2022年1月11日掲載
ワンポイント:レバノン国際大学(Lebanese International University)・講師であるサマハ(48歳?)は、新型コロナ(SARS-CoV2)患者の治療にイベルメクチン(ivermectin)が有効であると「2021年5月のViruses」論文に発表した。ところが、この論文中の臨床試験参加者の多くは実在しない患者(データねつ造)だったので、2021年10月26日、学術誌は論文を撤回した。ただ、イベルメクチン有効だという証拠としてこの論文が多数拡散された。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。この事件は、2021年ネカト世界ランキングの「1」の「9」に挙げられた。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
アリ・サマハ(Ali Samaha、Ali A Samaha、ORCID iD:?、写真出典)は、レバノンのレバノン国際大学(Lebanese International University)・講師で医師。専門は心臓学である。なお、所属・地位は、レバノン大学(Lebanese University)・講師、ベイルート・アラブ大学(Beirut Arab University)・講師でもあるが、レバノン国際大学が本務である。
2021年5月26日(48歳?)、イベルメクチン(ivermectin)が、新型コロナ(SARS-CoV2)患者の治療に有効だと、「2021年5月のViruses」論文に発表した。
ところが、この臨床試験参加者の多くが実在しない患者、つまり、データねつ造ということで、2021年10月26日(48歳?)、学術誌は論文を撤回した。
ただ、イベルメクチンが有効だという論文として、多くの注目を浴びた。
この事件は、2021年ネカト世界ランキングの「1」の「9」に挙げられた。
レバノン国際大学(Lebanese International University)。写真出典
- 国:レバノン
- 成長国:レバノン
- 医師免許(MD)取得:?大学
- 研究博士号(PhD)取得:ロシアのクルスク州立医科大学。2つ目はレバノン大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1995年に大学院に入学した時を22歳とした
- 現在の年齢:51 歳?
- 分野:心臓学
- 不正論文発表:2021年(48歳?)
- 発覚年:2021年(48歳?)
- 発覚時地位:レバノン国際大学・講師
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「BBC」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学は調査していない
- 大学の透明性:調査していない(✖)
- 不正:ねつ造
- 不正論文数:1報撤回
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Loop | Ali Abbas Samaha、保存版
- 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1995年に大学院に入学した時を22歳とした
- 1995年10月~1999年10月(22~26歳?):レバノン大学(Lebanese University)で修士号取得
- 2000年9月~2004年7月(27~31歳?):ロシアのクルスク州立医科大学(Kursk State Medical University)で研究博士号(PhD)を取得
- 2012年10月~2013年11月(39~40歳?):イタリアのミラノビコッカ大学(Kanpur)で修士号取得:化学
- 2014年4月~2019年2月(41~46歳?):レバノン大学(Lebanese University)で研究博士号(PhD)を取得
- 2005年9月(32歳?)~現在:レバノン大学(Lebanese University)・講師
- 2010年8月(37歳?)~現在:ベイルート・アラブ大学(Beirut Arab University)・講師
- 20xx年(xx歳)~現在:レバノン国際大学(Lebanese International University)・講師
- 2021年5月(48歳?):直ぐに問題視される「2021年5月のViruses」論文を発表
- 2021年10月(48歳?):上記論文のデータねつ造が指摘され、論文撤回
●4.【日本語の解説】
★2021年11月11日: Hajihaji(初めての日のように….今日が最後の日のように):「Medscape , 3503 : Ivermectin-COVID-19 Study Retracted; Authors Blame File Mixup」
www.medscape.com
イベルメクチン-COVID-19の研究が撤回された、著者はファイルの混同を非難
2021年11月03日
イベルメクチンがSARS-CoV-2患者を治療できるとする研究の著者は、データの乱れを認めて論文を撤回した。
この論文は、「Effects of a Single Dose of Ivermectin on Viral and Clinical Outcomes in Asymptomatic SARS-CoV-2 Infected Subjects: A Pilot Clinical Trial in Lebanon(レバノンにおけるパイロット臨床試験)」という論文が、5月に発行された雑誌「Viruses」に掲載されました。抄録によると
SARS-CoV2陽性の無症候性レバノン人被験者100人を対象に、無作為化比較試験を実施した。50人の患者はサプリメントを中心とした標準的な予防治療を受け、実験群は対照群と同じサプリメントに加えてイベルメクチンを単回投与(体重に応じて)しました。…
結果結果結果……と。
イベルメクチンは、無症状のSARS-CoV-2陽性者を対象とした無作為化治療において、症状の軽減、ウイルス量の低下、入院日数の減少などの臨床効果を効果的にもたらすと思われる。しかし、この結論をさらに確かなものにするためには、より大規模な試験が必要です。
しかし、10月初旬、BBCは、イベルメクチン-コヴィド-19の研究に関する懸念を大きく取り上げ、この研究について次のように報じました。
この研究では、11人の患者の詳細情報が何度もコピー&ペーストされていることが判明しました。これは、この試験で明らかになった患者の多くが実際には存在しなかったことを示唆しています。
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経緯
2021年5月26日(48歳?)、アリ・サマハ(Ali Samaha)は「2021年5月のViruses」論文を発表した。
- Effects of a Single Dose of Ivermectin on Viral and Clinical Outcomes in Asymptomatic SARS-CoV-2 Infected Subjects: A Pilot Clinical Trial in Lebanon.
Samaha AA, Mouawia H, Fawaz M, Hassan H, Salami A, Bazzal AA, Saab HB, Al-Wakeel M, Alsaabi A, Chouman M, Moussawi MA, Ayoub H, Raad A, Hajjeh O, Eid AH, Raad H.
Viruses. 2021 May 26;13(6):989. doi: 10.3390/v13060989.
論文の内容は以下のようである。
新型コロナ(SARS-CoV2)陽性の100人の無症候性レバノン人被験者にランダム化比較試験を行なった。半数の50人の患者には標準的な治療であるサプリメントを施し、半数の50人の患者には同じサプリメントに加えイベルメクチン(ivermectin)の単回投与(体重に応じて)を行なった。
その結果、イベルメクチンは、新型コロナ(SARS-CoV2)陽性の患者の治療に効果的であった。ただし、この結論をさらに確固たるものにするためには、より大規模な臨床試験が必要である。
ところが、この論文には架空の被験者がかなりいた。
2021年10月6日の「BBC」は、どのように発覚したのかを記載していないが、この論文の患者の内11人の情報が繰り返しコピペされ、患者情報が重複していたと、指摘した。つまり、臨床試験の患者の多くが実際には存在しなかった。 → Ivermectin: How false science created a Covid ‘miracle’ drug – BBC News
著者は、「元のデータセットが不正に操作されたか、誤って重複入力されていた」と述べ、論文撤回を学術誌に要請したと、BBCに述べた。
2021年10月26日、学術誌は論文を撤回した。ただ、撤回告知の説明は上記と少し異なる。 → 撤回告知
論文出版後、著者は統計分析に使用したファイルに間違いがあったと学術誌に連絡してきた。学術誌は、手順に従い、著者から通知された間違いを確認する調査をした。論文撤回は、学術誌・編集長が承認し、著者も同意した。
サマハは、「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように説明している。
論文に間違ったファイルを使用していたことに気づき、すぐに学術誌に通知しました。自分達で調査したところ、リサーチアシスタントのトレーニングに使用したファイルを誤って論文用に分析してしまいました。元データを再分析しても、論文の結論は有効なままですが、透明性を保つため、私たちは論文撤回を要請しました。
アルトメトリックス(Altmetrics)によると、この論文は社交メディア(SNS)で注目を浴び、90のニュースメディアで話題として取りあげられ、45,000回以上のツイートがされた。それで、当時発行されたすべての論文中で第7位にランクされた。
この事件は、2021年ネカト世界ランキングの「1」の「9」に挙げられた。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上記したように新型コロナ(SARS-CoV2)陽性の100人の治験者の相当数をねつ造した。
ただし、論文では個々の治験者情報は伏せられているので(以下は論文の表1、出典:原著)、ねつ造・改ざんの詳細を具体的に示すことはできない。
表をクリックすると写真は大きくなります。2段階です。本ブログの図表は基本的に全部拡大できます。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年1月10日現在、パブメド(PubMed)で、アリ・サマハ(Ali Samaha)の論文を「Ali Samaha[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2007~2021年の15年間の17論文がヒットした。
2022年1月10日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年1月10日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでアリ・サマハ(Ali Samaha、Ali A Samaha)を「Ali A Samaha」で検索すると、本記事で問題にした「2021年5月のViruses」論文・1論文が2021年10月26日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年1月10日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アリ・サマハ(Ali Samaha)の論文のコメントを「Karin Dahlman-Wright」で検索すると、本記事で問題にした「2021年5月のViruses」論文・1論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》影響力
アリ・サマハ(Ali Samaha、写真出典)の事件は、2021年ネカト世界ランキングの「1」の「9」に挙げられた。
ネカト行為は実在しない治験患者の記載という、ありふれたねつ造である。
ただ、イベルメクチン(ivermectin)が新型コロナ(SARS-CoV2)患者の治療に有効だという結論で、社交メディア(SNS)で注目を浴び、90のニュースメディアで話題として取りあげられ、45,000回以上のツイートがされた。それで、当時発行されたすべての論文中で第7位にランクされた。
つまり、社会的影響が大きかったということだ。
それで、「撤回監視(Retraction Watch)」は「2021年の論文撤回上位」の第9位に挙げたのだ。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2021年11月2日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Ivermectin-COVID-19 study retracted; authors blame file mixup – Retraction Watch
② 2021年12月21日の「撤回監視(Retraction Watch)」が書いた「Scientist」記事:The Top Retractions of 2021 | The Scientist Magazine®、保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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