盗博:経済学:ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)(ロシア)

2017年7月8日掲載。

ワンポイント:現在のロシアの大統領がロシア大統領府監督総局長だった1997年6月(44歳)、ロシアのサンクトペテルブルク国立鉱山大学で経済学の博士号を取得した。2006年(53歳)、米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所の研究者がプーチンの博士論文は盗用だったと発表した。博士号ははく奪されていない。盗用ページ率は13.3%(推定)で、盗用文字率は約8.2%(推定)である。損害額の総額(推定)は1兆円(当てずっぽう)。プーチン盗博事件は、「全期間ランキング」の2か所で取り上げられた。

【追記】
・ウラジミール・リトビネンコ(Vladimir Litvinenko)の娘・オルガは、父が代筆したと述べた。2018年3月7日記事:Cut-And-Paste Job: ‘My Father Wrote Putin’s Dissertation’(保存版)

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ウラジーミル・プーチン(Влади́мир Пу́тин、ラテン文字表記の例:Vladimir Putin、写真出典)は、ロシア大統領府監督総局長だった1997年6月(44歳)、ロシアのサンクトペテルブルク国立鉱山大学で経済学の博士号を取得した。その後、2000年(47歳)、ロシアの大統領に就任した。

2006年(53歳)、米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所のクリフォード・ガディ(Clifford G. Gaddy)とイーゴリ・ダンチェンコ(Igor Danchenko)がプーチンの博士論文は盗用だったと発表した。この時、プーチンはロシアの大統領だった。

2017年7月7日現在(64歳)、サンクトペテルブルク国立鉱山大学はプーチンの博士論文が盗用かどうか調査していない。プーチンの博士号ははく奪されていない。

プーチン盗博事件は、「全期間ランキング」に記載した「Insider Monkeyの「全期間の盗用11大スキャンダル」:2016年8月22日」の第4位である。さらに、同「「POLITICO」の「著名人の10大盗用」:2014年7月23日」の第10位である。

サンクトペテルブルク国立鉱山大学。写真出典

  • 国:ロシア
  • 成長国:ロシア
  • 研究博士号(PhD)取得:サンクトペテルブルク国立鉱山大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1952年10月7日
  • 現在の年齢:24 歳
  • 分野:経済学
  • 博士論文タイトル:?
    (英語訳):The Strategic Planning of Regional Resources Under the Formation of Market Relations
    (日本語訳):市場関係形成の条件下における地域の鉱物・原料資源的基礎の再生産の戦略的計画
  • 博士論文指導教授:
  • 博士論文提出:1997年6月(44歳)
  • 盗博発覚年月日:2006年(53歳)
  • 盗用ページ率:13.3%(推定)
  • 盗用文字率:約8.2%(推定)
  • 研究博士号(PhD)はく奪状況:はく奪なし
  • 発覚時地位:ロシア大統領
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は米国のブルッキングス研究所の2人の研究者。クリフォード・ガディ(Clifford G. Gaddy)とイーゴリ・ダンチェンコ(Igor Danchenko)
  • ステップ2(メディア): ブルッキングス研究所のサイトに公表
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①サンクトペテルブルク国立鉱山大学は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:盗博
  • 不正論文数:1報
  • 損害額:総額(推定)は1兆円(当てずっぽう)。大統領の盗博が調査・糾弾されないためにロシアの博士号の権威・公正さ・信頼が崩壊した。学術界は腐敗し、学問はすたれる。世界的大国のリーダーなので、その影響は1兆円(当てずっぽう)。
  • 結末:辞職なし
Russia’s President Vladimir Putin arrives for an official group photo during the BRICS summit at the Itamaraty palace, in Brasilia, Brazil, Wednesday, July 16, 2014. (AP Photo/Felipe Dana)。出典

●2.【経歴と経過】

出典:ウラジーミル・プーチン – Wikipedia
博士論文関係を中心。

  • 1952年10月7日:ロシアで生まれる
  • 1975年(22歳):レニングラード大学法学部を卒業し、ソ連国家保安委員会(KGB)に勤務。KGBレニングラード局第1課(人事課)に配属。
  • 1996年6月(43歳):ロシア大統領府総務局次長に就任し、中央政界に転じる
  • 1997年3月(44歳):ロシア大統領府監督総局長
  • 1997年6月(44歳):博士論文提出
  • 1998年5月(45歳):ロシア大統領府第一副長官
  • 2000年3月26日(47歳):大統領に当選
  • 2006年3月(53歳):盗博が発覚
  • 2017年現在(64歳):ロシア大統領

●3.【動画】

【動画】
事件ニュース「The Mystery of Vladimir Putin’s Dissertation | Thinking Ape」(英語)23秒
Thinking Ape が2016/06/27 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

●4.【日本語の解説】

2006年8月:木村 汎「プーチン”博士論文” : 盗作か? 代作か?」青淵 (689), 30-33,、渋沢栄一記念財団

タイトルから察して、上記論文が詳細に記述していると思われる。しかし、インターネットで無料閲覧ができず、読んでいない。

★2006年4月1日:ビー「プーチン露大統領、博士論文ねつ造発覚」

出典 → ココ (保存版

自分が優位に立つためにはどんなことでもすると言われる男、ロシアのウラディミール・プーチン大統領の博士論文が盗作、剽窃だったことが発覚し、プーチンは赤っ恥をかいた自分の顔色を隠すためにウォッカを鯨飲しているという報道が入った。

問題となったのは、プーチンが90年代半ばに博士号を取った論文で、その大半が米国の論文の引き写しであると、米国の研究者らが発表した。

この告発を行ったのはワシントンにあるシンクタンク、ブルッキングス研究所の2人の研究者で、78年にピッツバーグ大の研究者2人が書いた論文をロシア語に逐語訳したものを元にしているという。

たとえば、プーチンの博士論文の最初の20ページのうち、16ページ分がやや語順を変えたり、アレンジされているものの、78年にピッツバーグの2人の研究者、William KingとDavid Clelandによって執筆された「Strategic Planningand Policy」の引き写しになっているという。この論文は90年代初頭に旧ソ連のKGB関連研究所でロシア語訳されている(ちなみにプーチンはKGB出身者)。

ワシントンタイムズによるとプーチンの218ページの論文のなかで使われた図表のうち6つが米国のオリジナル論文と同じになっている。このことを告発したブルッキングス研究所のガッディー教授は「こりゃ、わたしの基準だと『剽窃』というもんに他ならんよ」と語っている。

プーチンの博士号取得については疑問が呈されていたが、このたび、論文のコピーが偶然にモスクワ技術図書館に電子文書として残されているのがみつかって、ねつ造が明るみに出た。

ちなみに、米国の研究者らが修士号の論文にも値しないと言っているこのプーチンの論文は「The Strategic Planning of Regional Resources Under the Formation of Market Relations」というタイトルで、国家がいかに自然資源を管理するかというテーマ(そういう意味ではプーチンには意味があったと推測される)。これによってプーチンは97年にセントペテルスブルグのMining Instituteで博士号を授与された。

まぁ、旧ソ連の専門家などは、ソ連の政治局員たちが自分を高く見せるためにゴーストライターを雇ったりして、魅力的に思える学位を取得していたことなどを指摘しているとか。
――――――――――

コレ、英国のサンデータイムズが3月 26日付で出した記事なんですね。で、この記事に準拠して書きました。

Putin accused of plagiarising his PhD thesis (Tony Allen-Mills, New York 、The Sunday Times March 26, 2006)

★2008年05月19日:Electronic Journal「ロシアのエネルギー戦略と博士論文(EJ第2327号)」

出典 → ココ (保存版

彼がサンクトペテルブルグ鉱山大学に提出した博士論文について述べたいからです。その論文のタイトルは、次の通りです。論文提出は1997年6月のことです。
―――――――――――――――――――――――――――――
 市場関係形成の条件下における地域の鉱物・原料資源的基礎の再生産の戦略的計画/218ページ ――1997年6月
―――――――――――――――――――――――――――――
木村汎教授は、このプーチン論文は「盗作」ではないかとして次のように述べています。
―――――――――――――――――――――――――――――
 「盗作」との結論を下したのは、クリフォード・ガディとイーゴリ・ダンチェンコの2人。ともにブルッキング研究所(ワシントンDC)に席をおくロシア研究者である。(一部略)

ガディとダンチェンコの2人は、2006年3月25日付の「ワシントン・タイムズ」紙上で、プーチン準博士論文の重要部分が2人の米国人経済学者の著書を盗用したものであると発表した。2人の米国人学者とはウィリアム・R・キングとデービット・I・クリーランド。ともにピッツバーグ大学教授(当時)である。彼らの著作『戦略的計画と政策』(現在、絶版中)はロシア語に翻訳され、ソ連邦でプログレス出版所から1982年に刊行された。
 木村汎著、『プーチンのエネルギー戦略』より/北星堂刊
―――――――――――――――――――――――――――――

問題はなぜプーチン前大統領は、大統領になる前にこのような論文をまとめる必要があったのでしょうか。これによって博士号を取得して、自らの政策が正しくて権威のあるものであることを強調したかったのでしょうか。

ところで、このプーチン論文は代作ではないかといわれているのです。というのは、この論文が提出された1997年6月時点においてプーチンは大統領府監督局長、論文が本として出版された1999年には連邦保安庁長官と安全保障会議書記を兼任するという最も忙しいときなのです。とても論文なんか書いていられるときではないからです。1999年12月にはプーチンは大統領代行になっているのです。

 論文を書いたのがプーチンではないとしたら、一体誰が論文を書いたのでしょうか。

木村教授によると、代作説を唱えているのは、ジョージタウン准教授のハーレイ・バルザー氏であるというのです。バルザー氏によると、論文はプーチン自身が書いたものではなく、プーチンの考え方を受けて、「クドリン・チーム」が代筆したものであるとしています。

このクドリン――アレクセイ・クドリンはプーチン前大統領に近い人物で、サンクトペテルブルグ市役所でプーチンと一緒に仕事をし、プーチン政権では財務相を務めている人物です。
   ―― [石油危機を読む/38]

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★盗博発覚の経緯

クリフォード・ガディ(Clifford G. Gaddy)。出典
イーゴリ・ダンチェンコ(Igor Danchenko)。出典

米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所の研究者が、盗博を見つけた。

2006年(53歳)、米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所のクリフォード・ガディ(Clifford G. Gaddy)とイーゴリ・ダンチェンコ(Igor Danchenko)がプーチンの博士論文は盗用だったと発表した。この時、プーチンはロシアの大統領だった。

★盗博の状況

博士論文の表紙。出典:【主要情報源】②

1997年6月(44歳)、プーチンはサンクトペテルブルク国立鉱山大学(英語: G. V. Plekhanov Saint Petersburg State Mining Institute and Technical University、公用語表記: Санкт-Петербургский государственный горный институт )に博士論文を提出し、経済学の博士号を取得した。

公式には、経済学博士ではなく経済学・学位候補者である。それを、英語版ウェブサイトでは誤って経済学博士(Ph.D in economics)と記述した。本記事では、経済学博士と記述する。

いづれにせよ、この時、ロシア大統領府監督総局長だった。

レニングラード大学法学部を卒業しているのに、どうして、サンクトペテルブルク国立鉱山大学で博士号を取得したのだろう?

当初、プーチンは母校のレニングラード大学で国際貿易法に関する博士論文を書くことを計画していた。 しかし、サンクトペテルブルク国立鉱山大学・学長のウラジミール・リトビネンコ(Влади́мир Стефа́нович Литвине́нко、ラテン文字表記の例:Vladimir Litvinenko)がプーチンの友人で、リトビネンコが博士論文の面倒を見ると言ってくれたからだ。そして、実は、プーチン大統領はサンクトペテルブルク国立鉱山大学に一度も登校していない。

また、ロシア大統領府監督総局長になっていて、博士号は必要ないと思えるのだが、どうして、博士号を取得しようとしたのだろう?

サンクトペテルブルクでの選挙に強くなりたかったからだと言われている。見栄えの良い履歴にし、エコノミストや改革派の信頼を得たいと望んでいた。それに、ロシアの政府職員は、2つ目、3つ目の学位を取得するのは普通の習慣だったそうだ。

プーチンが提出した博士論文のテーマは、それまでのプーチンの経歴・経験とは無縁なテーマだった。どうして、そういうテーマを選んで博士論文を執筆したのだろう?

それに、誰の示唆で盗博したのだろう?

この疑問には、プーチンのその時の状況を分析しても答えが得られない。

というのは、博士論文はプーチンが自分で書いたのではなく、部下のアレクセイ・クドリン(Алексей Леонидович Кудрин、ラテン文字表記の例:Aleksei Leonidovich Kudrin)がチームを組んで執筆したという説が有力だからだ。

つまり、代筆である。そして、クドリン・チームの中の1人がズサンな仕事、つまり、盗用をしたと思われる。

★盗用解析

博士論文は218頁である。3章からなり、盗用部分は第2章にあった。

以下に盗用部分を示す(出典:【主要情報源】②)。

右の写真は、ピッツバーグ大学のウィリアム・キング教授(William King、右)とデビッド・クリーランド教授(David Cleland、左)。出典:【主要情報源】②。Photo: Jasmine Gehris、Pittsburgh Tribune-Review, March 28, 2006

文章の盗用ではない部分を黄色で示してある(注意:通常の盗用比較図とは逆)。

黄色以外の部分はすべて、ウィリアム・キング教授(William King)とデビッド・クリーランド教授(David Cleland)著の『Strategic Planning and Policy』(1978年)のロシア語版(1982年)から逐語盗用している。

60頁目。黄色部分(盗用ではない部分)は少なく、ほとんどが逐語盗用である。

61頁目。黄色部分(盗用ではない部分)は少なく、ほとんどが逐語盗用である。赤丸で示した23は、文献番号で、ウィリアム・キング教授(William King)とデビッド・クリーランド教授(David Cleland)著の『Strategic Planning and Policy』のロシア語版である。博士論文全体で2回、この文献を示しているが、引用符はない。読者は逐語流用だとは思わない。

68頁目。黄色部分(盗用ではない部分)は少なく、ほとんどが逐語盗用である。

図表は6個、引用なく流用している。1つ例示する。

上記の図の英語をロシア語にし、レイアウトを少し変え、以下の図にした。引用はない。

盗用は、文章が全部で20頁に及び、ほぼ逐語盗用である。また、図表を6個、引用なく流用している。合わせて計26頁の盗用とカウントしよう。

博士論文は218頁ある。分析対象ページ数(表題、目次、文献、付録などを除いた部分)を9割の196ページとすると、盗用ページ率は26/196=0・133で13.3%となる。

盗用文字率は逐語盗用が16頁分ある。従って、盗用ページ率は16/196=0・082で8.2%となる。

●6.【論文数と撤回論文】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》損害額

損害額は、当てずっぽうで、1兆円(推定)とした。

巨額な理由は、大統領の盗博が調査・糾弾されないためにロシアの博士号の権威・公正さ・信頼が崩壊し、学術界は腐敗し、学問はすたれる。世界的大国のリーダーなので、その影響は甚大で1兆円(当てずっぽう)とした。

《2》防ぐ方法

博士論文を提出した時、44歳で、ロシア大統領府監督総局長だった。その3年後の2000年3月(47歳)、ロシアの大統領に当選した。

ロシアの強大な権力者が、盗博してでも博士号を取得しようとしたとき、防ぐ方法はあるのだろうか?

政府機関や学術界は防げないだろう。

政治家が恐れるのは選挙、つまり国民の半数以上の意見である。このような強大な権力者の不正を防ぐには、国民の半数以上にネカト禁止意識を持たせることである。そうするのは並大抵ではない。少なくとも、メディアのパワーが必要だ。

《3》権力者のネカト

権力者のネカトが発覚した時、調査と処分はどうすべきか? 大統領や政治家は選挙があるので、大学が厳正に処分し、メディアが適正に伝え、国民がまともなら、落選させることで浄化できる。

日本の大学・学長のネカトは、厄介である。大学が厳正に処分しない(できない)。メディアが適正に伝えない。所属教員が学長を辞職させられない。なかなか浄化できない。

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア:ウラジーミル・プーチン – Wikipedia
② 2006年3月30日、クリフォード・ガディ(Clifford G. Gaddy)とイーゴリ・ダンチェンコ(Igor Danchenko)の「Brookings Institution」記事:The Mystery of Vladimir Putin’s Dissertation | Brookings Institution、(保存版
→ pdfサイト:https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2012/09/Putin-Dissertation-Event-remarks-with-slides.pdf、(保存版
→ pptxサイト:https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2012/09/The-mystery-of-Putins-dissertation.pptx
③ 2006年3月27日、ジュリー・コウィン(Julie Corwin)記者の「Radio Free Europe/Radio Liberty」記事:Russia: U.S. Academics Charge Putin With Plagiarizing Thesis、(保存版
④ プーチンの博士論文の英訳(テキストのみ):Putin’s Thesis (Raw Text) – The Atlantic、(保存版
⑤ 2015年11月3日、ジェス・グリーン(Jes Greene)記者の「Modern Notion」記事:The Time Vladimir Putin Plagiarized His ‘Doctoral’ Thesis – Modern Notion、(保存不可
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

https://www.rferl.org/a/putin_plagiarism_bloggers/24461678.html

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