ライアン・エバノフ(Ryan Evanoff)(米)

2025年8月30日掲載

ワンポイント:ワシントン州立大学のテクニシャンだったエバノフは、2015~2019年(30~34歳?)の4年間、研究材料を不適切に提供、データ捏造・改ざん、実験ノートの不記載などの研究不正を繰り返した(同大学調査報告書、2020年5月)。それから5年経った 2025年8月8日(40歳?)、研究公正局はエバノフがDNA配列を故意に捏造・改ざんしていたと発表し、2025年6月16日から3年間の締め出し処分を科した。記事執筆時点で撤回論文は2報。国民の損害額(推定)は約1億円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

ライアン・エバノフ(Ryan Evanoff、、ORCID iD:、写真出典)は、ワシントン州立大学(Washington State University)・テクニシャンだった。専門は獣医学だった。

2019年(34歳?)、同じ研究室の女性ポスドク(姓名不記載)がエバノフのデータ捏造・改ざんを疑い、ボスのロバート・ミーリー教授(Robert H. Mealey)に伝えた。

ミーリー教授はエバノフのネカト行為を確信し、ワシントン州立大学に伝えた。

2019年4月(34歳?)、ワシントン州立大学はネカト調査を始めた。

2020年5月(35歳?)、調査の翌年、ワシントン州立大学がネカト調査を終え、調査報告書をまとめた。

調査報告書は、エバノフは2015年(30歳?)から2019年(34歳?)までの4年間、研究材料を不適切に提供、データの捏造・改ざん、重要な研究手順や観察を実験ノートに不記載、などの研究不正行為を反復的に行なっていた、と述べている。

ワシントン州立大学はネカト調査報告書を研究公正局に送付した。

2020年(35歳?)、エバノフは解雇される前に辞職した。

2025年8月8日(40歳?)、ワシントン州立大学が調査を終了してから5年後(遅いですね)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、ワシントン州立大学・テクニシャンだったエバノフが6件のDNA配列を、故意に捏造・改ざんしていたと発表した。

2025年6月16日(40歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は普通の処分である。

2025年8月29日(40歳?)現在、エバノフは、ワシントン州のクラークストン高校(Clarkston High School)の教師をしている。

ワシントン州立大学(Washington State University)・獣医学部(College of Veterinary Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 修士号(MD)取得:ワシントン州立大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2003年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:40歳?
  • 分野:獣医学
  • 不正行為期間:2015~2019年(30~34歳?)の5年間
  • 不正行為時の地位:ワシントン州立大学・テクニシャン
  • 発覚年:2019年(34歳?)
  • 発覚時地位:ワシントン州立大学・テクニシャン
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ研究室の女性ポスドク(姓名不記載)
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ワシントン州立大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/01/20-514-2nd-Install_Redacted-1.pdf
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:捏造・改ざん
  • 不正数:研究公正局は6件のDNA配列の捏造・改ざん。2報の撤回論文
  • 時期:研究キャリアの初期・中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから 3年間の締め出し処分
  • 対処問題:研究公正局怠慢
  • 特徴:大学の調査終了の5年後に研究公正局の発表
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Ryan Evanoff | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2003年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 2003~2006年(18~21歳?):ワシントン州立大学(Washington State University)で学士号を取得:生物学
  • 2006~2007年(21~22歳?):同大学で修士号を取得:バイオテクノロジー
  • 2007~2019年?(22~34歳?):同大学・獣医微生物学部門・テクニシャン
  • 2015~2019年(30~34歳?):データ捏造・改ざんしていた
  • 2019年4月xx日(34歳?):データ捏造・改ざんが発覚
  • 2019年4月~2020年1月(34~35歳?):ワシントン州立大学がネカト調査
  • 2020年12月16日(35歳?)以前:辞職(解雇前に)
  • 2020年12月~2022年8月(35~37歳?):ワシントン州のアソティン-アナトーン学校区(Asotin-Anatone School District)・教員
  • 2022年8月(37歳?)~現在:ワシントン州のクラークストン高校(Clarkston High School)・教師
  • 2025年8月8日(40歳?):研究公正局がネカトと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

2007年(22歳?)、ライアン・エバノフ(Ryan Evanoff、写真出典)はワシントン州立大学(Washington State University)で学士号と修士号を取得した。

以下推定を交えて経歴を示す。

2007年(推定)、ワシントン州立大学(Washington State University)のマイケル・グリズウォルド教授(Michael Griswold)研究室のテクニシャンになった。

2008~2013年(23~28歳?)の6年間に13報の論文をグリズウォルド教授のもとで出版している。と言ってもテクニシャンなので、第一著者ではない。

でも、13報の論文出版なので、かなり優秀なテクニシャンだったと思われる。

2013年(28歳?)(推定)、グリズウォルド教授の研究室から、ロバート・ミーリー教授(Robert H. Mealey、写真出典)研究室に移籍した。

2015年5月(30歳?)、ミーリー教授のもとで最初の論文を出版した。と言ってもテクニシャンなので、第一著者ではない。

2017年(32歳?)の年俸は$49,100(約491万円)だった。 → Ryan Evanoff | Scientific Assistant | WSU | 2017

★獲得研究費

ライアン・エバノフ(Ryan Evanoff)はテクニシャンなので、研究代表者としてはNIH研究費を得ていない。

ボスのロバート・ミーリー教授(Robert H. Mealey)が、NIHの国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)から研究費(R21 AI126304)を得ていた。 →
RePORT ⟩ R21 AI126304

★発覚

2015年9月(30歳?)、ワシントン州立大学(WSU)のミーリー研究室に女性のポスドク(匿名。ポスドクAと仮名する)が加わった。ポスドクAは獣医師免許、2つの博士号、4年間のポスドク経験があった。

ポスドクAは、2つの研究プロジェクトに携わっていた。1つは、ダニ媒介性寄生虫のタイレリア・エクイ(Theileria equi)に感染した馬に投与した薬剤の有効性を測定するプロジェクトだった。もう1つは、ヒトにおけるC型肝炎ウイルス感染のモデルとなる可能性の馬ウイルスに関するプロジェクトだった。

エバノフは「両方のプロジェクトに参加」したが、後者のプロジェクトにより深く関わっていた。

ポスドクAはネガティブな結果を出すこともあるが、エバノフは常に肯定的な結果を出していて、「研究室のスターだった」。

2019年初頭(34歳?)、ポスドクAは、エバノフがデータを捏造・改ざんしているのではないかと疑うようになった。

というのは、作業時間中にこなせないほどの大量の実験データをエバノフが提示していたことと、前述したように、エバノフは常に肯定的な結果を出していたからだ。

さらに、エバノフが調製した材料を使ってポスドクAが実験をした時、論理的な説明ができないデタラメなデータが出てきた。

また、ポスドクAは、エバノフから渡された古いサンプルを保管していたが、エバノフから同じ物質だという新しいサンプルをもらって比較しところ、データが一致しなかったこともあった。調べると、新しいサンプルは分子量の異なる別のタンパク質だった。

ポスドクAは研究室の上司・ミーリー教授に懸念を伝えた。

ミーリー教授は半信半疑だった。

ミーリー教授は、質量分析のためにエバノフが作成した「ウイルスの組み換えエンベロープタンパク質」をアイダホ大学に送るようエバノフに指示した。

ところが、アイダホ大学は、「サンプルにはウイルスエンベロープタンパク質ではなく、本来含まれていない馬血清タンパク質と鶏卵アルブミンが含まれていました」との分析結果を報告してきた。

そして、ミーリー教授は、実験がうまくいかない理由を討論しているとき、明らかに捏造したシーケンシング結果をエバノフが持ってきた。その時、ミーリー教授は、エバノフがデータ捏造していたと確信した。

ミーリー教授は大きなショックを受けた。

その時、これは一回限りの出来事だと思いたかった。

しかし、次項に示す調査報告書では、エバノフは、2015年から大学を去る2019年までの4年間、研究材料を不適切に提供、データ捏造・改ざん、実験ノートの不記載などの研究不正を繰り返していたと結論されている。

★大学の調査

2019年4月24日(34歳?)、ワシントン州立大学(WSU)はエバノフのネカトを調査する委員会を設置した。

委員会は2019年12月9日から2020年3月19日までの3か月の間に、5人の証人に対して7回の聞き取り調査をした。

エバノフは聞き取り調査に応じず、書面で限定的な回答をしただけだった。それも、回答をメールで数回催促した後、回答要請の5週間後にようやく、書面で回答してきた。

エバノフは1件のデータセットの捏造を認めたものの、告発されたその他の不正行為についてはすべて否定した。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で得たワシントン州立大学の調査報告書(2020年5月xx日)の冒頭部分(出典:同)。エバノフやミーリー教授などの姓名が黒塗りされている。全文(121ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/01/20-514-2nd-Install_Redacted-1.pdf

2015年から2019年までの4年間、研究材料を不適切に提供、データ捏造・改ざん、実験ノートの不記載などの研究不正行為を反復的に行なっていた。

委員会は、ワシントン州立大学のエバノフのファイルに、「いかなる状況下でも」二度とエバノフを雇用しないことを徹底するようフラグを付けた。

★研究公正局

2025年8月8日(40歳?)、ワシントン州立大学の調査終了の5年後(遅いですね)、研究公正局はエバノフの研究不正を発表した。

NIHの国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の研究費(R21 AI126304)に関係した研究で、エバノフは以下6件のDNA配列を、故意に捏造・改ざんした。前述したように、研究費(R21 AI126304)の研究代表者はボスのロバート・ミーリー教授(Robert H. Mealey)である。 →RePORT ⟩ R21 AI126304

pC-293_pcDNAF_ CZ3082_1.seq
pC-293_pcDNAR_CZ3083_2.seq
pQ-293_pQEfPR_CZ3084_3.seq
pQ-293_pQErev_CZ3085_4.seq
pQ-CD81_pQEfPR_CZ3086_1.seq
pQ-CD81_pQErev_ CZ3087_2.seq

2025年6月16日(40歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は普通の処分である。

なお、エバノフには、2020年12月に撤回された論文が2報あるが、研究公正局は研究費申請書、発表論文、投稿原稿でのネカトに関しては触れていない。

★ポスドクA

ポスドクAは、数々の困難を乗り越え、最近、常勤の助教授に就いた。

【ねつ造・改ざんの具体例】

上記したので省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年8月29日現在、パブメド(PubMed)で、ライアン・エバノフ(Ryan Evanoff)の論文を「Ryan Evanoff [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2007~2018年の11年間の16論文2020年の撤回公告1報がヒットした。

2025年8月29日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2018年のJ Virol」論文・1論文が2020年12月9日に撤回されていた。 → 撤回公告

★撤回監視データベース

2025年8月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでライアン・エバノフ(Ryan Evanoff)を「Ryan Evanoff」で検索すると、2018年と2019年の論文各1報の計2論文が2020年12月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年8月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ライアン・エバノフ(Ryan Evanoff)の論文のコメントを「Ryan Evanoff」で検索すると、2論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》研究公正局の発表

ワシントン州立大学の調査報告書(2020年5月付け)は、テクニシャンだったライアン・エバノフ(Ryan Evanoff)が、2015年から2019年までの4年間に、研究材料を不適切に提供、データ捏造・改ざん、実験ノートの不記載などの研究不正を繰り返していたと、記載した。

この調査で、2018年と2019年のエバノフの論文各1報の計2論文が2020年12月に撤回された。

一方、研究公正局は、ワシントン州立大学が記載した不正行為も、撤回論文のことも、何も触れていない。なんかヘンである。

《2》研究公正局の処分

5年前に、エバノフはワシントン州立大学を辞めている。そして、2025年現在は高校教師で、研究者ではない。つまり、NIHに研究費を申請する状況では全くない。

それなのに、研究公正局はエバノフ に3年間の締め出し処分を科している。この処分って、どういう意味があるのだろうか? 白楽は長年、疑問に思っている。

そして、この処分をまねた日本の制度にも、白楽は、その意味と効果に非常に懐疑的である。

誰か、処分の意味と効果を研究して論文発表してくれないだろうか?

《3》米国の研究公正局どうなる?

白楽は、丁度1か月前、「ジュン・フゥ(Jun Fu)(米) | 白楽の研究者倫理」の白楽記事で、以下の事を書いた。

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2025年7月29日現在、2025年に入って7か月が経過した。この7か月間で、研究公正局がクロと認定した事件は2025年3月19日のリピン・ジャン事件・1件しかない。 → リピン・ジャン(Liping Zhang)(米) | 白楽の研究者倫理

研究公正局は、2024年10月8日にブレット・ラザフォード(Bret Rutherford)のネカト行為を発表して以来、2025年7月29日現在までの10か月間、新たなネカト犯を2025年3月19日のリピン・ジャン事件・1件しか発表していない。
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そして、今回、エバノフ事件を2025年8月8日に発表した。2025年の2件目である。

研究公正局は、毎年、平均10件発表してきた。2025年8月29日現在、2025年の7割の期間になろうとしているのに、事件公表数は約2割である。このまま進むと、2025年は例年の3割しか仕事しなかったことになりそうだ。

トランプ政権下で、研究公正局は機能不全に陥っている。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2025年8月8日:Case Summary: Evanoff, Ryan | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2025年8月12日の連邦官報PDF版:FRN – Ryan Evanoff.pdf。(3)2025年8月12日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2025年8月26日:NOT-OD-25-150: Findings of Research Misconduct
② 研究公正局の2025年8月13日現在の処分者リスト:PHS Administrative Action Report
③ 2020年12月16日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘Caught in the act’: Veterinary researcher caught fabricating gene data, resigns from university job – Retraction Watch
④ 2022年1月13日のレト・サプナール(Leto Sapunar)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Exclusive: How a researcher faked data and gaslit a labmate for years – Retraction Watch
⑤ 2025年8月11日のケイト・トラヴィス(Kate Travis)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former lab tech earns federal funding ban years after leaving science – Retraction Watch
⑥ 2025年8月26日の「田瑞英」記者の「科学网」記事:博士后被同事连累4年零发表,最新处罚结果公布—新闻—科学网