2020年1月25日掲載
ワンポイント:2019年ネカト世界ランキングの「2」の「6」に挙げられたので記事にした。2019年6月(75歳)、トゥルク大学(University of Turku)・名誉教授のカウッピネンは同僚のペッカ・マルミ(Pekka Malmi)とともに、気候変動は人為的ではないという「2019年のarXiv」論文を発表した。この論文は賛否両論だが、気象学の主流派に反している。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ユルキ・カウッピネン(Jyrki Kauppinen、ORCID iD:?、写真出典)は、フィンランドのトゥルク大学(University of Turku)・名誉教授で、専門は気象学である。180報以上の学術論文を出版し、150回以上学会発表し、60回以上講演している。まともな学者である。
カウッピネン事件は、ネカト事件ではない。「論争」として扱い、「研究者の特殊事件」に分類した。自然科学・工学のネカト・クログレイ事件の一覧表にも記入した。
2019年6月(75歳)、ユルキ・カウッピネン(Jyrki Kauppinen)と同僚のペッカ・マルミ(Pekka Malmi)は、気候変動は人為的ではないという「2019年のarXiv」論文を発表した。
「2019年のarXiv」論文の結論は、地球をおおう雲の量が何らかの理由で減少しているため、地球の温度が上昇し、海から二酸化炭素が放出される。つまり、大気中の二酸化炭素量の増加は人間の活動によるものではない、と結論した。
「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、略称:IPCC)」の報告書には価値がなく、人間社会が二酸化炭素量の排出削減目標を定めるのは、地球の温度上昇を防ぐのに何の役にも立たない、と主張するものだった。
気象学で主流の理論を真っ向から否定した。
一部のメディアは、カウッピネンの結論を肯定的に取り上げ、逆に、一部のメディアは、否定的に取り上げた。この論文は賛否両論だが、気象学の主流派に反していることは事実だ。
ロス・ポメロイ(Ross Pomeroy)が、カウッピネンの「2019年のarXiv」論文を「RealClearScience」誌の2019年の最大ガラクタ科学の第6位に取り上げたので記事にした。 → 2019年ネカト世界ランキングの「2」の「6」。
トゥルク大学(University of Turku)。写真出典
- 国:フィンランド
- 成長国:フィンランド
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:オウル大学
- 男女:男性
- 生年月日:1944年5月29日
- 現在の年齢:80 歳
- 分野:気象学
- 問題論文発表:2019年(75歳)
- 発覚年:2019年(75歳)
- 発覚時地位:トゥルク大学・名誉教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はイェール大学医科大学院・助教授でニセ科学批評家のスティーブン・ノベラ(Steven Novella)で、「NeuroLogica Blog」記事に発表
- ステップ2(メディア):「NeuroLogica Blog」、「YLE」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①トゥルク大学は調査していない
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
- 大学の透明性:調査していない(✖)
- 問題:論争
- 問題論文数:1報
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
出典:①:Biography:Jyrki K. Kauppinen、 ②: CURRICULUM VITAE
- 1944年5月29日:フィンランドに生まれる
- 1967年(23歳):オウル大学(University of Oulu)で学士号取得:教養学
- 1968年(24歳):同大学で修士号取得:物理学
- 1975年(31歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:物理学
- 19xx年(xx歳):同大学・助教授、のちに準教授
- 1986年(42歳):トゥルク大学(University of Turku)・正教授
- 2004年(60歳):息子の物理学者・イスモ・カウッピネン(Ismo Kauppinen)と一緒にガセラ・オイ社(Gasera Oy)を設立
- 20xx年(xx歳):同大学・名誉教授。研究室を維持している
- 2019年6月(75歳):問題視された「2019年のarXiv」論文を発表
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
講演動画:「気候セミナー2014:ユルキ・カウッピネン教授 :「気候変動の最大の要因は特定されています」(Ilmastoseminaari 2014: Prof. Jyrki Kauppinen: “Ilmastonmuutoksen suurimmat aiheuttajat selvitetty”) – YouTube」(フィンランド語:多分)30分31秒。
ilmastofoorumiが2014/09/06に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★専門
ユルキ・カウッピネン(Jyrki Kauppinen)は、元々は気象学の専門家ではなく、分子分光法と分光計の専門家だった。
二酸化炭素は可視光を吸収する。熱放射を吸収し、その一部を反射する。この温室効果がなければ、地球は氷の惑星になる。このようなことから、二酸化炭素と地球温暖化の関係に興味を持つようになった。
カウッピネンは温室効果を疑っていないが、以前の計算ではわずか0.15〜0.24度とその影響は非常に小さく、二酸化炭素の放出で地球温暖化を説明できないと結論していた。つまり、地球温暖化に対する二酸化炭素の影響は気象学者が主張するほど大きいとは考えていない。
地球温暖化の最大の理由は雲の変化と考えている。
★論文
2019年6月(75歳)、ユルキ・カウッピネン(Jyrki Kauppinen)と同僚のペッカ・マルミ(Pekka Malmi)は、気候変動は人為的ではないという「2019年のarXiv」論文を発表した。「arXiv」は未査読の論文サイトである。
- No experimental evidence for the significant anthropogenic climate change
Jyrki Kauppinen, Pekka Malmi
(Submitted on 29 Jun 2019)
https://arxiv.org/abs/1907.00165
論文は、地球をおおう雲の量が何らかの理由で減少しているため、地球の温度が上昇し、海から二酸化炭素が放出される。つまり、大気中の二酸化炭素量の増加は人間の活動によるものではない、と結論した。
カウッピネンの結論は、「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、略称:IPCC)」の報告書には価値がなく、人間社会が二酸化炭素量の排出削減目標を定めるのは、地球の温度上昇を防ぐのに何の役にも立たない、数千人の気象学者は間違っている、と主張するものだった。
つまり、気象学で主流の理論を真っ向から否定した。
この主張は、「RT World News」が紹介した。
→ 2019年7月12日記事:Finnish scientists suggest ‘no experimental evidence’ for man-made climate change — RT World News
また、米国のフォックス・ニュース(US Fox News)のタッカー・カールソン(Tucker Carlson)が政治トーク番組『タッカー・カールソン・トゥナイト』でこの研究結果を取り上げた(以下の動画)。
カールソンは、人間活動が気候変動に与える影響がどの程度かは「未解明」「不確定」「知る由もない」と主張した。
カールソンは気候変動に関する、自身が思うところの「ヒステリー」状態を批判し、民主党の気候変動に関する政策目標はアメリカ人の生活を抑制する政治的策略であり、経済に害を及ぼすものだと暗にほのめかした。(タッカー・カールソン – Wikipedia)
動画:「タッカー・カールソン:気候変動は環境に関するものではなかった(Tucker Carlson – Climate Change Wasn’t About the Environment At All )- YouTube」(英語)6分13秒。
LibertyPenが2019/07/18に公開
★批判
以下の内容は主に2019年8月27日の「YLE」記事による:Ilmastonmuutos ei ole ihmisen syy, väitti fyysikko Jyrki Kauppinen ja singahti maailmanmaineeseen – “Minä en ole skeptikko, minä tiedän” | Yle Uutiset | yle.fi
世界で最も引用されている気候科学者の1人でヘルシンキ大学・教授のマルク・クルマラ(Markku Kulmala、写真出典)が、カウッピネンの「2019年のarXiv」論文を否定した。
クルマラ教授によると、大気中の二酸化炭素の増加は人間に起因するものではないというカウッピネンの主張は明らかに間違っている。雲の量の減少は地球温暖化の原因というより、地球温暖化の結果である、とのことだ。
フィンランド気象研究所の科学部長で、環境物理学の教授であるスヴァンテ・ヘンリクソン(Svante Henriksson、写真出典)によると、カウッピネンは概念を混同し、研究で間違った数字を使用していたと批判した。
カウッピネンは理論を強く信じていて、理論を支持するものだけを見て、他のすべてを無視している。気候は非常に複雑で、その動きをペンと紙で予測することできない、とヘンリクソンは批判した。
IPCCレポートで報告されている1.5〜4.5℃の温暖化は、数枚の計算ではなく、気候モデルに基づいた膨大な計算の結果です。気候モデルは、スーパーコンピューターで、物理方程式を使って、気候に影響を与える要素が互いにどのように影響するかをシミュレートしています。
ただ、気候モデルは不完全です。そこから推定される気候変動はしっかり確立したものではありません。それは、気候に影響を与える不確実性が膨大だからです。たとえば、雲の量を増減させるメカニズムは理解され始めたばかりです。気候に影響を与える人間の活動を正確に予測することは不可能です。たとえば、2050年までに何エーカーの森林が人間によって伐採されるのかわかりません。
しかし、カウッピネンは、ペン、紙、古い計算機で二酸化炭素の影響を計算したと主張しているわけです。
ヘンリクソンによると、カウッピネンは気候変動に関する最初の論文で大気放射の間違った数値を使用した。カウッピネンは1平方メートルあたり326ワットの放射線制裁を使用したが、ヘンリクソンによると、正しい数字は46だそうだ。
つまり、カウッピネンの「2019年のarXiv」論文は、完全に間違った仮定に基づいている、とヘンリクソンは批判している。
というわけで、ロス・ポメロイ(Ross Pomeroy)がカウッピネンの「2019年のarXiv」論文を、「RealClearScience」誌の2019年の最大ガラクタ科学の第6位に取り上げた。 → 2019年ネカト世界ランキングの「2」の「6」。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
論文数は調べていない。
★撤回論文データベース
2020年1月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでユルキ・カウッピネン(Jyrki Kauppinen)を「Kauppinen」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年1月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ユルキ・カウッピネン(Jyrki Kauppinen)の論文のコメントを「Jyrki Kauppinen」で検索すると、本記事で取り上げた「2019年のarXiv」論文・1論文にコメントがあった。論文の批判にカウッピネンが反論している。
●7.【白楽の感想】
《1》正否の議論
カウッピネンの「2019年のarXiv」論文の内容が正しいのか間違っているか、専門外なので白楽は自分では判断できない。
しかし、論文の正否が、ブログや新聞で議論されていて、学術論文の正否を学術論文で指摘しない状況に違和感がある。学術研究の正否を議論する場は、従来は学会や学術誌だ。
ブログやツイッターなどの 社交メディア(social media)、新聞・テレビなどの産業メディアが学術研究の正否を議論するなら、それなりのルールが必要に思える。もちろん、従来の学術研究者ではない市民科学者が論文にコメントするのは、「あり」だと思う。時代は変化する。
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア・フィンランド語版: Jyrki Kauppinen – Wikipedia
② 2019年8月27日の「YLE」記事:Ilmastonmuutos ei ole ihmisen syy, väitti fyysikko Jyrki Kauppinen ja singahti maailmanmaineeseen – “Minä en ole skeptikko, minä tiedän” | Yle Uutiset | yle.fi、(保存版)
③ 2019年7月15日のスティーブン・ノベラ(Steven Novella)記者の「NeuroLogica Blog」記事:Clouds and Climate Change | NeuroLogica Blog
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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