、パブピアでは2001~2020年(45~64歳?)の20年間の28論文に疑惑
  • ネカト行為時の地位:メリーランド大学・医科大学院・教授、学科長
  • 発覚年:2019年(63歳?)
  • 発覚時地位:メリーランド大学・医科大学院・教授、学科長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は匿名で大学に告発
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①メリーランド大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で取得公表
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:研究公正局は2件の研究費申請書、13報の発表論文。2024年11月4日現在、撤回論文は1報
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから8年間の締め出し処分
  • 対処問題:ネカト調査に欠陥、学術誌怠慢、大学隠蔽
  • 特徴:多額の研究費(約19億4千万円)を得ていた教授のネカト
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は20億円(大雑把)。獲得グラントが約19億4千万円なので。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Eckert, Richard L. – University of Maryland-Baltimore Richard L. Eckert | University of Maryland School of Medicine

  • 生年月日:不明。仮に1956年1月1日生まれとする。1986年にケースリザーブ大学(Case Reserve University School of Medicine)・助教授に就任した時を30歳とした
  • xxxx年(xx歳):ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)で学士号を取得
  • xxxx年(xx歳):イリノイ大学アーバナ校(University of Illinois, Urbana)で研究博士号(PhD)を取得:分子生物学
  • xxxx年(xx歳):マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)・ポスドク、ハーバード大学・医科大学院(Harvard Medical School)・ポスドク
  • 1986年(30歳?):ケースリザーブ大学(Case Reserve University School of Medicine)・助教授
  • 1992年(36歳?):同大学・準教授
  • 1996年(40歳?):同大学・教授
  • 2001~2020年(45~64歳?):この20年間の28論文に疑惑(パブピア)
  • 2007年1月(51歳?):メリーランド大学・医科大学院(University of Maryland School of Medicine)・教授兼学科長
  • 2008~2017年(52~61歳?):この10年間の13論文がネカト(研究公正局)
  • 2019年1月(63歳?):不正が発覚
  • 2020年1月7日(64歳?):メリーランド大学はネカト調査を終え、クロと結論
  • 20xx年(xx歳?):メリーランド大学・医科大学院・教授兼学科長を辞任(解雇?)
  • 2024年8月13日(68歳?):研究公正局がネカトと発表

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
説明動画:「Dr. Richard Eckert on the importance of AICR’s research」(英語)0分23秒。
AICRが2010年2月20日に公開
以下の画像をクリック

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生と獲得研究費

リチャード・エッカート(Richard Eckert)は米国の生化学・分子生物学分野で恵まれた研究人生を送ってきた。

ネカトをしていた時、メリーランド大学・医科大学院(University of Maryland School of Medicine)の生化学・分子生物学科の教授兼学科長だった。

しかも、リチャード・エッカート(Richard Eckert、Richard L Eckert)は、NIHから1991~2022年の32年間に81件、計19,407,639ドル(約19億4千万円)の研究費を得ていた。 → RePORT ⟩ Richard L Eckert

以下に最新の4件を示す(出典は上記)

★発覚の経緯

2019年1月(63歳?)、メリーランド大学(University of Maryland)は、匿名の告発を受け、リチャード・エッカート(Richard Eckert、写真出典)のネカト調査を開始した。

2020年1月7日(64歳?)、メリーランド大学(University of Maryland)のネカト調査は終了した。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で得たネカト分析書(2020年1月7日付け)の冒頭部分(出典:同)。スゴイことに、2~28ページは全面スミ塗り。大学の隠蔽行為は強烈。違法ではないのだろうか? 是非、以下をクリックし、ご覧あれ。全文(97ページ)は → https://drive.google.com/file/d/1Uq2dLFQdvIi1iROqV3pvV68YvyXeYiWa/view

★研究公正局

2024年8月13日(68歳?)、発覚から5年後(遅いですね)、研究公正局はエッカートが2件の研究費申請書、13報の発表論文でデータをねつ造・改ざんしていたと発表した。

2024年8月1日から8年間の締め出し処分を科した。8年間の締め出し処分はかなり重い処分である。

2件の研究費申請書は以下の通り(研究公正局の発表を貼り付けた)。2件とも2018年の申請書で2020~2021年に取り下げ

  1. R01 CA233450-01, “Sulforaphane suppression of PRMT5 epigenetics to reduce cancer stem cell survival,” submitted to NCI, NIH, on 01/26/2018, administratively withdrawn by NCI on 07/01/2020
  2. R01 CA233450-01A1, “Sulforaphane suppression of PRMT5 epigenetics to reduce cancer stem cell survival,” submitted to NCI, NIH, on 10/30/2018, administratively withdrawn by NCI on 03/01/2021

13報の発表論文は以下の通り(研究公正局の発表を貼り付けた)。2008~2017年(52~61歳?)の10年間の13論文である。

  1. Inhibition of YAP function overcomes BRAF inhibitor resistance in melanoma cancer stem cells.Oncotarget. 2017 Nov 22; 8(66):110257-110272. doi: 10.18632/oncotarget.22628 (hereafter referred to as “ Oncotarget 2017”).
  2. The Bmi-1 helix-turn and ring finger domains are required for Bmi-1 antagonism of (-) epigallocatechin-3-gallate suppression of skin cancer cell survival.Cell Signal. 2015 Jul;27(7):1336-44. doi: 10.1016/j.cellsig.2015.03.021 (hereafter referred to as “ Cell Signal 2015”). Erratum in: Cell Signal. 2021 Jun;82:109952. doi: 10.1016/j.cellsig.2021.109952.
  3. P38δ regulates p53 to control p21Cip1 expression in human epidermal keratinocytes.J Biol Chem. 2014 Apr 18; 289(16):11443-11453. doi: 10.1074/jbc.M113.543165 (hereafter referred to as “ J Biol Chem. 2014”).
  4. Methylosome protein 50 and PKCδ/p38δ protein signaling control keratinocyte proliferation via opposing effects on p21Cip1 gene expression.J Biol Chem. 2015 May 22;290(21):13521-30. doi: 10.1074/jbc.M115.642868 (hereafter referred to as “ J Biol Chem. 2015”).
  5. Transamidase site-targeted agents alter the conformation of the transglutaminase cancer stem cell survival protein to reduce GTP binding activity and cancer stem cell survival.Oncogene. 2017 May 25;36(21):2981-2990. doi: 10.1038/onc.2016.452 (hereafter referred to as “ Oncogene 2017”). Erratum in: Oncogene. 2021 Apr;40(13):2479-2481. doi: 10.1038/s41388-021-01709-5.
  6. Suppression of AP1 transcription factor function in keratinocyte suppresses differentiation.PLoS One. 2012;7(5):e36941. doi: 10.1371/journal.pone.0036941 (hereafter referred to as “ PLoS One 2012”). Retraction in: PLoS One. 2021 Feb 11;16(2):e0247222. doi: 10.1371/journal.pone.0247222.
  7. Suppressing AP1 factor signaling in the suprabasal epidermis produces a keratoderma phenotype.J Invest Dermatol. 2015 Jan;135(1):170-180. doi: 10.1038/jid.2014.310 (hereafter referred to as “ J Invest Dermatol. 2015”). Erratum in: J Invest Dermatol. 2021 Jul; 141(7):1862. doi: 10.1016/j.jid.2021.05.008.
  8. Protein kinase C (PKC) delta suppresses keratinocyte proliferation by increasing p21(Cip1) level by a KLF4 transcription factor-dependent mechanism.J Biol Chem. 2011 Aug 19; 286(33):28772-28782. doi: 10.1074/jbc.M110.205245 (hereafter referred to as “ J Biol Chem. 2011”).
  9. The Bmi-1 polycomb protein antagonizes the (-)-epigallocatechin-3-gallate-dependent suppression of skin cancer cell survival.Carcinogene sis. 2010 Mar;31(3):496-503. doi: 10.1093/carcin/bgp314 (hereafter referred to as “ Carcinogenesis 2010”).
  10. PKC-delta and -eta, MEKK-1, MEK-6, MEK-3, and p38-delta are essential mediators of the response of normal human epidermal keratinocytes to differentiating agents.J Invest Dermatol. 2010 Aug;130(8):2017-30. doi: 10.1038/jid.2010.108 (hereafter referred to as “ J Invest Dermatol. 2010”).
  11. Sulforaphane suppresses PRMT5/MEP50 function in epidermal squamous cell carcinoma leading to reduced tumor formation.Carcinogenesis. 2017 Aug 1;38(8):827-836. doi: 10.1093/carcin/bgx044 (hereafter referred to as “ Carcinogenesis 2017”). Erratum in: Carcinogenesis. 2023 Oct 20;44(7):626-627. doi: 10.1093/carcin/bgad044.
  12. Localization of the TIG3 transglutaminase interaction domain and demonstration that the amino-terminal region is required for TIG3 function as a keratinocyte differentiation regulator.J Invest Dermatol. 2008 Mar;128(3):517-29. doi: 10.1038/sj.jid.5701035 (hereafter referred to as “ J Invest Dermatol. 2008”).
  13. Transglutaminase interaction with α6/β4-integrin stimulates YAP1-Dependent ΔNp63α stabilization and leads to enhanced cancer stem cell survival and tumor formation.Cancer Res. 2016 Dec 15;76(24):7265-7276. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-16-2032 (hereafter referred to as “ Cancer Res. 2016”).

★学術誌の怠慢

2021年x月xx日、2020年1月7日にネカト調査が終了した1年後、メリーランド大学(University of Maryland)のプロボスト(Provost)で副学長のロジャー・ウォード(Roger Ward、写真出典)は、エッカート研究室の11論文にネカトがあると7つの学術誌に伝えた。

以下メールのやり取り集。出典:https://drive.google.com/file/d/1H6eI13yv4WopaAwndU7MuaSq4z1cq_T6/view

3年後の2024年、11論文のネカト疑惑に対し、2論文が撤回、3論文が訂正されていた。しかし、6論文は何も対処されていない。

3年経っているのに11論文の内の6論文、つまり、半数以上の論文が何も対応されていなかった。

大学がネカトがあるので論文撤回や訂正など適正な対処をしてくださいと、学術誌に伝えても、学術誌は対応しないことが多い。

以下、メリーランド大学が学術誌「J. Biol. Chem」に伝え、学術誌がちゃんと対処しない例を示す。ただし、学術誌「J. Biol. Chem」は1つの例で、「Carcinogenesis」「Oncogene」「Oncotarget」など他の学術誌も対処していない(白楽記事では省略した)。

―――― 学術誌「J. Biol. Chem」――――

2021年1月12日、メリーランド大学のステファン・ヴィグス研究公正官(Stephan Vigues、写真出典)が、以下のロジャー・ウォード副学長の手紙を学術誌「J. Biol. Chem」に送付した。

手紙の中身は、3論文を具体的に示し、撤回を要請した内容である。

200112 Letter-to-JBC

出典:https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2024/09/Letter-to-JBC.pdf

「J. Biol. Chem」の当時のリラ・ギエラシュ編集長(Lila M. Gierasch、マサチューセッツ大学アマースト校・殊勲教授、写真出典)は、同日、問題の3論文に対処すると電子メール(Editor-responses.pdf、以下はその一部)で返信した。

なお、リラ・ギエラシュは2016~2021年の編集長である。

以下の意訳は、「問題の3論文に対処します」である。

ところが、それから2年経っても、学術誌「J. Biol. Chem」は撤回も訂正もしない。

それで、2023年2月、ステファン・ヴィグス研究公正官は、2021年以降「J. Biol. Chem」編集長であるアレックス・トーカー(Alex Toker、ハーバード大学・教授、写真出典)に、どうなっているのかと打診した。

2023年2月27日、トーカー編集長から、「私たちはこれらの事件を最大限の真剣さで受け止めていますので、ご安心ください」という返信がきた。

以下は上記電子メールの該当部分。「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で得た。8ページ目。全文(10ページ)は  → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2024/09/Re_-Retraction_correction-request.pdf

ところが、2か月経っても何も変化がない。

2023年4月、ステファン・ヴィグス研究公正官は、学術誌「J. Biol. Chem」の研究公正部長(Data Integrity Manager)の問い合わせると、「調査はまだ進行中」との返事が来た。

さらに、2024年1月24日、ステファン・ヴィグス研究公正官は、学術誌「J. Biol. Chem」に問い合わせた。

しかし、学術誌「J. Biol. Chem」からはまともな返事が来ない。

以下は2024年1月24日のステファン・ヴィグス研究公正官の問い合わせ電子メール。「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で得た。1~2ページ目。全文(10ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2024/09/Re_-Retraction_correction-request.pdf

ところが、それから10か月後(最初の撤回要請から3年10か月後)の2024年11月4日現在、まだ撤回も訂正もされていない。

「撤回監視(Retraction Watch)」がアレックス・トーカー編集長にコメントを求めても、何もコメントしてこない。

学術誌側の怠慢、編集長の怠慢は、メチャクチャにヒドイ。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2012年のPLoS One」論文

「2012年のPLoS One」論文の書誌情報を以下に示す。2021年2月11日に撤回された。

研究公正局がネカト論文と発表した13報の6番目の論文で、唯一撤回された論文である。

研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見よう。

リチャード・エッカート(Richard Eckert)のネカト作法は、無関係な実験結果の画像を、自分の実験結果を示す画像に作り変えるという手法で、データねつ造をしていた。

―――図 1B―――

研究公正局は、TAM67-FLAG 発現を表すバンド(行 1)を無関係な実験のバンドを使ってねつ造した、と指摘した。

上記の画像出典は原著論文だが、この画像を見て、ネカトだと気付くのは難しい。

告発者はエッカート研究室の内部の人か同僚だろう。

なお、2024年8月、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は、この図 1Bの背景を少し強化し、左(行 1)のバンドが削除されていると赤矢印で示した。削除したバンドの部分がピンク色ですね。出典:https://pubpeer.com/publications/D1730A8609530B4213AE71E1B11B75

―――図 2C―――

研究公正局の記述によると、図 2C では、TAM67-FLAG (行1)の発現がないことを示すため、上段の左レーンのバンドが消去されていた。また、junB (行3) および junD (行4) のネガティブ発現を表す空白領域は、別の場所から切り取り張り付けられていた。

上記の画像出典は原著論文だが、この画像を見て、上記のネカトだと気付くのは難しい。

告発者は、やはり、エッカート研究室の内部の人か同僚だろう。
――――

上記は研究公正局が指摘したすべてである。

この指摘は、メリーランド大学のネカト調査委員会が指摘したのを、研究公正局が確認しただけだと思う。

つまり、メリーランド大学のネカト調査委員会と研究公正局は「2012年のPLoS One」論文の問題個所を上記の点だけと結論したわけだ。

ところが、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は以下の図1Cもネカトだと指摘した。

白楽が原著論文から図1Cを切り取って、以下に示したが、皆さん、どこがネカトかわかります?

どう?

2024年8月、ビックは背景を少し強化し、ナント、画像は2つの異なる背景だと指摘した。つまり、2つの画像を張り合わせたことがわかる。 → 出典:https://pubpeer.com/publications/D1730A8609530B4213AE71E1B11B75

1つの図のようだが、図の左3分の2と右3分の1を貼り合わせた図だった。

ビックの才能はスゴイ!

ビックの才能はスゴイけど、研究公正局の調査員は調査のプロなんだから、もっとシッカリ、ネカト箇所を見つけてください。

メリーランド大学のネカト調査委員はプロじゃないけど、調査委員なんだから、やっぱり、もっとシッカリ、ネカト箇所を見つけてください。

このようなザツな調査結果だと、本当は、エッカートのもっと多くの論文にネカトはあったのだが、その多くが見落とされていただろうなあ、と白楽は思ってしまう。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2024年11月4日現在、パブメド(PubMed)で、リチャード・エッカート(Richard Eckert、Richard L Eckert)の論文を「Richard L Eckert [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の128論文がヒットした。

「Eckert RL」で検索すると、1977~2023年の47年間の234論文がヒットした。

2024年11月4日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2012年のPLoS One」論文・1論文が2021年2月11日に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2024年11月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでリチャード・エッカート(Richard Eckert、Richard L Eckert)を「Richard L Eckert」で検索すると、「2012年のPLoS One」論文・1論文が2021年2月11日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年11月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、リチャード・エッカート(Richard Eckert、Richard L Eckert)の論文のコメントを「”Richard L Eckert”」で検索すると、2001~2020年の28論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》著名な研究者 

論文を順調に出版し、多額の研究費(約19億4千万円)を獲得していた教授兼学科長のリチャード・エッカート(Richard Eckert)が長年、ネカト論文を発表していた。

どうして、ネカトをしたのだろう?

ネカトする必要はないように思えるが・・・。

エッカートは、2001~2020年(45~64歳?)の20年間の28論文に疑惑(パブピア)がある。

2008~2017年(52~61歳?)の10年間の13論文がネカト(研究公正局)と結論された。

10年、20年も続けさせないで、なぜ、もっと早く見つけられなかったのか?

メリーランド大学のネカト調査委員も研究公正局の調査員も見つけなかったネカトをネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が見つけている。

ということは、エッカートのネカトは本当はもっとずっと多いのではないだろうか。

若い時から生涯に渡り、データをねつ造・改ざんし、ネカト論文を出版し、出世し、教授になり、多額の研究費(約19億4千万円)を獲得していたのではないだろうか?

《2》学術誌の怠慢 

エッカート事件は、ネカト行為が主要な問題なのだが、「撤回監視(Retraction Watch)」のロリ・ユームシャジェキアン(Lori Youmshajekian)記者は、情報公開法で、メリーランド大学の調査報告書とメリーランド大学と学術誌との電子メールのやり取りを入手した。

すると、驚いたことに(白楽は驚かないけど、一般的には、という意味)、学術誌・編集部のヒドイさがはっきりわかる。

大学がネカト調査の結果、論文撤回を要請したのに、学術誌「J. Biol. Chem」 は3年も放置していた。訂正もしていない。論文読者を欺き続けていたわけだ。

学術誌「J. Biol. Chem」は、かつて、カオル・サカベ(Kaoru Sakabe、写真出典)が研究公正部長(Data Integrity Manager)をしていた。

その時は、「ネカト・ゼロ」を掲げ、ネカト論文の大量撤回をした。「J. Biol. Chem」は、公正さのお手本になるような学術誌だった。

しかし、2021年1月、「J. Biol. Chem」はエルゼビア社(Elsevier Inc)の傘下に入り、カオル・サカベは転職した。

エレナ・ガイダマコワ(Elena Gaidamakova)が後任になった。しかし、ガイダマコワは過去にネカト者だったことがある。そして、「J. Biol. Chem」の研究公正がグダグダに低質化した。 → 7-101 JBCの新しい研究公正部長はネカト者 | 白楽の研究者倫理

エレナ・ガイダマコワは、2023年10月に「J. Biol. Chem」を辞めている。 → Elena Gaidamakova | LinkedIn

そして、2024年11月4日現在、学術誌「J. Biol. Chem」の研究公正部長(Data Integrity Manager)は・・・。誰なんでしょう?

《3》研究倫理観の低い大学教授 

現在、学術誌「J. Biol. Chem」編集部を統率している編集長はアレックス・トーカー(Alex Toker)・ハーバード大学・教授である。

「J. Biol. Chem」が特殊というわけではなく、ほぼすべての学術誌・編集部を統率している編集長はその分野の有力な大学教授である。

大学のネカト対処も悪いけど、学術誌のネカト対処も輪をかけて悪い。この両方に共通しているのは、主役が大学教授ということだ。

要職に就く大学教授を何とか改造しないと、研究公正を高められないだろう。

と言っても、人間を改造するのはとても難しい。

解決策は、研究倫理観の低い人を大学教授に採用・昇進させない。学術誌編集長に任命しない、ネカト調査委員に任命しない。ハイーイ。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

①  研究公正局の報告:(1)2024年8月13日:Case Summary: Eckert, Richard L | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2024年8月15日の連邦官報:FRN Richard L. Eckert.pdf 。(3)2024年8月15日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2024年9月18日:NOT-OD-24-174: Findings of Research Misconduct
② 2024年8月13日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Maryland dept. chair with $19 million in grants faked data in 13 papers, feds say – Retraction Watch
③ 2024年9月17日のロリ・ユームシャジェキアン(Lori Youmshajekian)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Exclusive: One university’s three-year battle to retract papers with fake data – Retraction Watch
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