ワンポイント:自分の論文が追試不能で論文撤回。「間違い」か「データねつ造」か?
【追記】
・2020年5月16日記事: Who is Judy Mikovits – the woman behind the banned ‘Plandemic’?
・2018年12月記事:FACT CHECK: Was a Scientist Jailed After Discovering a Deadly Virus Delivered Through Vaccines?
●【概略】
ジュディ・ミコヴィッツ(Judy Mikovits、写真出典)は、学部卒で米国・NIH・国立がん研究所(NCI)のテクニシャンとして勤めた。勤務しながら研究博士号(PhD)を取得し、後に、NIH・国立がん研究所の部長まで昇進した。2001年、民間企業に移籍した。専門はウィルス学である。医師ではない。
2009年(41歳?)、ミコヴィッツは、ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所(Whittemore Peterson Institute For Neuroimmune Disease (WPI))・研究部長の時、原因不明の難病である慢性疲労症候群(ME/CFS)患者の67%にXMRVウイルス(異種指向性マウス白血病ウイルス関連ウイルス、Xenotropic murine leukemia virus-related virus)を見つけたと「サイエンス」誌に発表した。つまり、病気の原因はこのウイルスではないかと示唆した。
この論文は200回以上も引用されたほど注目された。しかし、誰もその結果を追試できなかった。大きな論争の後、ミコヴィッツ自身も追試できず、2011年9月、ミコヴィッツが論文を部分撤回した。
そして、2011年12月22日、「サイエンス」誌は、編集部の判断で論文を全部撤回した。
追試できない理由は、論文に「ねつ造・改ざん」があったためだろうか?
「ねつ造・改ざん」の調査はされていない。
というのは、ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所は開所したばかりの小さな研究所で調査委員会を設けて調査する余裕はなかった。米国・研究公正局も調査していない(推定)。
ただ、2009年9月、5年の研究計画の申請書で160万ドル(約1億6千万円)のNIH研究費が採択されている。この申請書に上記論文とそのデータが記載されていたハズだが、米国・研究公正局が調査に着手した形跡がない。
2011年11月、騒動の最中に、ミコヴィッツは鍵となる実験資料の引き渡しを拒み、ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所から実験ノート、パソコン、研究関連資料を不当に持ち出した。これらは、ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所に所有権がある。そのことで、窃盗罪でカリフォルニア・ヴェンチュラ郡の自宅で逮捕され、一晩拘留された。
「The Scientist」誌の選んだ「2011年の大事件」の第2位である(Top Science Scandals of 2011 | The Scientist MagazineR)。
ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所(Whittemore Peterson Institute For Neuroimmune Disease (WPI)) 写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:ジョージ・ワシントン大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に、1958年1月1日とする
- 現在の年齢:66 歳?
- 分野:ウィルス学
- 最初の不正論文発表:2009年(41歳?)
- 発覚年:2011年(43歳?)
- 発覚時地位:ウィッテモア・ピーターソン研究所(Whittemore Peterson Institute For Neuroimmune Disease (WPI))、研究部長
- 発覚:同じ分野の研究者の追試不能
- 調査:
- 不正:「間違い」。ねつ造? 実験ノート持ち出しで逮捕
- 不正論文数:1報撤回
- 時期:研究キャリアの後期から
- 結末:辞職
●【経歴と経過】
主な参照サイト:Judy A. Mikovits CV
- 生年月日:不明。仮に、1958年1月1日とする
- 1980年?(22歳?):バージニア大学(University of Virginia)を卒業。学士(号):生化学
- 1980 -1991年(22 -33歳?):NIH・国立がん研究所(NCI)のテクニシャン
- 1992年(34歳?):米国・ジョージ・ワシントン大学(George Washington University)で研究博士号(PhD)取得。生化学/分子生物学。論文タイトル「HIV Latency and mechanisms of Immune activation In Monocytes」
- 1992 – 1994年(34 – 36歳?):NIH・国立がん研究所(NCI)のポスドク。Laboratory of Genomic Diversity, National Cancer Institute with David Derse, Ph.D.
- 1994 – 1998年(36 – 40歳?):NIH・国立がん研究所(NCI)の研究員
- 1999 – 2001年(41 – 43歳?):NIH・国立がん研究所(NCI)・「抗ウイルス薬メカニズム(Antiviral Drug Mechanisms)」部・部長。
- 2001年(43歳?):結婚し、NIH・国立がん研究所を退職し、東海岸から西海岸のカリフォルニアに引っ越した
- 2001 – 2006年(43 – 48歳?):EpiGenX Pharmaceuticals社、がん生物学部・部長
- 2006 – 2011年(48 – 53歳?):ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所(Whittemore Peterson Institute For Neuroimmune Disease (WPI))、研究部長
- 2006 – 2012年(48 – 54歳?):Genyous Biomed社、上級科学者/コンサルタント
- 2012 – 2015年現在(54 – 57歳現?):York Bridge Capital社、相談役
- 2013 – 2015年現在(55– 57歳現?): MAR Consulting社、創業者/コンサルタント
●【慢性疲労症候群】
★慢性疲労症候群とは
以下は「慢性疲労症候群 – Wikipedia」からの引用です。
慢性疲労症候群(まんせいひろうしょうこうぐん、英: Chronic Fatigue Syndrome、CFS)は、原因不明の強い疲労が長期間(一般的に6ヶ月以上)に及び継続する病気である。筋痛性脳脊髄炎(Myalgic Encephalomyelitis、ME)、 ウイルス感染後疲労症候群(Post-Viral Fatigue Syndrome、PVFS)とも呼ばれる。また重篤度が伝わらない・慢性疲労と区別がつきにくいということから、Chronic Fatigue and Immune Dysfunction Syndrome(慢性疲労免疫不全症候群、CFIDS)という呼称をアメリカ患者団体が利用してもいる。
日本では人口の0.3%にあたる約36万人がCFSを罹患していると推定されているが、認知度の低さにより、適切な診断を受けていないか、うつ病・神経症・更年期障害・自律神経失調症等に誤診されている患者が多いと思われる。
CFSの機序・病原については、国内外とも、生理学・疫学的な研究を含む多くの研究がされているがはっきりしない。
発症要因と考えられたものには以下のようなものがある(患者により異なる)
風邪、 発熱 (インフルエンザ等)
ストレス、 トラウマ
感染症(細菌、真菌、ウイルス)
外傷
その他 (化学物質、 紫外線、 アレルギー、外科手術、 出産 、遺伝、環境 など)
上記に、以下のような患者の「身体的な異常」が重なっていると考えられている。
遺伝子異常
サイトカイン(免疫)異常
ホルモン(内分泌系)異常
脳・神経系の異常
★大富豪ウィッテモア家の娘・アンドレア(Andrea Whittemore)
ハーヴェイ・ウィッテモア(Harvey Whittemore、1952年8月17日生まれ)は、ネバダ州のリノ (Reno)を地盤とする実業家で大金持ちである。
ウィッテモア一家。夫妻(アネットとハーヴェイ)(Annette and Harvey Whittemore)には5人の子供がいる。左から3人目がハーヴェイで4人目がアネット。後列の右から2人目が娘・アンドレアで、他は子供とその配偶者と父親。2008年。写真出典。
右の写真(出典)は、友人の結婚式に参加する若々しい未婚時代のアネット(右)とハーヴェイ(左)。2人が結婚する半年前の1973年1月。ハーヴェイはネバダ大学の法学部生(prelegal)、アネットは教育学部生(elementary/special education)。
以下は、2014年3月16日のコート・ジョンソン(Cort Johnson)の記事から写真と文章を修正引用した(Persisting Without Exception: An Interview with Andrea Whittemore-Goad – Health Rising)。
ウィッテモア夫妻の娘のアンドレア(Andrea Whittemore-Goad、写真は36歳の時)は、10歳の時(11歳、12歳との記述もある)、扁桃腺を取り除く手術の後、慢性疲労症候群(ME/CFS)になってしまった。
慢性疲労症候群(ME/CFS)で、認識能力は劇的に悪化した。
また、それ以来、ウイルス髄膜炎、インフルエンザA、ヘモフィルスB、サルモネラ菌、バベシア、クリプトスポリジウム、マイコプラズマ肺炎、再活性化ウイルのヘルペスHSV-1、EBV、hhv-6a、hhv-7の感染症にかかった。
ウィッテモア夫妻は、あちこちの病院の門をたたいたが、慢性疲労症候群(ME/CFS)の認知度が低いこともあり、どの医師も相手にしてくれなかった。
2001年頃、ダニエル・ピーターソン(Daniel Peterson)医師がまともに応対してくれた最初に医師だった。ダニエル・ピーターソン(Daniel Peterson)医師がアムプリジェン(Ampligen)を処方してくれた時、症状が初めて改善した。ピーターソン医師に巡り合うのに10年間さまよった。
ピーターソン医師のおかげで、アンドレアはヨガ・インストラクターになれ、地元の幼稚園や小学校の放課後クラスをもつことができた。また、2009年、ブライアンとも結婚できた(写真)。
アムプリジェン(Ampligen)は、2本鎖RNAの免疫調節薬で、フィラデルフィアにあるヘミスフェファークス・バイオファーマ社(Hemispherx Biopharma)という1990年設立の小さな製薬会社が製造していた。
2009年12月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、慢性疲労症候群(ME/CFS)の治療薬としてアンプリジェンを認可しなかった。(FDA rejects Hemispherx’s chronic fatigue drug Ampligen – Philadelphia Business Journal)
アンドレアは8年間もアムプリジェン(Ampligen)を服用してきたが、薬が入手できなくなり、毎日、発作に襲われるようになった。結局、無認可だが効果のある別の薬を見つけたが、代謝的アシドーシスになり、その薬を止めざるを得なかった。
★ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所(Whittemore Peterson Institute For Neuroimmune Disease (WPI))
ウィッテモア夫妻(アネットとハーヴェイ)(Annette and Harvey Whittemore、2013年。写真出典)
上記したように、大富豪のウィッテモア夫妻(アネットとハーヴェイ)は、娘のアンドレアが慢性疲労症候群だった。
2001年頃、ダニエル・ピーターソン(Daniel Peterson)医師がアムプリジェン(Ampligen)を処方してくれ、アンドレアの症状が劇的に回復した。
しかし、アムプリジェンは無認可薬であったし、米国の研究所は慢性疲労症候群に対してほとんど研究をせず、新薬の開発もしていなかった。
業を煮やしたウィッテモア夫妻は、自分たちで何とかしようと立ち上がった。
自分の娘だけではない。全米で数百万人もいる慢性疲労症候群(ME/CFS)患者の医学研究を推進してもらうため、この病気を世間に知らしめるために立ち上がったのだ。
2005年、5百万ドル(5億円)を寄贈し、専門医のダニエル・ピーターソン(Daniel Peterson)と共に、母校・ネバダ大学の1機関として、ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所(Whittemore Peterson Institute For Neuroimmune Disease (WPI))を開設した。ネバダ大学の援助、他からの寄付や資金で、1千万ドル(約10億円)のお金を集めていた。研究所長(President)に夫人のアネット・ウィッテモアが就任した。
2006年春、アネット・ウィッテモア所長は「ヒトヘルペス・ウイルス-6(HHV-6)基金会議」でミコヴィッツを紹介された。 ミコヴィッツは2001年に結婚し東海岸のNIH・国立がん研究所(NCI)を退職し、西海岸のカリフォルニアに住んでいた。
アネット・ウィッテモア所長は、ピーターソン医師と共に、慢性疲労症候群の原因は感染性病原体(ウイルス)だと信じていた。
2006年春、できたばかりのウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所にウイルスが専門のミコヴィッツは適任だった。アネット・ウィッテモア所長はミコヴィッツに研究部長への就任を依頼した。
2006年春、ジュディ・ミコヴィッツ(Judy Mikovits)研究部長は、研究を開始した。ミコヴィッツの使命は、慢性疲労症候群の原因ウイルスがどのようなウイルスかを突き止めることだった。
●【大発見と否定】
2007年、ミコヴィッツは、学会でXMRVウイルスの専門家ロバート・シルヴァーマン(Robert Silverman)に会い、共同研究をする段取りを取り付けた。
ミコヴィッツは、慢性疲労症候群患者から採取した血液サンプルにXMRVウイルスがあるだろうと考え、ロバート・シルヴァーマンの協力とポスドクのロンバルディ(Lombardi VC)とともに、研究を軌道に乗せていった。
2008年暮、ようやく、ポスドクのロンバルディが20サンプル中の2サンプルが陽性だと報告してきた。この端緒を生かすべく、その後いろいろ試行錯誤を重ね、測定法を工夫し、最終的に、全サンプルが陽性という結果が得られたのである。大発見である。
2009年10月、ミコヴィッツは、慢性疲労症候群(ME/CFS)患者の67%にXMRVウイルスが見つかったと「サイエンス」誌に論文を発表した。つまり、慢性疲労症候はXMRVウイルスが原因だとしたのである。
- Detection of an infectious retrovirus, XMRV, in blood cells of patients with chronic fatigue syndrome.
Lombardi VC, Ruscetti FW, Das Gupta J, Pfost MA, Hagen KS, Peterson DL, Ruscetti SK, Bagni RK, Petrow-Sadowski C, Gold B, Dean M, Silverman RH, Mikovits JA.
Science. 2009 Oct 23;326(5952):585-9. doi: 10.1126/science.1179052. Epub 2009 Oct 8.
画期的な大発見である。
欧米の患者は歓喜した。
2010年9月、C型肝炎ウイルス発見で2000年にラスカー・ドゥベーキー臨床医学研究賞を受賞したNIHのハーヴィ・オールター(Harvey Alter、写真出典)も、「ミコヴィッツの2009年サイエンス論文」を支援する「2010年PNAS論文」を発表した。
- Detection of MLV-related virus gene sequences in blood of patients with chronic fatigue syndrome and healthy blood donors.
Lo SC, Pripuzova N, Li B, Komaroff AL, Hung GC, Wang R, Alter HJ.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Sep 7;107(36):15874-9. doi: 10.1073/pnas.1006901107. Epub 2010 Aug 23. Erratum in: Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Nov 2;107(44):19132. Retraction in: Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Jan 3;109(1):346.
ところが、その後、オランダ・イギリス・日本で追試した結果は、慢性疲労症候群(ME/CFS)患者にXMRVウイルスが見つからなかったのである。最終的には、ミコヴィッツが陽性とした患者の血液サンプルにも見つからなかったのだ。
徐々に述べていこう。
2011年3月、欧州の研究者たちの研究で、患者にXMRVウイルスが見つからないと報告された。
「ミコヴィッツの2009年サイエンス論文」を支援する「2010年PNAS論文」を発表したXMRVウイルス専門家のロバート・シルヴァーマン(Robert Silverman)は、XMRVウイルスはコンタミン(細胞に汚染していた)かもしれないと言い出した(Chronic fatigue syndrome: Paper linking CFS to retrovirus in doubt as evidence mounts – Chicago Tribune)。
2011年5月、レトロウイルスXMRVの起源が明らかになり、起源から考えて、XMRVが慢性疲労症候群(CFS)の原因である可能性はとても低いという論文が発表された(XMRVの起源解明、ヒト疾患との関連が否定される | 海外癌医療情報リファレンス)。
そして、決定的な以下の論文が発表された。
2011年11月、NIHがオーガナイズした全米的研究班が、「ミコヴィッツの2009年サイエンス論文」に否定的な結論をサイエンス誌に発表した。この研究班は、ミコヴィッツを含め、「ミコヴィッツの2009年サイエンス論文」に肯定的だった他の2研究室も加わった研究結果だった。
- Failure to confirm XMRV/MLVs in the blood of patients with chronic fatigue syndrome: a multi-laboratory study.
Simmons G, Glynn SA, Komaroff AL, Mikovits JA, Tobler LH, Hackett J Jr, Tang N, Switzer WM, Heneine W, Hewlett IK, Zhao J, Lo SC, Alter HJ, Linnen JM, Gao K, Coffin JM, Kearney MF, Ruscetti FW, Pfost MA, Bethel J, Kleinman S, Holmberg JA, Busch MP; Blood XMRV Scientific Research Working Group (SRWG).
Science. 2011 Nov 11;334(6057):814-7. doi: 10.1126/science.1213841. Epub 2011 Sep 22.
なお、ハーヴィ・オールターは研究班に加わっていなかったが、「2010年PNAS論文」の筆頭著者であるロ(Lo SC)は上記論文に加わっている。そして、ハーヴィ・オールターは、ミコヴィッツの研究論文を肯定した「2010年PNAS論文」を、2012年1月に撤回した。
●【窃盗罪】
2011年10月、「ミコヴィッツの2009年サイエンス論文」の大成功が否定的になった時期、ミコヴィッツはウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所を解雇された。
しかし、自力で何とか研究を続けたいミコヴィッツは、ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所から研究所に所有権がある実験ノート、パソコン、研究関連資料を勝手に持ち出した。
2011年11月18日、ミコヴィッツはカリフォルニア・ヴェンチュラ郡の自宅で逮捕された。一晩、刑務所で過ごす。研究関連記録・資料の窃盗罪である。
2011年11月、研究所はミコヴィッツを窃盗罪で裁判所に訴えた。
2011年11月28日、ミコヴィッツは実験ノートなどをウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所に返却した。
2012年6月11日、ミコヴィッツは、窃盗罪を免訴された(Criminal Charges Dropped Against Chronic Fatigue Syndrome Researcher Judy Mikovits | Science/AAAS | News)。
【動画】
Criminal charges against Judy Mikovits have been dropped – My News 4 – KRNV, Reno, NV
●【反撃の裁判】
2014年11月24日、ミコヴィッツは、今度は逆に、ウィッテモア・ピーターソン研究所を損害賠償で裁判所に訴えた。
訴状:PDF
事件番号(Case 3:14-cv-02797-BEN-WVG)
原告:ジュディ・ミコヴィッツ(Judy Mikovits)
被告:ウィッテモア・ピーターソン研究所(Whittemore Peterson Institute)
2015年6月15日、ミコヴィッツは、実際は、争わず、免訴になった。書類PDF
●【別のデータねつ造疑惑】
2011年10月5日、ハイジ・レッドフォード(Heidi Ledford)の「Nature」記事によると、以下のデータねつ造疑惑も出てきた(Integrity issue follows fired researcher : Nature News、doi:10.1038/news.2011.574)
オクラホマ大学のウイルス学専攻の大学院生アビー・スミス(Abbie Smith)は、ミコヴィッツの「2009年のサイエンス論文」(上記の問題論文)に明白な画像の再発表がある、と指摘した。
ミコヴィッツは、「2009年のサイエンス論文」の画像を、2011年9月オタワで開催の「慢性疲労症候群/筋痛症脳脊髄炎の国際会議(International Association for Chronic Fatigue Syndrome/Myalgic Encephalomyelitis)」で、別の名称で使用していた。
詳しく書くと、「2009年のサイエンス論文」の図2cはウイルスのタンパク質・p30の発現の画像だが、その同じ画像を、化合物・アザシチジン(azacytidine)を添加した時に発現が活性化されたタンパク質の画像として使用していた。画像のラベルを変え、さらに患者番号も異なる図にして使用した。
下図はハイジ・レッドフォード(Heidi Ledford)の「Nature」記事からの引用である。上図と下図は全く同じ画像なのにラベルが異なっている。患者番号の1235、1236は別の番号2905、1674になっている。
「2009年のサイエンス論文」は、2011年9月に部分撤回、2011年12月22日に全面撤回されるのだが、2011年の学会発表は、単なる再発表(盗用の1種)というより、データねつ造だったのではないかと思われる。
●【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ジュディ・ミコヴィッツ(Judy Mikovits)の論文を「Judy Mikovits[Author]」で検索すると、2002年以降の論文がヒットするが、2012年までの11年間の19論文がヒットした。寡作である。
2015年6月1日現在、1論文が部分撤回されている。本事件の「2009年のサイエンス論文」の撤回である。
- Detection of an infectious retrovirus, XMRV, in blood cells of patients with chronic fatigue syndrome.
Lombardi VC, Ruscetti FW, Das Gupta J, Pfost MA, Hagen KS, Peterson DL, Ruscetti SK, Bagni RK, Petrow-Sadowski C, Gold B, Dean M, Silverman RH, Mikovits JA.
Science. 2009 Oct 23;326(5952):585-9. doi: 10.1126/science.1179052. Epub 2009 Oct 8.
Retraction in: Alberts B. Science. 2011 Dec 23;334(6063):1636.
Partial retraction in: Silverman RH, Das Gupta J, Lombardi VC, Ruscetti FW, Pfost MA, Hagen KS, Peterson DL, Ruscetti SK, Bagni RK, Petrow-Sadowski C, Gold B, Dean M, Mikovits JA. Science. 2011 Oct 14;334(6053):176
●【白楽の感想】
《1》ウィッテモア・ピーターソン神経免疫病研究所
ハーヴェイ・ウィッテモアは自分の娘の病気を治すために、5億円を寄付して研究所を造った。金持ちでなければできないけど、日本にも大金持ちはかなりいる。しかし、自分で研究所を造るなんて、聞いたことがない。どうしてなのだろうか? 日本は、行政依存だからだが、国民が行政に依存されるように行政(いや立法府)も制度を作っているからだ。
米国は社会が変化しやすい。新たな歴史を作る文化がある。日本は社会が変化しにくい。新たな歴史を作りにくい。
《2》追試不能論文
「2009年のサイエンス論文」の追試不能だった原因はなんだったのだろうか? 公式には、原因が追究されていない。
大学院生アビー・スミスが指摘した画像の疑惑もある。
追試不能の原因はXMRVウイルスのコンタミンに気が付かなかったこと、つまり「間違い」で処理している。しかし、コンタミンに気が付かないのはお粗末もいいところだ。本当のところは、「2009年のサイエンス論文」は13人いる共著者の誰かがデータねつ造したのではないだろうか。
それにしても、ジュディ・ミコヴィッツ(Judy Mikovits)は非難されていない。「2009年のサイエンス論文」の追試不能の原因に誠実に対処しているためだろうか? 確かに、論文発表2年後には自分の論文を否定する論文も出している。事実に対して誠実である。それに、白楽はお会いしたことはないが、多分、人柄が良いのだろう。
●【主要情報源】
① 2011年10月22日の「5 STRINGS」の日本語記事:Dr. Judy Mikovits | 5 STRINGS – Part 2
② ウィキペディア英語版:Judy Mikovits – Wikipedia, the free encyclopedia 、Whittemore Peterson Institute – Wikipedia, the free encyclopedia、Chronic fatigue syndrome – Wikipedia, the free encyclopedia、Harvey Whittemore – Wikipedia, the free encyclopedia、Daniel Peterson (physician) – Wikipedia, the free encyclopedia