アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)(英)改訂

2018年4月16日掲載。

ワンポイント:【長文注意】。ウェイクフィールドは、ロンドンのロイヤル・フリー病院(Royal Free Hospital)の医師だった。1998年(40歳)、「予防接種すると自閉症になる」という論文をランセット誌に発表した。世界の医学界はすぐにその結論を否定した。しかし、「予防接種すると自閉症になる」を信じたい人々は予防接種を避け、その影響で、はしかが大流行し、世界で数万人が感染したと言われている。英国『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア記者は、2004年(46歳)に「1998年のランセット」論文の利益相反を突き止め、2009年(51歳)にデータねつ造・改ざんを見つけた。2010年(52歳)、英国の医事委員会(General Medical Council)は、「1998年のランセット」論文を利益相反及びネカトと結論し、ウェイクフィールドの医師免許をはく奪した。それでも、ウェイクフィールドは米国に渡り、大勢の支援者に支えられ、「予防接種すると自閉症になる」運動を続けている。損害額の総額(推定)は105億6400万円(当てずっぽう)。
ウェイクフィールド事件は、「全期間ネカト世界ランキング」に5回もランクされた大事件である。
この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:学術界が否定している説を、大衆が信じる。それで、数万人が病気になった。ウェイクフィールド自身が自説を曲げない。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Jeremy Wakefield、写真出典)は、英国・ロンドン北西部のロイヤル・フリー病院(Royal Free Hospital)の医師で、専門は消化器病学だった。

1998年(40歳)、「新三種混合ワクチン(MMR vaccine)の予防接種をすると自閉症になる」という論文をランセット誌に発表した。この「1998年のランセット」論文は、学術界から猛反発を受けた。

2001年(43歳)(2004年説もある)、ウェイクフィールドは、英国のロイヤル・フリー病院を辞任し、米国へ渡り、テキサス州オースティンに居を構えた。

2004年(46歳)、英国『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア記者がウェイクフィールドの利益相反を突き止めた。

2009年(51歳)、ディーア記者は、今度は、「1998年のランセット」論文のデータねつ造・改ざんを見つけた。

2010年(52歳)、「1998年のランセット」論文が撤回された。

2010年1月(52歳)、英国の医事委員会(General Medical Council)は、「1998年のランセット」論文の不正を指摘し、ウェイクフィールドの英国・医師免許を取り消した。

2018年4月15日(60歳)現在、医学界はワクチンと自閉症の関連を否定している。

医学的に否定されているにも関わらず、しかし、「予防接種すると自閉症になる」を信じたい英国、フランス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの人々は新三種混合ワクチン(MMR vaccine)・予防接種を避けてきた。

時を同じくして、多くの子供が麻疹(ましん、はしか)に感染するようになった。例えば、フランスでは、2007年はほぼ根絶状態だったが、2008年から2011年の間に2万人が罹患した。

2018年4月15日(60歳)現在、ウェイクフィールド信奉者は多い。また、ウェイクフィールド自身、「予防接種すると自閉症になる」説を標榜し、負けずに戦っている。

ウェイクフィールド事件は、「全期間ネカト世界ランキング」に5回もランクされた大事件である。
「★「Listverse」誌の「フィクションを事実として発表した面汚し科学者10人」:2015年12月17日」の第10位。
「★「歴史上の10大医学スキャンダル」:2013年2月20日」の第10位。
「★「世界最悪の科学スキャンダル」:2013年の記事(推定)」の第1位。
「★「OnlineUniversities.com」の「大学の10大研究不正」ランキング:2012年2月27日」の第4位。
「★「タイム誌の6大科学ネカト事件」:2012年1月12日」の第2位。

この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:学術界が否定している説を、大衆が信じる。それで、数万人が病気になった。ウェイクフィールド自身が自説を曲げない。

ロイヤル・フリー病院(Royal Free Hospital)。写真By Stephen McKay, CC BY-SA 2.0, Link

  • 国:英国
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:英国、聖マリー病院医科大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1957年。誕生月日は不明。仮に12月31日とする
  • 現在の年齢:60歳
  • 分野:消化器病学
  • 不正論文発表:1998年(40歳)
  • 発覚年:2004年(46歳)
  • 発覚時地位:ロイヤル・フリー病院(Royal Free Hospital)・医師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は英国の『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア(Brian Deer)記者の記事
  • ステップ2(メディア):『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア(Brian Deer)記者
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①英国医事委員会(General Medical Council)。2008年7月~2010年1月。期間は1年7か月(2年半説もある)。
  • 病院・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 病院の透明性:調査なし発表なし(✖)
  • 不正:データねつ造、利益相反
  • 不正論文数:問題論文は1報。撤回論文数は2報
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は105億6400万円(当てずっぽう)。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が20年間=4億円。③院生の損害が1人1000万円だが、院生はいないので損害額はゼロ円。④外部研究費の額は不明で、額は②に含めた。⑤調査経費(英国医事委員会)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。2報撤回=400万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円。⑨ワクチン非接種で世界中で数万人が感染症に感染し、死者もでている。ウェイクフィールドのねつ造データとの関連は不確かだが、損害を100億円とした(当てずっぽう)。
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を辞職(2001年、ロイヤル・フリー病院)(Ⅹ)。
  • 処分:①解雇(辞職)。②英国・医師免許取り消し(2010年1月)。

141014 ウェイクフィールドt1larg.andrew.wakefield.gi[1]
写真:Retracted autism study an ‘elaborate fraud,’ British journal finds – CNN.com

●2.【経歴と経過】

  • 1957年(0歳):神経科医の父、家庭医の母のもとに生まれる。英国、バースで高校まで過ごす
  • 1981年(23歳):英国、聖マリー病院医科大学卒業。医師。
  • 1985年(27歳):英国、Royal College of Surgeonsのフェロー
  • 1986年(28歳):カナダのトロント大学。小腸移植研究
  • 1989年(31歳):英国のロイヤル・フリー病院(Royal Free Hospital)・医師。肝臓移植研究
  • 1993年(35歳):麻疹ウイルスとクローン病(原因不明の消化器の炎症性疾患)の関係の研究開始
  • 1998年(40歳):後に大問題となる論文をランセット誌に発表
  • 2001年(43歳):英国のロイヤル・フリー・病院を辞任し、米国・テキサス州オースチン近郊に妻・カーメルと4人の子供とともに居住(2004年説もある)
  • 2010年(52歳):英国の医事委員会(General Medical Council)が、ネカト論文と結論し、医師免許はく奪。ウェイクフィールドは米国の医師免許を持っていない
  • 2018年4月15日現在(60歳):米国・テキサス州、オースチン近郊に在住。

●3.【動画】

動画はたくさんある。
→ andrew wakefield – Google 検索

【動画1】
ニュース解説動画:「アンダーソン・クーパーがアンドリュー・ウェイクフィールドにインタビュー(Anderson Cooper Interviews Andrew Wakefield, Fraud (1 of 2) ) – YouTube」(英語)8分52秒。
Barry Belmont が2011/01/05 に公開

【動画2】
上の動画の続き →  https://www.youtube.com/watch?v=hx7phe3Djqk

【動画3】
ニュース解説動画:「フォックス&フレンズで自分自身を守るアンドリュー・ウェイクフィールド博士(Dr. Andrew Wakefield defends himself on Fox & Friends ) – YouTube」(英語)7分59秒。
Ginger Taylor が2011/01/23 に公開

【動画4】
ウェイクフィールドを援護するような「予防接種すると自閉症になる」動画もある。
解説動画:「hear this well 日本語翻訳 」(英語、日本語字幕)1分12秒。
デューラン・ファミリー が2017/12/16 に公開

●4.【日本語の解説】

★2011年7月4日、7月18日、8月1日:李啓充(り・けいじゅう)の「週刊医学界新聞」の以下の3記事。

① 2011年7月4日、李啓充(り・けいじゅう)の「週刊医学界新聞」「第201回」(保存版
② 2011年7月18日、李啓充(り・けいじゅう)の「週刊医学界新聞」「第202回」(保存版
③2011年8月1日 、李啓充(り・けいじゅう)の「週刊医学界新聞」「第203回」(保存版

李啓充の記述(上記①②③)がとても良くできている。以下に少し抜粋するが、原典を読むことをお勧めする。

1998年2月26日,ロンドン北西部に位置するロイヤル・フリー・ホスピタルにおいて,同病院の研究グループが発見した新たな小児「症候群」についての記者会見が開かれた。筆頭研究者は消化器病を専門とするアンドリュー・ウェイクフィールド医師(当時41歳)。自閉症などの行動障害と腸管の炎症性病変を合併する新たな病態が12人の小児で認められたことを報告したのだが,そのうち8人についてはこれらの病態が発現したのはMMRワクチン投与直後。同ワクチンがこの症候群の原因となっている可能性を示唆したのだった。

「MMRワクチンが自閉症の原因となっている」可能性を示唆する「衝撃的」な内容であっただけに,メディアは注目した。 

当然のことながら,記者会見での質問は「親は子どもに今後もMMRワクチンを受けさせるべきかどうか?」とする点に集中した。これに対して,ウェイクフィールドは現行ワクチンが危険である可能性に言及,「三種混合の形ではなく,単独型のワクチンに切り替えたほうが安全」とする説を開陳した。

彼は,「三種混合ワクチンが異常な免疫反応を引き起こすことで腸管に炎症が起こり,その結果体内を循環するようになった何らかの炎症産物が神経組織に障害を与える」とする仮説の下,「単独型ワクチンにすれば腸管の炎症は起こらないはずだ」と主張したのだった。

『ランセット』誌の論文がまだねつ造であるとはわからなかった時期,世界の医学界は,すぐさま,「MMRワクチンが自閉症の原因」とするウェイクフィールドの仮説を検証する作業に取りかかった。接種率が大幅に低下するなど,安全性に対する信頼が大きく揺らぐ事態を看過し得なかったからであるが,大規模疫学研究においても,メタアナリシスにおいても,MMRワクチンを自閉症と結び付ける証拠は見いだされず,ウェイクフィールドの仮説は繰り返し否定されることとなった。

一方,ウェイクフィールド本人も,上司のロイヤル・フリー・ホスピタル院長から研究結果の再現を命じられたものの再現することに失敗,2001年,彼は同病院を辞職した。その直後,英国を去ったウェイクフィールドは,米国に渡って自閉症研究を続けることとなった。

その後,2004年に,サンデー・タイムズ紙の記者,ブライアン・ディーアが,ウェイクフィールドの『ランセット』論文にまつわる「利益相反行為」および「ねつ造」に対する追及を開始するのだが,やがて彼の粘り強い取材が英国医事委員会(General Medical Council)を動かし,論文作成にかかわった医師たちの「適性」審査が行われることとなった。2010年1月,同委員会は,ウェイクフィールドおよび直属の上司であったジョン・ウォーカー・スミス教授の倫理違反行為を認定,5月には,2人に対し,「医師免許取り消し」という,厳しい処分を下した。

★2010年2月3日(水):シャロン・べグリー記者の「ニューズウィーク日本語版」:「予防接種で自閉症になる」論文のデタラメ

出典 → ココ、(保存版

子供への予防接種が自閉症の症状を引き起こす──。1998年、そう主張する論文が英医学誌ランセットに掲載されると、欧米各地で予防接種を拒絶する親が激増した。

問題のワクチンは、麻疹(はしか)とおたふくかぜ、風疹を予防する新三種混合ワクチン(MMRワクチン)。論文の共同研究者13人のうち10人はすでに2004年に、ワクチンと自閉症の関連性を否定していたが、主要執筆者の医師アンドリュー・ウェークフィールドは撤回を拒否してきた。

アメリカの自閉症の発生率は2000年には300人に1人だったが、最新統計では100人に1人以上に増えている。ウェークフィールドの論文を機に、自閉症の増加は予防接種のせいだというヒステリーに近い世論が巻き起こり、それは10年以上経った今も続いている。親たちが子供へのワクチン接種を拒んだ結果、麻疹の罹患率は上昇した。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

●【麻疹(はしか)とワクチン】

★麻疹(はしか)

麻疹発疹が現れた幼児。麻疹 – Wikipedia

麻疹(ましん、英: measles, rubeola、別名・痲疹)とは、ウイルス感染症の一種で、麻疹ウイルスによる急性熱性発疹性疾患。日本では「麻しん」として感染症法に基づく五類感染症に指定して届出の対象としている(「疹」の字が常用漢字でないため「麻しん」として定められている)。和語でははしか(漢字表記は同じく「麻疹」の字を当てる)と呼び、一般にはこちらの方が知られている。

予防策として唯一の方法は、幼児期のワクチン予防接種である。

ワクチン接種は効果のある予防法であり、世界では予防接種の実施により麻疹による死亡を2000-2013年の間に75%減少させた。世界児童のおよそ85%は接種を受けている。発症してからの治療法はなく、対症療法が行われる。

日本では2007年以前は麻疹発生数の正確な統計が行われていなかったが、2001年の流行を契機に開始された”1歳の誕生日にワクチンを”や、2006年度よりの第2期接種の開始、2008年度よりの第3期/第4期接種の開始により、2008年の報告数は11,005件(2009年1月6日現在)、2009年の報告数は702件(2009年11月18日現在)と大幅に減少した。ウイルスの遺伝子検査によれば、日本古来の土着ウイルスによる発症例は2010年5月が最後となり、以後、海外から持ち込まれた型による発症例のみとなった。厚生労働省は、2013年9月に排除状態と宣言。(麻疹 – Wikipedia

世界保健機関(WHO)は、はしかを排除状態にするには、ワクチン接種率を95%にする必要があるとしている。従って、85%の接種率では、何かのきっかけで(罹患者が海外から入国するなど)、はしかが大流行する危険性がある。

★日本の新三種混合ワクチン状況

西川真らの1994年の論文を適当に引用すると、新三種混合ワクチン(MMR vaccine)・予防接種の日本での状況は以下のようだ。(西川真、他、「ワクチン接種後髄膜炎患者からのウイルス分離について」、新潟県衛生公害研究所年報 10、75-78、1994)

おたふくかぜ(Mumps ムンプス)は耳下腺の膨張を主症状とする小児の代表的疾患である。一度感染すると終生免疫を獲得し、再感染はほとんどないため、小児を対象に。予防の目的で1981年2月から任意接種のおたふくかぜワクチンが使用されるようになった。

1989年4月から、乾燥弱毒麻疹・おたふくかぜ・風疹混合ワクチン(Measles・Mumps・Rubella vaccine:MMR vaccine)が予防接種法に定められた麻疹・風疹ワクチンの定期接種時に、接種可能になり、3回の接種が1回で済むことから普及した。

しかし、実施後、副作用として無菌性髄膜炎が予想よりはるかに高率で発症することから、1993年4月27日以降、MMRは接種が中断され、現在に至っている。

1993年の「あじさい」Vol.2,No.5、『MMR ワクチン一時中止とその背景!』に以下の記述がある。

MMR ワクチンで問題になっているのはおたふくかぜワクチンで、無菌性髄膜炎の副作用が多数報告されました。

1989 年4 月に始まった定期接種で、無菌性髄膜炎の発生率は当初予想の数十万人に1 人からどんどん高くなりその年の内に2000 人に一人と急増しました。

その髄膜炎がワクチン(占部株)により起こっていることが1989 年7 月に山田らによって明らかになり益々ワクチンの安全性の問題がクローズアップされてきました。

副作用に関しては、日本の占部株は無菌性髄膜炎の発生率が高く、欧米で使用しているJeryl-Lynn株のワクチンははるかに低い。ということは、株の問題なのか、製造法の問題なのか?

日本の占部株も当初は安全だったハズだ。阪大微研株が1991年10月無許可で培養方法を変更していた可能性が高いと、後で判明している。

日本での新三種混合ワクチンの問題は、無菌性髄膜炎であって、自閉症ではない。

予防接種は伝染病の抑止に効果的で、コストパフォーマンスの高い方法である。国は、感染症の大規模拡大を防ぐ手段として人や家畜に用いることを義務化している。しかし、予防接種には低頻度だが副作用がある。低頻度とはいえ、当人にとっては重大事である。常に安全性が問題視されている。

一方、大規模な予防接種は医薬品企業の大きな収入源なので、効果と安全性に関する研究結果に研究費バイアスがかかりやすい傾向がある。

上述したように、日本では、1989 年以降、三種混合ワクチンの安全性が疑問視されていた。副作用として無菌性髄膜炎にかかることが報告されていた。

●【自閉症(じへいしょう、Autism)】

本記事では「予防接種すると自閉症になる」かどうかに焦点を当てているが、一般的には、自閉症の原因は別とされている。

ウィキペディアから、自閉症を知り、原因を知ろう。

自閉症は、社会性の障害や他者とのコミュニケーション能力に障害・困難が生じたり、こだわりが強くなる脳機能障害。自閉症の基本的特徴は、3歳位までに表れる。

先天性の要因が大きい。治療法は存在しない。

世界的には自閉症を持つ人は2,170万人ほど(2013年)。世界において,1000人あたり約1?2人が自閉症を持っているとされ、また男子には女子の5倍以上多い。2014年の米国では児童の約1.5%(68人に1人)が自閉症スペクトラム(ASD)と診断され、これは2012年比で30%も増加している。英国の18歳以上成人においては1.1%であった。

現在では先天的な要因が大きいとされており、多くの遺伝的因子が関与すると考えられている。双子研究によると、遺伝率は自閉症で0.7、自閉症スペクトラム(ASD)で0.9であり、自閉症児の兄弟は一般の集団よりも約25倍自閉症になりやすい。しかし、自閉症リスクを増加させる変異のほとんどは同定されていない。

父親が40歳以上の新生児は、自閉症や関連の症例が30歳未満の父親の場合の約6倍。(自閉症 – Wikipedia

●【不正発覚の経緯】

★ウェイクフィールドの「1998年のランセット」論文

1998年2月28日(40歳)、ウェイクフィールドは、共著者12人で「1998年のランセット」論文を発表した。

12人の子供の患者を研究し、「腸疾患」と「自閉症」と「三種混合ワクチン」が関連した新しい病気「自閉症的全腸炎(autistic enterocolitis)」を発見したという論文である。

ウェイクフィールドは、論文発表の前に記者会見をしていた。

「新三種混合ワクチン(MMR vaccine)・予防接種で自閉症になる可能性がある。三種混合ではなく,単独型のワクチンに切り替えたほうが安全である」と記者会見で発表した。

この「予防接種すると自閉症になる」は、国民に与えるインパクトが大きかった。社会は大騒ぎし、英国では、すぐに論争になった。

李啓充(り・けいじゅう)の「週刊医学界新聞」記事を以下に再引用しよう。

『ランセット』誌の論文がまだねつ造であるとはわからなかった時期,世界の医学界は,すぐさま,「MMRワクチンが自閉症の原因」とするウェイクフィールドの仮説を検証する作業に取りかかった。接種率が大幅に低下するなど,安全性に対する信頼が大きく揺らぐ事態を看過し得なかったからであるが,大規模疫学研究においても,メタアナリシスにおいても,MMRワクチンを自閉症と結び付ける証拠は見いだされず,ウェイクフィールドの仮説は繰り返し否定されることとなった。

2001年12月(43歳)、当時のトニー・ブレア英国首相には2000年5月20日生まれの1歳半の息子・レオがいた。野党議員が「あなたの息子・レオに新三種混合ワクチンを接種しましたか?」と質問した。首相はバカなことに、答えを拒否した。子供のプライバシー侵害という理由だが、大衆はそう理解しなかった(The media’s MMR hoax ? Bad Science)。

★ブライアン・ディーア記者

2004年(46歳)、英国『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア記者がウェイクフィールドの利益相反を突き止めた。

ウェイクフィールドは、「1998年のランセット」論文の前に、反ワクチン団体「Legal Aid Board」から反ワクチンの証拠を探すことで£55,000(当時の交換レートで、約880万円)を受け取っていた。この事実を論文で公表していなかったし、共著者にも伝えていなかった。

また、ウェイクフィールドは,論文発表前年の1997年6月,単独型麻疹ワクチンの特許を申請,その使用が普及すれば莫大な財政的利得を得る立場にあったのである。(出典:李啓充(り・けいじゅう)、2011年7月4日の「週刊医学界新聞」「第201回」)

2004年(46歳)、ランセット誌は1998年論文の「一部」を撤回した。12人の共著者の内10人が利益相反の事実を知り、論文撤回に同意したからである。

2009年(51歳)、『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア記者がウェイクフィールドの1998年のランセット論文のデータねつ造・改ざんを見つけた。

12人の子供の患者は、反ワクチン団体の関係者で、「患者の内8人が予防注射後、数日で問題が見られた」とあるが、事実と合致した患者は1人だけだった。大半の患者は、予防注射「前」にすでに問題の傾向がみられていたのである。論文では「腸が異常になった」とあるが、病院の病理医は「腸は正常」と診断していた(MMR doctor Andrew Wakefield fixed data on autism | The Sunday Times)。

141014 brian-deer-f-full[1]不正を追及した『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア記者(写真出典:Brian Deer – briandeer.com

また、李啓充の説明では、
(1)の自閉症の存在を見たとき,論文では「12例中9例に存在した」とされていたのに対し,実際の診療記録と照合したとき,自閉症は(診断が不確実な5例も含めて)6例でしか存在していなかった。また(2)の腸管炎症については,論文で11例に存在と記載されていたが,診療録上は3例しか存在しなかった。さらに,(3)ワクチン接種との時間的関係についても,「14日以内に症状を発現した症例」は,論文の8例に対して診療録上2例と,大きく食い違った。 (出典:李啓充(り・けいじゅう)、2011年7月18日の「週刊医学界新聞」「第202回」)

著名ジャーナル・ランセット誌の無能

ランセット誌は権威と伝統のある著名な医学ジャーナルである。しかし、ネカト論文への対応で大間違いをした。

『ランセット』は、1998年に、MMRワクチンと自閉症との関係を示唆する内容の文書を刊行したとき、厳しい批評を受けた。2004年の2月に『ランセット』は同文書の一部撤回を発表した (Lancet 2004;363:750)。編集長のリチャード・ホートンは、同文書について、著者の一人のアンドリュー・ウェイクフールド氏 が『ランセット』に開示していなかった重大な利益相反(conflict of interest)があったために、「致命的な利益相反」があったと正式に言明した。そして2010年に論文全体を正式に撤回した。(ランセット – Wikipedia

「1998年のランセット」論文は、論文の「一部」撤回が、1998年の論文刊行から6年後の2004年である。「全部」撤回は、さらに6年後の2010年である。撤回に伴い、「自閉症的全腸炎」の存在も否定された。しかし、1998年の発表から12年も経過していた。

「厳しい批評を受けた」のに、どうして、すぐに対応しなかった(できなかった)のだろう。ある意味、この12年間、ランセット誌もネカト研究に加担していたといえる。ランセット誌ともあろう学術誌なのに、どういうこった!

★医学界は「予防接種すると自閉症になる」説を否定

医学界は「予防接種すると自閉症になる」説を否定している。
→ 執筆者:マイケル・スミス(Michael J. Smith, MD, Duke University):反ワクチン運動 – 19. 小児科 – MSDマニュアル プロフェッショナル版

以下は上記サイト(ワクチン製造企業のメルク社のサイト)の文章を修正引用した。

ウェイクフィールドの方法論は,因果関係というより時間的関連性のみを示すものであったため,多くの研究者がMMRワクチンと自閉症の関連の可能性について研究を行った。

GerberとOffit[Gerber JS, Offit PA: Vaccines and autism: A tale of shifting hypotheses, Clin Infect Dis 48(4):456-61, 2009.]は,13以上の大規模疫学研究をレビューしたが,MMRワクチンと自閉症との関連を裏付けるものは1つもなかった。それらの研究の多くでは,MMRワクチンの接種に関する全国的な傾向と自閉症の診断に関する全国的な傾向との間に直接的な関連は認められないことが示されていた。例えば,英国では1988~1999年の期間中,MMRワクチンの接種率は変化しなかったが,自閉症の発生率は上昇していた。

他の研究では,MMRワクチンの接種を受けた小児と受けなかった小児を対象として,個人レベルで自閉症のリスクが比較された。それらのうち,最も規模が大きく最も注目を集めたのはMadsenら2による研究である[Madsen KM, et al: A population-based study of measles, mumps, and rubella vaccination and autism.N Engl J Med 347(19):1477-82, 2002.]。

1991~1998年に出生したオランダ人の小児537,303名が対象となり,そのうち82%がMMRワクチンの接種を受けていた。考えられる交絡因子で調整した場合にも,接種者と非接種者の間で自閉症またはその他の自閉スペクトラム症の相対リスクに差は認められなかった。自閉症と自閉スペクトラム症を併せた発生率は,接種群で440,655例中608例(0.138%),非接種群で96,648例中130例(0.135%)であった。全世界から報告されたその他の集団ベース研究でも,同様の結論に達した。

自閉症児の腸生検標本で麻疹ウイルスの検出率が高かったとするウェイクフィールドの報告を受けて,Hornigら3は消化管症状があって大腸内視鏡検査を受けた小児38名の生検標本で麻疹ウイルスの有無を検討した[Hornig M, et al: Lack of association between measles virus vaccine and autism with enteropathy: A case-control study.PLoS ONE, 3(9):e3140, 2008.]。小児38名の内25名は自閉症児で,13名は自閉症児ではなかった。麻疹ウイルスの検出頻度は,自閉症のない小児より自閉症児の方が高いということはなかった。

●【反ワクチン運動で麻疹(はしか)大流行】

「1998年のランセット」論文が出版されてからすぐに、医学界はワクチンと自閉症の関連を否定した。2018年4月15日現在も、医学界はワクチンと自閉症の関連を否定している。

それにも関わらず、しかし、「予防接種すると自閉症になる」を信じたい英国、フランス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの人々は新三種混合ワクチン(MMR vaccine)・予防接種を避けてきた。

時を同じくして、多くの子供が麻疹(ましん、はしか)に感染するようになった。例えば、フランスでは、2007年はほぼ根絶状態だったが、2008年から2011年の間に2万人が罹患した。

2018年4月15日現在、ウェイクフィールド信奉者は多い。また、ウェイクフィールド自身、2018年4月15日現在も、「予防接種すると自閉症になる」説を標榜し、負けずに戦っている。

★2014年に米国で麻疹(はしか)大流行

2015年、「New York Times」紙が、反ワクチン運動で米国に麻疹(はしか)大流行の兆しがある、と報じた。
→ 2015年2月1日のクリード・ハーブマン(CLYDE HABERMAN)記者の「New York Times」記事: A Discredited Vaccine Study’s Continuing Impact on Public Health – The New York Times(保存版)
→ 2015年2月4日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Fraud’s long tail: Measles outbreak shows why it’s important to look downstream of retractions – Retraction Watch at Retraction Watch

「New York Times」紙は、以下の図を示している。

麻疹(はしか)患者は、グラフの左側を見ると、1964年に40数万人いたが、ワクチン接種で急激に減少し、1992年以降(グラフの中から右)は、ほぼゼロ(100人程度)である。ところが、グラフの右の拡大図を見ると、2014年に急増している。確かに、それまで、2012年に55人だったのが、2013年に187人、そして2014年に667人と急増した。

「New York Times」紙は【動画】でも麻疹(はしか)大流行の危険性を訴えた。
解説動画:「ワクチン:不健全な懐疑論| 麻疹ウイルス流行2015 | レトロレポート(Vaccines: An Unhealthy Skepticism | Measles Virus Outbreak 2015 | Retro Report) – YouTube」(英語)12分22秒。
The New York Timesが2015/02/02 に公開

これらの報道が効を奏したのか、麻疹(はしか)患者数は2014年の667人をピークに、2015年は188人、2016年は86人、2017年は118人、とほぼ沈静化していった。
→ 2018年2月5日の「米国疾病予防管理センター」記事:Measles | Cases and Outbreaks | CDC https://www.cdc.gov/measles/cases-outbreaks.html

勿論、一般論として、ワクチン接種が麻疹(はしか)患者数を劇的に減少させたことは多数報告されている。事実だと思う。

しかし、チョット待て。「New York Times」紙の「反ワクチン運動で米国に麻疹(はしか)大流行」は過大報道ではないだろうか?

2015年以降、麻疹(はしか)患者数が減少したのは、ワクチン接種率が向上した結果なのかどうか、白楽は把握できていない。逆にいうと、そもそも、2014年の麻疹(はしか)患者数の急増はワクチン接種率が低下したからなのか、つまり、反ワクチン運動のためなのか、白楽は把握できていない。

以下のグラフは、1994ー2016年に米国で三種混合ワクチン(MMR vaccine)の接種を受けた19ー35か月齢の赤ん坊の割合である。ワクチン接種率は91%で、2012年~2016年に増減はない。

https://www.statista.com/statistics/385577/mmr-vaccination-rate-among-us-children-aged-19-35-months/

つまり、2012年~2017年の麻疹(はしか)患者数の増減がワクチン接種率と関連していない。正確に言うと、関連しているという明確なデータが見つからない。

繰り返すが、勿論、ワクチンは麻疹(はしか)の予防に大きな効果があることは確かだ。麻疹(はしか)にかかった患者にはワクチン非接種の人に多い。例えば、以下の論文である。

でも、「New York Times」紙の「反ワクチン運動で米国に麻疹(はしか)大流行」は過大報道と思える。

★2017年に欧州で麻疹(はしか)大流行

麻疹(はしか)患者は、EUEEA(欧州連合/欧州経済領域)の30か国で、2016年に4,643人だったのが、2017年に3倍の 14, 451 人に急増している。この原因が「予防接種すると自閉症になる」反ワクチン運動のためかどうかさだかではない。しかし、2018年以降にさらに急増するかもしれないので、不穏な状況である。
→ 2018年2月9日の「欧州疾病予防管理センター」記事:Measles cases in the EU treble in 2017, outbreaks still ongoing https://ecdc.europa.eu/en/news-events/measles-cases-eu-treble-2017-outbreaks-still-ongoing

●【ウェイクフィールドのその後】

★英国から米国へ

話は前後するが、ウェイクフィールドのその後を追っていこう。

2001年(43歳)(2004年説もある)、ウェイクフィールドは、英国のロイヤル・フリー病院を辞任し、米国へ渡り、テキサス州オースティンに居を構えた。後に述べるように、米国の女優・ジェニー・マッカーシー(Jenny McCarthy)などが支援してくれた。

2005年(47歳)からは、テキサス州オースティンで設立に貢献した自閉症を研究する非営利組織・「子どものための思慮深い家センター(Thoughtful House Center for Children)」の所長を務めた。年収は£164,000(約2296万円)だった。

「子どものための思慮深い家センター(Thoughtful House Center for Children)」は臨床研究、診断サービス、ヘルスケアサービス、行動療法、教育アセスメント、コミュニティアウトリーチ、教育を提供している。

2010年(52歳)、英国の医事委員会(General Medical Council)が、「1998年のランセット」論文をネカト論文と結論し、ウェイクフィールドの英国での医師免許をはく奪したのを受け、ウェイクフィールドは「子どものための思慮深い家センター(Thoughtful House Center for Children)」を辞任した。なお、ウェイクフィールドは米国での医師免許を持っていない。

2010年5月(52歳)、ウェイクフィールドは戦略自閉症イニシアチブ(Strategic Autism Initiative)の活動をし、「自閉症のための医療介入(Medical Interventions for Autism)」 社の所長に就任した。また、腸疾患と発達障害を研究する英国の慈善団体「ヴィセラル(Visceral)」の医学顧問に就任した。
→ 2013年4月の「Guardian」記事:Andrew Wakefield: autism inc | Society | The Guardian、(保存版

★ウェイクフィールドのファンが多数いる

李啓充が記述している。

ウェイクフィールドは,科学的にその仮説がほぼ完璧に葬り去られただけでなく,医師としての適性さえも否定され,医学界からも医療界からも「追放」されることとなったのだが,皮肉なことに,自閉症児の親の間では,逆に,これまで以上の支持を集めるようになった。

「自閉症児のために,職や国を失ってまで医学界と闘う偉い医師」と,「英雄視」さえされるようになり,講演会などで,「私の身に何が起こったかなどどうでもいいのです。大切なのは,自閉症の子どもたちに何が起こっているかなのです」と発言するたびに,感動した親たちが目を潤ませる光景が繰り返されるようになったのである。

彼の支援者には有名人もいる。

★支援者:女優・ジェニー・マッカーシー(Jenny McCarthy)

米国の女優・ジェニー・マッカーシー(Jenny McCarthy)は、2002年に生まれた息子エヴァン・ジョセフが2005年に自閉症であると診断された。原因はワクチン接種だと信じた。それ以後、自閉症を持つ子どもや家族のために積極的に反ワクチン運動を展開している。

jenny-mccarthy_0[1]
女優・ジェニー・マッカーシー(Jenny McCarthy)、写真出典

【動画】
ジェニー・マッカーシー(Jenny McCarthy)のテレビショー。「Autism Debate with Jenny McCarthy on ‘The Doctors’ (Part 1) 」、(英語)3分59秒。
The Doctorsが2009/05/07 にアップロード

なお、ジェニー・マッカーシーの息子のエヴァン・ジョセフ(Evan Joseph Asher)は、実は、ワクチン接種が原因の自閉症ではなく、Landau-Kleffner症候群(ランドークレフナー症候群、LKS)だといわれている。ジェニー・マッカーシーは否定しているが。

★支援者:男優・ロバート・デ・ニーロ(Robert De Niro)

ウェイクフィールドは自分が監督を務め、反ワクチン・ドキュメンタリー映画『Vaxxed』を作った(2016年制作?)。

【動画】
映画『Vaxxed』の予告編(英語)2分59秒。

2016年、この映画『Vaxxed』をロバート・デ・ニーロが、自分が創設したトライベッカ映画祭で上映すると発表した。

その発表に合わせて、デ・ニーロは、妻グレース・ハイタワーの間に18歳になる自閉症の息子がいると公表した。そして、自閉症にまつわるいろいろな問題をオープンに話し合い、自閉症の問題点を知ってもらいたいと考えた、と上映する理由を説明した。

しかし、上映に反対する人は多かった。

ドキュメンタリー映画監督のペニー・レーンは、「私はトライベッカ映画祭が大好きです。でも、あなたたちは、大きな間違いをおかしました。あなたたちが信頼され、すばらしいドキュメンタリーのプログラムをもつ映画祭であるだけに、この映画に説得され、わが子に予防注射を受けさせるのはやめようと思う人が出るでしょう。その結果、死ぬ人が出るかもしれません」という公開レターを送っている。(2016年3月28日の猿渡由紀記者の「Yahoo!ニュース」記事:ドキュメンタリー監督がロバート・デ・ニーロを非難。予防接種の害を語る映画の上映中止はセンサーシップか(猿渡由紀) – 個人 –

結局、デ・ニーロは上映を見送った。

http://www.fedaiisf.it/wp-content/uploads/2016/09/Vaxxed-image.jpg

★支援者:大衆

写真は「ウェイクフィールドの話を聞きなさい!」のプラカードを掲げるサポーター。
141014 apoyo-andrew-wakefield[1]
(出典:Confirman que el estudio que relacionaba vacunas con autismo es un fraude | Naukas)。

写真は2008年聴聞会に出席するウェイクフィールドと妻・カーメル。2人の歩く向こうに、2人を支援する多数のサポーターが写っている。
141014 news-graphics-2007-_640547a1-300x239[1]
(出典:≫ Allegations emerge that Andrew Wakefield “faked” the data in his Lancet paper.

★反ワクチン運動

反ワクチン運動はなかなか根強い。すべての選択は利益と害のバランスで成り立つが、反ワクチン運動ではワクチンの害の部分を強調したデータを示している。科学的根拠は信用しがたくても、図に示されるとわかりやすく、事実を思い込んでしまいそうになる。

例えば、以下の図ではワクチン接種でいろいろな神経障害が出る確率が高くなることを示している。赤色が自閉症で、ワクチン非接種の4.2倍とある。「Children’s Medical Safety Research Institute」という非営利組織のサイトの図だが、オーストラリアのまともな組織「Children’s Medical Research Institute」と紛らわしい。

このデータを信用しないように! http://info.cmsri.org/the-driven-researcher-blog/vaccinated-vs.-unvaccinated-guess-who-is-sicker

★ウェイクフィールドの著書出版

ウェイクフィールドは、2011年、2012年に著書を出版している。著書はかなり称賛されている。2011年の著書の共著者は、上記で触れた米国の女優・ジェニー・マッカーシー(Jenny McCarthy)である。

  1. Callous Disregard: Autism and Vaccines–The Truth Behind a Tragedy by Andrew J. Wakefield and Jenny McCarthy (Jul 13, 2011)
  2. Waging War on the Autistic Child: The Arizona 5 and the Legacy of Baron von Munchausen by Andrew J. Wakefield (May 1, 2012)

『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア記者を攻撃する記事もある。 日本語版。英語版:Keeping Anderson Cooper Honest: Is Brian Deer The Fraud? – AGE OF AUTISM

【事件の別の視点】

1998年論文以来10数年間、ウェイクフィールドが全面的に「悪い」とする流れだったが、2014年夏、意外な展開があった。

CDCが「予防接種と自閉症」は無関係というデータのねつ造

「予防接種と自閉症」に関係がないという論文は2004年、米国・疾病管理予防センター(CDC、Centers for Disease Control and Prevention)の研究者が「Pediatrics」誌に発表していた。

2014年8月22日、Bobby Deeが、長年の沈黙を破って、米国・疾病管理予防センターの「Pediatrics」論文はねつ造論文だったと告発した。ねつ造部分は、アフリカ系アメリカ人では予防接種と自閉症は関係があったというデータを削除した点である。このねつ造を、米国・疾病管理予防センターも認めた(CDC Whistleblower Emerges: Admits Coverup on Vaccine Link to Autism | Health Impact News)。

Bobby Deeは仮名で、すぐに、米国・疾病管理予防センターの実在の研究者・ウィリアム・トンプソン(William W. Thompson)だと判明した。2004年「Pediatrics」誌論文の著者の1人でもある(上の論文の下線)
141014 william-thompson-cdc[1]

【動画】
米国・疾病管理予防センターのねつ造のニュース。ウェイクフィールドがインタビューに答えている。「Dr. Andrew Wakefield breaks silence on #CDCWhistleblower」、(英語)1時間13分31秒。
NextNewsNetworkが2014/08/28 に公開

ウィリアム・トンプソンが内部告発した2014年8月22日の5日後に、フッカー(Hooker B)が2014年8月27日「Transl Neurodegener」誌にアフリカ系アメリカ人は予防接種すると自閉症になりやすいという数値を記載した論文を掲載した。

Hooker B: Measles-mumps-rubella vaccination timing and autism among young african american boys: a reanalysis of CDC data. Transl Neurodegener 2014, 3:16. PubMed Abstract | BioMed Central Full Text | PubMed Central Full Text

ところが、不思議なことに、1か月後、フッカー論文が撤回された。撤回申請は2014年9月26日、受諾は9月29日、撤回公表は10月3日。どうなっているのだろう? (①Translational Neurodegeneration | Full text | Retraction: Measles-mumps-rubella vaccination timing and autism among young African American boys: a reanalysis of CDC data、②CDC Whistleblower Emerges: Admits Coverup on Vaccine Link to Autism | Health Impact News、③A bad day for antivaccinationists: A possible retraction, and the “CDC whistleblower” William W. Thompson issues a statement ? Respectful Insolence)。

「ワクチンと自閉症とウェイクフィールド」によれば以下のようだ(ワクチンと自閉症とウェイクフィールド – Togetterまとめ)。

Brian Hookerは反ワクチン活動の最近人気急上昇中のスターである。Simpson 大学の生物学准教授で自分のコンサル会社を運営していて、彼がワクチンのせいだと主張している自閉症の子どもがいる。各種反ワクチン活動に関わっている。情報公開法を利用してCDCに各種情報開示を求めてきた。CDCが自閉症とワクチンの関連が認められないとした有名な研究などをCDCがデータを不正操作したと主張している。

今回の「スキャンダル」はTranslational Neurodegenerationという聞いたことのない雑誌に論文が発表されたということに始まる。そしてYouTubeにCDCの高官がMMRワクチンが自閉症をおこしたという「真実」を隠したことを内部告発したと主張する動画が公開された。さらに木曜の夜にBrian Hookerが内部告発者はWilliam Thompson博士であると誇らしげに主張する動画がYouTubeに公開された。

・・・(中略)・・・

この騒ぎでWilliam Thompson博士が弁護士を介して声明を発表した
(2004年の論文に一部のデータが含まれていないということを批判したのであってワクチンが自閉症の原因だと言っているわけではない。データの取捨選択の透明性を確保すべきという話)

イヤ、なかなか、複雑というか、攻防戦が激しいというか、何を信じていいのやら・・・。

なお、「予防接種と自閉症」は無関係という論文は、繰り返すが、多数報告されている。しかし、それらに、さらに、もし、研究費バイアスやねつ造・改ざんがあったらと思うと(そういう指摘はありません。だから、仮にですが)、ウ~ン・・・。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年4月15日現在、パブメドで、アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Jeremy Wakefieldの論文を「Andrew J. Wakefield[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002年~2006年の5年間の8論文と2009年の撤回公告がヒットした。

「Wakefield AJ[Author] 」で検索すると、1987~2009年の33年間の112論文がヒットした。

2018年4月15日現在、「Wakefield AJ[Author] AND retract* 」で検索すると、1996~2008年の3論文がヒットした。但し、1番は「1998年のランセット」論文の撤回公告であって撤回論文ではない。

3番の「1998年のランセット」論文が本ブログ記事での該当論文で、それ以外に、2番の「2000年のAm J Gastroenterol.」論文も2010年に撤回された。

  1. MMR–responding to retraction.
    Wakefield AJ, Harvey P, Linnell J.
    Lancet. 2004 Apr 17;363(9417):1327-8; discussion 1328. No abstract available. PMID:15094289
  2. Enterocolitis in children with developmental disorders.
    Wakefield AJ, Anthony A, Murch SH, Thomson M, Montgomery SM, Davies S, O’Leary JJ, Berelowitz M, Walker-Smith JA.
    Am J Gastroenterol. 2000 Sep;95(9):2285-95. Retraction in: Am J Gastroenterol. 2010 May;105(5):1214.
    PMID:11007230
  3. Ileal-lymphoid-nodular hyperplasia, non-specific colitis, and pervasive developmental disorder in children.
    Wakefield AJ, Murch SH, Anthony A, Linnell J, Casson DM, Malik M, Berelowitz M, Dhillon AP, Thomson MA, Harvey P, Valentine A, Davies SE, Walker-Smith JA.
    Lancet. 1998 Feb 28;351(9103):637-41. Erratum in: Lancet. 2004 Mar 6;363(9411):750. Retraction in: Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):445.
    PMID:9500320

●7.【白楽の感想】

【事件の深堀】

★マスコミの過激報道

2018年4月15日現在、ウェイクフィールドは負けずに戦っている。しかし、「1998年のランセット」論文のデータねつ造、利益相反は明確だろう。当時、40歳、病院の医師という身分からすれば、病院内の政治抗争は絡んでいないだろう。

「予防接種と自閉症の関係」なら、問題の根本は学問上の論争であるが、現実の騒動はそうなってこなかった。マスコミがウェイクフィールドを攻撃して大衆が騒ぐ。ウェイクフィールドの多くのサポーターが活発に活動した。トニー・ブレア首相を巻き込んで狂喜した。

研究者ではないが、1980年代にマスコミが追い回した三浦和義(2008年10月自殺)を思い出す。2014年にマスコミが追い回した理研の小保方晴子と笹井芳樹(2014年8月5日自殺)を思い出す。笹井芳樹は、きわめて優秀な現役の生物医学研究者でまだ52歳だった。

再度書くが、問題の根本は学問上な論争に思える。マスコミの「報道刑」をなんとかする術はないのだろうか?

大衆は、マスコミを信じ、自分も正義の一翼を担う心意気で、熱心に(面白がって?)バッシングする。

2014年9月19日、ウェイクフィールドはテキサス州の裁判所に英国の雑誌と新聞記者を名誉棄損で訴えた。しかし、裁判所はそのこととテキサス州は何も関係がないとして、訴えを却下した。(Court: Andrew Wakefield, autism researcher, cannot sue in Texas | www.statesman.com

裏で医薬品企業が動いている?

「予防接種と自閉症の関係」を否定する論文がたくさん出ている。それでも、ウェイクフィールドは、まだ、負けずに戦っている。事件の裏に何があるのだろう?

逆に、ウェイクフィールドの失脚を望む勢力はどこだろう? 「新三種混合ワクチン・予防接種で自閉症になる。三種混合ではなく,単独型のワクチンに切り替えたほうが安全」と主張したのだから、新三種混合ワクチンの開発した医薬品企業(メルク社)がウェイクフィールドの失脚を望むだろう。メルク(Merck)社が不当なことをしているのだろうか?

一般的にワクチン製造販売は「おいしい」商売なのだろうか?

今回、そういう話は表面化していない。

世界のワクチン市場はどんな規模なのだろうか?

2017年に343億ドル(3兆4300億円)だった世界のワクチン市場は、2022年に493億ドル(4兆9300億円)に成長すると試算されている。5年間で44%も増えるのである。かなり、「おいしい」商売だ。
→ Vaccines Market worth 49.27 Billion USD by 2022

そして、この「おいしい」商売は、以下のグラフに示すように、4つの製薬会社が握っている(Vaccine Conferences | USA | Global Events | Europe | Middle East | Asia Pacific | 2016 | 2017 | Conference Series LLC LTD)。

メルク社、グラクソスミスクライン社、サノフィ社、ファイザー社である。縦軸の単位は百万米ドル(億円)だから、2014年時点で、各社約5000億円の売り上げがあり、2020年には約7000億円規模と想定されている。

以下に示す2011年のデータでは、日本のワクチン市場で、生産額は2068億円だ。

1995年に医療用医薬品生産額の0.6%しか占めていなかったのが、8年後の2003年に1.1%と約2倍に増え、その8年後の2011年に3.3%と約3倍に増えた(出典:2013年6月25日、厚生科学審議会)。2018年現在、さらに数倍増えているのだろう。

2011年に2068億円規模の商売だった。年収1人1000万円とすれば、約2万人がワクチン製造販売で生活していることになる。

2013年6月25日、厚生科学審議会http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000035gut-att/2r98520000035gxh.pdf

これだけ巨額の市場だと、メルク社、グラクソスミスクライン社、サノフィ社、ファイザー社などのワクチン会社は、医師・大学教授・官庁を抱き込んで、反ワクチン運動に圧力をかけ、ワクチン賛成キャンペーンを強力に推し進めているに違いない。

【事件の感想】

《1》科学界に自浄力がない

『サンデー・タイムズ』紙のブライアン・ディーア記者がウェイクフィールドの不正を暴いたのだが、ナンカおかしい。研究上の不正行為をチェックするのは新聞記者の仕事ではない。科学者の仕事だ。

一般的に、新聞記者は新聞を売るためにセンセーショナルに書く。それで、事実を脚色してしまう傾向がある。どうして、科学界が解明できなかったの?

《2》学術界からの袋叩き

ウェイクフィールドは「予防接種すると自閉症になる」と発表し、学術界から袋叩きに合っている。アンソニー・モーソン(Anthony R. Mawson)も「予防接種すると自閉症になる」と発表し、同じように袋叩きにあった。
→ 「錯誤」:アンソニー・モーソン(Anthony R. Mawson)(米) | 研究倫理(ネカト)

袋叩きが異常に強い。

一般的に、科学者は、自分と異なる学説が提示されれば、学会や論文で相手の間違いを指摘し、自説の正当性を主張する。

「予防接種すると自閉症になる」説は、それを信じると、人々の健康が損なう可能性があるので、学会や論文で相手の間違いを指摘するよりも、早く強く指摘する必要はあるだろう。

しかし、異常である。

ワクチン製造販売する医薬品企業が反ワクチン運動を撲滅しようとしているのだろうか?

《3》反ワクチン運動はなぜ強い?

反ワクチン運動がなぜ強いのか、白楽にはわかりませんが、強いです。メディアが否定的な報道をすることが影響しているかもしれない。

https://blog.goo.ne.jp/nobuokohama/e/f679d7864c103f9af3678eba1f886851

学術界が「予防接種すると自閉症になる」説を否定しているのに、「予防接種すると自閉症になる」と信じる大衆が無視できないほど多くいる。大衆はどうして似非科学を信じるのか、白楽にはわかりません。

  • 注射嫌いな人は多い。反ワクチンというより反注射の感情だろうか。
  • 医師・医療界への不信感だろうか。
  • 宗教的な理由はあるだろう。
  • 事故や副作用はごくまれとしても、重大な健康被害を受けたくはない。宝くじは買わなければ当たらないが、ワクチン接種しなければ、事故や副作用に当たらない。

2018年1月12日 の「駒崎弘樹」記者(病児・障害児・小規模保育のNPOフローレンス代表)の記事も反ワクチン運動を批判している。
→ 都民ファーストが反ワクチン脳になりかけている件について

《4》どうして?:データねつ造

ウェイクフィールドはどうして利益相反をしたのか? それは、金銭的に得だからだ。では、どうしてデータねつ造をしたのか? この場合、医学上のデータねつ造は、多数の人に危険だということを、容易に理解できたハズだ。

どうしてデータねつ造したのだろう。

多分、40歳の彼は、半分過ぎた自分の人生でホームラン級の脚光を浴びたかった。人生の刺激が欲しかった。自分のパワー(社会的影響力)を確認したかったに違いない。

なお、「ネカト癖は研究キャリアー初期に形成されることが多い」。40歳で発表した「1998年のランセット」論文と42歳で発表した「2000年のAm J Gastroenterol.」論文の2報だけが撤回されているが、もっと若い時の論文にデータねつ造や利益相反はないのだろうか?

これだけ注目を集めた人だから、これらの論文以外にデータねつ造や利益相反があれば指摘されていると思われるが、調査委員会を設けて調査していないので、疑念が残る。

《5》どうして?:社会的大騒動

データねつ造とはいえ、ねつ造部分そのものは重大事項に思えない。それに、1つの論文の結論(たった12人の患者の結論)に、英国社会が呼応し、世界が呼応したのも異常に思える。反論する論文は多数出版され、多数の患者を対象に「新三種混合ワクチン・予防接種で自閉症になる」のを否定した。それなのに、ウェイクフィールドの論文がどうしてそんなに大きな影響力を持ち続けたのか?

結論が間違っている論文は学術界ではゴマンとある。学者の主張が無視されることもゴマンとある。どうして、ウェイクフィールドの論文が、社会的大騒動を引き起こしたのか?

学問的正否とは別次元の問題が充満しているということか。

《6》どうして?:ウェイクフィールドの人間性

それにしても、データねつ造を指摘されても、ウェイクフィールドは悪びれるところがない。自分の信念に胸を張って生きている。前向きな人柄なのだろう。もちろん、こういう逆風の中でも、妻と4人の子供とともに生きていくしかない。それはとても大変だろう。そういう意味では、良い父親なのかもしれない。

妻・カーメルと一緒の写真
STN28WAKEFIELD_340834k[1]
(28 April 2013 Wakefield’s wife goes viral on the internet | The Sunday Times
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●8.【主要情報源】

① 李啓充(り・けいじゅう)、2011年7月4日の「週刊医学界新聞」「第201回」(保存版
② 李啓充(り・けいじゅう)、2011年7月18日の「週刊医学界新聞」「第202回」(保存版)
③ 李啓充(り・けいじゅう)、2011年8月1日の「週刊医学界新聞」「第203回」(保存版)
④ ウィキペディア英語版:Andrew Wakefield – Wikipedia, the free encyclopedia
⑤ ウィキペディア英語版:MMR vaccine controversy – Wikipedia, the free encyclopedia
⑥ シャロン・べグリー(サイエンス担当)、ニューズウィーク日本版2010年2月3日、「 「予防接種で自閉症になる」論文のデタラメ」(保存版)
⑦ 2010年8月3日以降のアンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Search Results for “Andrew Wakefield” ? Retraction Watch
⑧  旧版:2014年10月16日

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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