物理学:サラー・エラヒ(A. Salar Elahi)(イラン)

2018年5月13日掲載。

ワンポイント:イスラーム自由大学(Islamic Azad University)・科学研究学部・プラズマ物理研究センター(Plasma Physics Research Center, Science and Research Branch,)・助教授である。2015年(32歳?)、インド理科大学院(Indian Institute of Science)・助教授で学術誌「Journal of Crystal Growth」の編集員であるアーナブ・バタキャリア(Arnab Bhattacharya)がエラヒの査読偽装を見破った。2017年12月(34歳?)、イスラーム自由大学・プラズマ物理研究センター長がエラヒを停職処分に科した。トータル26論文が撤回で、2018年5月12日現在、「撤回論文数」世界ランキングの18位である。損害額の総額(推定)は3億2800万円。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
ーーーーーーー

●1.【概略】

サラー・エラヒ(Ahmad Salar Elahi、写真出典)は、イランのイスラーム自由大学(Islamic Azad University)・科学研究学部・プラズマ物理研究センター(Plasma Physics Research Center, Science and Research Branch)・助教授で、専門は物理学(プラズマ物理)である。

2015年(32歳?)、インド理科大学院(Indian Institute of Science)・助教授で学術誌「Journal of Crystal Growth」の編集員であるアーナブ・バタキャリア(Arnab Bhattacharya)がエラヒの査読偽装を見破った。

2017年12月(34歳?)、イスラーム自由大学・プラズマ物理研究センター長がエラヒを停職処分に科した。

2018年5月12日現在、26論文が撤回されているが、この撤回論文数は、「撤回論文数」世界ランキングの18位である。

イスラーム自由大学(Islamic Azad University)・科学研究学部(Science and Research Branch)。写真出典

  • 国:イラン
  • 成長国:イラン
  • 研究博士号(PhD)取得:イスラーム自由大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日とする。2005年にコム大学・修士課程入学時を22歳とした
  • 現在の年齢:35 歳?
  • 分野:物理学
  • 最初の不正論文発表:2000年?(27歳?)
  • 発覚年:2015年(32歳?)
  • 発覚時地位:イスラーム自由大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はインド理科大学院(Indian Institute of Science)・助教授で学術誌「Journal of Crystal Growth」の編集員であるアーナブ・バタキャリア(Arnab Bhattacharya)である。バタキャリアがエラヒの査読偽装を見破り、編集長に伝えた
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②イスラーム自由大学・調査委員会(多分、設立)。
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし(✖)
  • 不正:査読偽装
  • 不正論文数:26報撤回。
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は3億2800万円。内訳 → ①研究者をやめていないのが解雇されると想定した。損害額は研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が7年間=1億4千万円。③院生の損害が1人1000万円だが、額は②に含めた。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費(大学と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。24報撤回=4800万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:停職処分。いずれ解雇処分?

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1983年1月1日とする。2005年にコム大学・修士課程入学時を22歳とした
  • 2005-2007年(22-24歳?):イランのコム大学(Qom University)で修士号取得:プラズマ物理学
  • 2007-2010年(24-27歳?):イランのイスラーム自由大学(Islamic Azad University)で研究博士号(PhD)を取得:プラズマ物理学
  • 2010年?(27歳?):イスラーム自由大学(Islamic Azad University)・科学研究部・プラズマ物理研究センター(Plasma Physics Research Center, Science and Research Branch)・助教授
  • 2015年(32歳?):査読偽装が発覚
  • 2017年12月(34歳?):イスラーム自由大学・プラズマ物理研究センター長がエラヒを停職処分

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2015年3月、インド理科大学院(Indian Institute of Science)・助教授で学術誌「Journal of Crystal Growth」の編集員であるアーナブ・バタキャリア(Arnab Bhattacharya、写真出典)は、サラー・エラヒ(A. Salar Elahi)からの原稿を受け取った。

エラヒが推薦した査読者の連絡先はGmailアカウントとYahooメールアカウントだった。

それで、査読詐称を疑い、調査を始めた。

その月、バタキャリア編集員はトーマス・クーヒ編集長(Thomas Kuech)に「査読偽装だと信ずる理由があります」とメールしている。

エラヒがさらに新しい原稿を投稿してきた。その投稿原稿と、すでに学術誌に掲載されていた2つの論文では、どれも同じ査読者が推薦されていた。

推薦査読者をグーグルで検索すると、査読者の本当の電子メールとは異なっていたり、投稿原稿の研究トピックの専門家ではなかった。

また、出版された2つの論文が査読された時の査読報告文を調べると、大幅な重複が見つかった。

2015年中頃、トーマス・クーヒ編集長は出版社であるエルゼビア社と問題を話し合っているとバタキャリア編集員に語った。 しかし、その後、2016年と2017年にエルゼビア社はエラヒ・グループからの論文を21報も出版してしまった。

「撤回監視(Retraction Watch)」が、どうして2016年と2017年に論文を出版したのかと問うと、エルゼビア社の広報担当者は次にように答えた。

私たちは、2015年にこれらの著者の潜在的な問題を認識していました。しかし、各学術誌の編集の独立性を損なう恐れがありましたので、エルゼビア社のすべての学術誌のブラックリスト者をシステマティックに作成しておりませんでした。また、これらの投稿論文のほとんどは、投稿時に最終著者が記載されておらず、改正時に追加されました。一般的に、編集部が実際に最も集中的な検査を行うのは投稿時の最初の原稿です。そのため、追加された著者の検査が甘くなっていました。また、連絡著者はいくつかの異なる電子メールアドレスを使用していました。 このため、連絡著者を識別するID(名前と電子メール)では追跡できなかったのです。

2015年、学術誌の出版社であるエルゼビア社は、結局、サラー・エラヒ(A. Salar Elahi)が査読偽装者であるという警告を発した。

それから1年数か月後が経過した。

2017年3月、英国マンチェスター大学(University of Manchester)のクリストファー・ブランフォード講師(Christopher F. Blanford、写真出典)は、学術誌「Journal of Crystal Growth」のアーナブ・バタキャリア(Arnab Bhattacharya)編集員から、以下の電子メールを受け取った。

「このgmailのアドレスはあなたの正規アドレスでしょうか? 確認をお願いします」

ブランフォード講師は「私のアドレスではありません」と答えた。

エラヒの査読偽装の手口は、記事には記載されていない。推定を加え、白楽は以下の手口だと思う。

エラヒは論文投稿時に学術誌・編集部に査読者を推薦する。その時、例えば、英国マンチェスター大学(University of Manchester)のクリストファー・ブランフォード講師(Christopher F. Blanford)を査読者に推薦したとしよう。この査読者には査読者にふさわしそうな実在の研究者を選ぶ。

ブランフォード講師への連絡先としてGmailアカウントを使う。例えば、Christopher_Blanford@gmail.com とか、Chris_Blanford@gmail.com、あるいはCBlanford_U-Manchester @gmail.com など、いかにもChristopher F. Blanford のアカウントと思われるアドレスを作る。もし、Christopher F. Blanford 本人がすでに作成したアクウントと重なれば、新しいアカウントは作れない。従って、作ることができたアカウントはChristopher F. Blanford 本人が知らないアカウントだ。その方法で、エラヒはChristopher F. Blanfordに成りすますことができる。

Christopher F. Blanfordに成りすませたアカウントに学術誌・編集部から投稿論文の査読依頼がくる。自分が投稿した論文を自分で査読するのである。当然、高い評価を与える。当然、原稿はスンナリ受理される。当然、論文として出版される。メデタシメデタシということだ。[白楽注:ヨイ子のあなたは、マネしないように!]

しかし、天網恢恢疎にして漏らさず。

2017年12月(34歳?)、エルゼビア社は、エラヒが2014年末-2017年に投稿した26論文を査読偽装だったとつきとめ、それら26論文を撤回した。
→ 2017年12月21日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Elsevier retracting 26 papers accepted because of fake reviews – Retraction Watch

2017年12月(34歳?)、イスラーム自由大学・プラズマ物理研究センター長のマフムード・ゴーラナヴィス(Mahmood Ghoranneviss、写真出典)は、エラヒのすべての大学での行為(含・講義)を停職状態にした。イスラーム自由大学は今のところ、エラヒを処分していないが、今後、解雇するだろうとゴーラナヴィス・センター長は述べている。

なお、センター長のゴーラナヴィスはエラヒの複数の論文の共著者になっている。但し、論文の著者に加えられたことを事後に知った。事前に承認を得ていないとゴーラナヴィスは主張している。

●6.【論文数と撤回論文】

サラー・エラヒ(Ahmad Salar Elahi)のウェブサイトにはエラヒが出版した108論文がリストされている。
→ Ahmad Salar Elahi (保存版)

「撤回監視(Retraction Watch)」の記事では、エラヒの26論文が撤回されたとある。

26撤回論文は上記の108論文とは別のようだ。

2018年5月12日現在、26論文撤回は、「撤回論文数」世界ランキングの18位である。

エラヒは論文多産者である。ただし、査読偽装していれば、論文多産はさほど難しくないだろう。査読偽装された論文のリストを示さないが、エラヒのすべての論文は疑わしいとみなすべきだろう。

●7.【白楽の感想】

《1》イスラムの戒律

白楽の印象では、イスラム教の国の戒律は欧米や日本の戒律より一般的に厳しい印象がある。

例えば、イスラム教の国であるイランでは飲酒が禁じられていて、見つかればむち打ち刑だと聞いている。

聖体拝領のワインでキリスト教徒に80回のむち打ち刑http://www.rightspeak.net/2013/10/iran-gives-christians-80-lashes-for.html

しかし、今回のエラヒ事件もそうだが、イスラム教の国の研究者もネカトをする。

欧米や日本に比べネカト者が多いのか少ないのかを調べていないが、意外に思ったのは、発覚しても処分が甘いということだ。つまり、ネカトを厳しく取り締まっていない。

日常生活での戒律の厳しさと、研究公正での戒律の厳しさは別なのだろう。

それとも、イスラムの戒律は実は日本よりも緩いのだろうか? あるいは、イランでは大学教員はかなりの特権階級なので、戒律を越えているのだろうか?

《2》編集者の失態

エラヒ事件での「撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメントを読むと、多くの人が、査読偽装を見破れなかったのは学術誌・編集者の無能が原因で、学術誌・編集者の失態だと非難している。

論点は「Gmailアドレスの査読者を信用するなんて、おかしい」という指摘だ。

白楽は、この指摘に強く同意する。

ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

●8.【主要情報源】

① 2018年1月4日以降。ビクトリア・スターン(Victoria Stern)などの「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Search Results for “Ahmad Salar Elahi” – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

コメントは承認待ちです。表示されるまでしばらく時間がかかるかもしれません。