2023年12月15日掲載
ワンポイント:ケンブリッジ大学(University of Cambridge)・準教授のオライリーは「2018年のJournal of Austrian-American History」論文を発表した。3年後の2021年(49歳?)、元学部生は自分が書いた2つのエッセイが上記論文に盗用されているとケンブリッジ大学に告発した。2年間の調査の後、ケンブリッジ大学は盗用を認めたが、意図的な行為ではなく過失だったと結論し、オライリーを解雇しなかった。ケンブリッジ大学の解雇せずにメディアは大ブーイング。典型的な「大学のネカト調査不正」事件。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
【追記】
・2024年4月19日記事:別の論文でも盗用発覚:Copycat don caught again | Varsity
ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
ーーーーーーー
●1.【概略】
ウィリアム・オライリー(William O’Reilly、ORCID iD:?、写真出典)は、英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)・準教授で、専門は歴史学(近世史)である。
2018年1月(46歳?)、オライリーは「2018年1月のJournal of Austrian-American History」論文を単著で発表した。
3年後の2021年(49歳?)、オライリーから指導を受けた元学部生は、在学中に自分が書いた2つのエッセイのかなりの部分が上記論文に盗用されていることに偶然気がついて、ケンブリッジ大学に告発した。
2023年5月(51歳?)、2年間の調査の後、ケンブリッジ大学は盗用を認めたが、意図的な行為ではなく過失だと結論し、オライリーを解雇しなかった。
メディアはケンブリッジ大学が解雇しなかったことに大ブーイング。
典型的な「大学のネカト調査不正」事件である。
2023年12月14日現在、オライリーはケンブリッジ大学(University of Cambridge)・準教授職を維持している。
しかし、こういう不正教員の講義や指導を、学生は受ける気がするのだろうか?
大学は、そういう不快な教育環境を設けていることに平気なのだろうか?
ケンブリッジ大学(University of Cambridge)。写真出典。以下の動画出典
- 国:英国
- 成長国:アイルランド
- 研究博士号(PhD)取得:英国のオックスフォード大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1994年に学士を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:52 歳?
- 分野:歴史学
- 不正論文発表:2018年(46歳?)
- ネカト行為時の地位:ケンブリッジ大学・準教授
- 発覚年:2021年(48歳?)
- 発覚時地位:ケンブリッジ大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は指導した元学部生で被盗用者(匿名)。大学に公益通報
- ステップ2(メディア):「Financial Times」、「Varsity」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ケンブリッジ大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:盗用
- 不正論文数:1報
- 盗用ページ率:?%
- 盗用文字率:?%
- 時期:研究キャリアの中期ら
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典: William O’Reilly CV
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1994年に学士を取得した時を22歳とした
- 1994年(22歳?):アイルランドのゴールウェイ大学(University College Galway)で学士号取得:ドイツと歴史学
- 2002年(30歳?):英国のオックスフォード大学(University of Oxford)で研究博士号(PhD)を取得:歴史学
- 1997~2005年(25~33歳?):アイルランドのアイルランド大学(University of Ireland)・講師
- 2004年(32歳?):英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)・研究フェロー
- 2005年(33歳?):同大学・講師、その後、準教授
- 2018年(46歳?):後で発覚する盗用をした
- 2021年(49歳?):被盗用者が盗用を大学に告発
- 2023年5月(51歳?):ケンブリッジ大学が盗用だが意図的な行為ではないとし、無処分と発表
- 2023年12月14日(51歳?):ケンブリッジ大学・準教授職を維持。2023年12月13日保存:Dr William O’Reilly | Faculty of History University of Cambridge
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
講演動画:「William OReilly: Selling Souls. Trafficking German Migrants – YouTube」(英語)1時間27分51秒。
CEFRES Prague(チャンネル登録者数 238人)が2017/11/29に公開
【動画2】
講演動画:「Dr. William O’Reilly Keynote Lecture – YouTube」(英語)1時間6分23秒。
Botstiber Institute for Austrian-American Studies(チャンネル登録者数 4人)が2018/04/27に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚
ケンブリッジ大学(University of Cambridge)のウィリアム・オライリー準教授(William O’Reilly)が、指導した学部生の論文の一部を盗用し、自身の論文として出版した事件である。報道では学部生は匿名だが、教員は当然、学部生の実名を知っている。
最初、2023年6月16日に「Financial Times」紙が報道したが、ケンブリッジ大学の学生新聞「ヴァーシティ(Varsity)」が事件を追求した。
2018年1月(46歳?)、オライリーは、以下の「2018年のJournal of Austrian-American History」論文を単著で出版した。
- Fredrick Jackson Turner’s Frontier Thesis, Orientalism, and the Austrian Militärgrenze
William O’Reilly
Journal of Austrian-American History (2018) 2 (1): 1–30.
JANUARY 01 2018
3年後の2021年(49歳?)、自分のエッセイ(essays)がオライリーの上記論文で盗用されていることをオライリーの元学部生が偶然見つけて、ケンブリッジ大学に通報した。
2021年7月1日(49歳?)、オライリーの元学部生からの通報を受け、学術誌は直ぐ論文を撤回した。 → 撤回公告
なお、以下の手書きのコメントが示すように、学部生の指導教員だったオライリーは、当時、学部生のエッセイを「とても素晴らしい作品です。・・・あなたは新しい研究を作り上げました」と、学部生の創意工夫を賞賛していた。出典:https://www.varsity.co.uk/news/26105
★大学の対処
2021年(49歳?)、オライリーの元学部生からの通報を受け、ケンブリッジ大学は調査を開始した。
2023年5月(51歳?)、2年間の調査の結果、ケンブリッジ大学・ネカト調査委員会は、オライリーの盗用は意図的な行為ではなく過失(negligence rather than an intentional act)だと結論し、大学はこの結論を関係者に伝えた。
つまり、大学は盗用と認定したが、オライリーを処分(解雇)しなかった。
なお、ケンブリッジ大学の規則では、学生が盗用をすれば、退学処分である。
盗用された学部生は、盗用が過失とみなされたと知った時、憤怒し、「信じられない!」とヴァーシティ紙記者に、次のように語った。
「私は、エッセイが盗用されたと告発し、大学は2年以上かけて調査した結果、オライリーの盗用を認めました。それにもかかわらず、大学はどうして過失だという結論に至ったのか? 大学に説明を求めましたが、拒否されました」と語った。
ヴァーシティ紙の記者がケンブリッジ大学にコメントを求めた。
ケンブリッジ大学・広報担当者は「確立された手順に基づいて、大学の独立したメンバーからなる委員会が問題を検討しました。この問題は現在、既に、結論が出ています。これ以上コメントすることはありません。本学職員に対する申し立てについて、詳細なコメントをするのは不適切なので、ノーコメントです」と回答した。
オライリーは次のような声明を発表した。
「この問題は約 2年間調査されてきました。私は、個人的に非常に困難な状況だった時、コンピューターに保存していた学部生の2つのエッセイの内容を誤って使用したことを否定しません。学部生のエッセイは、私が 25年以上研究し、論文を出版し、教えてきたテーマに関連していました。それで、自分の研究を記述する際の補佐的メモとして学部生のエッセイを利用しました。論文にまとめる過程で、自分の言葉で書き直すつもりでした。しかし、ウッカリ、その作業を失念してしまいました。2023年2月、3日間の審理と800ページを超える証拠の検討を経て、大学は私の過失だとしましたが、だますつもりはなかったと結論づけたのです」
★性的暴行
オライリーが起こした事件で、ケンブリッジ大学の対処が疑問視された事件は今回が初めてではなかった。
2020年(48歳?)、オライリーは、学部生を性的暴行し、盗用の告発を受けた1年前、ケンブリッジ大学に告発された。
しかし、オライリーは性的暴行疑惑を否定した。
ケンブリッジ大学はそれ以上の対処をしなかった。
●【盗用の具体例】
★「2018年1月のJournal of Austrian-American History」論文
「2018年1月のJournal of Austrian-American History」論文の書誌情報を以下に示す。2021年7月1日、論文は撤回された。
- Fredrick Jackson Turner’s Frontier Thesis, Orientalism, and the Austrian Militärgrenze
William O’Reilly
Journal of Austrian-American History (2018) 2 (1): 1–30.
JANUARY 01 2018
盗用の全体像が掴める情報がないので部分的な証拠を示す。
以下の出典は、2023年9月29日のエリック・オルソン(Erik Olsson)記者の「Varsity」記事:Plagiarising professor stays in post and threatens student journalists | Varsity
盗用部分:オライリーの「2018年1月のJournal of Austrian-American History」論文
被盗用部分:学部生エッセイ。修正と注釈はオライリーが行なった。
比較すると、ほぼ逐語盗用である。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。
★論文数
省略
★撤回監視データベース
2023年12月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでウィリアム・オライリー(William O’Reilly)を「William O’Reilly」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のJournal of Austrian-American History」論文・1論文が2021年7月1日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年12月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ウィリアム・オライリー(William O’Reilly)の論文のコメントを「”William O’Reilly”」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のJournal of Austrian-American History」論文・1論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》日本の常識、世界の非常識
ネカトの世界では「日本の常識、世界の非常識」なのだが、本事件でも英国と日本の大きな違いがハッキリしている。
英国の多くのマスメディアは、ウィリアム・オライリー(William O’Reilly)が「盗用したのに在職」していることを記事の見出しに書いて、問題視している。
記事の見出しを英文のママ2つ書くと、「Plagiarising professor stays in post」と「Cambridge Professor Retains Position Despite Plagiarism Allegations」である(下線は白楽)。
「盗用したのに在職」していると強く批判する新聞記事は、日本にはない(当社調べ)・考えられない。
日本の大学教授が盗用しても、解雇されない。マスメディアは「盗用したのに在職」していることを非難しない。
在日日本人研究者が日本の「盗用」処分が世界標準だと思って、外国で盗用すると、とんでもないことになるからね。
ネカトの世界では「日本の常識、世界の非常識」と思って研究してください。
一方、このままでは基本的にマズイので、日本のネカト対処の現状を大きく変え下さい。
《2》「つもり」が問題ではなく「行為」が問題
ケンブリッジ大学はウィリアム・オライリー(William O’Reilly)が「ダマすつもりはなかった」という理由で、盗用なのに無罪にした。
これは非常にヘンです。
商品を「盗むつもりはなくても」、盗んでいれば窃盗である。「つもり」が問題ではなく「行為」「結果」が問題なのである。
「殺すつもりがなかった」としても、ナイフで相手を何度も刺して、相手が死んでしまえば、殺人罪である。
データねつ造・改ざんや盗用も「つもり」が問題ではなく「行為」「結果」が問題なのである。
ケンブリッジ大学の判定は世界標準でも相当異常で、「ケンブリッジ大学の非常識、世界の常識」である。
《3》常習犯かも
論文を発表した3年後、元学部生は自分が書いた2つのエッセイが盗用されていると気がついた。
学生のエッセイは公表されないので、学生本人が指摘しなければ、誰も盗用を知ることができない。
ネカトの法則:「ネカトはその人の研究スタイルなので、他論文でもネカトしている」。
オライリーは学生のエッセイから盗用する常習犯だと、白楽は思う。
ケンブリッジ大学はネカト調査報告書を公表していないので、ハッキリしないが、オライリーの今までの論文・著書に他の学生のエッセイからの盗用がたくさんあると思う。
ケンブリッジ大学・ネカト調査委員会は、多分、調査していない。
《4》大学ランキング
ケンブリッジ大学は大学ランキングでは世界5番目の最高レベルの大学だが、研究不正の対処に関しては、最低レベルの大学である。 → World University Rankings 2024 | Times Higher Education (THE)
大学ランキングでは世界的に上位の大学が、研究倫理や性不正・アカハラでは最低レベルの対処をすることが多い。網羅的に調べていないけど、「多い」というより、「とても多い」と思う。
他の例では、米国のハーバード大学も研究倫理や性不正・アカハラではヒドイ対処をしている。
大学ランキングの評価項目に研究倫理や性不正・アカハラへの対処を入れるべきだと思う。そうすると、大学ランキングでドッと下がるだろう。
https://www.msn.com/en-gb/news/world/cambridge-academic-threatens-to-sue-student-paper-to-stop-plagiarism-expos%C3%A9/ar-AA1hsD70
ーーーーーーー
日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓
ーーーーーー
●9.【主要情報源】
① 2023年6月16日の「Financial Times」記事:閲覧有料・白楽未読:Cambridge professor remains in post despite plagiarism
② 2023年6月17日のクリス・クロー(Chris Krogh)記者の「Vigour Times」記事:Cambridge Professor Retains Position Despite Plagiarism Allegations – Vigour Times
③ 2023年x月xx日のマイケル・ヘネシー(Michael Hennessey)記者とエリック・オルソン(Erik Olsson)記者の「Telegraph」記事:Cambridge academic threatens to sue student paper to stop plagiarism exposé
④ 2023年9月29日のエリック・オルソン(Erik Olsson)記者の「Varsity」記事:Plagiarising professor stays in post and threatens student journalists | Varsity
⑤ 2023年x月xx日のデイヴィッド・チョウ(David Chow)のケンブリッジ大学(University of Cambridge)への情報開示請求:https://www.whatdotheyknow.com/request/william_oreilly
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します