サルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian)(米)

/2026年9月1日(火)掲載/

マズマニアンは、米国のカリフォルニア工科大学(Caltech)の教授で、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)研究の世界的権威である。NIHから約47億円の研究費を得ているスーパースターである。ところが、パーキンソン病に関する2016年の『Cell』論文、不安行動と腸内代謝物に関する2022年の『Nature』論文に、2026年、ネカトハンターのマーカス・エングルンド(Markus Englund)がデータの異常を指摘した。この研究不正疑惑事件について解説する。

〈AI使用:記事は白楽が指定した書式で、Claudeに解説させ、白楽が画像添付と校閲(加筆・訂正)をし、「4.出版論文数・h指数・評価・撤回論文数・疑惑論文数」「6.白楽の感想」を加えた。ただ、Claudeの解説に複数の間違いがあり訂正しました。白楽も人間です。まだ、間違いはあるかもしれません〉

ーーーーーーー 目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.学歴・職歴・研究不正歴(年表)
3.発覚・調査の経緯
4.出版論文数・h指数・評価・撤回論文数・疑惑論文数
5.提言
6.白楽の感想
7.主要情報源
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1.【概略】

サルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian、Sarkis K Mazmanian、1972年12月19日生まれ、2026年現在53歳、写真出典)は、腸内細菌叢(マイクロバイオーム)研究の世界的権威であり、米国のカリフォルニア工科大学(Caltech)の教授である。

パーキンソン病、自閉症スペクトラム障害(ASD)、不安関連行動と腸内細菌の関係を示した一連の研究は、それぞれ『Cell』誌や『Nature』誌に掲載され、数千件規模の被引用数を誇る。

2012年にはマッカーサー・フェロー(通称「天才賞」)を受賞し、学術界のみならずバイオテック業界でも高い評価を受けてきた人物である。

ところが、2026年3月から4月にかけて、オランダ在住のソフトウェア開発者であるマーカス・エングルンド(Markus Englund)は、独自に開発した検出プログラムにより、マズマニアンが関与した2016年の『Cell』誌論文(パーキンソン病と腸内細菌の関係を示した著名な論文)と、2022年の『Nature』誌論文(腸内細菌由来の代謝物と不安行動の関係を示した論文)のデータセットに、説明が困難な「数値の重複」があると指摘した。

マズマニアン本人は「意図しない誤り(honest mistakes)」であると説明しているが、統計学者や他の研究者からは疑義が呈されており、両誌は現在調査を進めているる。

本稿執筆時点(2026年8月)では、大学による正式な「研究不正(research misconduct)」の認定には至っておらず、あくまで「データ公正(data integrity)」をめぐる係争中の事案であることを、あらかじめお断りしておく。

本稿では、この事案を時系列で整理したうえで、「研究不正を防ぐ」観点から、教訓を導き出したい。

2.【学歴・職歴・研究不正歴(年表)】

  • 1972年12月19日:米国で出生(0歳)
  • 1995年:カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にて理学士(B.S.)取得、専攻は微生物学(推定22~23歳)
  • 2002年:UCLAにて博士号(Ph.D.)取得、指導教員はオラフ・シュニーウィンド(Olaf Schneewind)(29歳)
  • 2002年:ヘレン・ヘイ・ホイットニー博士研究員フェローシップ(Helen Hay Whitney Fellowship)獲得。ハーバード大学・医科大学院のデニス・カスパー(Dennis Kasper)研究室にてポスドクとして研究(29歳)
  • 2005年:バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)由来の分子が哺乳類の免疫機能を調整することを解明した論文を発表(32歳)
  • 2006年:ハーバード大学・医科大学院・助教授に就任も同年内にカリフォルニア工科大学(Caltech)に移籍、助教授(Assistant Professor)就任(33歳)
  • 2006年:サール・スカラー(Searle Scholar)受賞(33歳)
  • 2012年:カリフォルニア工科大学(Caltech)・正教授(Professor)に昇任(39歳)
  • 2012年:マッカーサー・フェローシップ(MacArthur Fellowship、通称「天才賞」)受賞(39歳)
  • 2015年:ヘリテージ・メディカル・リサーチ・インスティテュート(HMRI:Heritage Medical Research Institute)インベスティゲーターに就任(42歳)
  • 2016年:パーキンソン病モデルマウスにおいて腸内細菌が運動機能障害を促進することを示した論文(Sampson他、後述)を『Cell』誌に発表(43歳)。この論文が後に疑義の対象となる
  • 2019年:自閉症スペクトラム障害(ASD)児由来の腸内細菌を移植したマウスが自閉症様行動を示すとする論文(Sharon他)を『Cell』誌に発表。発表当初から統計手法への批判が起きる(46歳)
  • 2022年:腸内細菌由来の代謝物4-エチルフェニル硫酸が不安様行動と関係するとの論文(Needham他、後述)を『Nature』誌に発表(49歳)。この論文も後に疑義の対象となる
  • 2024年:Caltechのマーキン・インスティテュート冠教授(Merkin Institute Professor)に就任(51歳)
  • 2026年1月:エングルンドの協力者ベン・ウォーデン(Ben Woden)が、2016年『Cell』論文のデータについてPubPeerに疑義を投稿(53歳)
  • 2026年3月24日:科学メディア『The Transmitter』が、2016年『Cell』論文と2022年『Nature』論文の双方でデータ重複が指摘されている状況を報道(53歳)
  • 2026年4月6日:『Retraction Watch』が、エングルンドの活動を特集する記事の中で、マズマニアン研究室の複数論文における数値重複問題を報道(53歳)
  • 2026年8月現在:『Cell』誌・『Nature』誌ともに調査を継続中。Caltechによる公式な研究不正調査の開始は、本稿執筆時点で確認されていない

3.【発覚・調査の経緯】

《1》研究人生

サルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian、写真出典)は米国で生まれ(アルメニア系米国人)で、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で学士号・博士号を取得した。

獲得研究費の総額について、公表された正確な累計額は確認できなかったが、NIHから2009~2023年の15年間に45件、計47,803,264ドル(約47億8千万円)の研究費を獲得していた(以下、2023年分)。 [白楽の感想:巨額ですね~]→ RePORT ⟩ Sarkis Mazmanian 

他に、エメラルド財団、サイモンズ財団などからの支援もあり、長年にわたり大型の競争的研究資金を継続的に獲得してきたことがうかがえる。

研究上の功績としては、腸内細菌バクテロイデス・フラジリスが免疫系を調整するという発見(2005年)を皮切りに、腸内細菌叢と脳・神経系の関係(いわゆる「腸脳相関」)の分子基盤を次々と解明し、この分野のパイオニアの一人として国際的に高く評価されている。

受賞歴としては、ヘレン・ヘイ・ホイットニー・フェローシップ(2002年)、サール・スカラー(2006年)、そして2012年のマッカーサー・フェローシップ(「天才賞」)が挙げられる。

また、マイクロバイオーム関連のバイオテック企業ベルテロ(Vertero、旧アクシアル・セラピューティクス)の共同創業者・取締役・科学顧問も務め、プロバイオティクス企業シード(Seed)の取締役でもあるなど、学術界とビジネス界の両方で影響力を持つ。

疑義が指摘された論文が発表された時点(2016年・2022年)、マズマニアンはいずれもCaltechの正教授・冠教授であった。疑義発覚時(2026年)の所属・地位も同じくCaltechのルイス&ネリー・スー冠教授(現マーキン・インスティテュート冠教授)であり、地位に変化はない。

《2》研究不正発覚と調査

発覚のきっかけを作ったのは、大学の研究者や査読者ではなく、オランダ在住のソフトウェア開発者で、ネカトハンターのマーカス・エングルンド(Markus Englund、写真出典)である。

エングルンドは「サイエンス・ディテクティブ(科学探偵)(Science Detective)」というプロジェクトを立ち上げ、オープンアクセスのデータリポジトリである「Dryad」に公開された研究データセットをスキャンし、説明のつかない数値の重複(コピー&ペーストされたような数値の並び)を自動検出するプログラムを開発した。検出後はGoogleのAIモデル(Gemini 3.1)を用いて誤検出(偽陽性)を除外する仕組みも導入した。

エングルンドが2016年に『Cell』誌に掲載されたマズマニアンのパーキンソン病論文のデータセットを解析したところ、健常マウス群と腸内細菌再定着マウス群の運動機能データ(粘着テープ除去試験)のうち、約半数の数値が偶然とは考えにくい形で完全に一致していることを見つけた。 → Dryad | Data: Gut microbiota regulate motor deficits and neuroinflammation in a model of Parkinson’s disease

2026年1月、この数値の一致をPubPeer上に投稿した。以下出典:https://pubpeer.com/publications/765CBDC8E738AC8FD5CF0B1A2F6A2E#15

エングルンドは、Dryadおよび『Cell』誌編集部にも通報した。

これを受けてDryadは当該データセットに「懸念表明(Expression of Concern)」を掲示し、『Cell』誌編集長ジョン・ファム(John W. Pham、写真出典)は「現在調査中」との立場を示した。

同様の手法で、2022年の『Nature』誌に掲載された不安行動と腸内代謝物に関する論文についても、匿名の投稿者がPubPeer上でデータの重複を指摘した(次節《3》に記載)。

『Nature』誌の生物・臨床・社会科学分野の編集責任者フランチェスカ・チェザーリ(Francesca Cesari、写真出典)は「確立された手続きに従って慎重に調査している」とコメントしている。

2026年8月時点で、Caltechが正式に「研究不正調査(investigation)」を開始したことを示す公式発表は確認されていない。

Caltechの研究公正方針では、研究不正は「捏造・改ざん・盗用(FFP)」と定義され、「誠実な誤り(honest error)」は不正に該当しないとされている。

マズマニアン本人は一貫して「意図しない誤り」であり、結論には影響しないと主張している。

オックスフォード大学の発達神経心理学の名誉教授で、研究公正の重鎮であるドロシー・ビショップ(Dorothy Bishop)は、マズマニアンの見解に同意していない。ビショップは、このような重複データは研究そのものの信頼性に欠けると批判している。

2026年8月現在、本件は、調査報告書の公表を確認できていない。つまり、正式に「研究不正」と認定されてはいない。学術界と学術誌によるデータ不正疑惑・懸念表明の段階にとどまっている。

《3》研究不正の具体的内容

疑義が指摘されている主な論文は以下の2本である。

論文1:

具体的な疑義部分は前節「《2》研究不正発覚と調査」に記載したので省略するが、以下の論文である。

指摘内容:疑惑個所を上記したが、α-シヌクレインを過剰発現するマウスの運動機能(粘着テープ除去時間)データにおいて、無菌化・腸内細菌再定着させた野生型マウス群とα-シヌクレイン過剰発現マウス群それぞれ10個のデータ点のうち、約半数の数値が完全に同じだと指摘されている。

さらに一部のマウスの除去時間が約0.5秒という、生物学的に成立しにくい極端な値であることも、他の研究者から疑問視されている。この論文は3,000件以上引用され、腸内細菌とパーキンソン病研究における代表的な論文である。

論文2:

指摘内容:微生物代謝物4-エチルフェニル硫酸を投与したマウス群と野生型マウス群の不安行動(オープンフィールド試験における滞在時間)のデータに、重複した数値が多数確認されている。以下出典:https://pubpeer.com/publications/BAA5B7CE67CBB1A70822C1D84FA5FE#1

第一著者でもう1人の連絡著者ブリタニー・ニーダム(Brittany Needham、写真出典)は取材に対し、重複値を正しい値に置き換えても結論は変わらないと弁明している。

論文3:

2019年に『Cell』誌に発表された自閉症スペクトラム障害(ASD)関連論文(Sharon他、doi:10.1016/j.cell.2019.05.004)についても、発表当初から統計的手法(サンプルサイズの少なさなど)への批判がある。https://pubpeer.com/publications/B521D325772244D8F656F1ED193ACA

ただしこの論文について、今回のようなデータ重複は、本稿執筆時点で確認できていない。

4.出版論文数・h指数・評価・撤回論文数・疑惑論文数

〈ここはAIではなく、白楽が書いた〉

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★ScholarGPS 

ScholarGPS ではサルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian、Sarkis K Mazmanian)は、148報出版、Predicted citations(予測被引用数)は82,528回、Predicted h-index(予測h指数)は98、と極めて高評価である。

ScholarGPSでは、各研究分野の上位0.05%に入る卓越した研究者を「Highly Ranked Scholar」、また0.5%に入る卓越した研究者を「Top Scholar」としている。

マズマニアンは、「Highly Ranked Scholar」で、工学領域では世界2,180位などである(図出典:Sarkis K. Mazmanian | Scholar Profiles and Rankings | ScholarGPS)。

論文出版と被引用数の年次変化(図出典:Sarkis K. Mazmanian | Scholar Profiles and Rankings | ScholarGPS

★パブメド(PubMed)

2026年8月31日現在、パブメド(PubMed)で、サルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian、Sarkis K Mazmanian)の論文を「Sarkis Mazmanian[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2026年までの25年間の107論文がヒットした。

2026年8月31日現在、撤回論文は0論文だった。

研究者情報サイト「ResearchGate」によれば、マズマニアンの研究業績は178件、被引用数は65,457件(2026年時点)だった。

★撤回監視データベース

2026年8月31日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでサルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian、Sarkis K Mazmanian)を「Mazmanian」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2026年8月31日現在、「パブピア(PubPeer)」で、サルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian、Sarkis K Mazmanian)の論文のコメントを「authors:”Sarkis K. Mazmanian”」で検索すると、9論文にコメントがあった。

コメントのやり取りが20回の論文や15回の論文があり、攻防戦が激しい。

5.【提言】

〈ここは白楽ではなく、AIが書いた〉

  • 1.研究不正を防ぐ方法:査読

    今回の事案でまず問われるべきは、論文を受理した『Cell』誌・『Nature』誌の査読体制と、生データの検証プロセスである。両誌は、統計的に「あり得ない」重複パターンを含むデータセットを、査読段階で十分に精査できなかった。

    今後は、投稿時点でのデータセット提出を必須化し、AIを用いた自動異常検知(エングルンド氏が用いたような手法)を査読プロセスに組み込むことが有効と考えられる。

  • 2.研究不正を防ぐ方法:大学

    Caltechをはじめとする所属機関は、外部の指摘(PubPeerなど)が寄せられた場合に、速やかに調査の開始・非開始を判断し、その経過を透明性をもって公表する体制を強化すべきである。現状のように「学術誌まかせ」で数か月〜数年にわたり事案が宙に浮く状況は、研究者本人にとっても、研究成果を利用する企業や医療現場にとっても望ましくない。[白楽注:AIのこの回答は、真っ当であるが、官僚的の答弁で、実効性はない。罰則付きの規則にしなければ、大学は対応しない。今までの数10年の振る舞いを見れば明白]

    最後に、研究者自身に対しては、大規模な動物実験データを扱う際のExcel等でのデータ管理を厳格化し、共同研究者間でのダブルチェック体制を制度化することが、今回のような「意図しない誤り」を未然に防ぐ最も基本的な対策となる。

6.【白楽の感想】

〈ここはAIではなく、白楽が書いた〉

《1》学術研究者ではないネカトハンター

サルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian)の不正疑惑よりも、そのデータの異常を見つけたマーカス・エングルンド(Markus Englund)に驚いた。

エングルンドは学術研究者ではなく、ソフトウェア開発者だそうだ。

学術界の外の人が、ネカトハンターとして学術論文のネカトを見つけている。それをブログに書いて、学術界の汚染箇所を掃除している。

学術界の人は、恥ずかしくないのか、と思った。

同じように学術研究者ではないネカトハンターとして有名な人にチェシャー(Cheshire)(仮名)もいる。この人は「Actinopolyspora biskrensis」(PubPeerが勝手につけたPubPeer名)も名乗っているが、現在は、実名であるケビン・パトリック(Kevin Patrick)でも活躍している。この人の活躍は相当スゴイ。

最近売り出し中の中国のゲン・ホンウェイ(耿 洪偉、Geng Hongwei)はブロガーでネカトハンターだけど、元博士院生だから、「学術研究者ではない」範疇に入れていいのか微妙だけど、そういう人もいる。 → 2026年6月23日記事:学者の不正を連続暴露中の中国有名ブロガー、今度は母校教授の「インチキ論文」告発-Chosun online 朝鮮日報

日本には現在、ネカトハンターがいない。「学術研究者ではない」人もできるようなので、だれか挑戦しないだろうか?

《2》スーパースターも「人間だもの」

サルキス・マズマニアン(Sarkis Mazmanian)はスーパースター研究者である。NIHから計47,803,264ドル(約47億8千万円)の研究費を獲得している。

こういうスーパースター研究者に謙虚な人はいない(少ない?)。自分の論文のデータが異常だと指摘されて、強く反発する、又は無視する。日本のスーパースター・山中 伸弥も似た印象を受けた。 → 260810見解パブピア指摘に無対応

マズマニアン自身が不正実行者だと思わないが、人間は「間違い」も「不正」も認めるのが難しい。

でも、人間は「間違える」し「不正」もする。

7.【主要情報源】

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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