フィリップ・ベイカー(Philip Baker)(カナダ)

2017年4月21日掲載。

ワンポイント:2011年(61歳?)、アルバータ大学・医学部長(男性)が卒業スピーチで他人のスピーチを使い、学部長辞任、4か月休職の処分を受けた。教授職は保持できたが、結局、他大学に移籍した。スピーチでの盗用はそんなにいけないこと?

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

Dr. Philip Baker- Dean of Faculty of Medicine

フィリップ・ベイカー(Philip Baker、写真出典)は、カナダのアルバータ大学(University of Alberta.)・医学部長・医師で、専門は産科(子癇前症(しかんぜんしょう) )だった。2015年6月時点で、300報の論文、17冊の書籍を出版していた。この分野の世界的権威である。

2011年6月(61歳?)、卒業式のスピーチが盗用だった。

  • スピーチでの盗用は、部分的? ほとんど全部? 今回だけ? 常習?
  • そもそも、そんなに非難すべきこと? 論文での盗用と同じ? 違う?
  • 誰がどの規定で、どんな処分をしたの?

アルバータ大学、その向こうにエドモントンの街。写真出典By User Jpluofa on en.wikipedia – Originally from en.wikipedia; description page is (was) here00:16, 18 December 2005 Jpluofa 800×600 (219,758 bytes)00:13, 18 December 2005 Jpluofa 1744×1309 (614,657 bytes), Public Domain, Link

  • 国:カナダ
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:英国のノッティンガム大学
  • 研究博士号(PhD)取得:?
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1950年1月1日生まれとする。あてづっぽう。英国で生まれる
  • 現在の年齢:67 歳?
  • 分野:産科学
  • 最初の不正:2011年(61歳?)
  • 発覚年:2011年(61歳?)
  • 発覚時地位:アルバータ大学医科大学院・医学部長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はアルバータ大学医科大学院の院生
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アルバータ大学医科大学院
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗用
  • 不正回数:1回
  • 時期:研究キャリアの後期から
  • 研究費:
  • 結末:学部長・辞任。教授職保持。4か月休職

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1950年1月1日生まれとする。あてづっぽう。英国で生まれる
  • xxxx年(xx歳):英国のノッティンガム大学(University of Nottingham)、英国のCambridge、米国の Pittsburghで医学を学ぶ
  • xxxx年(xx歳):英国のノッティンガム大学(University of Nottingham)・産科学・教授
  • 2001年(51歳?):英国のマンチェスター大学(University of Manchester)・Maternal and Fetal Health Research Centre所長
  • 2009年(59歳?):カナダのアルバータ大学医科大学院・医学部長
  • 2011年6月(61歳?):スピーチで盗用
  • 2012年(62歳?):ニュージーランドのGravida: National Centre for Growth and Development・所長
  • 2015年6月18日(65歳?):英国のレスター大学(University of Leicester)・カレッジ長(Head of the College of Medicine, Biological Sciences and Psychology)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2011年6月10日(推定)、アルバータ大学医科大学院は卒業式だった。祝宴でのスピーチに、医師として巣立つ院生を前に、ベイカー医学部長が15分間のスピーチをした。

医学が彼の妻と子供の命を救った感動的な話をした。

その場にいた院生のジョナサン・ゼイオーズニー(Jonathan Zaozirny)が次のように述べている。

それは驚くべきスピーチで、私は、非常に感銘をうけました。ベイカー医学部長はとても雄弁で、医学部卒業式の晩餐会でのスピーチにとても適切でした」(【主要情報源】⑤)。

ただ、院生の内の何人かは、「なんとなく聞いた話だ」、と思ったそうだ。

そして、院生の1人は、その夜、スピーチを文字にしてインターネットで検索した。

すると、ナント、ベイカー医学部長のスピーチの内容は、昨年(2010年6月)、ハーバード大学のアチュル・ガワンディ外科教授(Atul Gawande)がスタンフォード大学医科大学院の開校時に行なったスピーチと同じだったのだ。

そのスピーチは、雑誌「New Yorker」に出版されていた。
→ 2010年6月10日の雑誌「New Yorker」に出版したスピーチ:The Velluvial Matrix – The New Yorker保存版

ベイカー医学部長のスピーチは、スタンフォード大学をアルバータ大学に変え、米国のメディケアの部分を省く以外、ほぼ一語一語、盗用したものだった。

スピーチは、自分の妻は2回流産し、初めて生まれた赤ん坊は動脈疾患を抱えていた。それを救ってくれたのが医学だった、という内容だ。とても、個人的な内容だが、実は、その話はベイカー医学部長自身の経験ではなく、つまり自分の妻や子供ではなく、ガワンディ外科教授の妻や子供のことだったのだ。

ベイカー医学部長が、スピーチで、「この話はガワンディ教授の話だが」と出典を述べ、自分の家族の話ではないように話せば、問題はなかった。

つまり、ベイカー医学部長は明らかに盗用をしたのである。

院生たちが盗用だと騒いで、ベイカー医学部長は盗用と認めた。

ベイカー医学部長は、院生への謝罪の手紙で、スピーチのテーマと内容の多くは、ガワンディ教授の話と同じだったことを認め、院生に謝罪した。ベーカーは、原典に言及しなかったことも謝罪した。また、盗用されたことに当惑しなかったガワンディ教授に謝罪した。

なお、スピーチでの盗用発覚を受け、アルバータ大学はベイカー医学部長の論文での盗用を調査したが、論文では盗用が見つからなかった。

2011年6月17日、アルバータ大学・学長の要請を受け、ベイカー医学部長は学部長を辞任し、4か月の休職をとった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年4月20日現在、パブメド(PubMed)で、フィリップ・ベイカー(Philip Baker)の論文を「Philip Baker [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の207論文がヒットした。

2017年4月20日現在、パブメドの論文リストでは撤回論文はない。

★パブピア(PubPeer)

2017年4月20日現在、「パブピア(PubPeer)」ではフィリップ・ベイカー(Philip Baker)の1論文にコメントがある:PubPeer – Results for Philip Baker

●7.【白楽の感想】

【事件の深堀】

《1》最初の疑問の答え

  • 【問】:スピーチでの盗用は、部分的? ほとんど全部? 今回だけ? 常習?
     【答】:ほとんど全部。しかし、スピーチで逐語盗用するケースは珍しい。
    常習か今回だけかの記載はない。そのことから、今回だけと思われる。
  • 【問】:そもそも、そんなに非難すべきこと? 論文での盗用と同じ? 違う?
    【答】:新聞記事、院生、大学教員は非難すべきと考えている。院生も大学教員もスピーチ盗用は倫理違反だという意識が強い。しかし、論文での盗用より処分は軽微なので、論文での盗用とは違うようだ。
  • 【問】:誰がどの規定で、どんな処分をしたの?
    【答】:院生が騒いだので、大学上層部が話し合い、学長の判断で、学部長の辞任と4か月の休職になった。大学の研究倫理規定にはスピーチでの盗用を禁止する規定はないと思われる。
    ベイカー医学部長は、結局、居心地悪くなり、翌年、他大学に移籍した。

《2》スピーチでの盗用

スピーチでの盗用を禁止する規則は必要だろうか?

2016年7月18日、ドナルド・トランプ氏のメラニア夫人の共和党全国大会での演説で、ミシェル・オバマ夫人のスピーチを盗用した件で大騒ぎになった。
→ ドナルド・トランプ氏のメラニア夫人、ミシェル・オバマ夫人のスピーチを盗用? 検証してみた保存版

上記のサイトの文章で盗用と指摘された部分を着色して以下に示す。

「両親は私に、子供の頃から、人生に望むものを手に入れるために一生懸命に働くことの尊さを教えてくれました。また、自分の言葉は自分に跳ね返ってくるのだから、言ったことは必ずやり遂げ、約束は守ること、そして人には敬意を持って接することを教え込まれたのです」

“From a young age, my parents impressed on me the values that you work hard for what you want in life; that your word is your bond and you do what you say and keep your promise; that you treat people with respect,

この場合、ほとんどの親は、同じようなことを子供に言うと思う。だから、内容は、オバマ夫人に独占権はない。メラニア夫人がその内容に賛同し、それを、同じ言葉で伝えた。メラニア夫人のスピーチでの盗用は、それほど批難されることだろうか?

メラニア夫人のスピーチでの盗用は、ベイカー医学部長のスピーチでの盗用と、本質的に異なる。ベイカー医学部長は他人に成りすましたのである。

《3》防ぐ方法

ベイカー医学部長はどうして、スピーチで盗用したのだろう?
そして、どうすると防げるのだろうか?

ベイカー医学部長は急に要請されて、準備や原稿なしでスピーチしたのでない。卒業式でスピーチすることを前々から依頼されていた。内容を準備し、計画的にスピーチしたのである。

従って、盗用はアクシデントや間違いではない。意図的である。そして、本人は不正の認識があっただろう。

予防策は、厳しく処罰することで、盗用してはいけないことを例示するしかないだろう。そういう意味では「学部長の辞任と4か月の休職」は本人の損害が小さく、処分は甘すぎだ。

なお、日本の大学に学長・学部長が数千人いますけど、彼(女)らのスピーチは大丈夫ですよね。エッ? 信用できない。それなら、どなたか、日本のスピーチでの盗用を調査していただけませんでしょうかねえ。
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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Philip Baker (obstetrician) – Wikipedia
② 2011年6月13日のマリアン・イン(Maryann Yin)の「GalleyCat」記事:Medical School Dean Accused of Plagiarizing New Yorker Writer in Speech | GalleyCat保存版
③  2011年6月17日の「CBC News」記事:Alberta medical dean accused of plagiarism resigns – Edmonton – CBC News保存版
④ 2011年8月15日のリチャード・ハートレイ=パーキンソン(Richard Hartley-parkinson)の「Daily Mail」記事:Academic Philip Baker quits after plagiarising graduation speech | Daily Mail Online保存版
⑤ 2011年6月12日の「CBC News」記事:U of Alberta dean stole speech: med students – Edmonton – CBC News保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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