7-20.ビールのライフワーク:捕食出版社との闘い

2018年11月22日掲載

白楽の意図:ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)は捕食学術業の批判では世界の第一人者である。ビールが初めて自分の状況や考えを書いた2017年6月の論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

本論文は2012年から2017年まで、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)が捕食出版に向き合った状況をビール本人が書いた最初の文章である。捕食出版社は、現在も、「ゴールド(著者が金を払う)オープンアクセス」モデルを使って、できるだけ多くの収益を生み出すことを目指している。本論文で、捕食出版社が生まれた理由、オープンアクセス社会運動、学術出版業界と学術図書館員が捕食出版社を容認した歴史、捕食出版社がビール・リストからその名前を削除させた戦術、捕食学術誌が科学を破壊している現状、学術出版の未来、について記述した。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

  • 著者(単著):ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall) https://en.wikipedia.org/wiki/Jeffrey_Beall
  • 写真: https://en.wikipedia.org/wiki/Jeffrey_Beall Jeffrey Beall [CC BY 2.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/2.0)], via Wikimedia Commons
  • 履歴:
  • 国:米国
  • 学歴:米国のカリフォルニア州立大学ノースリッジ校でスペイン語学の学士号を取得(1982年)、オクラホマ州立大学で英語学の修士号を取得(1987年)、ノースカロライナ大学チャペルヒル校で図書館学の修士号を取得(1990年)
  • 分野:図書館学
  • 論文出版時の地位・所属:コロラド大学デンバー校・オーラリア図書館の準教授で司書:Auraria Library, University of Colorado Denver, Denver, United States.
オーラリア図書館 https://library.auraria.edu/renovations

●3.【論文内容】

【1.序論】

2012年1月、私は、「学術オープンアクセス(Scholarly Open Access)」という新しいブログを立ち上げ、捕食出版社と捕食学術誌をリストし、学術的なオープンアクセス出版に関する批判的なコメントを書き始めた。

2017年1月、私は、雇用主であるコロラド大学デンバー大学からの激しいプレッシャーに直面した。失職することを恐れ、ブログをシャットダウンし、すべてのコンテンツを削除した。

私がブログを執筆していた5年間、私は素晴らしい経験をした。世界中の数百人の優れた学者や学術出版社の幹部に会った。想像していた以上に、学術出版について深く学び、また、研究者の論文出版へのプレッシャー、業績評価、査読について学んだ。

【2.捕食学術誌の登場舞台の設定】

インターネットが学術出版の役割を果たす前、すなわち、インターネットのウェブ(World Wide Web)が普及し始めた1998年以前は、ほぼすべての学術誌は紙媒体に印刷された。大学・研究所及び個々の研究者は、お金を払って、印刷された学術誌を購読するシステムだった。

当時、ほとんどの学術誌は内容が良質で、査読は真剣に行なわれ、尊敬され、うまく管理されていた。質の悪い論文を出版する学術出版社はいくつかあったが、一般的に研究者はそれを認識していて、避けることを知っていた。

1980年代と1990年代に、北米の多くの学術図書館が学術誌購読キャンセル・プロジェクトを実施した。 学術誌の購読価格が上昇したのに、一方、図書館の予算は減少した。そのため、学術誌の購読を止めようとする圧力がかけられた。

北米で学術誌の購読価格が上昇したのには、いくつかの理由があった。

第1の理由は、ベビーブーマーが博士号を取得し、テニュアを取り始め、研究成果の量が増加したためである。それに対応するため、学術誌は以前より多くの論文を掲載する必要があった。半年ごとの出版が3か月ごとの出版になり、3か月ごとの出版が月刊になった。当然ながら、発行経費は増加し、結果として購読価格が上昇した。

北米の学術図書館では、購読価格の上昇に寄与した要因は他に2つ(第2と第3の理由)があった。

第2の理由。当時、欧州から学術誌を購入した。ところが、1990年代後半、アメリカドルとカナダドルが弱く、欧州の通貨が強かったため、購読価格が上昇した。

第3の理由は、新しい分野の創出だった。これはベビーブーマーが大学教員に就任し始めたことと並行する現象である。ナノマテリアルやゲノミクスなどの新しい分野が生まれ、多くの新しい学術誌が生まれた。

残念ながら、上記に述べた学術誌価格の上昇の3つの理由を理解していた人はほとんどいなかった。 ほとんどの人は真の原因を無視し、出版社を非難した。

【3.オープンアクセス出版賛同者】

前章で説明したように、学術誌価格の上昇の理由を理解していた人はほとんどいなかった。出版社が暴利をむさぼっているという誤った理解は、1990年代半ばのインターネットのウェブ(World Wide Web)の登場と相まって、オープンアクセス運動をもたらした。オープンアクセス運動は、迅速かつ巧みに本格的な社会運動に変わっていった。

社会運動が成長し、繁栄し、メディアの注目を集め、成功するには、いつものことながら、敵が必要だった。 最低賃金の引き上げを擁護する人々は、マクドナルドを敵とした。 化学製品の反対派はモンサント社を敵とした。 オープンアクセス賛同者はこの戦術を真似て、伝統的な出版社であるエルゼビア社(Elsevier)を敵として選んだ。

まもなく、エルゼビア社(Elsevier)に対する攻撃が始まった。 多くの人は、オープンアクセスのヒーローを気取り、エルゼビア社(Elsevier)を攻撃した。数多くのオンライン推進嘆願書が回覧され、研究者に署名され、エルゼビア社(Elsevier)を倒す運動と称賛された。

ソーシャルメディアはオープンアクセス支持者を崇高だと褒めた。出世第一主義の学術図書館員はTwitter、Facebook、電子メールリスト、ブログを使ってオープンアクセスを賞賛し、「貪欲な」出版社を批判・非難した。 彼らは自分こそオープンアクセス運動の推進者だと主張した。

著名な「オープンアクセス宣言」のいくつかは、ヒーローになりたいエリートたちが起草したものだ。皮肉なことに、そのエリートたちは、伝統的な学術誌のおかげで自分のキャリアを形成した人たちだった。

大学の学術図書館にオープンアクセス収納庫(リポジトリ)が作られた。高価なソフトの利用料、それらを管理する専門スタッフとサポートスタッフの雇用、その他の追加コストが図書館にかかった。一方、それまで図書館が管理していた紙媒体の伝統的な購読学術誌を大学教員は無視した。

大学教員は評価の高い伝統的な購読学術誌に自分の論文を出版しつつ、他方で、その論文をオープンアクセス収納庫に登録するという両方のいいとこどりを享受した。

【4.捕食学術誌】

そして、捕食学術誌が現れ始めた。著者から高額な論文掲載料をとってウェブ上に論文を出版する学術誌である。

私が最初に気付いたのは2008年である。図書館学に関する新しい学術誌を発行することになり、その学術誌に論文を投稿して欲しいというスパムメールを受信した。

私は、その学術誌を出版する出版社を、それまで聞いたことがなかった、学術図書館員として、この新しい情報を整理して共有しようと、私はそれらスパムメールを集めた。

スパムメールの発信元の出版社は、伝統的な購読学術誌とは異なり、怪しげな学術誌(predatory journals)を出版していた。

私は「Posterous」プラットフォームのブログに捕食学術誌(predatory journals)の最初のリストを公開した。 最初は、捕食学術誌の数は少なかった。また、捕食学術誌と判定するのに迷ったボーダーラインの場合、「ウォッチリスト」と呼んだ2番目のリストにリストした。しかし、メインリストにあるものと本質的に同じであることがすぐにわかった。

学術出版の3つの基本倫理は、ビジネス倫理(business ethics)、研究倫理(research ethics)、出版倫理(publishing ethics)である。捕食出版社(predatory publishers)はこの3つの基本倫理を無視し、儲けを重視した。捕食出版ビジネスは、簡単に論文を出版したいと望む研究者と、小さなオフィスと少額の投資でたくさんのお金を稼ぎたいと望む起業家の両方に神の恩寵となった。

捕食出版ビジネスの出現以来、捕食出版社が提供するデタラメな論文出版で、修士号、博士号、さらに、他の資格・認定を取得した研究者が数万人いると思われる。彼らは、他の方法ではできなかった研究職も得ていると思われる。

もちろん、捕食出版ビジネスの出現は、学術界・大学が研究能力の指標として論文数を使うことと絡んでいる。ところが、学術界と産業界はどちらも、捕食学術誌が研究界に深刻なダメージを与えていることを理解していない。

学位審査委員、研究者採用・昇進委員、研究費審査員などすべての学術関連の委員は捕食学術誌が出現するよりもずっと前に作成された評価基準を使い続けたし、今も使い続けている。また、多くの評価委員は論文数を数える以外、効率的に研究成果を評価できなかったし、今も評価できない。

ところが、現在、履歴書に記載された論文リストは、もはや、まともな論文をリストしたものと見なせない。学位審査、研究者採用・昇進、研究費審査のために提出された論文リストは、今や、慎重に精査しなければならない。

一見、まともな学術誌に見えるが、実は、捕食学術誌というケースが多い。捕食学術誌は偽造品である。まともな学術誌のタイトルと捕食学術誌のタイトルの違いが、わずか1語にすぎなかったりする。時には、全く同じタイトルを使う捕食学術誌もある。

もちろん、すべてのオープンアクセス学術誌が捕食学術誌だとは限らない。 一部は倫理的で、そこそこの研究公正レベルを維持している。 それでも、「ゴールド(著者が支払う)」モデルを使用しているすべてのオープンアクセス学術誌は、利益相反に直面している。投稿原稿を出版するのが多ければ多いほど、収入が多い。だから、収入を得るために、価値のないカスのような投稿原稿でも、受理し出版したい誘惑が常にあるのだ。

【5.リストから削除しろ!】

私は5年間、私のブログと捕食出版社・捕食学術誌のリストをウェブサイトに公開していた。その間、出版社と学術誌は、常にリストから削除するようにと、私に対して様々な手段を試みてきた。

年月が経つにつれ、削除要求は増えた。というのは、年月が経つにつれ、私のリストを推薦する大学が増えた。公式のブラックリストとして使用する機関が増えた。同時に、出版社からの削除要求の方法は激しくなってきた。

捕食出版社のオーナーは、私に電子メールで、尊敬される編集委員の信任状を添付し、学術誌の質が良いことと査読の厳しさを説明してきた。その中には、私の判定基準を使って自己判定したケースもあるが、私が再度分析すると、例外なく、すべての捕食学術誌は「捕食」に分類された。

他はもっと過激な戦略を実行した。 いくつかの出版社、特にスタンドアロンの大きな学術誌を発行する出版社は、私が所属する大学のウェブサイトから、大学幹部の名前とEメールアドレスを見つけ、私の仕事、私の倫理、私の能力についてデタラメなことを書いて、大学幹部に電子メールを送った。

捕食出版社は金銭、競争、欲望に支配され、収益の増加を妨げる障害を取り除こうとしたのである。そして、そうなのだ、私のリストはその大きな障害の一つだったのだ。

別の戦略を試す捕食出版社もあった。 私が大学の名声を傷つけていると、学長や大学幹部に何度も電子メールを送付することで、多大な迷惑をかける戦略だ。彼らは、「ヘックラーの拒否権(heckler’s veto)*」を実行したのである。学長や大学幹部に何度も膨大な量の電子メールを送った。 彼らは大学に可能な限り迷惑をかけようとした。学長や大学幹部はそのメールへの対応に疲れてしまった。 出版社MDPI(Multidisciplinary Digital Publishing Institute) はこの戦略を使った。

Heckler’s vetoは直訳すると「演説妨害者の拒否権」ですが、大雑把にいうと、何らかの動議を提出している党派に対し、反対派が徹底的に野次り倒すことによって、相手のスピーチをやめさせてしまうことだそうです。(Heckler’s veto – 英語 解決済み| 【OKWAVE】

捕食学術誌に論文を出版した研究者は、出版社の最大の擁護者になった。私は研究者の見識のなさに、とても驚いた。

彼らはまるで捕食出版社に忠誠心を感じているかのようだった。

最初は理由がわからなかったが、捕食出版社を擁護する研究者のほとんどは、まともな学術出版社から何度も論文掲載を拒否された経験をしているためだと思い至った。厳密な査読をする学術誌に何度も不採択だと告げられた研究者は、論文を受理し出版してくれた出版社に恩義を感じ、擁護するようになったのだ。

【6.ブラックリストとホワイトリスト】

学術誌のホワイトリスト(まともな学術誌のリスト)とブラックリスト(捕食学術誌のリスト)の利点と欠点に関する議論は興味深い。

私はブラックリストを5年間公表してきたが、その間、出版社も大学もブラックリストを作り公表する発想がなかった。研究者はブラックリストに掲載されている学術誌に論文を投稿しなくなる。ブラックリストに掲載された学術誌の論文を大学が学術的価値を認めない場合、ますますそうである。そうなると、リブラックストは収入の減少を意味する。出版社はブラックリストをひどく嫌った。

一方、大学も、学術誌のブラックリストがもつ否定的な性質を嫌った。米国の大学は企業化がかなり進んでいる。大学のすべての研究発表は肯定的で、新しい顧客となる入学希望者を引き付け、授業料を払ってもらうことを大学は目指している。

したがって、大学教員がブラックリストを公表している場合、学問の自由の保証にもかかわらず、その教員は所属大学からの多くの反対や嫌がらせに直面する可能性がある。

一方、ホワイトリストの最大の弱点は、しばしば、おそらく意図せずに、捕食学術誌を含んでしまうことだ。これは、ホワイトリストにリストした後、捕食学術誌に変る場合もある。不誠実な研究者は、ホワイトリストの中で最も簡単な捕食学術誌を選ぶだろう。リストの中で最も簡単な学術誌に論文を掲載しても、最も難しい学術誌と同じ信頼が得られる。このように、ホワイトリストは、結果として、捕食学術誌の出現を促進してしまう。実際、学術誌が一度、Journal Citation Reports、オープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals)、Scopus などにホワイトリストされてから、捕食学術誌とり、金もうけに邁進している学術誌がたくさんある。

ブラックリストとホワイトリストは、大学上層部にとっては、研究評価が容易にできて便利である。このリストが使用されると、研究者はホワイトリストの学術誌の論文だけが評価され、ブラックリストの学術誌の論文は評価されなくなる。しかし、そのような評価はシンプルなゼロ・100の2元的で、思慮深い評価とはほど遠い。

【7.捕食出版社と科学への脅威】

私は、捕食出版社は宗教裁判以来、科学に最大の脅威を与えていると思う。

捕食出版社は企業利益を追求しているため、著者が論文掲載料を払う「ゴールド・モデル」は、査読の際に強い利益相反が生まれる。捕食出版社はお金を稼ぎたい。論文を不採択にするのは収入の否定と同じだ。この葛藤は、崩壊しつつある学術出版の中心的な原因である。

現代では、学術出版社サービスの顧客は、論文を読む研究者でも大学の学術図書館でもない。論文を投稿する著者である。そして、その比率はますます大きくなっている。企業は常に顧客の要望を満たしたいと考える。投稿された論文原稿をなるべく出版する、という新サービスを追加することで、収入を継続して増やしたいと望んでいる。

大規模な捕食出版社の多くは、特に西ヨーロッパに拠点を置く捕食出版社は、ニッチビジネスである。彼らのビジネスは、まともな学術誌から不採択にされた原稿、すなわちElsevier、Wiley、Sage、Taylor&Francis、Oxford University Press、および他のいくつかの出版社が発行する学術誌に不採択にされた原稿を出版するように設定している。

研究者にとって困ったときの頼みの綱として、捕食出版社は論文発表の機会を与えてくれる。従来のまともな学術誌が落選学術誌(Salon des Refusés、不採択にされた原稿を出版する学術誌)になることはあり得ない。

しかし、信頼できる出版社よりも「困ったときの頼みの綱出版社」が大きく増え、市場は非常に不均衡になってきた。そして、質の悪い原稿であっても出版社は投稿してもらおうと互いに激しく競争している。

捕食出版社は、まともな出版社だと思わせる振る舞いをする。 一部のオープンアクセス出版社は、英国に拠点を置いていないにもかかわらず、強い英国アクセントを持つスポークスマンを雇い、科学会議に出席させる。

会議場の展示ホールにブースを設け学術出版社の宣伝をする。また、会議の共同主催者になる。彼らは出版社団体に加わり、オープンアクセスに寄付するショーを行なう。そして、1〜2人の年老いたノーベル賞受賞者に、仕事の義務はないという条件で、編集委員に加わってもらう。

医学では、境界の画定が失敗した。現在、まともな医学研究と怪しげな医学研究の明確な境界線が存在しない。疑問の余地のある医学研究論文が、医学の歴史上かつてないほど、現在ではたくさん出版されている。例えば、偽の医薬品や栄養補助食品の開発を含むいい加減な研究論文が多数、出版されている。

医学研究は今日の人類にとって最も重要な研究であるにもかかわらず、まともな医学研究と怪しげな医学研究がはっきりと分かれていない。重要性、価値、普遍的メリットを考えた時、人間の努力の中で医学研究以上のものがあるのだろうか? ないでしょう。

【8.捕食学術業】

かつて隆盛を誇った学術出版業界は現在、急速に衰退している。衰退の原因は2つある。

1つ目は、著者が論文掲載料を払う「ゴールド・モデル」オープンアクセス学術誌の出現である。「ゴールド・モデル」では高品質の学術誌を維持するのに十分な収入が得られない。ほとんどの場合、著者から支払われたお金は、基本的に、論文をPDFに変換しインターネット上の格納庫(リポジトリ)に公表するのにつかわれる。

唯一の例外は、研究者の膨大なボランティアで支えられている学術誌である。特定の研究分野では密接に結ばれた研究者コミュニティの学術コミュニケーション・ツールとして機能している良質な学術誌が少数ある。

2つ目は、学術出版業界も自らの衰退の責任を負っているということだ。学術出版業界は問題のある学術誌を規制してこなかった。だから、捕食学術誌が出現・繁栄することが可能だった。オープンアクセス出版社の業界団体は1つあるが、それは、狐に鶏小屋を守らせているような業界団体である。

学術出版業界には、資格認定システムや品質管理システムがなかった。Crossref(デジタルオブジェクト識別子、DOIのサプライヤー)などの出版支援ビジネスの多くは、驚いたことに、追加収入が得られるとして捕食学術誌を歓迎してしまった。

そして、捕食出版社は学術出版業界を腐敗させ、査読システムを破壊し、科学を崩壊している。

オープンアクセス学術誌が出現する前は、研究者、学術誌編集者、出版社、読者の間の暗黙の「紳士協定」が学術出版システムを支配していた。この暗黙の「紳士協定」で、研究および出版プロセスのすべてで高いレベルの公正が維持できた。しかし、今や、捕食出版社とその共謀者は自らの目的のために、この暗黙の「紳士協定」を破棄し、学術コミュニケーションを破壊している。

【9.学術出版の未来】

最後に、学術出版の未来を考えたい。

学術出版の未来は、プレプリントサーバーとオーバーレイ学術誌が重要な役割を果たすと思う。

arXiv.orgによって開拓されたプレプリントサーバは、数が増えており、多くの学術分野で役立っている。私はこれが続くことを期待している。

プレプリントサーバは、査読や編集をする必要がないため、伝統的な学術誌と比べ、安価に運営できる。最小限の査定はするが、それも、通常、論文でではなく研究者レベルでする。つまり、科学界のコンセンサスから逸脱した論文を投稿する研究者をブラックリスト化できる。

オープンアクセス学術誌からプレプリントサーバーへの移行の利点の1つは、著者の論文掲載費の支払いとそれに伴うすべての腐敗をなくせることだ。

各分野のオーバーレイ学術誌は、対応するプレプリントサーバーに投稿された論文の中から、毎月または3か月ごとに最良の論文(複数)を選択し、リストし、リンクした特別号を作成する。各オーバレイ学術誌の編集委員会はその分野の専門家集団で、投稿論文が健全で、斬新で、科学的で、その研究分野に重要、と判定した投稿論文(プレプリント)を選ぶ。

●4.【関連情報】

① Beall J. Dangerous predatory publishers threaten medical research. J Korean Med Sci. 2016;31:1511–3. 10.3346/jkms.2016.31.10.1511 [PMC free article] [PubMed] [CrossRef]
② ビール・リスト(Beall’s List)の継承(欧州の匿名ポスドク)。[1]:Beall’s List of Predatory Journals and Publishers – Publishers。[2]:Standalone Journals – Beall’s List of Predatory Journals and Publishers

③【動画1・2】

自己紹介している。自分のことを「ジェフリー・ビール」と呼んでいる。
「Jeffrey Beall」(スペイン語)1分13秒
CONRICYT 2017/06/19 に公開

「ジェフリー・ビール」と紹介されている。
「Jeffrey Beall: “Predatory Publishers” 」(スペイン語)4分24秒
MediaLab UGR 2017/04/27 に公開に公開

④【動画3・4】
「ジェフリー・ビオール」と紹介しているが、上記動画があるので、白楽の記事では「ジェフリー・ビール」とした。
2014年5月、サンアントニオ(米テキサス州)で開催された科学編集者会議の年次総会で、エディテージ(カクタス・コミュニケーションズ)の米国オフィス代表、ドナルド・サミュラック氏がビオール氏に話を聞きました。(出典:「『ハゲタカ出版社』は、あらゆる手を使ってまともな出版社のふりをします」 | Editage Insights

「ジェフリー・ビールのオープンアクセス出版問題:出版社が著者を欺く方法(Jeffrey Beall on Open Access Publishing: How publishers dupe authors) – YouTube」(英語)10分46秒。
Editage Insights が2014/06/09 に公開

「ジェフリー・ビールのオープンアクセス出版問題:数値で装う、オープンアクセスが目指すところ(Jeffrey Beall on Open Access Publishing: Playing with metrics, where open access is headed, and more ) – YouTube」(英語)8分37秒。
Editage Insights が2014/06/12 に公開

【捕食学術の情報リスト】

●5.【白楽の感想】

《1》目からウロコ

この論文は、目からウロコでした。

捕食学術誌がこれほどまで研究を破壊していることを、十分、理解していなかった。

《2》日本国民に日本語で無料

白楽も、かつて、オープンアクセス賛同者でした。というか、今でも、思想的にはオープンアクセス賛同者である。

研究者は日本国民の税金を使って研究を行なっている。その研究成果は、金を払ってくれた日本国民に無料で伝えるべきだ。それも、日本語で伝えるべきだ。英語でも良いが、英語だけでは国賊ものだ。日本語は必須だ。

だから、このブログも、日本国民に日本語で無料で伝えている。白楽は現役ではないので、今は、日本国民の税金から研究費・給料を受け取っていない。それでも、年金は税金からいただいている。基本姿勢は変らない。

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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小田正人
小田正人
2019年4月5日 8:49 AM

白楽さんに同感。目からウロコでした。「オープンアクセス賛同者でした。というか、今でも、思想的にはオープンアクセス賛同者である。」もあてはまります。そのうえで、「プレプリントサーバーとオーバーレイ学術誌がこれから重要な役割を果たす」というビール氏の意見は、健全なオープンアクセスの未来への指標として大変啓発的でした。最近盛んにResearchgateからプレプリントの確認を求められ、PeerJがプレプリントを強調するのも、F1000Primeが宣伝たくましいのも、そのような背景があってのことかと理解できました。