2017年6月23日掲載。
ワンポイント: 2016年11月(72歳?)、「ワクチン接種が自閉症を引き起こす」内容の論文要旨を掲載したジャクソン州立大学・客員教授(男性)。反論のツイッターが怒涛のように押し寄せ、学術誌は論文要旨を削除した。損害額の総額(推定)は1千万円(当てずっぽう)。モーソン事件は、2016年ランキングで6番目にリストされている。
【追記:2018年1月13日】「2017年ネカト世界ランキング」に記述した「「Scientist」誌の2017年の論文撤回上位10論文:2017年12月18日」の1つである。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
アンソニー・モーソン(Anthony R. Mawson、写真出典)は、米国のジャクソン州立大学(Jackson State University)・客員教授で、専門は疫学だった。医師ではない。
2016年11月21日(72歳?)、学術誌「Frontiers in Public Health」がモーソンの「ワクチン接種が自閉症を引き起こす」内容の論文要旨をオンライン版に掲載した。
反論のツイッターが怒涛のように押し寄せ、学術誌「Frontiers in Public Health」は論文要旨を削除した。削除理由は記載されていないが、ネカトではない。多分、論文内容が反社会的・反科学的だったからだろう。
モーソン事件は、2016年ランキングの「「The Scientist」誌の2016年「論文撤回」上位10論文:2016年12月21日」の1人で6番目にリストされている。
ジャクソン州立大学(Jackson State University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:カナダ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:チューレーン大学・公衆衛生熱帯医学大学院
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1944年1月1日生まれとする。1966年5月の大学卒業を22歳とした
- 現在の年齢:80 歳?
- 分野:疫学
- 最初の不正論文発表:2016年(72歳?)
- 発覚年:2016年(72歳?)
- 発覚時地位:ジャクソン州立大学・客員教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は多数で、ツイッターなどのSNSで発信
- ステップ2(メディア): ツイッターなどのSNS、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「Frontiers in Public Health」
- 学術誌・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:錯誤
- 不正論文数:要旨だけで本論文は発表していない。要旨1報を撤回
- 時期:研究キャリアの後期
- 損害額:総額(推定)は1千万円(当てずっぽう)。
- 結末:処分なし
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1944年1月1日生まれとする。1966年5月の大学卒業を22歳とした
- 1966年5月(22歳?):カナダのマギル大学(McGill University)を卒業。社会学・心理学
- 1967年9月(23歳?):英国のエセックス大学(University of Essex)で修士号を取得した。社会学
- 1981年5月(37歳?):米国のチューレーン大学・公衆衛生熱帯医学大学院(Tulane University School of Public Health & Tropical Medicine)で公衆衛生修士号(M.P.H)を取得。疫学
- 1986年5月(42歳?):同大学院で研究博士号(PhD)を取得。疫学
- xxxx年(xx歳):ジャクソン州立大学・客員教授
- 2016年(72歳?):問題の論文要旨発表
- 2016年(72歳?):問題の論文要旨が撤回された
●4.【日本語の解説】
以下は、モーソンの論文要旨の日本語訳である。内容は信用しないように。
★2017年3月8日:石川 眞樹夫:うつくしき – \ワクチンについて考える/『人は必要があって子ども時代に発熱性疾患に罹患します。』… | Facebook
『ワクチン接種と自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害の関連についての調査。』
2016年12月18日: Anthony R. Mawson 1 * 、Brian D. Ray 2 、Azad R. Bhuiyan 3および Binu Jacob 4
背景:ワクチン接種は、米国の子どもの間で数百万の感染症、入院、死亡を予防してきたとかんがえられます。 しかし、定期的な予防接種プログラムの長期的な健康への影響は未知のままです。 この問題に取り組むために、私達の医学研究所は以下の研究を行いました。
具体的な目的:ワクチン接種と未接種児の全体的な健康状態を比較し、ワクチン接種と神経発達障害(NDD)との関連性があるかどうかを判断する。
デザイン:家庭で教育された子どもの母親に対する断面的な面談調査。
方法:フロリダ州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、オレゴン州の4州(米国フロリダ州)にあるホームスクーリングの組織を通して、6〜12歳の児童の予防接種利用状況と健康状態に関する匿名のオンラインアンケートを実施。
結果:合計415人の母親が666人の子ども達のデータを提供し、そのうち261人(39%)が予防接種未接種であった。
予防接種を受けていない子供は、水痘や百日咳に罹患する確率が高かったが、肺炎、中耳炎、アレルギー、NDD(自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害)への罹患率は低かった。
統計的バイアスを調整した後に、NDD(自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害)と有意に関連した因子は、ワクチン接種(OR 3.1,95%CI:1.4,6.8)、男性性別(OR 2.3,95%CI:1.2,4.3)、早産(OR 5.0,95% CI:2.3,11.6)であった。
最終調整の結果では、未熟児で生まれた事ではなく、「予防接種を受けている事」が神経発達障害(NDD)と関連していた。
結論:母親の報告に基づくこの研究では、ワクチン接種者はワクチンを接種されていない子どもよりもアレルギーおよびNDD(自閉症スペクトラム障害、注意欠陥多動性障害、学習障害)の割合が高かった。
予防接種は、他の要因を排除した後もNDDと有意に関連していた。 さらに、早産と予防接種との組み合わせは、NDDのオッズの明らかな相乗的増加をしめしており、早産児にワクチンを接種した場合、NDDはさらに増加する可能性を示していた。 子どもの健康へのワクチンの影響を正しく評価するためには、この予想外の発見を検証し、理解を深めるためにも、より大きな独立したサンプルを含む、さらなる研究が必要と推定される。
キーワード:急性疾患 慢性疾患; 疫学; 評価; 健康政策; 免疫; 神経発達障害; ワクチン接種、急性疾患、慢性疾患、疫学、評価、健康政策、予防接種、神経発達障害、予防接種
引用文献:Mawson AR、Ray BD、Bhuiyan ARおよびJacob B(2016)。 ワクチン接種および健康成果:母親の報告書に基づく6-12歳のワクチン接種および未接種の子どもの調査。 フロント。 公衆衛生 4 :270。 doi:10.3389 / fpubh.2016.00270
受信:2016年9月17日。 受諾:2016年11月21日
Amit Agrawal 、Gandhi Medical College、インド
レビュー:米国シカゴのイリノイ大学ケリー・シエー
Linda Mullin Elkins 、ライフ・ユニバーシティ、米国
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2016年11月21日(72歳?)、学術誌「Frontiers in Public Health」がアンソニー・モーソン(Anthony R. Mawson、写真出典)の論文要旨をオンライン版に掲載した。なお、この学術誌「Frontiers in Public Health」は捕食出版の可能性が指摘されていた。
内容は、「家庭教育された6-12歳の子供の415人の母親の匿名のオンラインアンケートの結果である。約40%の子供は予防接種を受けていない。予防接種を受けた子供は、自閉症などの神経発達障害と診断される可能性が3倍高かった」である。上記「4.【日本語の解説】」で日本語訳を示した論文要旨そのものである。
オンライン版に要旨が掲載されると、批判のツイッターが怒涛のように押し寄せ炎上した。
「撤回監視(Retraction Watch)」記事から以下に2つ再掲する。
Another garbage #vaccine study in a @FrontiersIn journal. Scientists, stop reviewing/publishing there. https://t.co/HnbhkX4kVo
— Dr. Tara C. Smith (@aetiology) November 27, 2016
Especially given that while there's no evidence for a vaccine x autism link, it's within the realm of possibility
— Ben Kuebrich (@Ben_Kuebrich) November 28, 2016
学術誌「Frontiers in Public Health」は、「2016年のFrontiers in Public Health 」論文要旨を速やかに削除した。2017年6月22日現在、ウェブでは論文要旨を読めない。
論文要旨を削除した理由は記載されていない。ネカトではないのは確かだ。正確にはハッキリしないが、多分、論文内容が反社会的・反科学的だったからだろう。
話が唐突に変わるが、米国のモデル・女優のジェニー・マッカーシー(Jenny McCarthy、写真出典)は、2002年に生まれた息子エヴァン・ジョセフが自閉症と診断された。
母親のマッカーシーはワクチン接種が原因と思い込み、「ワクチン接種が自閉症を引き起こす」説を信じ、自閉症の子供と家族を支援し、アンチ・ワクチン活動をしている。その1つが「ジェネレーション・レスキュー(Generation Rescue )」基金である。
さらに、話がそれるが、実は、ジェニー・マッカーシーの息子のエヴァン・ジョセフは自閉症ではなく、Landau-Kleffner症候群(ランドークレフナー症候群、LKS)だといわれている。
話を戻そう。ご推察の通りで、「ジェネレーション・レスキュー」基金がモーソンの研究に資金を提供した。
→ Jenny McCarthy’s Antivax Group Is Funding Scientific Research On Autism – Motherboard
もっとも、「撤回監視(Retraction Watch)」記者の質問に答えて、モーソンは次のように述べている。
ジェネレーション・レスキューに研究資金の大半を提供してもらいましたが、ジェネレーション・レスキューは研究自体には何も関与していません。なお、私は公衆衛生における予防接種の重要性を十分に認識しています。
モーソンはアンチ・ワクチン信者ではなかったようだ。ではどうして、「ワクチン接種が自閉症を引き起こす」内容の論文要旨を掲載したのだろうか? わかりませ~ん。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2017年6月22日現在、パブメド(PubMed)で、アンソニー・モーソン(Anthony R. Mawson)の論文を「Anthony R. Mawson [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の27論文がヒットした。
2017年6月22日現在、「Mawson AR AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、撤回論文はなかった。
★パブピア(PubPeer)
2017年6月22日現在、新しい「パブピア(PubPeer)」では検索結果が見にくいが、アンソニー・モーソン(Anthony R. Mawson)の論文にコメントはない:PubPeer – Results for Anthony R. Mawson
●7.【白楽の感想】
《1》研究デザイン
モデル・女優のジェニー・マッカーシーは「ワクチン接種が自閉症を引き起こす」説を信じているアンチ・ワクチン信奉者である。人々は、どうして、インチキ説を信奉してしまうのだろうか?
「ワクチン接種が自閉症を引き起こす」説を広めたことで悪名が高いのはアンドリュー・ウェイクフィールド(Andrew Wakefield)である。ジェニー・マッカーシーはウェイクフィールドの信奉者である。
→ アンドリュー・ウェイクフィールド(Andrew Wakefield)(英)
「2016年のFrontiers in Public Health 」論文は本論文が掲載されず、要旨が一時的に掲載されただけなので、論文の中身を分析できない。だから白楽も要旨だけで判断したが、研究デザインが甘く、分析がズサンで、スロッピ―な研究だと感じた。この研究内容では学術界では通用しないだろう。
しかし、一般大衆はどうしてこのようなインチキ科学に踊らされるのだろうか? 一般大衆だけでなくインチキ科学を信じる科学者もいる。一般大衆や科学者はどうしてインチキ科学を信じるのだろうか?
国も学術界もインチキ科学を厳しく取り締まらない。だから、未だに血液型性格診断がはびこる。ことわざや言い伝えで天気予想をする天気予報官もNHKにいる。
国と学術界は常日頃、インチキ科学の排斥に励むべきだ。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア日本語版:自閉症 – Wikipedia
② 2016 年11月28日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事+:You searched for Anthony Mawson – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2016 年11月29日のケリー・グレンズ(Kerry Grens)記者の「Scientist」記事:Autism Not Linked to Flu or Flu Shot During Pregnancy | The Scientist Magazine®
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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