2017年6月14日掲載。
ワンポイント:幹細胞学の若手女性研究者として注目されていたスペインの小保方晴子だが、2013年(41歳?)、パブピアでデータねつ造が指摘された。2017年2月(45歳?)にスペインの国立心臓血管研究センター(CNIC)から解雇されたが、裁判で無実を訴えている。撤回論文は4報ある。損害額の総額(推定)は6億6800万円。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
スサナ・ゴンザレス(Susana González、Susana Gonzalez、写真出典)は、スペインの国立心臓血管研究センター(National Center for Cardiovascular Research (CNIC) in Spain)の幹細胞研究室・主宰者で、専門は幹細胞学だった。
2013年(41歳?)、パブピアでゴンザレスの論文のネカトが指摘された。
2017年2月29日(45歳?)、国立心臓血管研究センター(CNIC)はゴンザレスを解雇した。ということは調査が終了したと思われるが、調査結果の公式発表はない。
2017年6月13日(45歳?)現在、ゴンザレスが原告の裁判中である。
スペインの国立心臓血管研究センター(National Center for Cardiovascular Research (CNIC) in Spain)。写真出典
- 国:スペイン
- 成長国:?
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:?大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1994年の大卒時を22歳とした
- 現在の年齢:52 歳?
- 分野:幹細胞学
- 最初の不正論文発表:2003年(31歳?)
- 発覚年:2013年(41歳?)
- 発覚時地位:スペインの国立心臓血管研究センターの幹細胞研究室・主宰者
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)がパブピアで指摘
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①国立心臓血管研究センター・調査委員会。②裁判所
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:少なくとも4報撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 損害額:総額(推定)は6億6800万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が15年間=3億円。③院生の損害が1人1000万円。④欧州研究会議(ERC)から2014年に2百万ユーロ(約2億4千万円)の研究費を受領。⑤調査経費(大学と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。4報撤回=800万円
- 結末:解雇
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1994年の大卒時を22歳とした
- 1994年(22歳?):マドリード自治大学(Universidad Autónoma de Madrid)を卒業。化学と生物学
- xxxx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得した
- 2002-2004年?(30-32歳?):米国のメモリアル・スローン・ケタリング癌センター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)のポスドク(?)
- 2006年(36歳?):日本のヒューマン・フロンティア・サイエンスプログラムのキャリアデベロップメント賞を受賞(受賞者リストPDF)
- 2007年(37歳?):スペインの国立心臓血管研究センター(CNIC) の幹細胞研究室・主宰者
- 2013年(41歳?):パブピアで論文のネカトが指摘された
- 2016年6月1日(44歳?):スペインのセベロ・オチョア分子生物学研究所(Centro de Biología Molecular Severo Ochoa (CBMSO))のグループリーダー
- 2017年2月29日(45歳?):国立心臓血管研究センター(CNIC)を解雇された
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2013年(41歳?)、パブピアがゴンザレスの論文のネカトを指摘した。
その1つに、米国のメモリアル・スローン・ケタリング癌センター(Memorial Sloan-Kettering Cancer Center)在籍中に出版した「2003年のMol Cell Biol.」論文にもデータねつ造・改ざんが指摘されている。つまり。2003年(31歳?)にはデータねつ造・改ざんをしていたことになる。
ねつ造・改ざんが指摘された論文の多くは、ゴンザレスがスペインの国立心臓血管研究センター(CNIC) の幹細胞研究室・主宰者だった時の論文で、指摘された時も国立心臓血管研究センターに在籍していたので、国立心臓血管研究センター(CNIC)が調査を開始した。
2014年(42歳?)、ネカト調査中ではあったが、ゴンザレスは欧州研究会議(ERC:European Research Council)から2百万ユーロ(約2億4千万円)の研究費を受領した。
2017年2月29日(45歳?)、国立心臓血管研究センター(CNIC)はゴンザレスを解雇した。ということは調査が終了したと思われるが、調査結果の公式発表はない。
解雇を受け、ゴンザレスは、国立心臓血管研究センター(CNIC)を相手に裁判を起こした。また、「間違い」はあったかもしれないが、ネカトは決してしていないと、ネカトを否定している。
国立心臓血管研究センター(CNIC)のゴンザレス研究室のメンバー。中央の赤い服の女性がゴンザレス。左から、Pablo Gómez, Luis Jesús Borreguero, José Luis de la Pompa, Susana González, Ileana González-Valdés, Isabel Hidalgo, Juan Miguel Redondo y Jesús Ruiz-Cabellos, autores del estudio de ‘Nature Communications’. (CNIC)。写真出典
国立心臓血管研究センター(CNIC)のゴンザレスの元同僚は、「彼女の結果は再現できない」と指摘した。別の元同僚は、「パブピアで指摘された問題点を支持する」と答えている。
しかし、10年前に一緒に研究した別の元同僚は、「彼女には、少しも疑わしいことはなかった」と述べている。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
国立心臓血管研究センター(CNIC)は、調査結果を発表していない。
つまり、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。
仕方がないので、パブピアで探った。
★「2003年のMol Cell Biol.」論文
「2003年のMol Cell Biol.」論文の書誌情報を以下に示す。2017年6月13日現在、撤回されていない。
- p73alpha regulation by Chk1 in response to DNA damage.
Gonzalez S, Prives C, Cordon-Cardo C.
Mol Cell Biol. 2003 Nov;23(22):8161-71.
PMID:14585975
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
2014年8月1日、図2に異なるサンプルに同じ電気泳動バンドが使用されていると、指摘された「Unregistered Submission: ( August 1st, 2014 8:06am UTC )」。
以下の図は少しわかりにくいので、拡大してください。 図をクリックすると図は大きくなります。黄色矢印の上の2つのバンドをご覧ください。異なるバンドであるハズなのにバンドの周辺のゴミが同じである。それで、同じ電気泳動バンドが使用されたと判定できる。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/4737062638FE89F825E20117DEAEAA#fb12459
★「2013年のNat Commun」論文
「2013年のNat Commun」論文の書誌情報を以下に示す。2017年3月に撤回された。
- Ectopic expression of the histone methyltransferase Ezh2 in haematopoietic stem cells causes myeloproliferative disease.
Herrera-Merchan A, Arranz L, Ligos JM, de Molina A, Dominguez O, Gonzalez S.
Nat Commun. 2012 Jan 10;3:623. doi: 10.1038/ncomms1623.
Retraction in: Nat Commun. 2017 Mar 07;8:14005.
PMID:22233633
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
【2016年1月26日の指摘】
2016年1月26日、図2Cと図5Gの異なるハズの図が同一であると、指摘された。同時に、図3Dと図S5Dの異なるハズの図が同一であるとも、指摘された。「Peer 1: ( January 26th, 2016 2:21pm UTC )」。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/E0A230BBEEF9F785B8124BDA628707#fb44717
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【2016年1月27日の指摘】
2016年1月27日、図2Bの図が別の論文(Cell Cycle)の別のサンプルである図1Dと同一であると、指摘された「Peer 1: (Peer 1: ( January 27th, 2016 11:21am UTC )」。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/E0A230BBEEF9F785B8124BDA628707#fb44795
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2017年6月13日現在、パブメド(PubMed)で、スサナ・ゴンザレス(Susana González)の論文を「Susana Gonzalez [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の122論文がヒットした。
122論文には、本記事のスサナ・ゴンザレス以外の論文が含まれている。
それで、所属であるスペインの国立心臓血管研究センターの「Stem Cell Aging Group」に絞り、「(Susana Gonzalez [Author]) AND Stem Cell Aging Group[Affiliation]」で検索すると、2010年~2015年の6年間の6論文がヒットした。
以下の1報が撤回されていた。
- Bmi1 is critical to prevent Ikaros-mediated lymphoid priming in hematopoietic stem cells.
Arranz L, Herrera-Merchan A, Ligos JM, de Molina A, Dominguez O, Gonzalez S.
Cell Cycle. 2012 Jan 1;11(1):65-78. doi: 10.4161/cc.11.1.18097. Epub 2012 Jan 1. Retraction in: Cell Cycle. 2017 Feb;16(3):296.
PMID:22185780
2017年6月13日現在、「Gonzalez S AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、上記の1報を含め、4論文が撤回されていた。上記の1報を除き、3撤回論文を以下に示す。
- Oral Polypodium leucomotos increases the anti-inflammatory and melanogenic responses of the skin to different modalities of sun exposures: a pilot study.
Calzavara-Pinton PG, Rossi MT, Zanca A, Arisi M, Gonzalez S, Venturini M.
Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2016 Jan;32(1):22-7. doi: 10.1111/phpp.12209. Epub 2015 Nov 6. Erratum in: Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2016 Sep;32(5-6):331. Retraction in: Photodermatol Photoimmunol Photomed. 2016 Sep;32(5-6):331.
PMID:26408963 - Bmi1 limits dilated cardiomyopathy and heart failure by inhibiting cardiac senescence.
Gonzalez-Valdes I, Hidalgo I, Bujarrabal A, Lara-Pezzi E, Padron-Barthe L, Garcia-Pavia P, Gómez-del Arco P, Redondo JM, Ruiz-Cabello JM, Jimenez-Borreguero LJ, Enriquez JA, de la Pompa JL, Hidalgo A, Gonzalez S.
Nat Commun. 2015 Mar 9;6:6473. doi: 10.1038/ncomms7473. Erratum in: Nat Commun. 2015;6:7242. Gomez, P [corrected to Gómez-del Arco, P]. Retraction in: Nat Commun. 2017 Mar 07;8:14006.
PMID:25751743 - Ectopic expression of the histone methyltransferase Ezh2 in haematopoietic stem cells causes myeloproliferative disease.
Herrera-Merchan A, Arranz L, Ligos JM, de Molina A, Dominguez O, Gonzalez S.
Nat Commun. 2012 Jan 10;3:623. doi: 10.1038/ncomms1623. Retraction in: Nat Commun. 2017 Mar 07;8:14005.
PMID:22233633
★パブピア(PubPeer)
2017年6月13日現在、「パブピア(PubPeer)」ではスサナ・ゴンザレス(Susana Gonzalez)の9論文にコメントがある。3論文は別人で、本記事のスサナ・ゴンザレスの論文は6報である:PubPeer – Results for Susana Gonzalez
●7.【白楽の感想】
《1》わからないこと多し
スサナ・ゴンザレス事件は、国立心臓血管研究センター(CNIC)が調査し、スサナ・ゴンザレスを解雇したが、調査結果を公表していない。しかし、論文は4報撤回された。
パブピアの指摘によると、電気泳動バンドを切り貼りし、異なるサンプルに同じ電気泳動バンドを使用した。データねつ造である。それも「間違い」とはとても思えないレベルの使いまわしで、ドウドウたる巧妙なデータねつ造である。
2003年(31歳?)の論文にデータねつ造があるのに、トットと対処しないものだから2015年(43歳?)の論文でも同じデータねつ造をしている。12年以上も放置、つまり、ネカトさせたままだったのだ。おまけに盗人に追い銭で、2014年(42歳?)に約2億4千万円の研究費を支給した。全く、無駄なことをしてきた。
スペインは、情報公開が遅れている。これは、ネカトを助長する。スペインは、大国ではないから、科学予算規模は小さい。小さいからこそ、きめ細かいネカト対策をし、ヒト・モノ・カネを有効に使うべきだ。
スサナ・ゴンザレス事件は、わからないことが多い。ウェブ上の情報は徹底的に削除されている。どの大学院で研究博士号(PhD)を取得したのか、指導教授は誰だったのか? わからない。
「ネカトを防ぐ方法」はわかりません。調査が公正だったのかどうかもわかりません。
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●8.【主要情報源】
① レオニッド・シュナイダーの「For Better Science」記事群:Susana Gonzalez – For Better Science
② 2016 年3月7日のシャノン・パラス(Shannon Palus)記者の記事以降の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Susana González – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 「パブピア(PubPeer)」ではスサナ・ゴンザレス(Susana Gonzalez)の9論文にコメントされている:PubPeer – Results for Susana Gonzalez
④ 2016年3月31日のオリビア・カベス(Olivia Cábez)記者の記事(スペイン語):Susana González: la investigación más polémica del 2016 |
⑤ 2017年3月8日の記事(スペイン語):El fraude de una científica del CNIC obliga a ‘Nature’ a rectificar
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
2017年2月10日、スペイン国王夫妻が国立心臓血管研究センター(CNIC)を訪問した。前列中央の背の高いハンサム男性が国王・フェリペ6世。右の美女はレティシア (スペイン王妃) 。国立心臓血管研究センター(CNIC)は国王夫妻が訪問するほど著名な研究所ということを示したかった。スサナ・ゴンザレスはおりません。 写真出典
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