2019年1月12日掲載
ワンポイント:ラマデュグはインド生まれ・育ちで、インド理科大学(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得後、2016年2月(33歳?)に米国のミシガン大学(University of Michigan)・化学科(Department of Chemistry)・ポスドクになった。2018年12月27日、研究公正局は、ラマデュグ(35歳?)のポスドク時代の3論文と1ポスター発表にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。5年間の締め出し処分を科した。国民の損害額(推定)は3億2,300万円。
【追記】
・2019年1月14日:読者から間違いの指摘があり、訂正した。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ヴェンカタ・ラマデュグ(Venkata Sudheer Kumar Ramadugu、写真出典)は、インドで生まれ・育った。インド理科大学(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得後、2016年2月(33歳?)に米国のミシガン大学(University of Michigan)・化学科(Department of Chemistry)・ポスドクになった。専門は化学だが、研究公正局がネカトと発表したので、記事は生命科学欄に書いた。自然科学・工学のネカト・クログレイ事件一覧(世界)にもリストした。
2018年(35歳?)、ネカト疑惑の通報を受け、ミシガン大学が調査を開始した。その後、調査結果を研究公正局に伝えた。
2018年12月27日(35歳?)、研究公正局は、ラマデュグの3論文と1ポスター発表にデータねつ造・改ざんがあったと発表した。2018年12月4日から5年間の締め出し処分を科した。
ミシガン大学(University of Michigan)・化学科(Department of Chemistry)のサイトの写真だが、どれが化学科の建物かわかりません。写真出典 https://lsa.umich.edu/chem/alumni-friends.html
ミシガン大学(University of Michigan)・化学科(Department of Chemistry)の院生向け講演会。ランチ食べながら。写真出典
- 国:米国
- 成長国:インド
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:インド理科大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2001年の大学入学時を18歳とした
- 現在の年齢:41 歳?
- 分野:化学
- 最初の不正:2017年(34歳?)
- 発覚年:2017年(34歳?)
- ネカト行為時地位:米国のミシガン大学・ポスドク
- ステップ1(発覚):研究室のボスであるアヤルサミー・ラマモースティ教授(Ayyalusamy Ramamoorthy)が見つけた(推定)。
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミシガン大学・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正数:3論文、1ポスター発表。1論文撤回
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:解雇。その後の動向不明
- 処分:NIHから5年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億2,300万円。内訳 ↓
- ①研究者になるまで5千万円。研究者を辞めたとして、損害額は5千万円。
- ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費・施設費など)は年間4500万円。ポスドクで1年間は過ごしているので、損害額は4500万円。
- ③外部研究費。ラマデュグの獲得した外部研究費はないと思う。ボスのラマモースティ教授の外部研究費の内、ラマデュグのネカト絡みのNIHの研究費は1億9千万円だった。全研究費が無駄になったかどうか不明だが、一応全経費としての損額は1億9千万円。
- ④調査経費。第一次追及者の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は1件1,200万円、研究公正局など公的機関は1件200万円。学術出版局は1つの学術誌あたり100万円で2つの学術誌と1つのポスターなので300万円。小計で1,800万円
- ⑤裁判経費は2千万円。裁判はなかったので損害額は0円。
- ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。撤回論文は1報で共著者がいるので1,000万円。
- ⑦アカハラ・セクハラではない。損害額は0円。
- ⑧研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
- ⑨健康被害:損害額は0円とした。
●2.【経歴と経過】
主な出典:①:Search results for Venkata Ramadugu, Colorado – Venkata Ramadugu search results
- 生年月日:不明。仮に1983年1月1日生まれとする。2001年の大学入学時を18歳とした
- 2001年 – 2003年(18 – 20歳?):インドのスリ・オーロビンド大学(Sri Aurobindo College)
- 2003年 – 2006年(20 – 23歳?):インドのシルバー・ジュビリー政府大学(Sliver Jubilee Govt. college)で学士号を取得:数学・物理学・工業化学
- 2006年 – 2008年(23 – 25歳?):インドのカカティーヤ大学(Kakatiya University)で修士号を取得:物理学
- 2009年 – 2016年(26 – 33歳?):インドのインド理科大学(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得:固体核磁気
- 2016年2月(33歳?):米国のミシガン大学(University of Michigan)・ポスドク
- 2018年(35歳?):ネカト疑惑の通報を受け、ミシガン大学が調査開始。
- 2018年7月30日(35歳?):ミシガン大学は調査終了し、調査は研究公正局へ
- 2018年8月2日(35歳?):ミシガン大学はラマデュグを解雇
- 2018年12月4日(35歳?):インドに在住
- 2018年12月27日(35歳?):研究公正局がネカトと発表。締め出し期間は2018年12月4日から5年間
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究の環境
ヴェンカタ・ラマデュグ(Venkata Ramadugu)はインドで生まれ育ち、インド理科大学(Indian Institute of Science)で研究博士号(PhD)を取得後、2016年2月(33歳?)、米国のミシガン大学(University of Michigan)・化学科(Department of Chemistry)のポスドクになった。ボスはアヤルサミー・ラマモースティ教授(Ayyalusamy Ramamoorthy、写真出典)だった。
2018年(35歳?)、ネカト疑惑の通報を受け、ミシガン大学が調査を開始した。白楽は、ボスはラマモースティ教授が大学に通報したと思う。
2018年7月30日(35歳?)、ミシガン大学の研究公正官・マイケル・インペリアーレ(Michael J. Imperiale)が調査結果を研究公正局に伝えた。
以下の文書の全文 → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2019/03/Michigan-report-1.pdf
★研究公正局
研究公正局は、NIH研究費番号「R01 GM084018」、「R01 AG048934」の助成を受けた研究で、ラマデュグが核磁気共鳴(NMR)データをねつ造・改ざんしたと発表した。2018年12月4日から5年間の締め出し処分を科した。
NIH研究費番号「R01 GM084018」で得た研究費の内、ネカト時期と重なる2016年と2017年の情報を以下に示す。その2年間の研究費は1,091,524ドルだった。
同じように、NIH研究費番号「R01 AG048934」で得た研究費の内、ネカト時期と重なる2016年と2017年の情報を以下に示す。その2年間の研究費は811,802ドルだった。
上記2つのNIH研究助成額は合計、1,903,326ドル(約1億9千万円)だった。
★ネカト論文
ねつ造・改ざんデータは、全く関係ない実験で得た核磁気共鳴(NMR)データを加工し、完全に異なる別の実験の核磁気共鳴(NMR)データとして使用したことだ。以下の3報の出版論文、1つのポスター発表に含まれる13個の図表パネルに使用した。
【3論文】
- Chemical Communications 53(78):10824-10826, 2017 (hereafter referred to as “Chem. Comm. 2017”).
- Angewandte Chemie-International Edition 56(38):11466-11470, 2017 (hereafter referred to as “Angewandte Chemie-International Edition 2017”).
- Angewandte Chemie-International Edition 57(5):1342-1345, 2018 (hereafter referred to as “Angewandte Chemie-International Edition 2018”).
【1ポスター発表】
- Polymer macrodiscs for solid-state NMR structural studies on aligned lipid bilayers.” Presented at the 58th Experimental Nuclear Magnetic Resonance Conference in Pacific Grove (Asilomar), California, March 25-30, 2017 (hereafter referred to as the “ENMRC Poster 2017”).
★ねつ造・改ざんデータ
以下、ねつ造・改ざんデータがどのようなものか、研究公正局がネカトとした3論文の内の「2017年のChem Commun (Camb).」論文と「2017年のAngewandte Chemie International Edition」論文のデータを見てみよう。
【2017年のChem Commun (Camb).論文】
- Polymer nanodiscs and macro-nanodiscs of a varying lipid composition.
Ramadugu VSK, Di Mauro GM, Ravula T, Ramamoorthy A.
Chem Commun (Camb). 2017 Sep 28;53(78):10824-10826. doi: 10.1039/c7cc06409h. Retraction in: Chem Commun (Camb). 2018 Dec 11;54(99):14033.
この論文は撤回されている。
研究公正局は図2A、2B、3、S4がねつ造・改ざんデータだと指摘している。以下に図2A、2B、3を示すが、図を見てもどこがどのようにねつ造・改ざんされたのか、チンプンかんぷんである。一般的に、測定グラフのねつ造・改ざんは生データと突き合わせないとネカトかどうかわからない。
図3の下段。
ネカトは一番右の列の2つの図である。比較のため左と中央を残したが、一番右の列の2つの図は、左と中央の図と比べても、どこがどのようにねつ造・改ざんされたのか、チンプンかんぷんである。
【2017年のAngewandte Chemie International Edition論文】
- Bioinspired, Size-Tunable Self-Assembly of Polymer-Lipid Bilayer Nanodiscs.
Ravula T, Ramadugu SK, Di Mauro G, Ramamoorthy A.
Angew Chem Int Ed Engl. 2017 Sep 11;56(38):11466-11470. doi: 10.1002/anie.201705569. Epub 2017 Aug 10.
研究公正局は図4E、4Fがねつ造・改ざんデータだと指摘している。以下、パブピア(PubPeer)の指摘を見ていこう。
パブピア(PubPeer)は、図4Eと4Fは赤矢印で示したそれぞれの部分が同じだと指摘した。このような指摘がないと、どこがどのようにねつ造・改ざんされたのか、白楽にはわからなかった。
以下の図の出典 → https://pubpeer.com/publications/22BC3742E13752E35FE7106338FDB7
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2019年1月11日現在、パブメド(PubMed)で、ヴェンカタ・ラマデュグ(Venkata Sudheer Kumar Ramadugu)の論文を「Venkata Sudheer Kumar Ramadugu [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2017~2018年の2年間の2論文がヒットした。2論文の内、1論文は撤回公告である。従って、実質1論文で、その1論文が撤回されたのである。
「Ramadugu VSK[Author]」で検索すると、上記と同じ 2017~2018年の2年間の2論文(実質1論文)がヒットした。
「Ramadugu SK[Author]」で検索すると、上記と同じ 2008~2018年の11年間の9論文がヒットした。
2019年1月11日現在、以下の1論文が撤回されている。
- Polymer nanodiscs and macro-nanodiscs of a varying lipid composition.
Ramadugu VSK, Di Mauro GM, Ravula T, Ramamoorthy A.
Chem Commun (Camb). 2017 Sep 28;53(78):10824-10826. doi: 10.1039/c7cc06409h. Retraction in: Chem Commun (Camb). 2018 Dec 11;54(99):14033.
★パブピア(PubPeer)
2019年1月11日現在、「パブピア(PubPeer)」はヴェンカタ・ラマデュグ(Venkata Ramadugu)の0論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
ヴェンカタ・ラマデュグ(Venkata Ramadugu)を「Sudheer Kumar Ramadugu」で検索すると、1論文にコメントしている:
PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》厳罰化
ラマデュグのネカトは普通のデータねつ造・改ざんに思える。ところが、研究公正局は5年間の締め出し処分を科した。
研究公正局は処分の厳罰化を始めたのだろうか?
《2》インド
米国のネカト事件ではインド出身者がとても多い。
人種差別と糾弾されるからメディアはインド出身者だと指摘しない。しかし、素性を知らないと、米国で生まれ育った白人がネカトをしていると勘違いしてしまう。
日本は日本人研究者以上に、日本で研究する外国人のネカトに注意すべきだ。ところが、実際は外国人に対して日本はとても甘い。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① 研究公正局の発表:(1)2018年12月27日:Case Summary: Kadam, Rajendra | ORI – The Office of Research Integrity、(2)2018年12月28日:Federal Register:Federal Register :: Findings of Research Misconduct
② 2018年12月27日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former UMich postdoc earns five-year ban on Federal funding, after admitting to misconduct and then lying – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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