/2026年8月11日(火)掲載/
〈AI使用〉。米国のハーバード大学医科大学院およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院の重鎮であるロスカルゾが共著者として関与した論文の研究不正(データ捏造・改ざん)事件について、解説する。また、ロスカルゾの研究不正疑惑についてのサイバーストーキング(Cyberstalking、ネットストーキング)も概説する。
〈AI使用:記事は白楽が指定した書式で、Geminiに解説させ、白楽が画像添付と校閲(加筆・訂正)をし、「白楽の感想」を加えた。ただ、Geminiの記述に間違いがあり、全部を訂正できていない気もしている〉
1.【導入】
本事件は、米国ハーバード大学医科大学院およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院の重鎮であったジョセフ・ロスカルゾ(Joseph Loscalzo、写真出典)が、心臓および肺の「成体幹細胞」研究における世紀の捏造スキャンダルに巻き込まれた、あるいは共同責任者として名を連ねていた事件である。
主犯格とされるのは、同僚のピエロ・アンバーサ(Piero Anversa)らのグループであるが、ロスカルゾはこの捏造研究グループの強力な共同研究者・統括者として、世界最高峰の医学誌に複数の論文を共同発表していた。
大学の調査によって、画像データの意図的な操作(改ざん・捏造)が認められ、彼らが提唱した「心臓や肺の幹細胞による組織再生」という画期的な成果の根底が覆る事態となった。
ロスカルゾ自身が直接手を下した不正の証明はなされていないが、学術誌の編集長などを歴任した最高権威でありながら、長年にわたり不正データを見抜けず、結果として複数の主要論文が撤回に追い込まれた監督責任および共同責任は極めて重いとされている。
2.【経歴と経過】
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1951年(0歳):米国ニュージャージー州カムデンに生まれる。
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1978年(27歳推定):ペンシルベニア大学にて医師免許(M.D.)および生物化学の研究博士号(Ph.D.)を取得。
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1984年(33歳推定):ハーバード大学医科大学院およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院の教員・医師となる。
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1994年(43歳推定):ボストン大学医学部へ移籍し、循環器内科長などを歴任。
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2005年(54歳推定):ハーバード大学医科大学院の教授(Hersey名誉教授)、およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院の内科長(Physician-in-Chief)という最高位のポストに就任。
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2011年(60歳推定):ピエロ・アンバーサらと共同で、肺に resident stem cells(定住性幹細胞)が存在するという画期的な論文を『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)』に発表。
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2012年(61歳推定):心臓の幹細胞に関する研究成果を『サーキュレーション(Circulation)』および『サーキュレーション・リサーチ(Circulation Research)』誌に相次いで発表。
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2014年(63歳推定):ハーバード大学およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院が、アンバーサおよびロスカルゾらの研究グループに対する研究不正疑惑の正式な内部調査を開始。『サーキュレーション』誌の論文が最初の撤回論文となる。
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2017年(66歳推定):ブリガム・アンド・ウィメンズ病院の運営母体(パートナーズ・ヘルスケア)が、アンバーサらの研究不正に絡む不正な研究費(NIHグラント)申請があったとして、米政府に1000万ドル(約10億円)の和解金を支払うことに合意。
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2018年(67歳推定):ハーバード大学医科大学院とブリガム・アンド・ウィメンズ病院は、アンバーサのラボから出された計31本の論文を撤回するよう各学術誌に勧告。これにより『NEJM』の肺幹細胞論文などが公式に撤回される。
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2022年(71歳推定):ロスカルゾはブリガム・アンド・ウィメンズ病院の内科長を退任し、名誉職(Emeritus)へ移行。
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2023年(72歳推定):PubPeer等のウェブサイト上で、ロスカルゾの過去の複数の論文に対して新たな画像重複の疑念が提示され、インターネット上での論争や告発の応酬が激化する。
3.【発覚・調査の経緯】
《1》人生
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生まれ育った国:アメリカ合衆国(ニュージャージー州)
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学位取得の大学:ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)にてM.D.およびPh.D.(生物化学)を取得。
- 研究上の功績:一酸化窒素(NO)による血管調節の仕組みの解明と、複雑な病気を生体ネットワーク全体で捉える「ネットワーク医学」の確立。
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一酸化窒素(NO)と血管生物学(1980〜90年代) :不安定なNOが血液中で「S-ニトロソチオールの形」で安全にプール・輸送される仕組みを発見。また、NOがタンパク質に結合して細胞のスイッチを切り替える「S-ニトロソ化(翻訳後修飾)」の基礎を解明した。
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低酸素応答と代謝の解明 :細胞が酸素不足になった際、マイクロRNA(miR-210)がミトコンドリアの働きを変化させ、酸素呼吸から解糖系へと代謝をシフトさせるメカニズムを証明した。
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「ネットワーク医学(Network Medicine)」の創始(2010年代〜): 病気を単一の遺伝子ではなく、膨大なタンパク質の相互作用マップとして捉える新分野を確立。一見無関係に見える病気同士の分子レベルのつながりを解明し、既存の薬を別の病気に転用する「ドラッグ・リポジショニング」の基盤を作った。
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医学教育と一流誌の牽引 :世界中の医師のバイブル『ハリソン内科学(Harrison’s Principles of Internal Medicine)』の統括編集者を務めたほか、最高峰の医学誌『Circulation』の編集長や『NEJM』の副編集長を歴任し、世界の医学・医療の標準化に貢献した。
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受賞した賞:米国心臓協会(AHA)ディスティングイッシュド・サイエンティスト賞、特別研究成就賞、ポール・ダドリー・ホワイト賞、ゴールド・ハート賞、国際心臓研究学会(ISHR)傑出研究者賞など、循環器医学における最高峰の賞を多数受賞。
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不正時の所属と地位:ハーバード大学医科大学院・教授(Hersey Professor of the Theory and Practice of Medicine)、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院・内科長(Chairman of the Department of Medicine / Physician-in-Chief)。また、医学界で最も影響力のある学術誌の一つ『Circulation』の編集長(Editor-in-Chief)も務めていた。
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不正発覚時の所属と地位:同上(ハーバード大学医科大学院教授およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院内科長)。
《2》研究不正発覚と調査
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いつ、誰が、どのように不正を見つけたか:
2013年から2014年にかけて、内部告発者や複数の独立した研究グループから「アンバーサやロスカルゾらの発表した心臓幹細胞の再生実験が再現できない」という疑念が相次いで上がった。また、PubPeer等の社交メディア(SNS)を含むオンライン上で、論文内のウエスタンブロット画像や組織顕微鏡写真に不自然な重複・加工があることがネカトハンターたちによって指摘された。
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大学の調査:
所属機関であるハーバード大学医科大学院(HMS)とブリガム・アンド・ウィメンズ病院(BWH)が合同で、公式に研究公正調査委員会を立ち上げ、長期にわたる厳密な内部調査を行なった。
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調査の結論:
調査委員会は、彼らの研究グループから発表されたデータに「深刻な管理不備と、意図的なデータの改ざん・操作(操縦)」があったと結論付けた。特に心臓幹細胞(c-kit陽性細胞)が心筋を劇的に再生するという主張の根拠となった基礎データの多くが信用できないものであると判定された。
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大学の処分:
主犯と目されたアンバーサ教授(https://haklak.com/page_Piero_Anversa.html)は2015年にハーバード大学を事実上更迭(辞職)された。ロスカルゾ自身に対する直接的な「捏造の実行犯」としての処分は公表されていないが、彼が統括していた研究組織は解体へと向かい、最終的に2022年に内科長の座を退くこととなった。また、病院側が米政府へ1000万ドル(約10億円)の賠償金を支払うという甚大な社会的ペナルティを負った。
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調査報告書の公表:
ハーバード大学およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院は、個人のプライバシーや法的な和解手続きの関係上、詳細な全容が記された内部調査報告書そのものの一般一般公開は行なっていない。ただし、2018年に31本の論文撤回を各学術誌に公式勧告した事実をプレスリリースなどで発表した。 → Harvard, Brigham and Women’s call into question 31 papers based on prominent cardiologist’s research
《3》研究不正の具体的内容
ロスカルゾが共同著者として名を連ね、撤回に追い込まれた具体的な代表的論文は以下の通りである。
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文献1:Kajstura J, Rota M, Hall SR, …, Loscalzo J, Anversa P. “Evidence for Human Lung Stem Cells.” New England Journal of Medicine, 2011; 364: 1795-1806.
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具体的内容:ヒトの肺に「自己複製能を持つ定住性の肺幹細胞」が存在し、これをマウスの損傷した肺に注入すると肺組織が再構築されたと報告した画期的な論文。しかし、調査により論文内の複数の画像パネルが巧妙に操作・使い回し(改ざん)されていることが発覚した。オリジナルデータの信憑性が完全に失われたため、2018年に撤回された。
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文献2:Kajstura J, Urbanek K, Perl JM, …, Loscalzo J, Anversa P. “Cardiomyogenesis in the aging and failing human heart.” Circulation, 2012; 126: 1869-1881.
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具体的内容:人間の心臓は生涯を通じて高い頻度で心筋細胞が入れ替わっており、成体幹細胞によって再生されているという仮説を証明しようとした論文。この画像データに重大な不正( compromised data )が含まれていることが判明し、ロスカルゾ自身が同誌の編集長を務めていた時期(利害関係の衝突を避けるため別枠で処理された)の2014年に、いち早く撤回通知が出された。
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4.出版論文数・撤回論文数・疑惑論文数
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出版論文数:約1,200本(循環器内科学、一酸化窒素研究、システム生物学、ネットワーク医学などの分野で極めて多作であった)。
パブメド(PubMed)で、ジョセフ・ロスカルゾ(Joseph Loscalzo)の論文を「Joseph Loscalzo[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2026年の25年間の535論文がヒットした。
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撤回論文数:公式に確認されている撤回数は少なくとも4論文(ピエロ・アンバーサとの共同研究である『NEJM』1本、『Circulation』1本、『Circulation Research』2本など。アンバーサ自身は計19本以上が撤回されているが、そのうちロスカルゾが直接共著者になっていたものがこれらに該当する)。
「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジョセフ・ロスカルゾ(Joseph Loscalzo)を「Loscalzo, Joseph」で検索すると、 1論文が訂正、2論文が懸念表明、4論文が撤回されていた。
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疑惑論文数:「パブピア(PubPeer)」では、36論文にコメントがあった。
5.【提言】
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「ビッグネーム」に対する過剰な信認の打破
ハーバード大学の教授であり、著名な学術誌の編集長を兼任するような世界的権威(ロスカルゾ)が共著者にいるからといって、その論文の審査を甘くしたり、データを盲信したりしてはならない。学術界は、いかなる高名な研究者の論文であっても、提出されたデータの整合性を独立した目で検証する厳格さを維持すべきである。
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巨額の研究資金(グラント)依存体質の是正
今回の事件では、幹細胞による組織再生という魅力的なテーマに対してNIHから巨額の公的研究資金が投じられていた。資金の獲得そのものが研究の目的化すると、ラボ内で「資金提供者の期待に応えるポジティブなデータ」を出すよう無言の圧力(とハラスメント)が生じやすい。資金分配機関は、画期的な成果を急がせるだけでなく、追試・再現性の検証を義務付ける資金枠を設けるべきである。
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研究不正を防ぐ方法
今回の事件を防ぐためには、「共同研究における統括著者(シニアオーサー)としてのジョセフ・ロスカルゾ自身」が、名義だけの共著者にとどまらず、ラボ間で共有される全画像のオリジナルデータを提出させ、自らの目で直接検証を行なうべきであった。
ロスカルゾは、アンバーサらのデータ構築のプロセスに深く関与せず、名声や画期的な結論を鵜呑みにして共著者に名を連ね、最高峰の学術誌に論文を送り込んだ。
統括著者(シニアオーサー)は、論文の最終的な科学的正当性に全責任を負う立場である。したがって、他グループから提供された画像であっても、専用の不正検出ソフト(ImageTwinなど)を用いて身内でのクロスチェックを論文投稿前に「行なう」ことを義務化すべきであった。
6.【別の視点:サイバーストーキング】
ロスカルゾの研究不正疑惑について、サイバーストーキング(Cyberstalking、ネットストーキング)の問題が指摘されている。
サイバーストーキングは、インターネットやデジタル機器(SNS、メール、GPSなど)を悪用し、特定の人物にしつこく付きまとい、監視、脅迫、誹謗中傷などの迷惑行為や犯罪行為を行なうことを指す。
PubPeerの匿名掲示板でロスカルゾの評判を悪くしようと、仮名を使い追跡不可の「Proton Mail 」で投稿している。
ロスカルゾに関するデマは異常に多く、数百通はあるようだ。ロスカルゾ事件に関して、「撤回監視(Retraction Watch)」は「Proton Mail 」で数十通のメールを受け取った。多くのメッセージは韓国からと指摘する人もいたが、そうではないらしい。
PubPeerは、投稿内容を掲載前に担当者(モデレーター)が査読するが、誰がどんな意図で投稿したか、投稿がどう利用されるか、一切の責任を負わない、としている。また、投稿者を特定できない仕組みで、同じ人が別の仮名で何度でも投稿できる。このことで、「なりすまし」も可能で、ロスカルゾ自身が「なりすまし」で投稿していたとの指摘もある。
[白楽注:白楽の少ない経験だが、PubPeerのモデレーターの質はあまり良くない。あたりハズレはあるだろうが、匿名(の無料ボランティア?)だし、対応は非公開なので、盲目的に信頼しないこと]
「なりすまし」が可能だと、ネット上の情報は何が正しいのか、判定が難しくなる。
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事案の概要と発端:2023年(72歳推定)、科学界の論文検証ウェブサイト「PubPeer(パブピア)」上で、ロスカルゾが過去に発表した複数の論文に対して、画像の不自然な重複やデータ操作の疑念が、匿名のユーザーたちから次々と提示された。
これに激怒したロスカルゾは、PubPeerに対し、問題のあるコメントを削除するよう要請し、弁護士を通じてPubPeer側に(法的措置をちらつかせた)強硬な抗議書簡(Demand Letter)を直接送付した。
以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が得たロスカルゾがPubPeerの代表であるブランドン・ステル(Brandon Stell)に宛てた抗議書簡(2023年9月19日付け)の冒頭部分(出典:同)。全文(7ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/12/Stell-Brandon-CEO-PubPeer-re-Loscalzo-Joseph.pdf

- 共著者に「なりすまし」て論文撤回を学術誌に要請(2023年夏):
2023年夏、ロスカルゾ論文の共著者であるルイ・シェン・ワン(Rui-Sheng Wang)になりすました人物が『Circulation Research』誌の編集者に対し、自分たちの論文を「撤回するよう」要請した。その理由としては、「PubPeerのコメントで、当該論文の研究公正に問題があると指摘されたから」と述べた。
ところが、ルイ・シェン・ワンはそんな要請をした覚えはないと主張し、ロスカルゾは自身をおとしめる目的で執拗な嫌がらせを行なうサイバーストーカーだと述べた。
「なりすまし」ついでに書くと、2023年秋(?)、「ロスカルゾは、実績のある医師であり科学者です。倫理的な問題は一切ありません。PubPeerで悪意のあるコメントをしてはいけない。あなたの投稿は明らかに中傷的で違法です。投稿を削除し、謝罪すべきです」、というメールをリー博士(Dr. Lee :Jennie Lee)が書いている。これは、ロスカルゾ自身がリー博士になりすまして自己擁護したのではないかとも言われている。真偽不明。
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PubPeer側の対応と拒絶: ロスカルゾからの「コメントの削除」と「自身の論文に対する匿名投稿を6か月間全面的に禁止せよ」という強硬な要求に対し、PubPeerの共同創設者であるボリス・バーバー(Boris Barbour)らは、この要求を明確に拒絶した。
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プラットフォームとしての原則の堅持: PubPeer側は、サイト上に投稿されるコメントの意図や、それが他所でどのように悪用(悪質なメール送信など)されているかについて、プラットフォーム側に責任はないという立場を堅持した。
PubPeerのバーバーはメディアの取材に対し、「私たちにできるのは、自分たちの庭(PubPeer)を整え、サイト上の記述がガイドラインに沿って公平(事実ベース)であるかを確認することだけだ」と述べ、科学的な根拠(画像の重複指摘など)がある限り、権威からの圧力であってもコメントの削除や投稿規制には応じない姿勢を示した。
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学術界の反応とロスカルゾへのブーメラン: 結果として、この「PubPeerへの直接抗議」が「撤回監視(Retraction Watch)」によってリーク・報道されたことで、公益的な弁護団が動くような法廷闘争(SLAPP訴訟)へ発展する前段階で、ロスカルゾの異常な振る舞いが広く世に知れることとなった。
学術界からは、「まっとうな画像重複の指摘」に対して「サイバーストーキング」という過激な言葉を使って口封じを試みたとして、ロスカルゾの姿勢にさらなる批判が集まった。
結果として、ロスカルゾのこの強硬な姿勢は、自身の研究の健全性に対する疑念をさらに深める結果となり、国内外の社交メディア(SNS)上で「研究不正の隠蔽工作」「内部告発者に対するサイバー報復」であるとして激しい批判を浴びることとなった。
7.【白楽の感想】
〈ここはAIではなく、白楽が書いた〉
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チームプレイでの責任の取り方
ハーバード大学の教授で世界的権威であるジョセフ・ロスカルゾ(Joseph Loscalzo、写真出典)の研究不正事件である。地位の高い教授が絡む研究不正だが、ロスカルゾ教授自身は不正実行者ではない。現実には、今回のようなケースは多い。

現実には、米国も日本も、不正実行者の多くは若手(院生・ポスドク・若手教員)である。それで、若手だけを処分し、上位者を無処分にしている。
ネカト者処分の白楽原則:「受益割合と同じ割合で不正の責任を負う」・・・論文著者は全員、著者としての利益を得るので、その論文に不正が見つかれば、不正者として責任がある。その割合は受益の割合と同じ割合にすべきである。
しかし、この原則は白楽が提唱しているだけで、学術界に受け入れられていない。
また、現在の研究は個人プレイでなくチームプレイなのだが、誰がどのくらい研究成果の恩恵を受けるかの仕組みは規則化されていない。
現実は権力のある上位者が恩恵の配分を決めるので、恩恵の配分は上位者が有利で、不公正である。一方、研究不正が発覚すると、大学は上位者に甘く、こちらも上位者が有利で、不公正である。学術界は弱肉強食の世界で、「受益割合と同じ割合で不正の責任を負う」とはならない。
そして、ロスカルゾのように、権威と金をかさに、強硬で高圧的に自己擁護し、弁護士を雇って法廷闘争(SLAPP訴訟)するゾ、と恐怖で相手をやり込めようとする研究者は珍しくない。似たようなケース → 行動学:フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)(米) | 白楽の研究者倫理
7.【主要情報源】
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文献1:Retraction Watch, “Cyberstalking pits Harvard professor against PubPeer” (December 4, 2023).
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文献2:Retraction Watch, “Harvard and the Brigham investigating leading heart group for ‘compromised’ data” (April 8, 2014).
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文献3:Leonid Schneider, For Better Science, “Joe Loscalzo’s Drag Show” (October 23, 2023).
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文献4:Notice of Retraction: Kajstura J, et al. “Evidence for Human Lung Stem Cells.” New England Journal of Medicine, 2018; 379: 1880.
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文献5:Notice of Retraction: “Cardiomyogenesis in the aging and failing human heart.” Circulation, 2014; 129: e449.