法学:ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)(米)

2021年2月18日掲載 

ワンポイント:撤回論文ランキングの世界第30位(リストで31番目、23撤回論文)に登場したので記事にした。リアコプロスは米国のタフツ大学(Tufts University)、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学(University of Rome-La Sapienza)などの教授で、600報以上の論文を出版したということになっている。全部ウソなのか一部ウソなのか不明だが、ウソがある。2020年12月12日(50歳?)、撤回論文数が計23報になった多数論文撤回者。撤回理由は盗用(翻訳盗用)と経歴詐称。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

【追記】
・2021年3月3日記事:撤回論文数が計31報で世界第18位に大躍進: Legal researcher who claimed false affiliation up to 31 retractions – Retraction Watch

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)、ORCID iD:http://orcid.org/0000-0002-1048-6468、顔写真は見つからなかった)は、ギリシャで生まれ、米国のタフツ大学(Tufts University)、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学(University of Rome-La Sapienza)などの教授になった。専門は法学で600報以上の論文を出版した。

ということになっている。

しかし、経歴詐称が明白で、タフツ大学はリアコプロスの在職を否定した。実在の人物と思われるが、素性は不明で、根っからの詐欺師のようだ。滞在国も信用できないが、本記事では米国とした。

2019年7月1日(49歳?)、リアコプロスの「2019年1月のInt. J. Open Gov.」論文が撤回された。この撤回がリアコプロス論文の最初の撤回である。

2020年12月12日(50歳?)、リアコプロスの11論文が一度に撤回された。以前の撤回論文と合わせ、リアコプロスの撤回論文は23報になり、撤回論文世界ランキングに入った。つまり、リアコプロスは多数論文撤回者である。

2021年2月17日(51歳?)現在、リアコプロスは、撤回論文ランキングの世界第30位(リストで31番目、23撤回論文)にランクされている。
 → 2021年2月17日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理 、(2021年2月17日保存版) → 2021年2月16日保存版のThe Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch

所属詐称。写真出典

  • 国:不明
  • 成長国:不明
  • 医師免許(MD)取得:不明
  • 研究博士号(PhD)取得:不明
  • 男女:不明
  • 生年月日:不明。ギリシャで生まれる。仮に1970年1月1日生まれとする。1996年に弁護士資格を取得した時を26歳とした
  • 現在の年齢:54 歳?
  • 分野:法学
  • 最初の不正論文発表:2019年(49歳?)
  • 不正論文発表:2019-2020年(49-50歳?)
  • 発覚年:2020年(50歳?)
  • 発覚時地位:タフツ大学・教授(ウソ)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
  • 大学・研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学・研究所に所属していない
  • 大学・研究所の透明性:該当せず(ー)。大学・研究所に所属していない
  • 不正:盗用、経歴詐称
  • 不正論文数:23報撤回
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

不明。以下の記述は信用できないが、一応記載した。出典:DIMITRIS LIAKOPOULOS (0000-0002-1048-6468) – ORCID

  • 生年月日:不明。ギリシャで生まれる。仮に1970年1月1日生まれとする。1996年に弁護士資格を取得した時を26歳とした
  • xxxx年(xx歳):ローマ、ベルン、ワシントン、フランクフルト、バーゼル、ジュネーブの大学で、法律、政治学、応用社会学、宗教学、国際関係、歴史、ラテン古生物学、美術史、舞台芸術を学部および大学院レベルで学んだ
  • xxxx年(xx歳):国際公私法、欧州連合法、外交・領事法、航空宇宙法、国際刑事訴訟法、国際経済法、環境法などを教えた
  • 1996年(26歳?):弁護士資格取得
  • 1997年(27歳?):ローマ・アテネ弁護士会の弁護士
  • 2011年(41歳?):米国のコロンビア大学法科大学院(Columbia Law School)・準教授
  • 2013年(43歳?):米国のステッソン大学(Stetson University)・教授
  • 2013年(43歳?):米国のタフツ大学(Tufts University)・教授。タフツ大学は在職を否定
  • 2020年12月12日(50歳?):論文撤回され、撤回論文ランキングの世界第30位(リストで31番目、23撤回論文)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★素性は不明

ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)は、ギリシャで生まれ、米国のタフツ大学(Tufts University)、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学(University of Rome-La Sapienza)などの教授で、専門は法学で600報以上の論文を出版したということになっている。

ただ、上記は自称で、経歴詐称しているので信用できない。

「撤回監視(Retraction Watch)」が、タフツ大学・法科大学院・顧問のジェラルド・シーハン(Gerard F. Sheehan、写真出典)に問い合わせた。

2020年6月26日(50歳?)、シーハン顧問は「ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)という人物は在職していないし、過去に在職してたこともありません」と在職を否定した。以下は2020年6月26日の回答(出典:同)。全文は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/07/Liakopoulos_nonaffiliate.pdf

リアコプロスは実在の人物と思われる。

素性は不明で、仮名かもしれない。根っからの詐欺師のようだ。滞在国も信用できないが、米国とした。

★書籍出版

「根っからの詐欺師のようだ」と書いたが、実は、ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)は、多数の書籍を出版している。

1例をあげると2020年6月出版の『国際法の共謀(Complicity in International Law)』(160ページ、邦訳なし)である。表紙出典はアマゾン

書籍の紹介で、リアコプロスの所属は米国のタフツ大学(Tufts University)となっている。

出版社はアカデミック・プレス社(Academica Press)で信頼度は高い。しかも、「International Political Treaties」部門 の 売れ筋ランキングで堂々の67位(2021年2月17日)である。

タフツ大学は在職を否定しているのに、タフツ大学・所属でリアコプロスはたくさん書籍を出版し、読者も多い。

なんかヘンである。

★論文撤回

2019年7月1日(49歳?)、「2019年1月のInt. J. Open Gov.」論文が撤回された。この撤回がリアコプロス論文の最初の撤回である。

2020年12月12日(50歳?)、11論文が一度に撤回された。以前の撤回論文と合わせ、リアコプロスの撤回論文は23報になり、撤回論文世界ランキングに入った。つまり、リアコプロスは多数論文撤回者である。

撤回理由は、盗用と所属詐称である。

2021年2月17日(51歳?)現在、リアコプロスは、撤回論文ランキングの世界第30位(リストで31番目、23撤回論文)にランクされている。
 → 2021年2月17日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 白楽の研究者倫理 、(2021年2月17日保存版) → 2021年2月16日保存版のThe Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch

【盗用の具体例】

★「2019年のRevista Vertentes do Direito.」論文

「2019年のRevista Vertentes do Direito.」論文の書誌情報を以下に示す。2020年12月12日撤回された。

論文は翻訳盗用である。英語の論文をポルトガル語に翻訳し、ポルトガル語の学術誌に発表した。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/416B85FEB178DC5D9FCD2953B426B8

#1 Tipula Thailandica(commented July 23rd, 2020 9:53 PM and accepted July 24th, 2020 7:30 AM)が盗用比較図を示して、翻訳盗用だと指摘している。

#3 Tipula Thailandica(commented August 12th, 2020 11:39 PM and accepted August 12th, 2020 11:54 PM)が盗用比較図を示して、翻訳盗用だと指摘している。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★論文数

2021年2月17日現在、「Google Scholar」では、1988~2020年の33年間の137論文がヒットした。

★撤回監視データベース

2021年2月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)を「Dimitris Liakopoulos」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、 23論文が撤回されていた。

2018~2020年出版された論文が2019年7月に1報、2020年3~12月に22報、撤回されていた。

全部単著である。

★パブピア(PubPeer)

2021年2月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)の論文のコメントを「Dimitris Liakopoulos」で検索すると、10論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》なんかヘン 

ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)はタフツ大学・所属でたくさんの書籍を出版し、読者も多い。

それなのに、素性が不明である。

タフツ大学は在職を否定している。

なんかヘンである。

たくさんの書籍も盗用なんだろうか?

《2》フリーランス研究者 

ディミトリス・リアコプロス(Dimitris Liakopoulos)は23撤回論文がある多数論文撤回者だ。

多数論文撤回者は学術界にとってかなりの迷惑で信用・カネ・時間・エネルギーの損失だ。

自称600報以上の論文があり、「Google Scholar」で137論文がヒットした。これらの論文のほとんどは、多分、まともな論文ではないだろう。

リアコプロスは米国のタフツ大学(Tufts University)、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学(University of Rome-La Sapienza)などの教授だと称している。しかし、少なくともタフツ大学には在職していない。

となると、ネカトしてまでの論文出版は、研究職への就職でも、昇進でも、研究費獲得でもない。

なんなんだろう?

リアコプロスは大学・研究所に所属していないフリーランス研究者だと仮定しよう。

学術界はこのような無所属研究者、フリーランス研究者が論文を発表することを想定していない。ネカト調査と処分を所属大学・研究所に依存している現状では、このネカト者を処罰できない。

捜査機関が捜査し処罰すべきだろう → 1‐3‐2.研究ネカトは警察が捜査せよ! | 白楽の研究者倫理

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① 2020年7月14日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Itinerant legal scholar who claimed Tufts affiliation up to 10 retractions – Retraction Watch
② 2020年12月14日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Legal researcher up to 23 retractions for false affiliations, plagiarism – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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