ハリド・シャー(Khalid Shah)(米)

2024年7月5日掲載 

ワンポイント:ハリド・シャーはインド出身で、米国のハーバード大学医科大学院のブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)・準教授になり、NIHから13億7千万円の研究費を受給したスター科学者である。2024年2月(49歳?)、有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がハリド・シャーの「2001~2024年の24年間の29論文」にデータねつ造、画像の重複使用、画像の盗用など44件の不正があると公表した。現在、撤回論文は0報で、大学と学術誌はネカト調査中である。国民の損害額(推定)は15億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ハリド・シャー(Khalid Shah、ORCID iD:?、写真出典)は、インド出身で、米国のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)のブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)・準教授になった。医師免許は持っていない。専門はがん治療学である。

ハリド・シャーは2008~2024年の17年間に13億7千万円のNIH研究費を獲得し、2021年の「ピラーズ・オブ・エクセレンス賞(Pillars of Excellence Award)」など、複数の賞を受賞しているスター科学者である。

2024年2月(49歳?)、有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が、ハリド・シャーの「2001~2024年の24年間の29論文」にデータねつ造、画像の重複使用、画像の盗用など44件の不正があると公表した。

ビックは、公表の2か月前、ハリド・シャーの元同僚からハリド・シャーの論文データにネカトがあると伝えられていた。

2024年7月4日(49歳?)現在、ハリド・シャーの撤回論文は0報である。「パブピア(PubPeer)」では、31論文にコメントがある。

大学と学術誌はネカト調査中で、数年後、研究公正局がクロと発表すると思われる。

150228 b734420b761c615e3b38b109873e8403ba39f373ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:オランダのヴァーヘニンゲン大学(推定)
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。現在、49歳と仮定した
  • 現在の年齢:49歳?
  • 分野:がん治療学
  • 不正論文発表:2001~2024年(26~49歳?)の24年間
  • ネカト行為時の地位:オランダのヴァーヘニンゲン大学・院生(?)、ハーバード大学医科大学院のマサチューセッツ総合病院・ポスドク・助教授(?)、ハーバード大学医科大学院のブリガム・アンド・ウィメンズ病院・準教授
  • 発覚年:2024年(49歳?)
  • 発覚時地位:ハーバード大学医科大学院のブリガム・アンド・ウィメンズ病院・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)
  • ステップ2(メディア):エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の「Science Integrity Digest」、「パブピア(PubPeer)」、「Harvard Crimson」、「Scientist」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①複数の学術誌・編集部の調査委員会が調査中。②ハーバード大学医科大学院のブリガム・アンド・ウィメンズ病院・調査委員会が調査中。③研究公正局は、いずれ、調査するだろう
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中なので
  • 大学の透明性:調査中(ー)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:ビックは29論文が不正だとしている。0論文が撤回。「パブピア(PubPeer)」では、31論文にコメントがある
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:今のところ、なし
  • 対処問題:今のところ、なし
  • 特徴:24年間という長期間、誰も告発しなかった
  • 日本人の弟子・友人:金谷信彦黒田新士が「実験医学2023年12月号」でハリド・シャーと共著の論文を発表。また、田村 郁が日本の科研費でハリド・シャーを研究協力者にしていた

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は15億円(大雑把)。NIHから13億7千万円の研究費を受給したので。

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明。姓名から判断するとパキスタン系である。しかし、2014年10月26日の記事によると、インドのカシミール出身とある。インドで生まれ育ったと思われる。主な出典:Khalid Shah | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。現在、49歳と仮定した
  • xxxx年(xx歳):インド(推定)のxx大学(xx)で学士号取得
  • 2001年(26歳?):オランダのヴァーヘニンゲン大学(Wageningen University & Research)で植物分子生物学の論文出版。この大学で研究博士号(PhD)を取得?
  • 2001~2024年(26~49歳?):この24年間の29論文がネカト疑惑論文
  • 20xx年(xx歳):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)のポスドク? 助教授?
  • 2008年(33歳?):NIHから最初の研究費獲得
  • 2016年(41歳?)?:ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・ブリガム・アンド・ウィメンズ病院(Brigham and Women’s Hospital)の準教授
  • 2024年2月(49歳?):研究不正が発覚
  • 2024年7月4日(49歳?)現在:従来職を維持

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
TED講演動画:「Treating cancer with re-purposed cancer cells | Khalid Shah | TEDxBoston – YouTube」(英語)7分40秒。
TEDx Talks(チャンネル登録者数 4,090万人) が2022/05/05 に公開

【動画2】
講演動画:「2021 FIRST LOOK | Khalid Shah, PhD – YouTube」(英語)7分40秒。
World Medical Innovation Forum(チャンネル登録者数 3,960人) が2021/06/21 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

ハリド・シャー(Khalid Shah、写真出典)は姓名から判断するとパキスタン系だが、2014年10月26日の記事によると、インドのカシミール出身である。

出身大学の記載がないだけでなく、ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)以前の履歴が見つからない。

それで、出版論文から推察した。

総合的に判断して、ハリド・シャーは、インドのカシミールで生まれ育って、インドの大学を卒業後、オランダのヴァーヘニンゲン大学(Wageningen University & Research)で研究博士号(PhD)を取得し、米国にポスドクとして渡米したと思える。

米国で最初に発表した論文は、2003年のハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)・マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)のラルフ・ワイスレーダー(Ralph Weissleder、写真出典)・研究室からである。この時、ハリド・シャーは、ワイスレーダー研究室のポスドクだった、と白楽は推察した。その後、助教授になったと思う。

ハリド・シャーとワイスレーダーの共著論文は、2003~2010年の8年間に19論文もある。 → Shah K [Author] AND Weissleder R [Author] – Search Results – PubMed

ハリド・シャーは、がん細胞や幹細胞のゲノムを改変して治療薬を開発する遺伝子編集によるがん治療法の研究をしていて、研究は脚光を浴び、BBCニュース、サイエンティスト、WCVBニュースなどで紹介されている。

「ハーバード・ヤング・メンター賞(Harvard Young Mentor Award)」や、2021年の「ピラーズ・オブ・エクセレンス賞(Pillars of Excellence Award)」など、複数の賞を受賞している。

★獲得研究費

ハリド・シャー(Khalid Shah)は、NIHから2008~2024年の17年間に39件、計13,724,119ドル(約13億7千万円)の研究費を獲得した。 → RePORT ⟩ Khalid Shah

研究費の獲得額はスゴイ!

最近の4件を以下に示す(出典:上記)。

★発覚の経緯

2024年2月1日(49歳?)、有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が自分のウェブサイト「Science Integrity Digest」でハリド・シャーのデータねつ造・改ざんを指摘した。 → Problems in Harvard Medical School studies include images taken from other researchers’ papers and vendor websites – Science Integrity Digest

ビックは、2か月前(2023年12月初旬)、ハリド・シャーの元同僚から、ハリド・シャーの論文にはネカト・データがあると伝えられた。

それで、AIソフトウェア「ImageTwin」と逆画像検索を使って、ハリド・シャーの論文の画像の重複を調べた。

結果として、2001~2024年の24年間の29論文(21学術誌)に、データ改ざん、写真の盗用など44件の不正を見つけた。

29論文のうち、25論文で、ハリド・シャーは、第一著者、第二著者、または連絡著者だった。

ビックの集計表(スプレッドシート、29論文)はココ → エクセルファイル:https://scienceintegritydigest.com/wp-content/uploads/2024/02/khalid-shah-harvard-papers-spreadsheet-02-feb-2024.xlsx

ビックが指摘した59疑惑画像(29論文)はココ →  PDFファイル: https://scienceintegritydigest.com/wp-content/uploads/2024/02/khalid-shah-papers-slide-deck-2-feb-2024.pdf

★大学と学術誌のネカト調査

ハーバード大学医科大学院とブリガム・アンド・ウィメンズ病院は、ビックの指摘を受け、ネカト調査を正式に開始した。

2024年7月4日(49歳?)現在、調査結果は公表されていない。調査をはじめて、まだ5か月しかたっていないので、仕方ない。多分、調査が進行中と思われる。

クロと結論されれば、研究公正局が管轄する事件になるだろう。

ビックが疑念視した論文を掲載している18の学術誌のうち、7誌(Oncogene、Biophysical Journal、PLOS One、Proceedings of the National Academy of Science、Cancer Biology and Therapy、Nature Scientific Reports、Clinical Cancer Research)の広報担当者は、ネカト疑惑を認識し、調査を始めた。

ネイチャー・コミュニケーションズを含む他の12の学術誌は、調査を始めたかどうか不明である。

【ねつ造・改ざんの具体例】

ネカト論文が多数(29論文)ある。

ビックは、最もネカトが顕著な論文は「2022年5月のNat Commun」論文だと述べている。それで、以下、その論文を取り上げた。

★「2022年5月のNat Commun」論文

「2022年5月のNat Commun」論文の書誌情報を以下に示す。共著者は32人。2024年7月4日現在、撤回されていない。

――――図1e
図1e(下記の右)の赤枠図は、エモリー大学の研究者が発表した「2010年のPLoS ONE」論文の図(左)の赤枠図と同じ。つまり、図を盗用していた。図の出典:ビックの「Science Integrity Digest」記事

――――図1e
同じく図1e(下記の右)の緑枠図は、エモリー大学の研究者が発表した「2010年のPLoS ONE」論文の図(左)の緑枠図と同じ。つまり、図を盗用していた。図の出典:ビックの「Science Integrity Digest」記事

――――図1e

「2022年5月のNat Commun」論文には、上記以外の箇所にデータねつ造があるが、記載を省略する。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2024年7月4日現在、パブメド(PubMed)で、ハリド・シャー(Khalid Shah)の論文を「Khalid Shah [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2024年の23年間の163論文がヒットした。

同じ姓名の別人がいる感じだったので、所属を加えた「Khalid Shah [Author] AND Harvard Medical School[Affiliation] 」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2003~2024年の22年間の107論文がヒットした。

2024年7月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2024年7月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでハリド・シャー(Khalid Shah)を「Khalid Shah」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のSci Rep」論文・ 2論文が撤回されていた。しかし、以下に示すように、本記事で問題にしている 「Khalid Shah」の撤回論文は0報である。

説明すると、「2016年8月のHepatology」論文が2022年1月7日に撤回されているが、著者に「Khalid Shah」は入っていない。撤回監視データベースの間違いだろう。

また、「2021年10月のComput Math Methods Med」論文が2023年8月2日 に撤回されているが、 著者の「Said Khalid Shah」は本記事で問題にしている 「Khalid Shah」とは別人である。

★パブピア(PubPeer)

2024年7月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ハリド・シャー(Khalid Shah)の論文のコメントを「”Khalid Shah”」で検索すると、本記事で問題にした「2022年5月のNat Commun」論文を含め31論文にコメントがあった。

全31論文が、本記事で問題にしている 「Khalid Shah」の論文かどうか、白楽は分析していない。

●7.【白楽の感想】

《1》不思議か当然か 

ハリド・シャー(Khalid Shah)論文のネカト疑惑は調査が始まって、まだ5か月なので、調査結果は発表されていない。調査中だと思われる。

しかし、ビックは、出版された論文の画像を分析した結果、不正と認定している。証拠は歴然としているので、ハリド・シャーのクロ認定は確実だろう。

異常な画像が少数なら「間違い」の可能性はあるが、多数だと、普通は意図的なねつ造・改ざんである。本当に多数の画像を「誠実に間違えた」としても、間違えた理由が正当でない限り、信用されない。

ハリド・シャー事件で驚くことは、「2001~2024年の24年間の29論文」という長期間のネカトである。

それに、ハリド・シャーは有望な若手研究者として評価され、TEDでも講演している。メディアなどでの露出も多く、決して、地味な研究者ではない。

こんなに長期間、それなりに有名な研究者の論文なのに、2023年12月初旬に元同僚がビックに伝えるまで、どうして、共同研究者なり、論文読者なり、ネカトハンターなりが、ネカトに気が付かなったのか? 不思議である。

「不思議である」と書いたが、ネカトハンター以外の人で、気が付いた人はそれなりにいただろう(白楽の推測)。けれども、告発しなかった、というのが正しいかもしれない。告発しても、告発者が得になることは何もないからね。

ただ、全29論文のネカトをハリド・シャー自身がしたのか、室員がしたのか? 

ハリド・シャー研究室はズサンで、ハリド・シャーのチェックは甘かったという話もある。ということは、複数の室員がつるんで、一時的にでも得しようと、ネカトしたのかもしれない。ネカト調査結果の発表を待つほかない。

ハリド・シャー(Khalid Shah):https://dms.hms.harvard.edu/people/khalid-shah-2

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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●9.【主要情報源】

① 2024年2月1日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)記者の「Science Integrity Digest」記事:Problems in Harvard Medical School studies include images taken from other researchers’ papers and vendor websites – Science Integrity Digest
② 2024年2月1日のベロニカ・パウルスとアクシャヤ・ラヴィ(Veronica H. Paulus and Akshaya Ravi)記者の「Harvard Crimson」記事:Top Harvard Medical School Neuroscientist Accused of Research Misconduct | News | The Harvard Crimson
③ 2024年2月1日のブランドン・ポールター(Brandon Poulter)記者の「Daily Caller」記事:Harvard Med School Professor And Neuroscientist Accused Of Major Research Misconduct | The Daily Caller
④ 2024年2月15日のダニエル・ゲルハルト(Danielle Gerhard)記者の「Scientist」記事:A Science Sleuth Accuses a Harvard Medical School Neuroscientist of Research Misconduct | The Scientist Magazine®
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