2020年10月30日掲載
ワンポイント:トルコ・アンカラの英国考古学研究所(British Institute of Archaeology at Ankara)・副所長だったメラートは、1958年(33歳)、トルコのチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)を発見した。2012年7月29日、メラートは86歳で死亡した。その5年後の2018年2月(没5年後)、考古学者のエバーハルト・ツァンガー(Eberhard Zangger)は、はロンドンのメラートのアパートでメラートの遺品を整理し、発掘品がねつ造されていたことに気がついた。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ジェームス・メラート(James Mellaart、ORCID iD:?、写真出典)は、トルコ・アンカラの英国考古学研究所(British Institute of Archaeology at Ankara)・副所長だった。専門は考古学(トルコの遺跡)だった。
考古学なので「生命科学」で扱った。但し、地質学の要素が高いので「自然科学・工学」の一覧表にもリストした。
1958年(33歳)、トルコのチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)を発見した。
日本語に翻訳されていないが、『Earliest Civilizations of the Near East』(1965年)、『The Neolithic of the Near East』(1975年)など数冊の本を出版している(本の表紙出典はアマゾン)。
2012年7月29日(86歳)、メラートは死亡した。
2018年2月(没5年後)、考古学者のエバーハルト・ツァンガー(Eberhard Zangger)は、メラートが発掘した未公表の物を公表しようと、ロンドンのメラートのアパートで遺品を整理した。
すると、驚いたことに、トルコのチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)で発見したのと同様な岩片の模造品が、ロンドンのアパートで多数見つかった。つまり、メラートは発掘品をねつ造していたのだ。
メラートが発掘したチャタル・ヒュユク遺跡は現実にある。しかし、一部の発掘品はねつ造されたものだった。また、今まで報告された歴史的“事実”は残された資料と違っていた。つまり研究発表に「ねつ造」があった。
2020年10月29日(没7年後)現在、発掘品のどれが本物で、どれがニセ物なのか、どの研究発表のどの部分が「ねつ造」なのか、判定は済んでいない。
アンカラの英国考古学研究所(British Institute of Archaeology at Ankara)。写真出典
- 国:英国
- 成長国:英国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:1925年11月14日。英国のロンドンで生まれる
- 死亡:2012年7月29日(86歳)
- 分野:考古学
- 最初の不正発表:不明
- 不正発表:不明
- 発覚年:2018年(没5年後)
- 発覚時地位:死亡
- ステップ1(発覚):第一次追及者は考古学者のエバーハルト・ツァンガー(Eberhard Zangger)で、論文発表
- ステップ2(メディア):「Live Science」、「Popular Archeology」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①エバーハルト・ツァンガー(Eberhard Zangger)
- 所属機関・調査報告書のウェブ上での公表:該当せず(ー)
- 所属機関の事件への透明性:該当せず(ー)
- 不正:ねつ造
- 不正数:不明
- 時期:研究キャリアの初期から(推定)
- 職:発覚時、死亡していた。該当せず(ー)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 1925年11月14日:英国のロンドンで生まれる
- 19xx年(xx歳):xx大学で学士号取得
- 19xx-xxxx年(xx-xx歳):トルコ・アンカラの英国考古学研究所(British Institute of Archaeology at Ankara)・副所長
- 1958年(33歳):トルコのチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)を最初に発掘
- 2005年(79歳):退職
- 2012年7月29日(86歳):死亡
- 2018年(没6年後):ねつ造が発覚
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
「ジェームス・メラート」と紹介。
静止画+説明の動画:「James Mellaart – YouTube」(英語)6分58秒。
FrogCastが2018/01/12に公開
https://www.youtube.com/watch?v=OL05TSG0caI
●4.【日本語の解説】
★2018年03月14日:gigazine:著者不記載:「有名考古学者が遺跡からの出土品を偽造した証拠が死後に発見される」
「考古学者が遺跡からの出土品を偽造した」と聞くと、日本で起きた旧石器捏造事件を連想する人は多いはずですが、「トルコにある9000年前の遺跡から発見された出土品の一部が、有名考古学者によって偽造されたものである可能性が高い」と判明し、話題になっています。
Famed Archaeologist ‘Discovered’ His Own Fakes at 9,000-Year-Old Settlement
https://www.livescience.com/61989-famed-archaeologist-created-fakes.html
イギリスの著名な考古学者であるジェームス・メラート氏は、トルコのアナトリア半島南部にある「チャタル・ヒュユク」という遺跡の発掘調査に携わった人物です。チャタル・ヒュユクは新石器時代から銅器時代にかけての遺跡であり、古い時代から新しい時代の遺跡が層状に積み重なっています。最下層が形成された時期は紀元前7500年前にさかのぼり、遺跡の規模や複雑な構造から「世界最古の都市遺跡」と呼ばれることもあるとのこと。
しかし、2012年にメラート氏が死去してから、メラート氏の遺品整理を続けてきたルウィ研究所のエバーハルト・ツァンガー氏は、「メラート氏の遺品からチャタル・ヒュユクの壁画を偽造した証拠が見つかった」と述べています。
続きは、原典をお読みください。
★2018年03月15日:岡沢 秋:「世界遺産チャタル・ホユック(チャタル・フユック)に関わる捏造疑惑が発覚」
チャタル・ホユック(Çatalhöyük)は2012年に世界遺産に登録された遺跡で、約9,000年前からの居住の跡が知られる重要な遺跡。その遺跡の発見者で、先史時代のアナトリア考古学の第一人者の一人だったジェームズ・メラート氏(2012年死去)の遺品の中から、生前手がけた遺跡での発見物を捏造していた証拠が出てきたという、とんでもないニュースが流れてきた。
Famed Archaeologist ‘Discovered’ His Own Fakes at 9,000-Year-Old Settlement
https://www.livescience.com/61989-famed-archaeologist-created-fakes.html
>>日本語記事
有名考古学者が遺跡からの出土品を偽造した証拠が死後に発見される
https://gigazine.net/news/20180314-famed-archaeologist-fakes-discovered/
発見したのは、遺品の整理をしていたルウィ語研究所の研究者。
死後、未発表のテキストなどを発表する役目を遺言されたので遺品を整理してみたら、なんとそれまでに発表されていたものを捏造した証拠が見つかったのだという。
続きは、原典をお読みください。
★2001年5月以降:紺谷 亮一( 本文・ 表 )岡山市立オリエント美術館・学芸員、小野田 伸(画像・制作)岡山市立オリエント美術館・学芸員:「1. トルコ(アナトリア)の彩文土器」
1960年代後半イギリス人の若き考古学者ジェイムス・メラートは、それまで多くの学者があまり振り向くことのなかったアナトリア、それも先史時代に焦点を絞って、フィールドワークを開始しました。彼はアナトリアにおける先史時代研究のパイオニアです。アナトリア考古学においてハジュラルの彩文土器併行の文化は通常、新石器時代─銅石器時代と呼ばれています。
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
ジェームス・メラート(James Mellaart)は20世紀最大の考古学者の1人である。トルコ生まれの妻・アーレット(Arlette、写真出典)とともにトルコの遺跡を発掘した。
1958年(33歳)、トルコのチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)を発見し、最初に発掘した。
メラートは1961年と1965年にもチャタル・ヒュユク遺跡を発掘したが、後述するように、1965年が最後の発掘だった。
最初の発掘。Omar hoftun – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
発掘作業中のメラート。Omar hoftun – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
Omar hoftun – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
Omar hoftun – Own work, CC BY-SA 3.0, Link
新石器時代のチャタル・ヒュユク遺跡の発見は、アナトリアの歴史を完全に変えた。
9,500年前の家、壁画、家財道具、レリーフ、墓、家の壁に置かれた動物の頭蓋骨、家の入り口が、今日まで保存されている。
チャタル・ヒュユク遺跡は1つの文明ではなく、連続して出現したさまざまな文明に属していた。
チャタル・ヒュユク遺跡は20世紀の最も重要な考古学的発見の1つで、メラートは考古学の歴史の中で最も重要な人物になった。
【動画2】
スタンフォード大学のイアン・ホダー教授(Ian Hodder)が学術講演でチャタル・ヒュユク遺跡を説明している動画:「Çatalhöyük: a 9000 year old town – Ian Hodder (Stanford University) – YouTube」(英語)36分25秒。
zammù multimedia – Università di Cataniaが2018/07/26に公開
★問題の多い人
メラートの人生は常に問題を抱えていた。
1964年(39歳)、メラートは発掘品を盗んで密輸業者に売ろうとした。それで、1965年以後、トルコでの発掘が禁止された。
1965年(39歳)、仕方なしに、メラートはチャタル・ヒュユク遺跡の最後の発掘をし、この年に、機材をまとめて発掘から撤退した。
発掘を禁止されたメラートは、仕方なしに、収集した発掘品、文書、ノート、スケッチ、写真などの資料を、英国ロンドンで整理し、論文を発表し、著書を出版した。
なお、考古学者のエバーハルト・ツァンガー(Eberhard Zangger)(後述)は、 「彼にはまだ半世紀の人生が残っていた。この時期、彼は空想の世界に入り込んでいたように思えます。おそらく、彼は現場の同僚をダマして、考古学者に報復したかったのでしょう」と述べている。
メラートが撤退した1965年からしばらくは、チャタル・ヒュユク遺跡の発掘調査は行なわれなかった。
再開は28年後の1993年で、ケンブリッジ大学のイアン・ホダー教授(Ian Hodder、上記の動画2の人物。後に、スタンフォード大学)が責任者として発掘調査を再開した。
★ネカト発覚の経緯
以下の内容と写真は、主にこの記事に依存している → 2018年3月13日のアジェイミー・サイデル(Jamie Seidel)記者の「Perth Now」記事:Famed British archaeologist James Mellaart ‘forged’ some of his finds, researchers claim | Perth Now
2012年7月29日(86歳)、メラートが死亡した。
メラートは彼の死後、彼の残りの発見を公表することを望んだ。それで、死ぬ前に、メラートは仲間の考古学者や歴史家に彼が収集した発掘品、文書、ノート、スケッチ、写真などの資料の使用権を与えていた。
2017年(没5年後)、これらの資料のいくつかは、ルウィ研究所(Luwian Studies organisation)に渡された。 → James Mellaart forged documents throughout his life – Luwian Studies
2018年2月(没5年後)、ルウィ研究所の考古学者・エバーハルト・ツァンガー(Eberhard Zangger – Wikipedia、写真出典)はロンドンのアパートの部屋の鍵をもらった。
ツァンガーは、メラートが収集した発掘品、文書、ノート、スケッチ、写真などの資料のオリジナルを入手した。念のためにと、それまでメラートが発表した研究論文の内容と合うかどうかのダブルチェックをした。
すると、驚いたことに、今まで報告された“事実”が資料と違っていた。つまり研究発表に「ねつ造」が含まれていた。
さらに、トルコのチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)で発見したのと同様な岩片の模造品が、ロンドンのアパートで多数見つかった。つまり、メラートは発掘品をねつ造していたのだ(以下の写真)。
Credit: Supplied, Luwian Studies Foundation。写真出典。
メラートは自分がチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)で発見した内容を、有名な考古学の学術誌に発表していた。その後、それらの論文は、チャタル・ヒュユク遺跡に関する多くの解釈の基礎になっていた。それらの論文の内容が、疑わしいことになった。
メラートが発見したチャタル・ヒュユク遺跡の最も有名な発掘品の1つは、「火山が爆発する」壁画である(下図C)。
写真出典
メラートは、この壁画の写真の左部分の20cmと書いてある右側の四国みたいに形をチャタル・ヒュユクから130 km離れた2つのピークを持つハッサン山とし、火山のイメージの下に描かれているのは、チャタル・ヒュユクの密集した家々の鳥瞰図だと解釈した。
そして、これらは、地図に関する教科書に採用され、多くの場合、最も古い火山の描写、最も古い「街の地図(ストリートマップ)」だと述べられている。
この火山・ハッサン山(Hasan Dağ、標高3,253 m)は、地質学的に約9000年前に噴火したことが知られている。
現在の地形と合わせて示すと以下の図になる(出典:同上)。Aはトルコ全域、Bはハッサン山(Hasan Dağ、標高3,253 m)周辺の拡大図、Dはチャタル・ヒュユク遺跡から見たハッサン山の輪郭である。
しかし、他の解釈もある。
「火山」と見立てた絵は「ヒョウの皮」かもしれない。チャタル・ヒュユクで見つかった他の画像に「ヒョウの皮」があった。そしてその「ヒョウの皮」は、「火山」と似た輪郭と斑点と構図だった。
「街の地図(ストリートマップ)」と見立てた絵は単に幾何学的なデザインなのかもしれない。
ツァンガーは「メラートは彼の理論を補強するために画像を加工していた。そして、都合の良い翻訳をしている」、とメラートのねつ造を指摘している。つまり、「ヒョウの皮」の絵だったのを「火山」に見えるように発掘品を加工したのかもしれない。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略。
●7.【白楽の感想】
《1》考古学の真贋
考古学のねつ造では、日本でも有名な藤村新一の事件がある。関連して1人が自殺した(賀川光夫)。
トルコのチャタル・ヒュユク遺跡(Çatalhöyük)の発見は事実だし、その遺跡からたくさんの発掘品が得られた。そして、ジェームス・メラート(James Mellaart、写真出典)が発掘したとする発掘品の中に本物と偽造が混ざっている。
本物と称して偽造品を売れれば、ぼろ儲けができるので、メラートはそうやってかなりの偽造品を売ったらしい。
メラートの没後に偽造行為が見つかったので、本人に問いただすことは不可能である。
2020年10月29日現在、発掘品のどれが本物で、どれがニセ物かの、判定は済んでいない。
どうするんだろう?
《2》本物・ニセ物
美術館所蔵の絵画がニセ物だった、というニュースが時々流れる。
陶器、骨とう品、バッグ、宝石などには本物・ニセ物がつきものである。犬猫などペットの血統書も本物・ニセ物騒動がある。牛や馬の血統書も、そして、人間の経歴も本物・ニセ物騒動が起こる。
ウナギなどの食品も外国産を国産と称するなど、産地偽装が起こる。
早い話、検査や判定が難しいすべての場合に本物・ニセ物騒動が起こる。
白楽は、ウナギを食べないが、食べるとしても安全で美味ければ、産地はどこでもいい。つまり、上記の本物・ニセ物騒動は実質軽視でブランド重視のために起こる見かけの本物・ニセ物騒動である。
ところが、研究論文の成果は、実質を重視している。ニセ物のデータや文章があれば、実質的な被害が出てくる。場合によると、数千人の健康を害する。数十億円の産業上の損失を被る。国家安全保障上の危機を迎える。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア日本語版:ジェームス・メラート – Wikipedia、チャタル・ヒュユク – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:James Mellaart – Wikipedia、Çatalhöyük – Wikipedia
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④ 2018年3月12日のオーウェン・ヤルス(Owen Jarus)記者の「Live Science」記事:Famed Archaeologist ‘Discovered’ His Own Fakes at 9,000-Year-Old Settlement | Live Science
⑤ 2018年3月13日のアジェイミー・サイデル(Jamie Seidel)記者の「Perth Now」記事:Famed British archaeologist James Mellaart ‘forged’ some of his finds, researchers claim | Perth Now
⑥ 2019年10月11日のエバーハルト・ツァンガー(Eberhard Zangger)記者の「Popular Archeology」記事:James Mellaart: Pioneer…..and Forger – Popular Archeology
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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