7-174 科学マフィア:腐った学者と腐った学術誌

2025年6月10日掲載 

白楽の意図:アルツハイマー病研究詐欺の事件を暴いたチャールズ・ピラーの書籍『ドクタード』に対し、虚偽の反論をした学者がいた。例えば、英国のジョン・ハーディ教授(John Hardy)とバート・デ・ストルーパー教授(Bart de Strooper)である。虚偽の反論を掲載した学術誌「JAMA」、 学術誌「Lancet Neurology」、アルツハイマー病研究ウェブサイト「アルツフォーラム(Alzforum)」は、虚偽だと指摘したコメントの掲載を拒否する異常な対応をした。まともな学者と学術誌が大半であるが、どの集団もまともではない部分が少しはある。今回、デレク・ロウ(Derek Lowe)の「2025年5月のScience」論文を予備解説に、「アミロイド・マフィア」がアミロイド仮説の批判者を異常に排除する腐った学者・学術誌があることを示したエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)の「2025年5月のRetraction Watch」論文を読んだ。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.キンケイドの「2025年5月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

本論文は、チャールズ・ピラー著の『ドクタード』に、デタラメな批判をしたアミロイド・マフィアの腐った学者と腐った学術誌の話である。

★2025年5月30日:7-173 「書評」:チャールズ・ピラー:『ドクタード』アルツハイマー病研究詐欺 | 白楽の研究者倫理

7-173 「書評」:チャールズ・ピラー:『ドクタード』アルツハイマー病研究詐欺

池田光穂アミロイド・マフィア:Amyloid Mafia

記事発表日の記載なし

マーガレット・ロック氏は、この問題を医療人類学の 視点からながく、議論してきており、プリンストン大学出版 会から2013年に出版された『アルツハイマーの 謎』において、アミロイド・マフィアと呼んで、警鐘を発していた。

『アルツハイマーの 謎』の目次はココを見るとわかる → アルツハイマー病の謎 « 名古屋大学出版会

続きは、原典をお読みください。

★2025年5月27日:デレク・ロウ(Derek Lowe):アルツハイマー詐欺への反応(A Reaction to Alzheimer’s Fraud)。出典:A Reaction to Alzheimer’s Fraud | Science | AAAS

「アミロイド仮説」と「アミロイド・マフィア」をわかりやすく書いてあるデレク・ロウ(Derek Lowe、写真出典同)の論文から、以下を抽出した。

【アミロイド仮説とアミロイド・マフィア】

アミロイド(amyloid)、特にβアミロイドタンパク質は、何十年にもわたってアルツハイマー病の第一の原因とされてきた。

1990年代初頭、「アミロイド仮説(amyloid hypothesis)」は圧倒的に有力だった。

既に、βアミロイドがアルツハイマー病に関与しているという研究結果が非常に多く出版されていた。

その多くは、βアミロイドが原因の1つ、おそらくは原因そのものだとしていた。

そして、2006年、シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)とカレン・アッシュ(Karen Ashe)が、決定的な証拠を示す論文をNature誌に発表した。

つまり、AB*56と呼ばれるβアミロイドが、マウスにアルツハイマー病の症状を引き起こすと発表した。→ 「2006年3月のNature」論文:RETRACTED ARTICLE: A specific amyloid-β protein assembly in the brain impairs memory | Nature 

シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)、カレン・アッシュ(Karen Ashe)(米)

だが、残念ながら、この研究は再現性がなかった。

そして、16年後の2022年、ネカトハンターのマシュー・シュラグ(Matthew Schrag)らが、「2006年3月のNature」論文のデータはねつ造だと指摘した。

なお、多くの人は、「2006年3月のNature」論文 がアミロイド仮説の根拠だととらえるが、実際はそうではない。

「アミロイド仮説」は、「2006年3月のNature」論文が発表される数十年も前からアルツハイマー病の世界を席巻していた。

確かに、「2006年3月のNature」論文はアミロイド仮説を大きく前進させた(と当時は思われた)。

しかし、その前から、アルツハイマー病研究でアミロイド仮説ほど説得力があり、長期間にわたりこの分野の資金と労力の大部分が投入された研究課題はなかった。

そして、長い間、アミロイド仮説は誰もが研究すべき正しい目標だと思われていた。

ただ、「2006年3月のNature」論文 が出版された2006年当時、アミロイドを標的にした治療法の臨床試験は、失敗に終わることが続いていた。 → 2024年7月8日記事: Does It Work? Does it Do Harm? And More Basic Questions. | Science | AAAS

それで、その頃から、「アミロイド仮説」に対する深刻な疑念も生まれ始めていた。

もう1つ知っておくべき注目点は、アルツハイマー病研究を外部から見た時、「アミロイド・マフィア(amyloid mafia)」(あるいは似たような言葉)という言葉が飛び交っていたことだ。

これは、「アミロイド仮説」を支持することで研究キャリアを積み、膨大な資金力と強力な人脈を築きあげてきた研究者集団(科学マフィア)のことである。

科学マフィアは、その研究分野を牛耳る数人の学会ボスとその弟子・賛同者を中心に多数の研究者からなる派閥のような利権組織である。

やっかいなことに、科学マフィアの支部長(有名大学の教授)たちが政府の科学政策を決める、研究助成金の配分先を決める、学術誌・編集長として投稿論文の採否を決める、各種の科学賞の受賞者を決める、教授採用・昇進などの人事権を握る。

この科学マフィアの1つである「アミロイド・マフィア」は、「アミロイド仮説」疑惑を提唱する研究者を弾圧し、自由な研究の進展を妨げ、アルツハイマー病の原因としてアミロイド以外のアイデアを叩きつぶしてきた。

「アミロイド・マフィア」のような排外的な利権組織(科学マフィア)は、実はほとんどの研究分野でかなり一般的にみられる。

各研究分野では、一般的に、支配的な考え、仮説、世界観があり、そこには強力な学術権力者(学会ボスたち)が常にいる。

そして、別の仮説を提唱する研究者は、自分の仮説を真剣に受け止めてもらい、研究資金を得るために、既存の科学マフィアと戦うしかない。

マー、良い悪いは別にして、ほとんどの場合、この戦いは学術界だけでなく、人間社会では一般的にみられる闘争でもある。

学術界としては、当然ながら、不正論文はなるべく早く排除・非難されるべきであるし、事実に合わない仮説は捨てられ、新しい仮説にとって代わられるべきである。

ところが、この「アミロイド・マフィア」は「2006年3月のNature」論文の不正を薄々知っていたのに、自分たちの利権を守るために「アミロイド仮説」疑惑を弾圧し、自分たちの利権を守るために科学を私物化してきた。

この「アミロイド・マフィア」によって、アルツハイマー病研究者の多くの時間と労力、そして膨大な国家資金が無駄になった。

●2.【キンケイドの「2025年5月のRetraction Watch」論文】

★読んだ論文

  • 論文名:‘More of the same’: Journals, trade website refuse to correct critiques of book on Alzheimer’s fraud
    日本語訳:「同じことの繰り返し」:学術誌や業界ウェブサイトはアルツハイマー病詐欺に関する書籍への批判を訂正することを拒否
  • 著者:Ellie Kincaid
  • 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
  • 発行年月日:2025年5月27日
  • ウェブサイト:https://retractionwatch.com/2025/05/27/doctored-charles-piller-matthew-schrag-jama-lancet-neurology-alzforum-critiques-corrections-alzheimers-fraud
  • 著者の紹介:エリー・キンケイド(Ellie Kincaid、写真出典
  • 学歴:2014年に米国のセントルイスのワシントン大学(Washington University in St. Louis)で学士号(英語学)、2016年にニューヨーク大学(New York University)で修士号(科学、健康、環境レポート)。経歴の出典
  • 分野:科学ジャーナリズム
  • 論文出版時の所属・地位:2022年5月~、撤回監視(Retraction Watch)・編集員

●【論文内容】

★批判

調査ジャーナリストのチャールズ・ピラー(Charles Piller)が執筆した著書『 ドクタード(原題:Doctored: Fraud, Arrogance, and Tragedy in the Quest to Cure Alzheimer’s)』が2025年2月に出版された。

本書は、ヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)・助教授でアルツハイマー病研究者のマシュー・シュラグ(Matthew Schrag)らネカトハンターたちのネカト追及を詳述している。彼らはアルツハイマー病に関する数百もの研究論文にデータ不正の証拠を見つけた。

ピラーによると、『ドクタード』の書評や報道はほとんどが肯定的だった。

しかし、学術誌「JAMA」、 学術誌「Lancet Neurology」、アルツハイマー病研究に関するニュースや解説を掲載するウェブサイト「アルツフォーラム(Alzforum)」の書評は、『ドクタード』を異常に批判した。

ピラーとシュラグは、「表現の自由」はあるので、いろいろな人が自分の意見を述べるのを尊重すると述べているが、批判的な書評の中には、間違いや彼らのネカト調査を軽視する記述があった。

そして、これらの学術誌とアルツフォーラムは、ピラーとシュラグが要求した訂正や反論の掲載を拒否した。

学術誌「Lancet Neurology」・編集長は、シュラグが明らかな誤りだと指摘した箇所(引用上の誤りで、簡単に確認できる)の訂正も拒否し、書評の著者が同意しないため訂正する必要性はないとシュラグに伝えてきた。

批判の多くは、アルツハイマー病の原因とした「アミロイド仮説」論文での研究不正を誇張し、「アミロイド仮説」を過小評価、アミロイドを標的とした新薬を疑問視していると主張した。

2025年2月4日、私(エリー・キンケイド)たちは、著者のピラーに依頼して、この本『ドクタード』の抜粋を書いてもらい、それを「Retraction Watch」に掲載した。

「Retraction Watch」のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)は、この本を「科学者や政策立案者、そして、いつか大きな病気に関係するすべての人々、つまり私たち全員にとっての必読書」と評した。 → 2025年2月4日記事:Undisclosed conflicts, lightning-fast peer review: One Alzheimer’s journal’s role in a failed drug – Retraction Watch

★学術誌:JAMA

最初の異常な論評は学術誌「JAMA」の書評だった。 → 2025年3月17日:The Bad Medicine of Doctored | Dementia and Cognitive Impairment | JAMA | JAMA Network

『ドクタード』は「誤情報と陰謀論(misinformation and conspiracy theories」に満ちた著書で、ネカトハンターたちは数百本の論文を調べ、わずか4件の確証を得た研究不正行為しか記載していないと、書評の著者(Joshua D. Grill; Gil D. Rabinovici)らは批判した。

シュラグとピラーは反論を学術誌「JAMA」に投稿したが、JAMA誌は「多数の投稿があり、紙面は限られているため掲載できない」と、掲載を拒否した。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が公開したシュラグとピラーの反論の冒頭部分(出典:同)。全文(4ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2025/05/Letter-JAMA-2025-FINALIZED.docx.pdf

私(エリー・キンケイド)たちが、学術誌「JAMA」ネットワークのコミュニケーションおよびエンゲージメントディレクター(communications and engagement director)のジェニファー・ツァイス(Jennifer Zeis、写真出典)に状況を問い合わせた。

すると、「出版していないコンテンツの状況については、確認も否定もできない」と回答してきた。

★アルツフォーラム(Alzforum):ジョン・ハーディ

「1.【日本語の予備解説】」で示したように問題は「2006年3月のNature」論文でのデータねつ造である。

シュラグは、この「2006年3月のNature」論文に不正操作された画像を見つけた。

この論文は昨年(2024年)、撤回されたが、それまでに、2,384回引用されていて、その数値は、撤回論文の中で5番目に多く、アルツハイマー病研究分野で大きな影響力があったが。

ところが、英国のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)のジョン・ハーディ教授(John Hardy、アルツハイマー病研究者、写真出典)は、「2006年3月のNature」論文は「我々の分野に大きな影響力はなかった」と、アルツフォーラム(Alzforum)で述べた。

そこでは、ハーディ教授は自身を、アミロイド仮説を支持する陰謀団「アミロイド・マフィア」の一員、と表現していた。

そして、ハーディ教授は「アミロイド仮説の総説でこの「2006年3月のNature」論文を引用したことはなく、他の主要な総説でも引用していない」と記載していた。

ベルギーから英国の大学に移籍したバート・デ・ストルーパー教授(Bart de Strooper、写真出典)は、批判的な総説(The toxic Aβ oligomer and Alzheimer’s disease: an emperor in need of clothes | Nature Neuroscience)で「のみ」この「2006年3月のNature」論文を引用した主張した。

しかし、その引用記録はウソだった。

ハーディ教授とデ・ストルーパー教授は「2006年3月のNature」論文を何回も引用していた。

ハーディ教授は「2006年のNeuron」論文など4報でこの論文を引用し、デ・ストルーパー教授は10回も引用していた。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が公開したシュラグの反論の冒頭部分(出典:同)。全文(7ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2025/05/Dear-Colleagues-letter-for-AlzForumMSSfinal.docx.pdf

「2006年3月のNature」論文を引用していないというウソは、簡単に反証されるのに、なぜそんなウソをついたのか、理解できないと、シュラグは述べている。

なお、私(エリー・キンケイド)はハーディ教授にコメントを求めたが、回答はなかった。

★アルツフォーラム(Alzforum):編集部

アルツフォーラム(Alzforum)の学術誌「JAMA」の記事に関するスレッドにハーディ教授が投稿し、その影響で多くのアルツハイマー病研究者もピラーと彼の著書『 ドクタード』を批判した。 → The Bad Medicine of Doctored | ALZFORUM

ピラーは、批判には慣れており、通常は批判の議論に反論はしない。

しかし、今回、コメントの多くが事実とは異なり、私の本を歪曲し、私個人への人身攻撃もあり、反論しないと、実質的に彼らの主張に同意していると見なされるのもまずいと考え、ピラーとシュラグは反論の文章を投稿した。

しかし、アルツフォーラム(Alzforum)は、ピラーとシュラグの投稿を、JAMA誌の時と同じように、掲載を拒否した。

以下は「撤回監視(Retraction Watch)」が公開したシュラグの反論の冒頭部分(出典:同)。全文(3ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2025/05/Charles-Piller-comments-re-critics-of-Doctored.pdf

アルツフォーラムのガブリエル・ストロベル編集長(Gabrielle Strobel、写真出典)は、あなたの主張は何か月も前から展開されていて、コメントに新しい点は見当たらないため、このやり取りを終えます、と、ピラーに返事をしてきた。

ストロベル編集長に私(エリー・キンケイド)がコメントを求めたが、回答はなかった。

ピラーは、ハーディ教授やこのスレッドにコメントした他の研究者たちがアルツフォーラムの科学諮問委員会(Scientific Advisory Board | ALZFORUM)のメンバーであることを指摘した。

アルツフォーラムはかつてこのスレッドを「討論」と称して宣伝していた。しかし、シュラグとピラーに反論の機会を与えなかった。

ピラーは、「科学諮問委員が私を批判するのを許しながら、何の反論も掲載しないというのは奇妙だ」と批判した。

シュラグは「この分野のリーダーたちは、こんな“討論”を望んでいるのだろうか?」と。

★学術誌「Lancet Neurology」

2025年3月26日、学術誌「Lancet Neurology」は、ハーディ教授の別の書評を掲載した。 → 2025年3月26日(5月号):Fraud, arrogance, and tragedy: the case of Doctored – The Lancet Neurology

シュラグは学術誌「Lancet Neurology」に書簡を送り、ハーディ教授の書評に「明らかに誤り」があるので訂正を求めた。

その中には、デ・ストルーパー教授が「2006年3月のNature」論文を引用していない、とハーディ教授がウソをついている事実も指摘した。

すると、エレナ・ベッカー=バローゾ編集長(Elena Becker-Barroso – Wikipedia、写真出典)は、「私たちの書評は意見記事であり、著者には自由に意見を表明していただくようお願いしています。ハーディ教授にもあなたの懸念を伝えましたが、教授はあなたの解釈に同意できず、訂正の必要を感じていないとのことです」と答えてきた。

私(エリー・キンケイド)は、ベッカー=バローゾ編集長に記事を訂正しない決定についてのコメントを求めた。

すると、彼女はシュラグが指摘した不正確な箇所が本文のどこにあったのかと尋ねてきた。

つまり、「学術誌「Lancet Neurology」は科学的な議論を促進しており、著者にはこの種の論文において自由に意見を表明することを奨励しています。ハーディ博士の意見をどのように訂正すべきでしょうか?」と尋ねた。

シュラグは、問題個所を伝えているのに、「どのように訂正すべきでしょうか?」はないでしょう。

科学論文の問題点を正そうと、ボランティアで努力しているのに、今回も、「暖簾に腕押し」だとシュラグは、私(エリー・キンケイド)に語った。

事実を正しく伝える使命の研究者と学術誌は、不思議なことに、事実を正しく伝えることにほとんど関心がないようだ。少なくとも今回は。

●7.【白楽の感想】

《1》日本のアミロイド・マフィア 

「アミロイド・マフィア(amyloid mafia)」は世界的なので、日本にも有力会員がいるはずだ。

調べていくと、東京大学の岩坪 威・教授(Takeshi Iwatsubo)に突き当たった。

岩坪教授は、アルツフォーラム(Alzforum)の「科学諮問委員会(Scientific Advisory Board)」の委員になっていた。 → Scientific Advisory Board | ALZFORUM。なお、本記事で紹介したバート・デ・ストルーパー教授(Bart de Strooper)も同じ委員である。

岩坪教授(写真出典以下)は、2025年3月に東京大学を定年退官し、国立精神・神経医療研究センタ-/神経研究所・所長になっている(2020年から所長)。

アルツハイマー病・パーキンソン病等の神経病理学、アルツハイマー病治療薬開発に関する研究を専門とする。メットライフ医学賞、米国神経学会ポタムキン賞、第一三共高峰賞、日本医師会医学賞、上原賞などを受賞。(出典:NIKKEI FORUM

とあるように、岩坪教授は、政府の科学政策を決め、研究助成金の配分先を決めるアミロイド・マフィアの日本の支部長にふさわしい経歴だ。

例えば、2009年、岩坪教授は、33億円を投入した日本の国家プロジェクト「J-ADNI」の代表として組織を主導した。

ところが、この日本で最大規模の臨床研究はろくな研究成果が得られないどころか、データ改ざんと訴えられた。

2014年、東京大学は調査の結果、データの「改ざん」を否定したが、本当は「あった」かもしれない。関心のある人は資料をどうぞ。 →  ①J-ADNI – Wikipedia、②アルツハイマー病研究問題 データ取り扱いスタッフ任せ | NHK「かぶん」ブログ:NHK、③東京大学で再び改竄問題が発生 J-ADNIなるアルツハイマー研究プロジェクトで起きていた問題とは | 海野吉臣

米国のNIH・国立老化研究所・部長でアルツハイマー病とパーキンソン病など神経変性疾患の大物研究者でかつ政策決定者にエリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)がいた。

そう、アミロイド・マフィアの大物の1人である。

2022年12月、コロンビア大学の神経生物学者ムー・ヤン(Mu Yang)がマスリアのデータねつ造を指摘した。 → エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)(米) | 白楽の研究者倫理

エリーザー・マスリア(Eliezer Masliah)(米)

マスリアの134論文にパブピアのコメントがある。

そして、岩坪教授はマスリアとの共著論文が3報ある。

良い悪いは別にして、岩坪教授はアミロイド・マフィアの日本の支部長にふさわしい言動をしてきた人のようだ。

米国では、アミロイド仮説に投入した数千億円の公的・私的資金が無駄になったが、日本では岩坪プロジェクトの33億円+ウン億円だった。

ここ1年、米国ではアルツハイマー病のスキャンダルがたくさん報道されているのに、日本のマスメディアは報じない。なんかヘン。白楽が知らないだけで報じています?

《2》昔と今の研究者の価値観 

白楽が若かった頃(約50年前)の研究者はもっと崇高な規範があった気がする。

研究者が研究する醍醐味は、新しい発見をすることだ。メチャ小さなことでも、白楽はワクワクした。カネ・富・名声・地位など全く意識せず、「どうしてだろう?」を追及する発見の楽しさがあった。

そうはいっても、昔を美化する気はない。昔も、トンデモナイ研究者、強欲で平気で不正をする研究者は結構いた。多分、昔の方が多かったと思う。

でも、現代とは異質な気がする。現代の研究者は、「カネ・富・名声・地位など」の追求があからさまな気がする。学術界だけでなく、社会全体がそのような時代になったのだと思う。

白楽は、現役を退いて10年以上たち、最近の25~30歳くらいの院生・研究者の人生観・価値観はわからない。

でも、現代の研究者の人生観・価値観は、ひょっとして、ドイツのシュナイダーが諧謔的(かいぎゃくてき)に描く姿が、当たっている?

科学とは、実際に研究し新しい知識を獲得する行為ではなく、一流の学術誌に論文を多数掲載し、マスメディアの見出しを飾ること。そして、科学者は、多額の助成金を獲得し、学者として偉くなることなのだ。そもそも、誰も論文の中身なんて読まない。見るのは、論文を掲載した学術誌名だけだ。

というわけで、ささやかな提案をしよう。

研究室は無駄なので閉鎖し、論文工場に転換する。クルクミンを配合したキトサンナノ粒子が精巣がんに効くとか、バナナの皮のMOF複合材料が産業汚泥から放射性重金属を除去するとか、AIにデタラメな研究論文を作らせればよい。

そして、AIが査読し、AIが論文を発表し、AIがニュースで広め、AIがさらなる「研究」助成金を獲得するようにすれば、完全に自動化された研究サイクルができる。人間である教授は、リゾートビーチでカクテルを飲んで過ごし、院生やポスドクをいじめたり、セクハラの標的として過ごす。(出典:2025年5月30日:For Better Science
https://forbetterscience.com/2025/05/30/schneider-shorts-30-05-2025-all-of-them-are-genuine-mistakes/

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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