/2026年8月29日(土)掲載/
米国の市場調査会社「オプフォーグッド社(Op4G)」と後継会社「スライス社(Slice、Slice MR)」が2014~2025年に、偽の回答者「アント(ants)」を使って捏造データを実データと偽り、約1,000万ドル(約10億円)を不正請求していた事件。近年は売上の約9割が捏造データによるものだったとされる。2022年にCOO(最高執行責任者)として入社したクリステン・トリップハーン(Kristen Tripphahn)の内部告発を機に発覚し、2025年4月に経営陣ら8人が起訴され、2026年2~8月に4人が有罪を認めた。裁判は現在も進行中である。被害は、グーグルやシアトル小児病院に加え、複数の大学の研究者が含まれる。例えば、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のアリソン・ラザード教授(Allison Lazard)の2023年の論文も直撃を受け、論文を撤回した。
〈AI使用:記事はAnthropic Claude Sonnet 5を使用し、白楽が画像添付と校閲(加筆・訂正)をした。ただ、Claudeの記述に間違いがあり、白楽にも間違いがあり、訂正しても、まだ、間違いはある(多分)〉
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.Op4GとSliceとは何か
3.事件の経過と内容
★Op4Gの創業(2010年)ー「善意の調査会社」というふれこみ
★捏造の開始(2014年)と「アント(ants)」システム
★スライス社への看板替え(2018年)と共犯者の拡大
★内部告発者クリステン・トリップハーンの登場(2022年)
★連邦大陪審による起訴(2025年4月)
★相次ぐ有罪答弁(2026年2月~3月)
★学術界への打撃ー論文の撤回・訂正
4.白楽の感想
5.主要情報源
●1.【概略】
本件は、医学や心理学、公衆衛生学などの学術研究でもしばしば利用されるオンライン市場調査(マーケットリサーチ)で発覚した大規模かつ長期にわたるデータ捏造事件である。
研究不正というと、研究者本人による論文データのねつ造・改ざんが典型例だが、本件はその一歩手前、すなわち研究者が「外部から購入した調査データそのもの」が、業者によって組織的に捏造されていたという点で特異である。
米国ニューハンプシャー州マンチェスター(Manchester)に本拠を置く市場調査会社「オプフォーグッド社(Op4G、正式名称Opinions for Good)」と、その事実上の後継会社である「スライス社(Slice、正式名称Slice MR)」は、2014年から2025年年初まで、実在しない、あるいは指示に従って虚偽の回答をする「アント(ants)」と呼ばれる偽の調査参加者を大量に動員し、正規の調査データであるかのように偽装して顧客に販売していた。
この行為により、少なくとも1,000万ドル(約10億円)を不正に請求していたとして、2025年4月、経営陣・幹部ら8人が連邦大陪審によって通信詐欺共謀罪で起訴された①②。
被害を受けた顧客には、グーグル社(Google)、シアトル小児病院(Seattle Children’s Hospital)といった大企業・医療機関のほか、ノースウェスタン大学(Northwestern University)、メリーランド大学(University of Maryland)、ウェイクフォレスト大学(Wake Forest University)、ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)、ノースウェル・ヘルス(Northwell Health)といった大学・医療研究機関が含まれていた①。
これらの研究機関の研究者は、自分たちが正規の調査データだと信じて分析・発表してきた研究の土台が、実は捏造データで汚染されていた可能性に直面し、データの再収集や論文の撤回・訂正を迫られる事態となった。
本件は、2026年8月6日、「撤回監視(Retraction Watch)」が記事「市場調査会社による10年越しの詐欺は、研究者にとって『腹にこたえる一撃』だ(Decade-long fraud by market survey firm a ‘gut punch’ for researchers)」で詳しく報じたことで、研究公正の観点からも広く注目されるようになった①。
●2.【Op4GとSliceとは何か】
オプフォーグッド社(Op4G、ロゴ出典)は2010年、米国で設立された市場調査(オンラインアンケート)会社である。
社名の「Op4G」は「Opinions for Good(善いことのための意見)」の略であり、創業当初は「調査に回答した参加者への謝礼の一部を、参加者が選んだ非営利団体(nonprofit organization)に寄付できる」という、社会貢献を前面に打ち出したビジネスモデルを掲げていた①。つまり、単なる謝礼目当てではなく「良いことをするために回答する」という建前で、企業や大学からの調査依頼を集めていたのである。
しかし2018年頃、Op4Gの創業者や幹部の一部は、この捏造データ事業を新会社「スライス社(Slice、正式名称Slice MR)」に移し替えた①②。
その後、2019年頃にはインド在住のアーヴィンド・アイヤー(Arvind Iyer、別名S・アラビンダン(S. Aravindan))が経営する「エスエヌウェア・リサーチ社(SNWare Research)」が、2021年頃にはセルビア在住のカタリーナ・グルブレシック(Katarina Grubljesic)が経営する「ブライト・アナリティック・コンサルティング社(Bright Analytic Consulting)」が、加わり、捏造データの供給網は米国、セルビア(Serbia)、インド(India)、ブラジル(Brazil)の4カ国にまたがる国際的なものへと拡大していった②③。
市場調査業界の業界団体である「インサイツ・アソシエーション(Insights Association)」は、本件発覚後にスライス社とエスエヌウェア・リサーチ社の会員資格を停止し、「業界の根幹にある信頼を根本的に侵害するものだ(“fundamentally violates the trust at the core of the industry”)」と非難する声明を出した。ただし同団体は、この事件を業界全体に共通する問題ではなく「孤立した事例(isolated incident)」だと位置づけている⑤⑥。
●3.【事件の経過と内容】
★Op4Gの創業(2010年)ー「善意の調査会社」というふれこみ
前述のとおり、Op4Gは2010年の創業当初、参加者への謝礼の一部を非営利団体に寄付できるという「社会貢献型」の調査会社として売り出された。
ノースウェスタン大学のデイヴィッド・ヴィクターソン教授(David Victorson、写真出典)は、2013年に前立腺がん(prostate cancer)患者を対象としたオンライン調査で初めてOp4Gを利用しており、この時点のデータには特に問題は見つかっていない①。少なくとも創業初期から数年間は、額面どおりの事業を行なっていた可能性が高い。
★捏造の開始(2014年)と「アント(ants)」システム

検察の起訴状によれば、2014年、Op4Gの最高執行責任者(COO)フランク・ヘイデン(Frank Hayden、57歳、写真左出典、イリノイ州エバンストン(Evanston)在住)、ダニエル・ハリマン(Daniel Harriman、38歳、写真右出典、アラバマ州ハンツビル(Huntsville)在住)、フランク・ナッポ(Frank Nappo、写真右下出典、55歳、ニューハンプシャー州ライ(Rye)在住)ら上級幹部が、会社の収益を増やす目的で、捏造した調査データを生成することを決定した②。
その手口は、米国、セルビア、インド、ブラジルなどから「アント(ants、蟻)」と呼ばれる人物たちを集め、実在する調査参加者になりすまさせて、名目的な謝礼と引き換えに虚偽の回答を行なわせるというものであった①②⑤。従業員自身やその家族・友人が回答者を装うこともあったという①。
「アント」たちには、スクリーニング(適格性確認)の質問にどう答えるか、1回の調査にどれくらいの時間をかけるべきかといった具体的な指示が与えられ、さらに実際の所在地を隠すためにVPN(仮想プライベートネットワーク)を使うよう奨励されていた②③④。
こうして生成された虚偽データは、正規の(実在する)回答者から得られたデータと巧妙に混ぜ合わされた。この過程は関係者の間で「卵をかき混ぜる(scrambling the eggs)」と呼ばれていたという①。
正規データと偽データを見分けにくくすることで、顧客企業や研究者による検出を逃れる狙いがあったとみられる。近年では、Op4Gとスライス社の売上の約9割が、こうした捏造データによるものだったと検察は指摘している③。
★スライス社への看板替え(2018年)と共犯者の拡大
2018年、捏造データ事業はOp4Gから新会社スライス社(Slice、Slice MR)に移された①②。
名目上は新会社への「衣替え」だが、実態としては同じ関係者による捏造データビジネスが継続された。この間、営業担当副社長のライアン・スタウト(Ryan Stoudt、当時38歳、テキサス州ダラス(Dallas)在住、写真右出典)、ニュージャージー州ベローナ(Verona)在住のアーチー・イグナシオ(Archie Ignacio、46歳)も悪事に加わったとされる②。
さらに2019年頃にはインドのアーヴィンド・アイヤー(SNWare Research社)、2021年頃にはセルビアのカタリーナ・グルブレシック(Bright Analytic Consulting社)が加わり、ブラジル在住のストラヒンジャ・グルブレシック(Strahinja Grubljesic、38歳、写真左出典、リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)在住)も共謀者として起訴された②③。
合計8人の被告は、米国、セルビア、インド、ブラジルの4カ国にまたがっており、国際的な詐欺共謀事件としての性格を強めている。
★内部告発者クリステン・トリップハーンの登場(2022年)
事件が明るみに出る大きなきっかけとなったのは、2022年2月にOp4GのCOO(最高執行責任者)として入社した、女性のクリステン・トリップハーン(Kristen Tripphahn、写真出典)による内部告発であった。
トリップハーンは入社から半年ほどで、会社の実態が捏造データを製造・販売する事業であることに気づいたという①。
トリップハーンは後に、ニュースレター配信サービス「サブスタック(Substack)」への投稿の中で、「私も他の多くの人と同じように、Op4Gはこの世界で何か良いことをしている会社だと信じていた(“I, like many others, believed Op4G was all about doing some good in this world”)」と振り返り、「しかし実際は、それとはまったく正反対だった(“nothing could have been further from the truth”)」と述べている①。 → 2025年5月7日:The Cost of Coming Forward – by Kristen Tripphahn
彼女の告発が、後の連邦捜査・起訴につながったとみられる。
★連邦大陪審による起訴(2025年4月)
2025年4月15日、連邦大陪審は前述の8人を通信詐欺共謀罪で起訴した。
ニューハンプシャー地区連邦検事局(U.S. Attorney’s Office, District of New Hampshire)は同月22日、この起訴内容を公表した②⑤⑥。
起訴されたのは、フランク・ヘイデン(57歳)、ダニエル・ハリマン(38歳)、フランク・ナッポ(55歳)、ライアン・スタウト(38歳)、カタリーナ・グルブレシック(46歳、セルビア・ベオグラード(Belgrade)在住)、ストラヒンジャ・グルブレシック(38歳、ブラジル)、アーチー・イグナシオ(46歳)、アーヴィンド・アイヤー(別名S・アラビンダン、インド・デリー(Delhi)在住)の8人である②。
捜査を主導したのは米連邦捜査局(FBI)であり、起訴状によれば被害を受けた顧客(被害者)は少なくとも64件確認されている。
被害者にはグーグル社、シアトル小児病院のほか、複数の米国大学、大手市場調査企業が含まれる③⑦。
シアトル小児病院については、捏造された調査データに基づいて医療上の判断を下していた可能性があると指摘されている⑦。
事件の起訴を担当したのはアレクサンダー・S・チェン(Alexander S. Chen)連邦検事補で、当時のニューハンプシャー地区首席代理連邦検事ジェイ・マコーマック(Jay McCormack)が起訴内容を発表した②。
通信詐欺共謀罪は、有罪となった場合、最長20年の禁固刑、最長3年の保護観察付き釈放、そして最大25万ドルまたは詐欺による総利得・総損失の2倍のいずれか高い方の罰金が科される可能性がある重罪である③④⑦。
★相次ぐ有罪答弁(2026年2月~8月)
起訴から約1年後の2026年に入り、被告らの一部が相次いで有罪を認めた。
まず2026年2月2日、Op4GのCOOであったフランク・ヘイデンが通信詐欺共謀罪について有罪を認め、量刑審理は同年5月12日に予定された④。続いて同年2月24日、ダニエル・ハリマンが有罪を認め、量刑審理は6月15日に予定された③④。さらに3月5日には、営業担当副社長だったライアン・スタウトが有罪を認め、量刑審理は6月25日に予定されている④。
2026年8月5日付のニューハンプシャー州のラジオ局WZID(95.7FM)の報道によれば、4人目の被告フランク・ナッポ(Frank Nappo、55歳、ニューハンプシャー州ライ在住、Op4G・スライス社の上級経営職)も通信詐欺共謀罪について有罪を認めた(WZID記事、同内容はWFEA 1370AMにも掲載)。
これで、8人の被告のうち少なくとも4人(ヘイデン、ハリマン、スタウト、ナッポ)が有罪を認めた。
いずれも、通信詐欺共謀罪1件について有罪を認めたもので、最長20年の禁固刑、3年の保護観察付き釈放、最大25万ドルまたは損失額の2倍の罰金という同様の量刑リスクを負っている③④。
量刑審理の予定日は過ぎているが、実際の量刑結果(懲役年数・罰金額)を報じた記事はまだ見つかっていない。連邦裁判所の量刑審理は延期されることも多く、司法省(DOJ)もニューハンプシャー地区のプレスリリース一覧に量刑結果の発表を出していない。
ライアン・スタウトの司法取引合意書(事件番号No. 25-cr-31-LM-04、2025年12月10日付で裁判所に提出:以下)によれば、検察側は量刑ガイドライン上の損失額を950万~2,500万ドル(約9億5千万~25億円)と主張したうえで、ガイドラインの下限での量刑を求める方針であり、スタウトは共犯者らと連帯して、少なくとも950万ドル(約9億5千万円)の被害弁償(restitution)を支払う義務を負うことに同意している⑧。
以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が情報公開法で得た2025年12月10日提出の裁判文書の冒頭部分(出典:同)。全文(15ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2026/08/Op4G-plea-agreement.pdf

海外(セルビア、ブラジル、インド)在住の被告については、身柄引き渡し(身柄拘束・引渡し)の手続きが今後の焦点になるとみられるが、2026年8月時点で、レトラクションウォッチの記事はこの点について明確な続報を伝えていない。
海外(セルビア、ブラジル、インド)在住の被告については、身柄引き渡し(身柄拘束・引渡し)の手続きが今後の焦点になるとみられるが、2026年8月時点で、撤回監視の記事はこの点について明確な続報を伝えていない。
★学術界への打撃ー論文の撤回・訂正
本件が研究公正の観点から重大なのは、単なる企業間の商取引詐欺にとどまらず、公表された学術論文の信頼そのものを揺るがしている点である。
ノースウェスタン大学のデイヴィッド・ヴィクターソン教授は、NIHの助成を受け、2020年にマインドフルネス(mindfulness)を測る指標を標準化する研究でOp4Gのデータを使用していた。
2025年4月に司法省の起訴が報じられたことを知ったヴィクターソン教授は、公表準備が整っていた複数の論文原稿を含め、起訴の対象期間に該当するデータをすべて廃棄することを決めた。
教授は「起訴の対象期間に含まれていたので、私たちはそのデータを全部捨てました(“Because they were within the period of the indictment, we scrapped them entirely”)」と述べ、この対応によって「人生の何年分もの時間を失った」と損失の大きさを語っている①。
研究チームはデータを再収集・再分析し、最終的な数値は変わったものの、研究の結論自体は維持されたという①。教授は今回の一件を「まさに腹にこたえる一撃だ(“It’s such a gut punch”)」と表現した①。
すでに撤回された論文もある。2023年に学術誌『Journal of Adolescent and Young Adult Oncology(思春期・若年成人腫瘍学誌)』に掲載された、社交メディアを通じた若年成人がん患者への支援に関する論文は撤回された。 → 2026年6月25日の撤回公告
連絡著者はノースカロライナ大学チャペルヒル校のメディア研究担当アリソン・ラザード教授(Allison Lazard、写真出典)である。
撤回理由として、「著者らは自分たちに捏造データが提供されたと断定できないが、論文の信頼を失った(“While the authors cannot conclusively infer that fraudulent data was provided to them, they have lost confidence in the conclusions”)」と説明している①。
また、シカゴ大学(University of Chicago)のステイシー・テスラー・リンダウ教授(Stacey Tessler Lindau、写真出典)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行期にOp4Gを通じて約3,200人の回答者から集めたデータを用いた2本の研究について、適切な訂正または撤回を行なう予定であるという①。
このほか、メリーランド大学、ウェイクフォレスト大学、ノースウェル・ヘルスの研究者らも、Op4G由来のデータを用いた研究の点検作業に追われている①。
これらの事例が示すのは、研究者自身に不正の意図がまったくなくても、外部業者から購入したデータそのものが汚染されていれば、公表論文全体の信頼が損なわれてしまうという、研究公正上の新しい、しかし本質的には古くからある問題である。
●4.【白楽の感想】
《1》外注データ
本件で白楽が最も注目したのは、研究不正の「発生源」が研究者自身ではなく、研究者が信頼して利用した外部の商業調査会社だったという点である。
日本でも、心理学・医学・公衆衛生学分野を中心に、インターネット調査会社に調査を外注し、そのデータをもとに論文を執筆する研究は年々増えている。
研究者は通常、調査会社が提供する「有効回答」を疑うことなく統計解析に用いる。しかし本件が示すように、調査会社が組織的に「アント」を使って回答を捏造していれば、研究者にはそれを見抜く手立てがほとんどない。
これは、研究者個人の注意義務だけではとうてい防ぎきれない種類の不正であり、データの出所を丸ごと信頼するという研究慣行そのものの脆弱性を突いたものだと言える。
《2》内部告発
この事件が10年以上にわたって発覚しなかった点も見過ごせない。
2014年に捏造が始まり、発覚のきっかけとなったのは、2022年に入社したクリステン・トリップハーンによる内部告発だった。
つまり、外部の研究者や顧客企業からの疑義ではなく、内部関係者の良心によって初めて明るみに出たのである。
日本の研究不正事件でも、内部告発が発覚の端緒になるケースは少なくないが、本件はあらためて、組織内部に「おかしいと声を上げられる人」がいることの重要性を示している。
逆に言えば、内部告発者が現れなければ、この種の組織的なデータ捏造は今後も見過ごされ続ける危険がある。
《3》データ品質の管理
商業調査会社の「品質保証」のあり方についても、日本の研究者・研究機関は本件を他山の石とすべきだろう。
多くの調査会社は、回答者のなりすまし防止や重複回答の排除といった品質管理策を謳っているが、その実効性を外部から検証する仕組みはほとんどない。
学術誌や研究費配分機関が、外部調査データを用いた研究に対して、調査会社の品質保証プロセスの開示や、データの出所の検証可能性(traceability)を求めるようなガイドラインを整備することも、今後の検討に値すると考える。
《4》国際ネカト裁判所
なお、本件の被告8人のうち、少なくとも4人(フランク・ヘイデン、ダニエル・ハリマン、ライアン・スタウト、フランク・ナッポ)はすでに有罪を認めているが、海外(セルビア、ブラジル、インド)に居住する被告については、身柄の確保や引き渡しが今後どう進むのか、2026年8月時点の報道からは明らかでない。
国境をまたいだ「データ工場」型の不正は、捜査・訴追の実効性という点でも大きな課題を抱えていることが、本件からもうかがえる。
《5》何を信じる、誰を信じる
社会では、ニセ警察官、オレオレ詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺、金融商品詐欺、キャッシュカード詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺など、詐欺、詐欺、詐欺、と詐欺が満載である。
学術研究の世界では、昔からデータ捏造・改ざん、盗用があり、学歴詐称、ニセ学位はあった。
二重出版や著者在順も昔からあった。
そして、日本ではまだ学術不正とされていないどころか、問題視もされていないが、結構大きな詐欺問題がある。
論文工場(論文売買)、特許工場(特許売買)、談合出版(共謀出版)、査読偽装、査読工場、引用カルテル、引用強要(引用強制)、過剰自己引用、引用詐欺、架空文献などである。これらをまとめて、白楽は出版詐欺(編集詐欺)と総称している。
そして、今回の「オプフォーグッド社(Op4G)」事件である。外注データが捏造だった。
そういえば、2020年、米国のサージスフィア社(Surgisphere)もCOVID-19(新型コロナ)治療薬の膨大なデータを捏造していた。捏造データは患者の命を左右し、世界の感染症対策を混乱させた。
そして、4日前の2026年8月25日、米国の医療データベース「TriNetX」の利用に懸念が表明されている。 → 2026年8月25日記事: Guest post: The uncomfortable truth an explosion of papers reveals about authors’ access to data – Retraction Watch
米国の医療データベース「TriNetX」を使った論文がPubMedに4,400件以上登録されている(2026年8月19日時点)が、多くの著者は集計値のみを見て論文を書いている。患者個々の生データ(line-level data)にアクセスしていない。捏造・改ざんデータかもしれない。
これらの外部データはどこまで信頼できるか、捏造・改ざんがどの程度あるのか、データを提供する企業の内部の人間にしかわからない。
今の時代、「誰を信じればいいの?」
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研究データの「出所」を疑わずに信じ切ってしまう構造は、日本の学術界にも共通する脆弱性である。本件を単なる「米国の一企業の犯罪」として片づけるのではなく、外部委託データに依存する研究のあり方そのものを見直す契機としたい。
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●5.【主要情報源】
①2026年8月6日、撤回監視(Retraction Watch)記事「Decade-long fraud by market survey firm a ‘gut punch’ for researchers」
https://retractionwatch.com/2026/08/06/op4g-market-research-indictment-fake-data/
②2025年4月22日(起訴日は同月15日)、米国司法省ニューハンプシャー地区連邦検事局(U.S. Attorney’s Office, District of New Hampshire)プレスリリース「Eight Defendants Indicted in International Conspiracy to Bill $10 Million for Fraudulent Market Survey Data」
https://www.justice.gov/usao-nh/pr/eight-defendants-indicted-international-conspiracy-bill-10-million-fraudulent-market
③2026年2月24日、米国司法省ニューハンプシャー地区連邦検事局プレスリリース「Second Defendant Pleads Guilty for Role in $10 Million International Fraudulent Market Survey Conspiracy」
https://www.justice.gov/usao-nh/pr/second-defendant-pleads-guilty-role-10-million-international-fraudulent-market-survey
④2026年3月5日、米国司法省ニューハンプシャー地区連邦検事局プレスリリース「Third Man Pleads Guilty for Role in $10 Million International Fraudulent Market Survey Conspiracy」
https://www.justice.gov/usao-nh/pr/third-man-pleads-guilty-role-10-million-international-fraudulent-market-survey
⑤2025年4月22日、mrweb.com「Daily Research News Online」no.38172記事「Eight Charged in US Court with $10m Survey Fraud」
https://www.mrweb.com/drno/news38172.htm
⑥2025年4月22日、research-live.com(Market Research Society運営)記事「Eight charged with survey fraud in US」
https://www.research-live.com/article/news/eight-charged-with-survey-fraud-in-us/id/5138203
⑦2026年2月3日、スティーヴ・ロード(Steve Rhode)記者、getoutofdebt.org記事「$10M Fake Survey Scheme: How Fraud Ants Duped Google」
https://getoutofdebt.org/230547/market-survey-fraud-2026
⑧2025年12月10日(裁判所提出日)、米国ニューハンプシャー地区連邦地方裁判所、ライアン・スタウト(Ryan Stoudt)の司法取引合意書(Plea Agreement、事件番号No. 25-cr-31-LM-04) https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2026/08/Op4G-plea-agreement.pdf