2022年5月15日掲載
ワンポイント:ボヴァンはマックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH:Max Planck Institute for the Science of Human History)の教授(Director:ディレクターという役職名)で、就任2年後の2018年(48歳)、アカハラ調査を受けた。3年間の調査の後、アカハラと認定され、2021年、教授職を解任された。その後、裁判で勝訴し復職したが、2022年3月、アカハラで再び、教授職を解任された。マックス・プランク研究所はアカハラ調査報告書を公表していないので、アカハラ行為の実態は不明である。ボヴァン自身がアカハラ被害者だと批判する人もいて、何が起こっているのかわかりにくい。2022年5月14日現在、事件は終息していない。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。
【追記】
・2022年6月8日の「Nature」記事:Max Planck’s cherished autonomy questioned following criticism of misconduct investigations
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ニコール・ボヴァン(Nicole Boivin、写真出典)はカナダ人で、ドイツのマックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH:Max Planck Institute for the Science of Human History)の教授(Director:ディレクターという役職名)となった。専門は考古学で、この分野では著名な学者である。
2016年(46歳)、マックス・プランク人類史科学研究所の教授に就任した直後から、従業員(研究室の室員?)へのアカハラ行為をはじめたと思われる。
2018年(48歳)、ウルリッヒ・シーバー(Ulrich Sieber)のアカハラ調査委員会が調査を始めた。
2021年10月23日(51歳)、アカハラ行為があったと結論された。そのことで、教授職を解任させられた。但し、ボヴァンは研究員として研究所にとどまっていた。
ボヴァンはアカハラ行為を否定し、裁判に訴えた。
2021年12月(51歳)、裁判所は手続き上の問題を指摘し、マックス・プランク協会(Max Planck Society)に復職を命じた。
ボヴァンは復職した。
2022年3月(52歳)、マックス・プランク協会(Max Planck Society)は理事会での投票の結果、ボヴァンを再び解任した。但し、ボヴァンは研究員として研究所にとどまっている。
ボヴァンは、再度、裁判の準備をしている。
マックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH:Max Planck Institute for the Science of Human History)。写真出典
マックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH:Max Planck Institute for the Science of Human History)。写真出典
- 国:ドイツ
- 成長国:カナダ
- 研究博士号(PhD)取得:英国のケンブリッジ大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。2021年10月23日の「DER SPIEGEL」記事に51歳とあったので
- 現在の年齢:54 歳
- 分野:考古学
- アカハラ行為:2016-2018 年(46-48歳)の2年間
- 最初に訴えられた:2018年(48歳)
- 社会に公表年:2021年(51歳)
- 社会に公表時地位:マックス・プランク人類史科学研究所・教授(Director:ディレクターという役職名)
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「Science」、とその追従メディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①マックス・プランク協会(Max Planck Society)・調査委員会。②裁判所
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 研究所・処分のウェブ上での公表:なし
- 研究所の透明性:研究所はウェブ公表なし。隠蔽の意図あり(✖)。機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:アカハラ
- 被害者数:不明
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を降格(▽)
- 処分:降格
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:①Director N. Boivin | Max Planck Institute for the Science of Human History、②Prof. Nicole Boivin | Max Planck Institute for the Science of Human History
- 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。2021年10月23日の「DER SPIEGEL」記事に51歳とあったので
- 1992年(22歳):カナダのカルガリー大学(Yale University)で学士号取得:細胞生物学
- 2001年(31歳):英国のケンブリッジ大学(Cambridge University)で研究博士号(PhD)を取得:考古学
- 2005年(35歳):フランスのパリX大学(Paris X)とCNRSでポスドク
- 20xx年(xx歳):英国のオックスフォード大学(University of Oxford)・上級研究員
- 2016年7月(46歳):ドイツのマックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH:Max Planck Institute for the Science of Human History)の教授(Director:ディレクターという役職名)
- 2021年10月23日(51歳):アカハラで、教授職解任。部外に小さな研究室を維持
- 2021年12月(51歳):ベルリンの裁判所が復職を命じた
- 2022年3月(52歳):再度、教授職解任
●3.【動画】
【動画1】
ニコール・ボヴァン(Nicole Boivin)は7分ごろ姿が登場する。研究説明動画:「Mtoto: The Sleeping Child – YouTube」(英語)8分44秒。
CENIEHチャンネル登録者数 1060人が公開
【動画2】
「ニコール・ボヴァン」と紹介した。
ニコール・ボヴァン(Nicole Boivin)の講演は10分過ぎに始まる。:「II CENIEH Distinguished Annual Lecture – YouTube」(英語)1時間17分25秒。
CENIEHチャンネル登録者数 1060人が公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ニコール・ボヴァン(Nicole Boivin)の研究と人生
ニコール・ボヴァン(Nicole Boivin、写真by SVEN DÖRING/LAIF/REDUX 出典)は世界的に著名で、世界のトップクラスの考古学者である。
マックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH)のサイトからつまみ食いすると研究内容は以下のようだ → Director N. Boivin | Max Planck Institute for the Science of Human History
ボヴァンの研究は学際的で、自然科学と人文科学を横断している。更新世後期のアフリカから、その後のインド洋での長距離貿易の出現まで、フィールド、実験室、理論的応用を通じて幅広い問題を調査してきた。
長期にわたる人類の歴史と、人類の物語を形作った移住、相互作用、環境操作の幅広いパターンの考古学研究は、現代の問題である気候変動、食料安全保障、人類の移住などの研究に影響を与えている。
ボヴァンの結婚・離婚、さらに、子供の情報は見つからなかった。それで、アカハラ事件を起こした時、独身だったのか結婚していたのか不明である。アカハラ事件と結婚や家族などの個人生活がどう絡むか不明であるが、関係していると考え、一応、記載している。
★アカハラ事件概略
ニコール・ボヴァン(Nicole Boivin)が部下にアカハラをしたという事件だが、事件は単純ではないかもしれない。研究所の同僚男性の陰謀による犠牲者かもしれない。女性研究者の嫉妬による嫌がらせかもしれない。
2016年7月(46歳)、ボヴァンはドイツのマックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH:Max Planck Institute for the Science of Human History)の教授(Director:ディレクターという役職名)に就任した。
2018年、就任2年後、アカハラ調査が開始された。ということは、就任してすぐにアカハラを始めたということだ。
ドイツの弁護士であり、マックス・プランク犯罪・安全・法研究所の名誉所長のウルリッヒ・シーバー(Ulrich Sieber、写真By Micnous – Own work, CC BY-SA 4.0, 出典)と、フライブルク大学(University of Freiburg)・法学教授のシルハ・ヴェネキー(Silja Vöneky)がアカハラ調査を担当した。
シーバー委員会は、 3年間で、研究所の50人を超える現・元スタッフ・室員へのインタビューを行ない、数百の電子メールチェーンを精査した。
2021年初め、シーバー委員会は院生に対するアカハラ行為があったとボヴァンに通知し、マックス・プランク協会(Max Planck Society)にボヴァンを解任することを推奨した。
しかし、シーバー委員会の調査報告書は公表されなかった。
2021年10月(51歳)、マックス・プランク協会(Max Planck Society)は、調査の結果、「ボヴァンは、他人の研究成果を自分の功績だと主張し、研究成果を横取りした。研究所のスタッフと若い研究者をイジメた」というアカハラ行為があったこと、ボヴァンには女性蔑視の懸念もあるとし、ボヴァンの教授職を解任した。
ボヴァンはアカハラ行為を否定し、「自分の方こそ、名誉をひどく毀損され、いじめられた」と反論した。「若い研究者をイジメたことは一度もない」と付け加えた。
ボヴァンはベルリンの裁判に訴えた。
2021年12月(51歳)、ベルリン裁判所は手続きに問題があったことを指摘し、マックス・プランク協会(Max Planck Society)にボヴァンの復職を命じた。
それで、ボヴァンはマックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH)の教授(Director:ディレクターという役職名)に復職した。
2022年3月25日(52歳)、ところが、マックス・プランク協会(Max Planck Society)は、ボヴァンの解任に関して理事会で投票した。その結果、賛成32票、反対1票、棄権3票で、再び、ボヴァン教授を解任した。
ただし、ボヴァンは研究者としてマックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH)に残留している。
解任投票は、シーバー委員会の調査報告書をベースに行なわれた。
反対1票の反対票を投じたのは、ゲッティンゲン大学の元学長であるウルリケ・ベイジーゲル理事(Ulrike Beisiegel、写真出典)である。
バイシーゲル理事は、「決定を下すのに十分な情報が与えられていませんでした。また、ボヴァン教授に反論の機会が与えられていませんでした」と理由を述べた。
他にも、著名な研究者が、マックス・プランク協会(Max Planck Society)の対応に非常に批判的な意見を述べている。
ドイツで唯一のノーベル生理学・医学賞の受賞者で、マックス・プランク研究所・教授に就任した最初の女性であるクリスティアーネ・ニュスライン=フォルハルト(Christiane Nüsslein-Volhard、写真出典、Rama – 投稿者自身による作品, CC BY-SA 2.0 fr)は、マックス・プランク協会の理事ではないが、次のように批判している。
「事件には加害者と被害者の2つの側面があります。それで、独立した委員会が調査するは妥当です。しかし、ボヴァン教授が最初に降格される前に理事会は投票すべきでした。マックス・プランク協会は対処を明らかに間違えました。マックス・プランク協会は、ドイツ社会に本当に大きなダメージを与えました」。
ボヴァンは再度、裁判に訴える予定だそうだ。
ということで、今後まだ、紛争は続きそうである。
★ボヴァン教授がアカハラ被害者?
マックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH)の科学諮問委員会の最新の報告書では、「ボヴァン教授の研究室運営は、さまざまなレベルで若手研究者の指導に注意を払っていて、賞賛に値する」と述べている。
つまり、ボヴァン教授の若手研究者の指導は優れていると評価していた。
マックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH)の何人かのスタッフは、不当に扱われたのはボヴァン教授の方だと主張している。
彼らは、彼女の降格の基になったシーバー委員会の調査は不透明で秘密主義だった、と批判した。
マックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH)の科学スタッフ代表であるビート・ケルペン(Beate Kerpen、写真出典)は、研究所のスタッフに、調査は「透明性とコミュニケーションが欠如していて、公平性を確保するための非常に基本的な法的原則に従わなかった」と述べていた。「サイエンス」誌はその電子メールを入手していた。
世界で最大かつ最も資金のある基礎科学研究機関の1つであるマックス・プランク協会(Max Planck Society)傘下の研究所には304人の教授がいるが、女性は54人しかいない。そして、過去数年間で、数人の女性教授が解任されたが、男性は1人だけだ。
この事件は、女性研究者を蔑視し排除する女性差別文化の結果である。
2021年11月、マックス・プランク協会(Max Planck Society)の幹部に宛てた公開書簡の中で、145人以上の女性科学者が、マックス・プランク協会は女性を差別していると指摘した。
以下はその公開書簡の冒頭部分(出典:同)。全文(3ページ)は → https://c3c08c34-2958-4d89-a4b8-5f8c1462d915.filesusr.com/ugd/cffde5_6d4253c12ab344aca1e64eff0999aecb.pdf
DeepL翻訳 で訳すと以下の通り。
マックス・プランク協会(MPG)リーダーシップへの公開書簡
私たちは、マックス・プランク研究所(MPI)の女性教授(Director:ディレクターという役職名)に関わる解雇、降格、紛争が大きく報道されたことに懸念を表明するために、この手紙を書いています。これらの報道は、Science(2021年と2018年)やNature(2018年)など、権威があり広く読まれている媒体で掲載され、リーダーシップやいじめの問題が浮き彫りになっています。同様の報告は、コペンハーゲン大学の学術的なトップの地位にある女性の事例も公表されています(Natureに掲載された 2019 )、ETH Zurich (in Science in 2018 )、ロンドン大学 (in Science in 2018 ) と、シニア女性のこうした問題は、MPGの枠を大きく超えていることがわかります。
★賛成派
一方、ボヴァン教授のアカハラと搾取に対して行動を起こしたマックス・プランク協会を称賛する研究者もいた。
クリスティーナ・ワーリナー(Christina Warinner – Wikipedia、写真出典)は、マックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)の女性グループリーダーなので、ボヴァン教授とほぼ似たような立場だ。
そのワーリナーは、ボヴァン教授が初期キャリアの女性研究者にアカハラをしていたとする、マックス・プランク協会の決断を称賛し、ベルリン裁判所の決定に失望した、と述べている。
同じように、ある若い女性科学者は、ボヴァン教授の犠牲者の多くは女性研究者なのに、ボヴァン教授が「私は女性です」カードで女性差別の被害者を演じているのに憤慨していた。
●【アカハラの具体例】
アカハラ委員会の調査の結果、「他人の研究成果を自分の功績だと主張した。および研究所のスタッフと若い研究者をイジメた」というアカハラ行為を指摘している。
しかし、アカハラ委員会の調査報告書は公表されていないので、アカハラ行為の具体的な内容はそれ以上わからない。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》放置
学術界のアカハラ問題は、深刻である。
どう判断・調査・公表するのが良いのか、なかなか、難しい。
欧米先進国の学術界は問題解決に及び腰である。
日本の学術界はもっとひどく、アカハラ問題を全くと言っていいほど放置している。以前読んだ論文を以下に示す。
《2》不透明
ボヴァンは2016-2018 年(46-48歳)の2年間間、アカハラ行為を繰り返したと思われる。
マックス・プランク研究所はアカハラ調査報告書を公表していないので、ボヴァン事件で、具体的にどのようなアカハラ行為だったのか、そのアカハラ行為に誰がどのように対処したのか、わからない。つまり、一体全体、何が起こっているのか? とてもわかりにくい。
ボヴァン自身がアカハラ被害者だとする研究者もいる。
マックス・プランク研究所は他にもアカハラで女性教授を処分している。
- 「アカハラ」:天文学:グィネヴィア・カウフマン(Guinevere Kauffmann)(ドイツ) | 白楽の研究者倫理
- 「アカハラ」:タニア・シンガー(Tania Singer)(ドイツ) | 白楽の研究者倫理
マックス・プランク研究所は世界のトップクラスの研究所と言われているが、研究不正やアカハラの対処で、透明性、説明責任、公平さに大きく欠ける。なんとか、すべきである。
なお、透明性、説明責任、公平さに大きく欠けるのは、ドイツ学術界全体で言えることだ。
《3》アカハラ体質?
ボヴァンのアカハラ事件が公になったのは、2021年10月23日、アンドリュー・カリー(Andrew Curry)記者が「Science」記事として報道したからだ。ボヴァン、51歳の時である。
上記したように、ボヴァンのアカハラ行為の実態は不明である。
しかし、マックス・プランク人類史科学研究所(MPI-SHH)の教授に就任2年後の2018年(48歳)からアカハラ調査を受けた。
その前、ボヴァンは、英国のオックスフォード大学(University of Oxford)・上級研究員だった。
オックスフォード大学では、アカハラ行為をしていなかったのか? していたのをオックスフォード大学は隠して、ババ抜きをしたのか?
よくわかりませんが、研究者は急にアカハラし始めるだろうか? ボヴァンは、もともとアカハラ体質だったのではないだろうか? もしそうなら、オックスフォード大学は・・・だ。
ニコール・ボヴァン(Nicole Boivin)https://trowelblazers.com/2018/09/03/nicole-boivin/
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Nicole Boivin – Wikipedia
② 2021年10月28日のアンドリュー・カリー(Andrew Curry)記者の「Science」記事:Max Planck Institute demotes noted archaeologist | Science | AAAS
③ 2021年12月18日のラファエラ・フォン・ブレドウ(Rafaela von Bredow)記者の「SPIEGEL」記事:How a Prestigious Scientific Organization Came Under Suspicion of Treating Women Unequally – DER SPIEGEL
④ 2022年4月1日のアンドリュー・カリー(Andrew Curry)記者の「Science」記事:<Max Planck archaeology director removed after alleged bullying | Science | AAAS
⑤ 2017年3月14日のエリザベス・ペイン(Elisabeth Pain)記者の「Science」記事:Career success stories of the European Research Council | Science | AAAS
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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