フェイ・ワン(Fei Wang)(米)

2023年2月5日掲載 

ワンポイント:中国出身で、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)・準教授になったフェイ・ワンは、2014年1月(48歳)、2011年のNIH研究助成金申請書にネカトがあったと同僚から告発された。イリノイ大学からクロと認定され、辞任を勧められたが、拒否した。2018年12月14日(52歳)、解雇された。テニュア教員だったこともあり、解雇不当と裁判所に訴えたが、2020年4月(54歳)、敗訴した。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

フェイ・ワン(Fei Wang、ORCID iD:?、写真出典)は、中国の北京大学を卒業後、渡米し、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)・分子細胞生物学科(School of Molecular and Cellular Biology)・準教授になった。医師免許は所持していない。専門は幹細胞だった。

2014年1月(48歳)、フェイ・ワンの同僚が、フェイ・ワンの2011年のNIH研究助成金申請書にデータねつ造・改ざんがあると告発した。

2018年12月14日(52歳)、イリノイ大学・調査委員会はクロと認定し、評議員会はフェイ・ワンの解雇を、賛成7票、反対0票、棄権2票で可決した。

フェイ・ワンは解雇された。

米国の大学でテニュア教員が解雇されることはとても珍しい。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校では過去50 年間に2回しかない。

2018年11月(52歳)、解雇不当と裁判所に訴えたが、2020年4月(54歳)、敗訴した。

フェイ・ワン事件は研究公正局と科学庁(NSF)の案件と思われるが、発覚から9年、解雇から4年経過した2023年2月4日現在、研究公正局からの発表はない。科学庁(NSF)は発表しても氏名を隠蔽をするので発表したかどうかわからない。

イリノイ大学アーバナシャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)。Photo by Joyce Seay-Knoblauch。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のカリフォルニア大学バークレー校
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1966年1月1日生まれとする。2018年12月14日の記事に52歳とあったので
  • 現在の年齢:58歳?
  • 分野:幹細胞
  • 不正文書提出・発表年:2011年(45歳)
  • 発覚年:2014年(48歳)
  • 発覚時地位:イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はフェイ・ワンの同僚で、部門長に公益通報した
  • ステップ2(メディア):「News-Gazette」、「Scientist」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・調査委員会。②地方裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。https://s3.documentcloud.org/documents/5631743/001-Dec-2018-12-14-Report-Professor-Fei-Wang.pdf
  • 大学の透明性:実名報道で調査報告書がウェブ閲覧可(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正文書数:NIHとNSFへの研究助成金関連の文書だが何件か不明。論文数は不明
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:大学から解雇処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:(1) Fei Wang | LinkedIn、(2)UPDATED: UI trustees fire tenured professor over falsified research | News | news-gazette.com

  • 生年月日:不明。仮に1966年1月1日生まれとする。2018年12月14日の記事に52歳とあったので
  • 1988年(22歳):北京大学(Beijing University)で学士号取得
  • 1993年(27歳):イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)で修士号取得:生化学
  • 1998年(32歳):米国のカリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)で研究博士号(PhD)を取得:細胞分子生物学
  • 2005年11月~2012年8月(39~46歳):イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)・分子細胞生物学科(School of Molecular and Cellular Biology)・助教授
  • xxxx年(xx歳):後でネカトが発覚する科学庁(National Science Foundation)の2009年研究助成金に関連する文書を提出
  • 2011年(45歳):後でネカトが発覚するNIH研究助成金申請書を提出
  • 2012年8月(46歳):イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・準教授
  • 2014年1月(48歳):不正研究が発覚
  • 2018年12月(52歳):イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校から解雇(fire)
  • 2020年4月(54歳):解雇(fire)不当と訴えた裁判で敗訴
  • 2023年2月4日(57歳)現在:フェイ・ワン(Fei Wang)と同姓同名が多く、研究者として活動しているのかどうか不明

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

フェイ・ワン(Fei Wang)は、中国の北京大学を卒業後、渡米し、米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)・分子細胞生物学科(School of Molecular and Cellular Biology)・準教授になった。

フェイ・ワン(Fei Wang)の獲得グラントをサイトで検索すると、1,678 件もヒットした。フェイ・ワン(Fei Wang)と同姓同名で、本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の研究者が多数いると思われる。 → Grantome: Search:Fei Wang

それで、所属をイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)に限定した。

すると、NIHからは2007~2014年に9件、科学庁(NSF)からは2009年に1件受給していた。フェイ・ワンは優秀な研究者のようだ。 → Grantome: Search:Fei Wang:University of Illinois Urbana-Champaign

★発覚の経緯

2014年1月(48歳)、フェイ・ワンの同僚が、フェイ・ワンの部門長であるジア・チェン教授(Jia Chen、写真出典)に、フェイ・ワンのデータねつ造・改ざんを告発した。

ねつ造・改ざんの内容は、フェイ・ワンがNIHへの2011年の研究助成金申請書で研究データを改ざんしたというものだった。

ジア・チェン教授は、フェイ・ワン研究室の院生(7人いた)や同じ学科の教員などに聞き、いろいろと調べた。

さらに、フェイ・ワンを呼んで告発内容を伝え、確かめると、その後、認めたことを撤回するのだが、その時は、フェイ・ワンンはデータねつ造・改ざんを認めた。

つまり、フェイ・ワンは実際にはしていない実験結果を記載したデータねつ造・改ざんと、マウス細胞の画像をヒト細胞だとしたデータねつ造・改ざんを認めた。

★研究公正局と科学庁(NSF)の案件

その後、NIHへの研究助成金申請書だけでなく、科学庁(National Science Foundation)への2009年の研究助成金の書類にもデータねつ造・改ざんが見つかった。

フェイ・ワン事件は研究公正局と科学庁(NSF)の案件と思われるが、発覚から9年、解雇から4年経過した2023年2月4日現在、研究公正局からの発表はない。科学庁(NSF)は発表しても氏名隠蔽をするので発表があったかどうかわからない。

★処分

2014年(48歳)、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校はフェイ・ワンに辞職(resign)を勧めたが、フェイ・ワンは拒否した。

2015年3月(49歳)、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校・調査委員会はフェイ・ワンの解任を勧告した。

2016年と2017年、公聴会を通じて、フェイ・ワンの解任を審理し、学長に解任を勧告した。

2018年5月(52歳)、イリノイ大学のティモシー・キリーン学長(Timothy L. Killeen – Wikipedia)はフェイ・ワンの解雇(fire)を評議員会に案件として提出した。

2018年12月14日(52歳)、イリノイ大学・評議員会はNIHへの研究助成金申請書で研究データを改ざんしたフェイ・ワンの解雇を、賛成7票、反対0票、棄権2票で可決した。

フェイ・ワンは解雇された。

米国の大学でテニュア教員が解雇されることはとても珍しい。イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校では過去50 年間に2回しかない。

以下はイリノイ大学・評議員会・報告書の冒頭部分(出典:同)。全文(10頁)は → https://s3.documentcloud.org/documents/5631743/001-Dec-2018-12-14-Report-Professor-Fei-Wang.pdf

★裁判

フェイ・ワンはテニュアを持っているイリノイ大学・準教授だった。

2018年11月(52歳)、フェイ・ワンは、不当に解雇されたとイリノイ大学を被告に裁判に訴えた。

2020年4月7日(54歳)、しかし、地方裁判所のアンドレア・ウッド判事(Andrea R. Wood)は、フェイ ワンの訴訟を却下した。 → 2020年3月30日の法廷文書:Wang v. Bd. of Trs. of the Univ. of Ill., No. 18-cv-07522 | Casetext Search + Citator

【ねつ造・改ざんの具体例】

上記したように、フェイ・ワンは、研究助成金申請書に実際にはしていない実験結果を記載したこと、マウス細胞の画像をヒト細胞だとデータねつ造・改ざんした。

研究助成金申請書は公表されていないので、ねつ造・改ざんの具体例をここに示すことはできない。

研究助成金申請書以外では、どの論文のデータねつ造・改ざんしたのかを、白楽はつかめなかった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年2月2日現在、パブメド(PubMed)で、フェイ・ワン(Fei Wang)の論文を「Fei Wang [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の5422論文がヒットした。

フェイ・ワン(Fei Wang)と同姓同名で、本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の研究者が多数いると思われる。本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の論文が多数含まれていると思われる。

2023年2月2日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、13論文が撤回されていた。

フェイ・ワン(Fei Wang)と同姓同名で、本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の研究者が多数いると思われる。本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の論文が多数含まれていると思われる。

フェイ・ワン(Fei Wang)の論文を、所属の「イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)」を加えた「Fei Wang [Author] University of Illinois Urbana-Champaign」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008~2022年の15年間の30論文がヒットした。

2023年2月2日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年2月2日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでフェイ・ワン(Fei Wang)を「Fei Wang」で検索すると、 0論文が訂正、1論文が懸念表明、41論文が撤回されていた。

フェイ・ワン(Fei Wang)と同姓同名で、本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の研究者が多数いると思われる。

本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の撤回論文が多数含まれていると思わ、本記事で問題にしている研究者の撤回論文がどれだかわからない。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois Urbana-Champaign)所属の撤回論文は0報だった。

★パブピア(PubPeer)

2023年2月2日現在、「パブピア(PubPeer)」では、フェイ・ワン(Fei Wang)の論文のコメントを「Fei Wang」で検索すると、526論文にコメントがあった。

フェイ・ワン(Fei Wang)と同姓同名で、本記事で問題にしているフェイ・ワン(Fei Wang)以外の研究者が多数いると思われる。

本記事で問題にしている研究者の論文がどれだかわからない。

●7.【白楽の感想】

《1》同姓同名 

フェイ・ワン(Fei Wang)は中国人なのか中国系米国人なのか不明だが、同姓同名がたくさんいて、中国も米国も、そして日本も、中国系の氏名は個人をどう特定しているのか、時々、疑問に思う。

銀行口座など困らないのだろうか?

研究者の場合、「ORCID iD」があり、研究者の個人特定に役立つ。しかし、全員に取得を義務付けていないし、普及の程度は十分とは思えない。

研究者の採用・昇進などで、他人の論文を自分の業績にカウントした時、それはウソだ、とどう見破るのだろう?

《2》ぼんやり 

フェイ・ワン事件は大学・調査報告書がウェブ上に公表され、法廷文書も読むことができる。

それでも、事件が見えてこない。

研究者の人間が見えてこない。

フェイ・ワンはどんな人生を過ごしてきたのか? どんな状況でネカトをしたのか? 見えてこない。

イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校でテニュア教員が解雇されたのは過去50年間に2回しかない。

それほど、大事件だったハズだが、どう「大」事件だったのか? 見えてこない。

フェイ・ワン(Fei Wang). https://www.news-gazette.com/news/updated-ui-trustees-fire-tenured-professor-over-falsified-research/article_f444b8a1-343b-58ef-ac05-32b67785953d.html

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●9.【主要情報源】

① 2018年12月14日のメアリー・シェンク(Mary Schenk)記者の「News-Gazette」記事:(1)UPDATED: UI trustees fire tenured professor over falsified research | News | news-gazette.com。(2)UPDATED: UI trustees fire tenured professor over falsified research | News-Gazette.com
② 2018年12月14日のジム・メドウズ(Jim Meadows)記者の「Illinois Public Media」記事:U Of I Trustees Dismiss Tenured Professor For Faked Research | Illinois Public Media News | Illinois Public Media
③ 2018年12月17日のアシュリー・テイラー(Ashley P. Taylor)記者の「Scientist」記事:Tenured Biology Professor Sacked for Research Misconduct | The Scientist Magazine®
④ 2020年3月30日の法廷文書:Wang v. Bd. of Trs. of the Univ. of Ill., No. 18-cv-07522 | Casetext Search + Citator
⑤ 2020年4月7日のパトリシア・マンソン(Patricia Manson)記者の「Chicago Daily Law Bulletin」記事:Fired professor’s suit doesn’t make the grade
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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