2023年2月20日掲載
ワンポイント:インド出身で、米国のノースウェスタン大学医科大学院(Feinberg School of Medicine at Northwestern University)・教授・医師になったカンワーは、NIH研究費を計約13億5千万円も獲得した。ただ、盗用で2013年に1報、データねつ造・改ざんで2019年に4報の論文が撤回された。しかも、「パブピア(PubPeer)」では、1995~2020年(49~74歳?、26年間)の31論文にコメントがある。ところが、ノースウェスタン大学医科大学院はネカト調査をしている節がない。当然、無処分。なんかヘン。「大学のネカト対応怠慢・不作為」事件でもあるのだ。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ヤスパル・カンワー(Yashpal Kanwar、Yashpal S. Kanwar、ORCID iD:?、写真出典)は、インド出身で、米国のノースウェスタン大学医科大学院(Feinberg School of Medicine at Northwestern University)・教授・医師になった。専門は病理学である。
出版論文数をパブメドで検索すると、266論文と多く、また、計約13億5千万円という多額のNIH研究費を獲得してきた。
しかし、盗用で2013年に1報、データねつ造・改ざんで2019年に4報の論文が撤回された。
2019年の論文撤回時に、白楽はネカト事件として把握した。そして、ノースウェスタン大学医科大学院がカンワーのネカト調査をし、研究公正局がクロと発表するのを待っていた。
が、3年8か月経っても何も動きがない。放置するとウェブ上の情報が削除される。
それで、待ち切れずに、今回、記事にした。
2023年2月19日現在、ノースウェスタン大学医科大学院からも研究公正局からもネカト調査の発表はない。
ノースウェスタン大学医科大学院(Feinberg School of Medicine at Northwestern University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:インド
- 医師免許(MD)取得:インドのアムリトサル政府医科大学
- 研究博士号(PhD)取得:米国のイリノイ大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1946年1月1日生まれとする。1970年に医師免許(MD)を取得した時を24歳とした
- 現在の年齢:78歳?
- 分野:病理学
- 不正疑惑論文発表:1995~2020年(49~74歳?)の26年間
- 不正論文発表:2002~2016年(56~70歳?)の15年間
- 発覚年:2013年(67歳?)
- 発覚時地位:ノースウェスタン大学医科大学院・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ノースウェスタン大学医科大学院は調査していない
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
- 大学の透明性:調査していない(✖)
- 不正:盗用、ねつ造・改ざん
- 不正論文数:「パブピア(PubPeer)」では1995~2020年の26年間の31報にコメントがあり、5報が撤回
- 時期:研究キャリアの後期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人: 春名克祐(Yoshisuke Haruna、写真)が2011年に川崎医科大学・助教だった時、共著の撤回論文を出版した。
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Yashpal S. Kanwar, MD, PhD | Northwestern Medicine
- 生年月日:不明。仮に1946年1月1日生まれとする。1970年に医師免許(MD)を取得した時を24歳とした
- 1970年(24歳?):インドのグランシー医科大学(Glancy Medical College)=現在のアムリトサル政府医科大学(Government Medical College, Amritsar)で医師免許(MD)取得
- 1971~1975年(25~29歳?):米国のイリノイ大学(University of Illinois)・研修医
- 1977年(31歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得
- xxxx年(xx歳):ノースウェスタン大学医科大学院(Feinberg School of Medicine at Northwestern University)・教授
- 2002年(56歳?):後に撤回される最古の論文出版
- 2013年(67歳?):最初の論文撤回
- 2023年2月19日(77歳?)現在:ノースウェスタン大学医科大学院・教授職を維持:Yashpal S. Kanwar, MD, PhD | Northwestern Medicine
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★人生
ヤスパル・カンワー(Yashpal Kanwar)はインド出身で、米国のノースウェスタン大学医科大学院(Feinberg School of Medicine at Northwestern University)・教授・医師になった。
カンワーの人となりはほとんど把握できない。論文は多数出版しているが、研究室の様子を紹介した文章や写真はウェブ上に見つからない。
出版論文数が多く、研究費の獲得も多い。1997~2020年の24年間にNIHグラントを48件も受領している。 → Grantome: Search:Yashpal S. Kanwar
NIH研究費の獲得を別のサイトで探ると48件ではなく47件受領だった。総額は$13,503,163(約13億5千万円)と巨額である。 → 以下の図出典:RePORT:Yashpal S. Kanwar
★2013年に1報の論文撤回
2013年8月15日、ヤスパル・カンワー(Yashpal Kanwar)の「2013年4月のAm J Physiol Renal Physiol」論文が撤回された。最初の論文撤回である。
- Role of guanine-nucleotide exchange factor Epac in renal physiology and pathophysiology.
Yang SK, Xiao L, Li J, Liu F, Sun L, Kanwar YS.
Am J Physiol Renal Physiol. 2013 Apr 1;304(7):F831-9. doi: 10.1152/ajprenal.00711.2012. Epub 2013 Jan 30.
2013年8月15日の「撤回公告」によると、撤回理由は他人の論文から文章の盗用である。
ネカト発覚の経緯は不明である。
ノースウェスタン大学医科大学院はカンワーのネカト調査をした節がない。盗用者はカンワーなのか他の共著者なのか不明である。
★2019年に4報の論文撤回
2019年6月28日にカンワーの4報の「J Biol Chem.」論文が撤回された。論文の出版年月は 2002年8月、2002年11月、2011年9月、2016年3月と14年間も幅があった。
4報の撤回理由はどれも画像の加工や重複使用などデータねつ造だった。
このネカト発覚の経緯は不明である。
4報の論文撤回があったのに、ノースウェスタン大学医科大学院はカンワーのネカト調査をした節がない。
盗用者はカンワーなのか他の共著者なのか不明である。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
★「2011年9月のJ Biol Chem.」論文
日本人の春名克祐(Yoshisuke Haruna)が共著者になっている「2011年9月のJ Biol Chem.」論文の書誌情報を以下に示す。2019年6月28日に撤回された。
- Role of extracellular matrix renal tubulo-interstitial nephritis antigen (TINag) in cell survival utilizing integrin (alpha)vbeta3/focal adhesion kinase (FAK)/phosphatidylinositol 3-kinase (PI3K)/protein kinase B-serine/threonine kinase (AKT) signaling pathway.
Xie P, Kondeti VK, Lin S, Haruna Y, Raparia K, Kanwar YS.
J Biol Chem. 2011 Sep 30;286(39):34131-46. doi: 10.1074/jbc.M111.241778. Epub 2011 Jul 27.
撤回公告では、TINagイムノブロットの図1Dが不適切に操作されたとあった。
以下の上段がTINagイムノブロットである(出典:原著論文)。3つのバンドは似ていると言われれば似ている気がする。しかし、どのような不適切な操作だったのか、白楽にはわからない。
★「2020年6月のDiabetes」論文
最近の論文を選んだ。「2020年6月のDiabetes」論文の書誌情報を以下に示す。2023年2月19日現在、撤回されていない。
- Myo-inositol Oxygenase (MIOX) Overexpression Drives the Progression of Renal Tubulointerstitial Injury in Diabetes.
Sharma I, Deng F, Liao Y, Kanwar YS.
Diabetes. 2020 Jun;69(6):1248-1263. doi: 10.2337/db19-0935. Epub 2020 Mar 13.
2021年9月にネカトハンターのチェシャー(Cheshire、またの名をActinopolyspora biskrensis)が図4の重複を指摘した。
その同じ図4を2021年11月にネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がさらに重複部分を指摘した。以下のパブピアの図はビックが加えた図。同じ色で囲った部分が同じ画像。出典:https://pubpeer.com/publications/CDD0A9F32720ABB6981075CE5DBE2E
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2023年2月19日現在、パブメド(PubMed)で、ヤスパル・カンワー(Yashpal Kanwar、Yashpal S. Kanwar)の論文を「Yashpal S. Kanwar[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2022年の21年間の 134論文がヒットした。
「Kanwar YS」で検索すると、1974~2022年の49年間の 266論文がヒットした。
2023年2月19日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、5論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2023年2月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでヤスパル・カンワー(Yashpal Kanwar、Yashpal S. Kanwar)を「Yashpal S. Kanwar」で検索すると、 5論文が撤回されていた。
「2013年4月のAm J Physiol Renal Physiol」論文が2013年8月15日に撤回された。また、2002年8月、2002年11月、2011年9月、2016年3月に出版された4報の「J Biol Chem.」論文が2019年6月28日に撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2023年2月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ヤスパル・カンワー(Yashpal Kanwar、Yashpal S. Kanwar)の論文のコメントを「authors:”Yashpal S. Kanwar”」で検索すると、1995~2020年(49~74歳?)の26年間の31論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》大学院・研究初期
ヤスパル・カンワー(Yashpal Kanwar、Yashpal S. Kanwar)は、NIH研究費を約13億5千万円も獲得している。
しかし、盗用で2013年に1報、データねつ造・改ざんで2019年6月28日に4報の論文が撤回された。
「パブピア(PubPeer)」では、1995~2020年(49~74歳?)の26年間の31論文にコメントがある。
どうして、ノースウェスタン大学医科大学院はネカト調査をしない(しなかった)のだろうか? しているなら、どうして研究公正局がネカトでクロと発表しないのだろうか?
ネカト調査に時間がかかるのはわかるが、数年もかかる現状は異常である。2019年6月28日に4報の論文が撤回されているので、かれこれ、3年8か月も経過している。
ネカト調査は遅くとも半年程度で終えるべきだ。
そうしないと、その間、研究者は研究し続ける。国民の税金である研究費を使い続ける。研究費獲得の申請もする。ネカトを知らずにカンワーの研究室に入室する院生・ポスドク・研究員が出てくる。被害は広がる。
半年程度で終えられない現在のネカト調査の調査主体と調査方法を変えるべきだ。
と、白楽は思っているけど、カンワー事件ではカンワーは現在、77歳頃(?)である。
カンワーの退職、あるいは、病死(病気かどうか知らないけど)するのはそう遠くない。ノースウェスタン大学医科大学院はそれを待っていて、ネカト調査をしないつもりなのだろう。
典型的な「大学のネカト対応怠慢・不作為」事件でもある。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2019年9月5日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Northwestern researcher has four more papers retracted, making five – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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