非ネカト:アントニア・ユーセン(Antonia Joussen)(ドイツ)

2017年5月27日掲載。

ワンポイント:ドイツの有力大学であるシャリテ・ベルリン自由大学・教授(女性)で眼科臨床医の論文データの異常、2015年(46歳?)以降、17報もパブピアで指摘された。ネカト・ハンターのレオニッド・シュナイダーが調べ、大学とDFG-ドイツ研究振興協会に通報したが、大学はシロと結論した。2017年2月(48歳?)、DFG-ドイツ研究振興協会もシロと結論した。では誰がネカトをしたのでしょう? 損害額の総額(推定)は9200万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アントニア・ユーセン(Antonia M. Joussen、写真出典)は、ドイツのシャリテ・ベルリン自由大学(Charité – Universitätsmedizin Berlin)・教授・医師で、専門は眼科である。

2015年2月(46歳?)、ユーセンの論文データに異常があるとパブピアが指摘した。

2017年2月15日(48歳?)、DFG-ドイツ研究振興協会はユーセンをシロと結論した

シャリテ・ベルリン自由大学(Charité – Universitätsmedizin Berlin)・大学病院(University Hospital Charite Berlin)。写真出典

  • 国:ドイツ
  • 成長国:ドイツ
  • 医師免許(MD)取得:ルール大学ボーフム?
  • 研究博士号(PhD)取得:ハイデルベルク大学(Heidelberg University)
  • 男女:女性
  • 生年月日:生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1996年の研究博士号(PhD)取得時を27歳とした
  • 現在の年齢:55 歳?
  • 分野:眼科学
  • 最初の不正論文発表:2001年(32歳?)
  • 発覚年:2015年(46歳?)
  • 発覚時地位:シャリテ・ベルリン自由大学(Charité – Universitätsmedizin Berlin)・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はパブピアである。また、ネカト・ハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)はネカト通報を受け、自分で調べ、大学とDFG-ドイツ研究振興協会に通報
  • ステップ2(メディア):オニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①DFG-ドイツ研究振興協会。②ケルン大学・調査委員会。③デュッセルドルフ大学・調査委員会。④シャリテ・ベルリン自由大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正疑惑:データねつ造
  • 不正疑惑論文数:撤回論文数は1報だが、疑惑論文は17報ある。
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は9200万円。内訳 → ⑤調査経費(大学とDFG-ドイツ研究振興協会と学術誌出版局)が5千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:ネカトなし、辞職なし
http://www.uni-duesseldorf.de/home/startseite/news-detailansicht/article/augenverein-uebergibt-weitere-spende-an-uni-augenklinik-netzhautchirurgie-auf-hoechstem-niveau-ermoe-1.html

●2.【経歴と経過】

主な出典:Prof. Dr. Antonia Joussen – AcademiaNet

  • 生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1996年の研究博士号(PhD)取得時を27歳とした
  • 1990 – 1996年(21 – 27歳?):ルール大学ボーフム(Ruhr University Bochum)とハイデルベルク大学(Heidelberg University)・医学部を卒業。医師免許。研究博士号(PhD)取得。博士論文:Experimentelle Studien zur farbstoffverstärkten Lasertherapie im Bereich des vorderen Augenabschnittes (“Experimental studies of dye-enhanced laser therapy in the anterior segment of the eye”)
  • 1993年(24歳?):米国の医療ライセンス試験パート1に合格
  • 1998年(29歳?):米国のフル・医療ライセンス試験に合格
  • 1999 – 2000年(30 -31歳?):米国のハーバード大学医学部の研究員。糖尿病性網膜症の薬理生理学
  • 2002年(33歳?):ドイツの教格取得。眼科
  • 2003年(34歳?):ドイツのケルン大学(University of Cologne)・眼科センターの上級コンサルタント。網膜および硝子体外科・代理部長
  • 2006年(37歳?):ドイツのデュッセルドルフ大学(Heinrich Heine University, Düsseldorf)・教授。眼科
  • 2010年(41歳?):シャリテ・ベルリン自由大学(Charité – Universitätsmedizin Berlin)・教授
  • 2015年(46歳?):パブピアがユーセンの論文データの異常を指摘
  • 2017年2月15日(48歳?):DFG-ドイツ研究振興協会はユーセンをシロと結論した

●5.【不正発覚の経緯と内容】

大学もDFG-ドイツ研究振興協会も公式の調査結果を公表していない。先にパブピアで指摘されたデータねつ造・改ざんを見ておこう。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2001年のInvest Ophthalmol Vis Sci.」論文

「2001年のInvest Ophthalmol Vis Sci.」論文の書誌情報を以下に示す。2017年5月26日現在、撤回されていない。米国のハーバード大学医学部に所属しているときの論文である。

どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。

2015年2月16日に、図1Aの電気泳動バンドがおかしいと、指摘された「Peer 1: ( February 16th, 2015 12:02am UTC )」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/F0555CF2C6714EDC2062B1D2CBB393#fb25118

指摘されているように、バンドの重複使用です。データねつ造です。

★「2009 年のMol Vis」論文

「2009 年のMol Vis」論文の書誌情報を以下に示す。2017年5月26日現在、撤回されていない。ドイツのデュッセルドルフ大学に所属しているときの論文である。

どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。

2015年2月9日に、下記左側の「2003年のInvest Ophthalmol Vis Sci.」論文の図8Aの電気泳動バンドが使いまわされている。さらに、右の「2009 年のMol Vis」論文の図6Aと同じだと指摘された「Peer 1: ( February 19th, 2015 12:24am UTC )」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/AF06BF4C370A3E74CC36810DE43577#fb25338

「2003年のInvest Ophthalmol Vis Sci.」論文の図8の中で同じバンドを使いまわすのはマズイ。さらに、別の論文「2009 年のMol Vis」のバンドに再使用するのはマズイ。データねつ造です。

【調査と結論】

★レオニッド・シュナイダーのブログ

ネカト・ハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が、彼のブログに何度も記事を書き、アントニア・ユーセン(Antonia Joussen)のネカトの経緯を詳しく記述している(【主要情報源】①)。

レオニッド・シュナイダーのブログによると、以下のようだ。

2015年2月(46歳?)、パブピアが論文データの異常を指摘した。

2017年5月26日現在(48歳?)、「パブピア(PubPeer)」ではアントニア・ユーセン(Antonia Joussen)の17論文にコメントがある。→ PubPeer – Results for Antonia Joussen

レオニッド・シュナイダーは、最初の指摘がどの論文のどのコメントかを特定していないが、上記の【ねつ造・改ざんの具体例】で示したデータ異常も2015年2月の指摘である。

http://www.academia-net.org/profil/prof-dr-antonia-joussen/1133815

2015年3月31日(46歳?)、ユーセンの所属するシャリテ・ベルリン自由大学(Charité – Universitätsmedizin Berlin)は、レオニッド・シュナイダーに、ユーセンのネカト調査をしていると伝えた。

シャリテ・ベルリン自由大学の広報官は、ユーセンが以前に所属したケルン大学とデュッセルドルフ大学に問い合わせるようにと、レオニッド・シュナイダーに伝えた。

しかし、デュッセルドルフ大学の研究公正オンブズマンのウルリッヒ・ノアク(Ulrich Noack)は、レオニッド・シュナイダーの問い合わせに、2回とも拒否した。どうも、隠蔽体質が強いようだ。

2015年6月10日(46歳?)、デュッセルドルフ大学はユーセンの論文にデータねつ造・改ざんはないとした。ただ、調査結果を公表していない。

2016年6月中旬(47歳?)、ユーセンは有名な弁護士・ヨハネス・アイゼンバーグJohannes Eisenberg、写真出典)を雇い、ブログで受けた損害に対し、最初、2000ユーロ(約24万円)をレオニッド・シュナイダーに要求する損害賠償の裁判を起こした。後に、損害賠償額を8万ユーロ(約960万円)にアップした。

ヨハネス・アイゼンバーグは、犯罪やメディア法を専門とドイツの弁護士で、多くの著名人を守ることで知られている。

ユーセンの弁護士・アイゼンバーグは、ユーセンがゲルのバンドをカットして論文データに使用したことを認めたが、重複使用をしていないと主張した。バンドのカットは状況によっては学術界で許容されているが、重複使用は不正である。

2016年6月中旬(47歳?)、DFG-ドイツ研究振興協会はユーセンのネカト調査を始めた。

2017年2月15日(48歳?)、DFG-ドイツ研究振興協会はユーセンをシロと結論した。

ユーセンがシロなら、では一体、誰がネカトをしたのか?

ワカリマセーン。

大学もDFG-ドイツ研究振興協会も、もう、調査しないと宣言している。しかし、・・・。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年5月26日現在、パブメド(PubMed)で、アントニア・ユーセン(Antonia Joussen)の論文を「Antonia M. Joussen [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の126論文がヒットした。

「Joussen AM[Author]」で検索すると、1995~2017年の23年間の208論文がヒットした。

2017年5月26日現在、「Joussen AM AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。

アントニア・ユーセンは、ハーバード大学講師で眼科医のヴァシリキ・ポウラキ(Vassiliki Poulaki、写真出典)と共著論文がある。ポウラキの論文には画像の異常が指摘されている。

2017年5月26日現在、「Joussen AM[Author]」の208論文の内、ヴァシリキ・ポウラキとの共著論文を「Joussen AM[Author] AND Poulaki」で検索すると、2001~2009年の10年間の19論文がヒットした。

2017年5月26日現在、「パブピア(PubPeer)」ではヴァシリキ・ポウラキ(Vassiliki Poulaki)の9論文にコメントがある。9論文中の8論文はアントニア・ユーセンが共著者に入っている:PubPeer – Results for Vassiliki Poulaki

ヴァシリキ・ポウラキがネカトの主犯なのだろうか?

★パブピア(PubPeer)

2017年5月26日現在、「パブピア(PubPeer)」ではアントニア・ユーセン(Antonia Joussen)の17論文にコメントがある:PubPeer – Results for Antonia Joussen

●7.【白楽の感想】

《1》ネカト者の特定

https://revammad.blogs.lincoln.ac.uk/partners/charite-universitatsmedizin-berlin-ccm/antonia-m-joussen-md/

ユーセンの論文のいくつかで、明らかに画像が重複使用されている。従って、ユーセンがネカト者でないなら、著者の内の誰かがネカト者である。

大学もDFG-ドイツ研究振興協会も、その誰かを特定しないで、調査を終了した。

ヴァシリキ・ポウラキがネカトの主犯と思わせる状況だが、当局の公式発表はない。

パブピアでは、ユーセンの17論文にコメントがある。ユーセン研究室のネカトが既に広範な悪影響を及ぼしている。早くチャンと調査し、かつ適切な処分をし、今後の防止策を策定する必要がある。

ドイツは、建前ではネカトに厳しく対処すると述べているが(まあ、どの組織もそう言うだろうが)、大学もDFG-ドイツ研究振興協会も、実質的には、厳しく対処していない。ネカト調査の結果も十分には公表せず、透明性は悪い。

もう一度書くけど、この事件では、ネカト者を特定するまで調査し、処分し、公表すべきだろう。

そうでなければ、ネカトの防止にならないし、防止策も立案できない。

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●8.【主要情報源】

① レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ:Antonia Joussen – For Better Science・・・〈1〉2016年6月27日:Berlin head ophthalmologist Joussen deploys lawyer to silence my reporting, demands from me €80,000 damages – For Better Science。〈2〉2016年7月13日:Berlin clinic head Joussen investigated by DFG, while 3 universities ignore FOI requests – For Better Science。〈3〉2016年11月1日:Dean acting outside his competence and the illusion of Freedom of Information in Germany – For Better Science。〈4〉2017年3月1日:DFG decision: Antonia Joussen innocent victim of co-authors’ data manipulations – For Better Science
② 2015年6月15日のアルカ・カッツネルソン(Alla Katsnelson)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“Significant overlap” between figures spurs note of concern for 13-year-old retinoblastoma paper – Retraction Watch at Retraction Watch
③「パブピア(PubPeer)」ではアントニア・ユーセン(Antonia Joussen)の17論文にコメントされている:PubPeer – Results for Antonia Joussen
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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