マルコム・ピアース(Malcolm Pearce)(英)改訂

2019年6月20日掲載。

ワンポイント:ピアースは、ロンドンの名門・セント・ジョージ医科大学(St George’s Hospital Medical School)・上級講師で産科医師だった。1994年(42歳?)、同年に出版した論文のデータねつ造が発覚した。その後、計5論文が撤回。大学を解雇され、医師免許も取り消された。なお、ピアース事件は「全期間ネカト世界ランキング 」の「★「Listverse」誌の「フィクションを事実として発表した面汚し科学者10人」:2015年12月17日」の8番目の事件である。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

マルコム・ピアース(Malcolm Pearce、写真出典)は英国・ロンドンの名門・セント・ジョージ医科大学(St George’s Hospital Medical School)・上級講師で産科医師だった。データねつ造が発覚するまでの経歴は非の打ちどころがないエリートだった。

1994年(42歳?)、同年に出版した論文にデータねつ造が発覚した。

1995年6月(43歳?)、大学を解雇された。また、その後、医師免許を取り消された。

日本学術会議会長(当時)の金澤一郎が2009年7月3日の講演で述べている。

1990 年代にマルコム・ピアースという人が、子宮外着床の受精卵を子宮に着床させる臨床研究の論文を書いたわけですが、2年後に若いお医者さんが、対象になった患者さんがいないことに気が付いて告発しました。一旦、目を付けられますと名前を載っている論文が全部調べられます。その結果、共著者のジョフリー・チェンバレンという人が、自分はその論文に関係していなかったということまで言ってしまうわけです。(2009年7月3日:http://www.scj.go.jp/ja/head/img/090703-kaityou.pdf

なお、講演内容の細かい間違いを指摘すると、①告発は2年後ではなく、論文が出版された同じ年です。②また、「名前を載っている論文が全部調べられます」は一般的ではありません。

ピアース事件は「全期間ネカト世界ランキング 」の「★「Listverse」誌の「フィクションを事実として発表した面汚し科学者10人」:2015年12月17日」の8番目の事件である。

HOSPITAL RAPE VICTIMセント・ジョージ病院 写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:?
  • 医師免許(MD)取得:xx大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1952年1月1日生まれとした。
  • 現在の年齢:69歳?
  • 分野:産科学
  • 最初の不正論文発表:1994年8月(42歳?)
  • 発覚年:1994年(42歳?)
  • 発覚時地位:セント・ジョージ医科大学・上級講師、医師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は内部で、公益通報
  • ステップ2(メディア): 「BMJ」誌など
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①セント・ジョージ医科大学・調査委員会。期間は1994年11月~1995年6月の9か月
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが大学のウェブ公表なし(△)
  • 不正:データねつ造
  • 不正論文数:5論文撤回。1990年の1論文が1995年7月に撤回され、 1994年の4論文が1995年11月に撤回された
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:大学は解雇。
  • 処分:医師免許取り消し。
  • 日本人の弟子・友人:不明

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1952年1月1日生まれとした。
  • 19xx年(xx歳):xx大学医学部で産科学を学び卒業。医師免許取得
  • 1988年(36歳?):キングス・カレッジ病院で論文出版
  • 1988年(36歳?):セント・ジョージ医科大学で論文出版
  • 19xx年(xx歳):セント・ジョージ医科大学・上級講師
  • 1994年8月(42歳?):問題の論文出版
  • 1994年8月(42歳?):論文ネカトが発覚
  • 1994年11月(42歳?):セント・ジョージ医科大学・調査開始
  • 1995年6月(43歳?):セント・ジョージ医科大学はピアースがネカトをしたと発表し、解雇
  • 19xx年(xx歳):医師免許取り消し
マルコム・ピアース(Malcolm Pearce)。写真出典

●5.【不正発覚の経緯と内容】

1994年8月(42歳?)、マルコム・ピアースは以下の2つの論文を発表した。

  1. Pearce JM, Manyonda IT, Chamberlain GVP.
    Term delivery after intrauterine relocation of an ectopic pregnancy.
    Br J Obs Gynaecol 1994;101: 716-7 [PubMed]
  2. Pearce JM, Hamid RI.
    Randmised controlled trial of the use of human chorionic gonadotrophin in recurrent miscarriage associated with polycystic ovaries.
    Br J Obs Gynaecol 1994;101: 685-8 [PubMed]

第1の論文は、29歳のアフリカ系女性が子宮外妊娠をしたので、受精卵を子宮に移動させ、無事に出産させたという臨床例の論文である。産科医は、この方法を何年も探していたので、もし本当なら大発見ということで、世界の産科学者の注目を集めた。

第2の論文は、流産しがちな191人の女性患者を対象にした3年間に及ぶ二重盲検試験で、患者の半数に絨毛性ゴナドトロピン(chorionic gonadotrophin、ホルモン薬)を投与し、残りの半数にプラセボ(偽薬)を投与した。その結果、絨毛性ゴナドトロピンを投与した女性群は流産の再発が抑えられ、多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome)だった女性の出産も改善したと結論した。

ところが、論文発表直後の1994年8月、病院内からの通報があり、第1論文の患者は架空で実在していない、第2論文の191人の女性患者の多嚢胞性卵巣症患者も実在するかどうか疑問だと指摘された。

1994年11月(42歳?)、セント・ジョージ医科大学は調査委員会を設け、調査を開始した。

1995年6月(43歳?)、7か月の調査後、セント・ジョージ医科大学・調査委員会は、ピアースがデータをねつ造したという調査結果を発表した。ピアースは解雇され、医療監察委員会(General Medical Council)に報告された。

★著者在順

141103 Geoffrey Chamberlainジョフリー・チェンバレン(Geoffrey Chamberlain、写真)はセント・ジョージ医科大学・産科学科長、教授で、マルコム・ピアースの上司だった。産科学の超音波診断に優れた業績があり、世界的に有名な医師である。

チェンバレンは、マルコム・ピアースのデータねつ造論文が出版された学術誌「British Journal of Obstetrics and Gynaecology」の編集長だった。

さらに、ピアースのねつ造論文である「1994Gynaecol 」論文の共著者(最後著者)にもなっていた。

それで、チェンバレンの責任が問われた。

ところが、チェンバレンは、ナント、「自分は全くこの研究に関与していません」とのたまわったのである。それで、研究に貢献していないのに著者になっていた事実が明るみにでた。自分から著者在順(ここでは、「ギフト・オーサーシップ(gift authorship、贈呈著者))に違反したことを認めたのである。
→ 4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating) | 研究倫理(ネカト、研究規範)

しかし、チェンバレンは、なんら処分を受けることはなかった。

ノッティンガム大学・医学部長(head of the department of medicine at the University of Nottingham)のピーター・ルビン教授(Peter Rubin、写真出典)は「研究環境を整備しただけで研究遂行に関与していないのに、その論文の共著者になる部門長は想像以上に多い」と述べている。

自分が編集長である学術誌に自分の論文を掲載することに関して、学術誌「JAMA」の副編集のドラモンド・レニー(Drummond Rennie)は、次のように述べている。なお、レニーは、米国議会の研究公正委員会の委員でもある。

「学術誌の編集者が自分の論文を自分の学術誌に掲載することは公正違反ではありません。ただ、原稿は他の編集者によって査読され、いかなる審議にも口を出してはなりません」。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2019年6月19日現在、パブメド(PubMed)で、マルコム・ピアース(Malcolm Pearce)の論文を「Malcolm Pearce [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2018年の1論文がヒットした。但し、本記事で問題にしている研究者の論文ではない。

「Pearce M[Author] 」で検索すると、1931~2019年の89年間の768論文がヒッした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多いと思われる。

所属をセント・ジョージ医科大学に限定した「(Pearce M[Author]) AND St George’s Hospital Medical School[Affiliation]」で検索すると、1989年と1994年の2論文がヒットした。2論文とは少なくて変である。

「Pearce M」に「J」を入れた「Pearce JM[Author] 」で検索すると、1945~2019年の75年間の635論文がヒッした。依然として、本記事で問題にしている研究者以外の論文が多いと思われる。

「Pearce M」に「J」を入れた「Pearce JM[Author] 」で、所属をセント・ジョージ医科大学に限定した「(Pearce JM[Author]) AND St George’s Hospital Medical School[Affiliation]」で検索すると、1988年~1994年の7年間の21論文がヒットした。

これが、どうやらまともな論文リストのようだ。

2019年6月19日現在、パブメドの論文撤回リストを「(Pearce M[Author]) AND St George’s Hospital Medical School[Affiliation] AND Retracted」で0論文が、「(Pearce JM[Author]) AND St George’s Hospital Medical School[Affiliation] AND Retracted 」で検索すると、以下の3論文が撤回されていた。

  1. Term delivery after intrauterine relocation of an ectopic pregnancy.
    Pearce JM, Manyonda IT, Chamberlain GV.
    Br J Obstet Gynaecol. 1994 Aug;101(8):716-7.
    Retraction in: Br J Obstet Gynaecol. 1995 Nov;102(11):853.
  2. Low dose aspirin in women with raised maternal serum alpha-fetoprotein and abnormal Doppler waveform patterns from the uteroplacental circulation.
    Hamid R, Robson M, Pearce JM.
    Br J Obstet Gynaecol. 1994 Jun;101(6):481-4.
    Retraction in: Br J Obstet Gynaecol. 1995 Nov;102(11):853
  3. Doppler ultrasound of the uteroplacental circulation in the prediction of pregnancy outcome in women with raised maternal serum alpha-fetoprotein.
    Robson M, Hamid R, McParland P, Pearce JM.
    Br J Obstet Gynaecol. 1994 Jun;101(6):477-80.
    Retraction in: Br J Obstet Gynaecol. 1995 Nov;102(11):853

★撤回論文データベース

2019年6月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでマルコム・ピアース(Malcolm Pearce)を検索すると、3論文がヒットし、3論文が撤回されていた。

ただ、パブメドの論文撤回リストの1番は撤回論文データベースにリストされるが、2番と3番はリストに入っていない。以下の別の2論文が撤回リストに入っていた。

  1. Randomised?controlled?trial?of the use of?human?chorionic?gonadotrophin?in?recurrentmiscarriage?associated?with?polycystic?ovaries.
    Pearce JM, Hamid RI.
    Br J Obstet Gynaecol. 1994 Aug;101(8):685-8. Retraction in: Br J Obstet Gynaecol. 1995 Nov;102(11):853.
  2. Recurrent spontaneous abortion and polycystic ovarian disease: comparison of two regimens to induce ovulation.
    Johnson P, Pearce JM.
    BMJ. 1990 Jan 20;300(6718):154-6. Retraction in:?BMJ. 1995 Jul 22;311(6999):231.

パブメドのデータと総合すると、1990年の1論文が1995年7月に撤回され、 1994年の4論文が1995年11月に撤回されたことになる。つまり、トータル5論文の撤回になる。

★パブピア(PubPeer)

2019年6月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マルコム・ピアース(Malcolm Pearce)の論文にコメントはない:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》詳細が不明

マルコム・ピアース(Malcolm Pearce)事件は詳細が不明である。資料はロンドンの公文書館に保存されているようだが、インターネットでは閲覧不能である。

事件の詳細が不明だと、「どんな人が、どの状況で、どうして?」がわからない。

そして、論文に「架空の患者」を記載するねつ造事件は、その後も発生している。

《2》無策

ピアース事件は1994年の事件、つまり、25年前の事件である。

25年前の研究技術や研究環境は現在とかなり異なる。

しかし、2019年6月19日現在も多くの研究者がネカト事件を起こしていて、研究者がネカト事件を犯す動機と状況は同じに思える。つまり、25年もの間、ネカトに関しては学術界は変っていない。抜本的で有効なネカト防止策は依然として立案・実施されていない。

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●8.【主要情報源】

① 1998年8月9日のロジャー・ドブソン(Roger Dobson)の「The Independent」記事: SCIENCE: DOCTORING THE EVIDENCE – Arts and Entertainment – The Independent、(保存版
② 2006 年の「Richard Smith」論文:Research misconduct: the poisoning of the well、J R Soc Med. May 2006; 99(5): 232?237. doi: 10.1258/jrsm.99.5.232
③ 英国公文書館に資料があるようだ。白楽の技術が低く、インターネットでアクセスできていない → AIM25 collection description
④ 1994年12月3日のルイサ・ディルナー(Luisa Dillner)記者の「BMJ」記事:Obstetrician suspended after research inquiry: BMJ VOLUME 309 3 DECEMBER 1994 https://europepmc.org/backend/ptpmcrender.fcgi?accid=PMC2541615&blobtype=pdf
⑤ 1995年の「Stephen Lock」論文: Lessons from the Pearce affair: handling scientific fraud. BMJ. 1995 Jun 17; 310(6994): 1547?1548. doi:?10.1136/bmj.310.6994.1547
⑥ 旧版:2014年11月12日
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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