トニ・ブランド(Toni Brand)(米)

2022年4月18日掲載 

ワンポイント:2022年4月5日(40歳?)、研究公正局は、ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)で研究博士号(PhD)を取得し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California San Francisco)・ポスドクだったブランドの不正を発表した。1件の研究費申請書、2013年の博士論文、2013-2018年(31-36歳?)の5年間の7報の発表論文、の24画像をねつ造・改ざんだった。2022年3月23日から4年間の締め出し処分を科した。なお、ブランドは研究職を廃業し高校教員になっている。博士論文もねつ造データと判定されたが、博士号は剥奪されていない。記事執筆時点では、撤回論文は1報だが、いずれ増える。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

【追記】
・2023年5月19日記事:A Tale of Two Investigations – by Alexander Trevelyan

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

トニ・ブランド(Toni Brand、Toni M Brand、ORCID iD:、写真出典)は、ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)で研究博士号(PhD)を取得し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California San Francisco)・ポスドクになった。専門はがんの生化学(頭頸部がん)である。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、研究室のボス(グランディス教授)または同僚が気付いたと思われる。ネカトの発覚時期は、2018年前半(36歳?)と推定される。

ウィスコンシン大学マディソン校とカリフォルニア大学サンフランシスコ校がネカト調査を終え、クロと判定し、研究公正局に調査報告書を提出した。

2019年(37歳?)、ブランドはネカト発覚後、研究職を廃業し、マウント・タマルパイス高校(Mount Tamalpais School in Mill Valley, California)・教員になった。2022年4月17日(40歳?)現在、教員職を維持している。 → Faculty & Staff – Mount Tamalpais School220416保存版

2022年4月5日(40歳?)、発覚から4年後(遅いですね)、研究公正局はブランドが1件の研究費申請書、2013年の博士論文、2013-2018年(31-36歳?)の5年間の7報の発表論文、の24画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。

研究公正局は、2022年3月23日(40歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

heroウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)。写真出典
Memorial_Union_and_quadrangleウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)。写真出典 By 英語版ウィキペディアVonbloompashaさん, CC 表示-継承 3.0

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ウィスコンシン大学マディソン校
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。学部卒後就職していたので、2015年に博士号を取得した時を33歳とした
  • 現在の年齢:42 歳?
  • 分野:がんの生化学
  • 不正論文発表:2013-2018年(31-36歳?)の5年間
  • 発覚年:2018年(36歳?)
  • 発覚時地位:カリフォルニア大学サンフランシスコ校・ポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は推定だが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のジェニファー・グランディス教授(Jennifer R Grandis)
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カリフォルニア大学サンフランシスコ校・調査委員会。②ウィスコンシン大学マディソン校・調査委員会。③研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:研究公正局は1件の研究費申請書、2013年の博士論文、2013-2018年(31-36歳?)の5年間の7報の発表論文、の24画像と指摘した。2022年4月17日現在、撤回論文は1報。今後、3論文撤回予定。つまり、計4論文撤回になるだろう
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: NIHから 4年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:マリ・イイダ (ウィスコンシン大学マディソン校・ポスドク、2001、静岡県立大学・食品栄養科学で博士号取得)は16報の共著論文ある

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Meet Toni Brand: Our New 7th & 8th Grade Science Teacher | Blog

  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。学部卒後就職していたので、2015年に博士号を取得した時を33歳とした
  • 2004年(22歳?)(推定):カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara)で学士号を取得
  • 2004~2009年(22~27歳?)(推定):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)で研究員
  • 2009~2015年(27~33歳?):ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)で研究博士号(PhD)を取得:細胞分子病理学:Deric Wheeler, PhD – Department of Human Oncology – UW–Madison
  • 2015年(33歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California San Francisco)・ポスドク
  • 2018年(36歳?)(推定):不正研究が発覚
  • 2018年8月(36歳?):ウィスコンシン大学マディソン校はネカト調査終え、研究公正局に報告。学術誌に論文撤回要請
  • 2019年(37歳?):マウント・タマルパイス高校(Mount Tamalpais School in Mill Valley, California)・教員。2022年の「Faculty & Staff – Mount Tamalpais School」に着任3年とあるので、逆算し、2019年着任とした
  • 2021年(39歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校がネカト調査を終え研究公正局に報告
  • 2022年4月5日(40歳?):研究公正局がネカトと発表
  • 2022年4月17日(40歳?)現在:マウント・タマルパイス高校・教員職を維持している。 → Faculty & Staff – Mount Tamalpais School220416保存版

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★トニ・ブランド(Toni Brand)

トニ・ブランド(Toni Brand)はウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)で細胞分子病理学の研究博士号(PhD)を取得した。指導教授は、デリック・ウィーラー(Deric L Wheeler、写真出典)だった。

2011年にブランドは最初の論文を発表している。その年、第一著者の論文を4報も発表した。

ブランドとウィーラー教授との共著論文が2017年までに19報もある。 院生としてはとても多産である。

2015年(2014年?)にブランドは研究博士号(PhD)を取得し、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California San Francisco)・ポスドクになった。ボスは、ジェニファー・グランディス教授(Jennifer R Grandis、写真出典)だった。

ブランドはグランディス教授との共著論文が2017~2019年に5報ある。

★ネカト

2017年6月の研究費申請書と2018年5月に出版した論文のネカトが指摘されているので、ネカトの発覚時期は、2018年前半(36歳?)と推定される。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、研究室のボス(グランディス教授)または同僚が気付いたと思われる。グランディス教授がカリフォルニア大学サンフランシスコ校に伝え、さらに、ブランドが院生時代を過ごしたウィスコンシン大学マディソン校に通報したのだろう。

thaler_paul_new_webブランドは、ネカト研究者の弁護で著名なポール・ターラー弁護士(Paul Thaler、写真出典)を雇った。→ 1‐6‐2.研究ネカトと告発されたらどうする? | 白楽の研究者倫理

ターラー弁護士を雇ったことで、事件をどれほど有利に進めることができたのか、記載がなく、白楽はわからない。

2022年4月5日(40歳?)、研究公正局はブランドが1件の研究費申請書、1件の博士論文、7報の発表論文、の24画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。

研究公正局の発表は、発覚から4年後と遅いが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校がネカト調査報告書を研究公正局に提出したのが2021年と遅かったためだ。カリフォルニア大学サンフランシスコ校がグズだったのだ。

研究公正局はブランドに、2022年3月23日から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

ブランドはネカト行為を肯定も否定もしていないが、4年間の締め出し処分に同意した。また、研究公正局が指摘した「3013年のPLOS ONE」論文、「2014年のCancer Research」論文、「2018年のCancer Research」論文の撤回も認めている。

1件の研究費申請書は以下の通り。以下は研究公正局の発表をそのままコピペした。

  • K99 DE027699-01, “Targeting HPV-driven immunosuppressive signaling pathways in head and neck cancer,” submitted to NIDCR, NIH, on June 8, 2017.R01 CA143128-01A1 submitted to NCI, NIH (funded)

1件の博士論文。以下は研究公正局の発表をそのままコピペした。

  • Ph.D. Thesis Dissertation, “Investigations of Nuclear HER family receptors in cancer and resistance to cetuximab therapy,” Department of Human Oncology, UWM, March 21, 2014 (hereafter referred to as “Thesis”).

7報の発表論文は以下の通り。2013-2018年(31-36歳?)の5年間の7論文である。以下は研究公正局の発表をそのままコピペした。

  1. Mapping C-terminal transactivation domains of the nuclear HER family receptor tyrosine kinase HER3. PLoS One 2013 Aug 8;8(8):e71518; doi: 10.1371/journal.pone.0071518. eCollection 2013 (hereafter referred to as “PLoS One 2013”).
  2. Nuclear EGFR as a molecular target in cancer. Radiother Oncol. 2013 Sep;108(3):370-7; doi: 10.1016/j.radonc.2013.06.010 (hereafter referred to as “Radiother Oncol. 2013”). Corrected in: Radiother Oncol. 2019 Jan;130:195; doi: 10.1016/j.radonc.2018.10.011
  3. Nuclear epidermal growth factor receptor is a functional molecular target in triple-negative breast cancer. Mol Cancer Ther. 2014 May;13(5):1356-68; doi: 10.1158/1535-7163.MCT-13-1021 (hereafter referred to as “Mol Cancer Ther. 2014”). Corrected in: Mol Cancer Ther. 2019 Apr;18(4):868; doi: 10.1158/1535-7163.MCT-18-1183.
  4. AXL mediates resistance to cetuximab therapy. Cancer Res. 2014 Sep 15;74(18):5152-64; doi: 10.1158/0008-5472.CAN-14-0294 (hereafter referred to as “Cancer Res. 2014”).
  5. The receptor tyrosine kinase AXL mediates nuclear translocation of the epidermal growth factor receptor. Sci Signal. 2017 Jan 3;10(460):eaag1064; doi: 10.1126/scisignal.aag1064 (hereafter referred to as “Sci Signal. 2017”). Retracted in: Sci Signal. 2021 Nov 9;14(708):eabn0168; doi: 10.1126/scisignal.abn0168.
  6. Human Papillomavirus Regulates HER3 Expression in Head and Neck Cancer: Implications for Targeted HER3 Therapy in HPV + Patients. Clin Cancer Res. 2017 Jun 15;23(12):3072- 3083; doi: 10.1158/1078-0432.CCR-16-2203 (hereafter referred to as “Clin Cancer Res. 2017”). Corrected in: Clin Cancer Res. 2021 Jul 15;27(14):4129; doi: 10.1158/1078- 0432.CCR-21-2141.
  7. Cross-talk Signaling between HER3 and HPV16 E6 and E7 Mediates Resistance to PI3K Inhibitors in Head and Neck Cancer. Cancer Res. 2018 May 1;78(9):2383-95; doi: 10.1158/0008- 5472.CAN-17-1672 (hereafter referred to as “Cancer Res. 2018”).

【ねつ造・改ざんの具体例】

2022年4月5日の研究公正局の発表に、各研究費申請書・論文のネカト部分を指摘している。しかし、言葉で説明されてもわかりにくい。以下、1つの例として、「2017年1月のSci Signal」論文を見ていこう。

★「2017年1月のSci Signal」論文

「2017年1月のSci Signal」論文の書誌情報を以下に示す。2021年11月9日に撤回された。

日本人のマリ・イイダ220417保存版)(Iida M)が第二著者である。

ウィスコンシン大学マディソン校は2018年8月に学術誌「Sci Signal」に撤回を要請した。しかし、学術誌「Sci Signal」は、どういうわけか論文を撤回しなかった。3年後、ウィスコンシン大学マディソン校のジョン・フォーリー研究公正官(John Foley)が再度要請して、ようやく撤回した。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が情報開示請求で得たウィスコンシン大学マディソン校の論文撤回で要請したメールのやり取りの冒頭部分(出典:同)。全文(35ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/01/Abritis_Redacted-UW-Madison.pdf

パブピアが研究公正局の指摘箇所とほぼ同様な点を指摘している。パブピアは画像を示しているので、以下、パブピアの図を示す。出典:https://pubpeer.com/publications/51FBF301F19C689D548558937B326C?

図1, 2, 3, 4, 5 , 6に重複画像があった。

例えば、図1Aで、水色で囲った非核サンプルのヒストンH3と核サンプルのチューブリンが同じウエスタンブロット画像だった。なお、この図には他の重複画像も赤色枠で示されている。

以下、説明せずに重複画像を並べた。1つの論文に重複画像が満載である。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年4月17日現在、パブメド(PubMed)で、トニ・ブランド(Toni Brand)の論文を「Toni Brand [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2021年の11年間の31論文がヒットした。

2022年4月17日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2017年1月のSci Signal」論文・1論文が2021年11月9日に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年4月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでトニ・ブランド(Toni Brand)を「Toni M Brand」で検索すると、本記事で問題にした「2017年1月のSci Signal」論文・ 1論文が撤回されていた。

研究公正局は「3013年のPLOS ONE」論文、「2014年のCancer Research」論文、「2018年のCancer Research」論文の撤回を要請しているので、これら3論文も、いずれ、撤回されるだろう。

★パブピア(PubPeer)

2022年4月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、トニ・ブランド(Toni Brand)の論文のコメントを「Toni Brand」で検索すると、7論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》ネカト常習者 

トニ・ブランド(Toni Brand)は、2013年の1件の博士論文、2013-2018年(31-36歳?)の5年間の7報の発表論文、の24画像をねつ造・改ざんしていた。

結構長い年月である。

ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin-Madison)の院生時代のデリック・ウィーラー教授(Deric L Wheeler)は、2011~2017年の6年間に19報も共著論文がある。院生指導の初期に気付くべきだったと思う。

研究公正局はブランドの2013年の博士論文もネカトだと指摘している。ウィスコンシン大学マディソン校は博士号を剥奪すべきだと思うが、訂正で済ませたのか、博士号を剥奪したという発表はない。

ブランドは研究者を廃業し高校教員になった。

ネカト者の人生は難しくなるが、博士号取得まで1億円くらいの税金が使われている。受けた教育、持っている能力を生かせる場で、生きて欲しい。

米国連邦官報にネカト者として記載さているが、今度こそ、不正をしないで、高校で頑張って欲しい。

マウント・タマルパイス高校(Mount Tamalpais School in Mill Valley, California)・教員のトニ・ブランド(Toni Brand):写真出典

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

①  研究公正局の報告:(1)2022年4月5日: Case Summary: Brand, Toni M. | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2022年4月11日の連邦官報:FRN – Toni M. Brand.pdf。(3)2022年4月11日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2022年4月1x日:NOT-OD-22-104: Findings of Research Misconduct
② 2021年11月11日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Science journal retracts paper after university investigation finds ‘carelessness and lack of attention to detail’ – Retraction Watch
③ 2022年4月5日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Cancer researcher faked data for 24 images in work funded by nine NIH grants: Federal watchdog – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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