アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)(カナダ)

2026年6月2日(火)掲載

イラン出身でブリティッシュコロンビア大学・教授になったガハリーは、創傷治癒治療薬の特許を持ち、この分野では世界的に有名になった。ところが、2018~2019年(76~77歳)の臨床試験で、患者の募集、データ収集・解釈には一切関与しない規則なのに、諸所で違反し、データ捏造もするという不正行為をした。臨床試験の責任者が憤慨し、告発した。ブリティッシュコロンビア大学が調査し、2021年(79歳)、研究不正があったと結論した。ガハリーはすぐに辞職したが、その時、79歳だった。ブリティッシュコロンビア大学は調査報告書を秘匿しただけでなく、事件そのものを極度に隠蔽した。それで、カナダのメディア「CBC News」が調査報告書を入手し国民に報道したのは、事件終了4年後の2025年10月だった。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想(含・AI川柳)
9.主要情報源
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●1.【概略】

アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary、ORCID iD:?、写真出典)は、イラン出身でカナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)・教授になった。医師免許は持っていない。専門は外科で、創傷治癒の分野では世界的に有名。

この事件は1年半ほど前(2025年10月15日)、カナダの「CBC News」が顔写真入り、動画付きで報道したので、大事件になると白楽は思った。

しかし、ブリティッシュコロンビア大学がしっかり隠蔽したため、その後の報道はなかった。他のメディアも追及報道をしなかった。

といわけで、結果としては小事件の記事です。

カナダの隠蔽体質を実感できたが、研究不正を防ぐ教訓は学べなかった。

ブリティッシュコロンビア大学のバンクーバー・キャンパス(University of British Columbia’s Vancouver campus)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:イラン
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのマニトバ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1942年1月1日、イランで生まれたとする。2025年の記事に83歳とある:Investigation found UBC researcher fabricated data, gave spinal patients ‘false hope.’ The public was not told | CBC News
  • 現在の年齢:84歳
  • 分野:創傷治癒学
  • 不正行為:2018~2019年(76~77歳)の2年間
  • 不正時の地位:ブリティッシュコロンビア大学・教授
  • 発覚年:2019年(77歳)
  • 発覚時地位:ブリティッシュコロンビア大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はアンソニー・パップ医師(Anthony Papp)
  • ステップ2(メディア):「CBC News」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ブリティッシュコロンビア大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:匿名発表・隠匿(Ⅹ)
  • 不正:臨床試験の言動違反。捏造・改ざん
  • 不正論文数:1報撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた(Ⅹ)
  • 処分:なし
  • 対処問題:大学隠蔽
  • 特徴:①70代後半で行なった不正行為、②大学の極度の隠蔽
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Dr. Aziz Ghahary joins ICORD | ICORD

  • 生年月日:不明。仮に1942年1月1日、イランで生まれたとする。2025年の記事に83歳とある:Investigation found UBC researcher fabricated data, gave spinal patients ‘false hope.’ The public was not told | CBC News
  • xxxx年(xx歳):イランのアフワズ大学(University of Ahwaz)で学士号取得:理学
  • xxxx年(xx歳):イランのテヘラン大学(University of Tehran)で修士号取得:公衆衛生学
  • 1988年(46歳?):カナダのマニトバ大学(University of Manitoba)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1988~1990年(46~48歳?):同大学・ポスドク。ボスはヘンリー・フリーゼン(Henry Friesen)
  • 1990年(48歳?):アルバータ大学(University of Alberta)・助教授または準教授
  • 2005年(63歳?):ブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)の外科および形成外科の教授
  • xxxx年(xx歳):バンクーバー総合病院(Vancouver General Hospital)・スタッフ
  • 2017年(75歳):2017年のVCHRIイノベーション・トランスレーショナル賞を受賞:Innovation and Translational Research Awards 2017 Recipients | VCH Research Institute
  • 2018年(76歳):メッシュフィルのパイロット臨床試験を開始
  • 2019年6月(77歳)?:アンソニー・パップ医師(Anthony Papp)がガハリー教授のネカトを告発
  • 2019年6月(77歳):バンクーバー沿岸健康研究所はガハリー教授のネカト調査を開始
  • 2021年3月(79歳):上記調査終了
  • 2021年(79歳):調査終了直後、ブリティッシュコロンビア大学を退職
  • 2025年10月(83歳):「CBC News」が研究不正を報道

●3.【動画】

【動画1】
事件のニュース動画:「UBC professor fabricated research study results, according to leaked report – YouTube」(英語)5分23秒。
CBC British Columbiaが2025/10/16に公開

【動画2】
事件の動画ではない。研究紹介のインタビュー動画:「Careers That Matter: Dr. Aziz Ghaharya (professor and burn researcher) – YouTube」(英語)10分43秒。
Careers That Matter(チャンネル登録者数 156人)が2024/07/12に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

わかりやすいように、教授を辞めたあとも「ガハリー教授」と記載する場合がある。

★研究人生

アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary、写真出典)は、イラン出身でカナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)・教授になった。医師免許は持っていないが、専門は外科で、創傷治癒の分野では世界的に有名である。

2015年(73歳)、ガハリー教授とそのチームは、抗瘢痕薬(傷の後にケロイドや皮膚の赤みや盛り上がりを抑える医薬品)として開発した薬剤「フィブロストップ(Fibrostop)」の臨床試験を終えた。 → 2015年8月28日: UBC researchers develop drug to treat scarring and autoimmune diseases – UBC Faculty of Medicine

2017年(75歳)、ガハリー教授は2017年のVCHRIイノベーション・トランスレーショナル賞を受賞した。なお、VCHRはバンクーバー沿岸健康研究所(Vancouver Coastal Health Research Institute)の略称である。 → Innovation and Translational Research Awards 2017 Recipients | VCH Research Institute

ガハリー教授は整形外科の分野で著名な研究者で、ブリティッシュコロンビア大学での最後の1年間(2021年)の給料は24万2960ドル(約2,429万円)だった。 → FY21-UBC-Statement-of-Financial-Information.pdf

★獲得研究費

アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)は、カナダ保健研究機構(CIHR:Canadian Institutes of Health Research)から$396,243(約3,962万円)の研究費を得ていた。 → Funding Decisions Database – CIHR

2017年(75歳)、ガハリー教授は「イノベーター・チャレンジ」というコンテストで、患者のケアと治療成績の向上に役立つ研究費として、2万5000ドル(約250万円)の助成金を獲得した。 → 2017年4月19日記事(含・以下写真出典。右端が)ガハリー教授:Congrats to Drs. Ghahary and Butskiy for slaying dragons to win research grant! | VCH News |

★発覚と経緯

アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)は医師ではないが、自分が開発し、特許を取得した皮膚代用剤であるメッシュフィル(Meshfill)を使うことで、何年もの床ずれ(慢性褥瘡(じょくそう)、bed sores)が数週間で治ると主張していた。 → 特許はコレ?:US9737523B2 – Anti-fibrogenic compounds, methods and uses thereof – Google Patents

奇跡の治療法を発明したと主張していた。

しかし、実際は、床ずれは治癒せず、一部の患者は感染症を起こしていた。

それで、2019年6月(77歳)、この特許取得済みの皮膚治療でデータ捏造・改ざんをしたと問題視され、ブリティッシュコロンビア大学は3人の外部専門家からなる調査委員会を設けた。

2021年3月(79歳)、ブリティッシュコロンビア大学・調査委員会が64ページの調査報告書をまとめた。

この調査報告書は非公開だった(と思う)。現在、ウェブ上に見つからない。ただ、メディアの「調査報道財団(IJF: Investigative Journalism Foundation – Wikipedia)」と「CBC News」は入手した。

この白楽記事は、「CBC News」が報じたその調査報告書の内容を基に書いている。

ブリティッシュコロンビア大学・調査委員会の調査報告書は、ガハリー教授に研究不正があったと結論した。

2021年、調査終了直後、ガハリー教授はひっそりと退職した。

★大学と弁護士の対応

ブリティッシュコロンビア大学のマシュー・ラムジー広報担当者(Matthew Ramsey、写真出典)はガハリー教授が2021年に退職したことを認めたが、「プライバシー法により、ブリティッシュコロンビア大学は、ガハリー博士の研究不正疑惑についてコメントできません」と記者の問い合わせに答えた。

「情報公開およびプライバシー保護法(FIPPA: Freedom of Information and Protection of Privacy Act)に基づき、不開示が義務付けられている個人情報が研究不正の調査報告書に含まれています。ブリティッシュコロンビア大学は、この種の個人情報を公開する法的権限はありません」。

また、記者の質問に対し、ガハリー教授の代理人を務めるタレク・エルネウェイヒ弁護士(Tarek Elneweihi、写真出典)は、依頼人は「科学者としての経歴に関して隠すことは何もなく、これまでの業績を誇りに思っています」と述べた。しかし、調査報告書に関する質問には回答しなかった。

「ガハリー博士は法的に守秘義務があります。あなたが提起した問題について、たとえ自己弁護のためであってもコメントすることはできません。これらの制約は包括的で、ガハリー博士はいかなる内部文書の内容、関連するプロセス、あるいはその周辺の状況について言及することを禁じられています」とエルネウェイヒ弁護士は述べた。

「メッシュフィル(Meshfill)はカナダの市場には出回っていません。オンラインで宣伝されている美容施術と混同しないでください。ガハリー教授は現在83歳で、研究活動からは完全に引退しています」とエルネウェイヒ弁護士は付け加えた。

白楽注:ここで言及されている美容施術とは、皮膚の美容のために、網目状(メッシュ状)の特殊な糸の中にヒアルロン酸などのフィラー(注入剤)を注入する施術で、顔の輪郭を整え、若返り効果がある(と宣伝されている)。例:Meshfill – Cosmetic Dermatologist Dr. Jason Emer

★公益とプライバシー

ガハリー教授が2021年に大学を退職した際、ブリティッシュコロンビア大学からの発表はなかった。

退職後も、ガハリー教授はカナダのバイオ医療企業の科学諮問委員会に引き続き所属し、時折自身のキャリアについてインタビューにも応じている。

以下は、2024/07/12にYouTubeにアップされたインタビュー動画(Careers That Matter: Dr. Aziz Ghaharya (professor and burn researcher) – YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=__9ek1jQz1s)。

大学の財務諸表によると、ガハリー教授は2023年と2024年にブリティッシュコロンビア大学から商品とサービスで約8万ドル(約800万円)を受け取っていた。 → FY23-UBC-Statement-of-Financial-Information-1.pdf

「調査報道財団(IJF)」と「CBC News」が、この支払いに関する詳細を問い合わせたが、ブリティッシュコロンビア大学はプライバシーと守秘義務を理由に、詳細を明らかにしなかった。

不正行為の調査についてブリティッシュコロンビア大学が公表している可能性があるのは、 ブリティッシュコロンビア大学のウェブサイトに掲載された不正行為者名を匿名にした文章だけである。

そこには、ある教員が2019年にデータの偽造や捏造、利益相反規則違反など、学術上の不正行為を複数回犯した。調査結果は複数の資金提供機関に報告され、当該教員はもはやブリティッシュコロンビア大学に所属していないと、書かれていた。 → Findings of Scholarly Misconduct at UBC | Responsible Conduct of Research

ラムジー広報担当者は、その記事がガハリー教授に関するものかどうかはわからないと述べた。

カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)・教授で、健康倫理センター(Centre for Health Ethics)のリー・ターナー所長(Leigh Turner、写真出典)は、調査報告書が取り上げていない多数の問題があると、以下のように指摘した。

「臨床試験の参加者は完全な開示を受ける権利がある。彼らに何を伝えられたのか? 調査報告書をまとめた後、ブリティッシュコロンビア大学は何らかの改革に着手したのか? 例えば、臨床試験の監督方法を改善したのか? 研究者の教育方法を改善したのか?」。

「カナダ全土の大学・研究機関で、この調査報告書から何らかの教訓を学んだという形跡が全くありません。それは、この調査報告書が秘匿され、どんな形でもその内容を伝えていないからです」。

記者は、ラムジー広報担当者は、調査の結果を受けて大学がどのような変更を行なったのか、また研究参加者に調査結果を知らせたかどうかについて、問い合わせた。しかし、ラムジー広報担当者からの回答はなかった。

なお、ターナー所長は、「隠蔽はブリティッシュコロンビア大学に限ったことではない」と強調した。

北米の多くの大学が不正行為の調査内容を隠蔽する。

プライバシーの保護を理由とすることが多いが、プライバシーの保護なら、その箇所を黒塗りした調査報告書を公表すればいいのに、なぜそうしないのか、と疑問を呈した。

「飛行機の墜落事故が発生した場合、事故原因の解明に比べ、パイロットのプライバシーはそれほど重要だとは考えられません。パイロットのプライバシーのためという理由で、パイロットの操作・行動を隠すことはありません。私たちが調査を行なう理由は、何が起こったのかを知り、学び、二度と同じ事故が起こらないようにするためです。研究不正の調査も同じです」

「調査報告書が人々の目に触れず、公表されなければ、不正改善の機会、重要な教育の機会が失われてしまうことになります」とターナー所長は批判した。

★アンソニー・パップ医師(Anthony Papp)

調査報告書によると、2019年6月、ブリティッシュコロンビア大学はバンクーバー沿岸健康研究所(VCHRI: Vancouver Coastal Health Research Institute)のアンソニー・パップ医師(Anthony Papp、写真出典)の告発を受け、ガハリー教授の調査を開始した。

形成外科医のパップ医師は過去にガハリー教授と共同研究をしていて、今回のパイロット臨床試験の主任研究者を務めていた。

パップ医師は、このような告発は初めてであること、調査報告書は公表されるべきだ、とメールで回答した。

パップ医師はガハリー教授の臨床試験での振る舞いに不満だった。調査報告書には、「数年間、私は規則を破る彼の振る舞いを変えようとした」とパップ医師はガハリー教授について書いていた。

調査報告書には、さらに、パップ医師が、ガハリー教授に虚偽のような主張を続けるなら告発すると警告したメールを送ったとある。

パップ医師は、「ガハリー教授に同じ問題点を、何度も繰り返し指摘してきたが、全く効果がなかった。率直に言って、もう耐えられない」と述べていた。

★2つのデータセット

メッシュフィルのパイロット臨床試験が2018年に発表された際、バンクーバー沿岸健康研究所(VCHRI)は、この治療法が「治癒が遅い傷の治療で、苦痛を解消する可能性がある」と述べた。 → Skin substitute provides the building blocks for wound repair | VCH Research Institute

この臨床試験は、床ずれ創傷がある脊髄損傷患者12人を対象にメッシュフィル(Meshfill)の安全性と有効性を検証するために計画された。

パップ医師がプロジェクトを主導し、彼のクリニックに所属する匿名の看護師がメッシュフィルを塗布し、プロトコルに従って創傷の状態を観察する予定だった。

研究計画はブリティッシュコロンビア大学の臨床研究倫理委員会に承認された。

臨床研究倫理委員会には、特許所有者であるガハリー教授は患者の募集、データ収集・解釈には一切関与しない、と申請していた。

専門家は、このことは臨床試験の公正性を確保する上で極めて重要だと指摘している。

ターナー所長は、「懸念される点の一つは、臨床試験の実施、つまりデータ収集・解釈に積極的に関わる人が金銭的な利害関係を持つ場合、自分の金銭的利益を優先し、データを選び、自分に都合の良い解釈をする可能性があるということです」と述べた。

しかし、実際は、臨床試験の開始前から次々と問題が浮上した。

ガハリー教授は少なくとも1人の脊髄損傷患者とメールのやり取りをし、臨床試験に参加できると約束していた。

ガハリー教授は参加者を募集する立場ではなかっただけでなく、その患者は臨床試験の参加基準を満たしていなかった。

そして、その後、適切な脊髄損傷患者を12人見つけられなかったため、外科的創傷のある患者も参加させた。

看護師は委員会に対し、承認されたプロトコルに違反して、臨床試験中、ガハリー教授と彼の研究室のメンバーが診療所を訪れ、患者と面談し(患者の自宅を訪問することもあった)、自分たちのデータを記録したデータセットを作っていた、と説明した。

調査委員会は、ガハリー教授チームのデータと看護師の公式記録との間に「重大な矛盾」があると指摘している。つまり、可能性としては、どちらかが、間違えたか、捏造・改ざんしたことになる。

「重大な矛盾」が見られたのは、感染の証拠が記録されていないケースや、傷の改善が誇張されているケースなどだった。

これらは、ガハリー教授チームに都合の良い記録なので、ガハリー教授チームが意図的に記録を捏造・改ざんした可能性が高い。。

専門家は、これらは非常に異例だと指摘した。

「本来は1つのデータセットだけが存在するはずです。また、ガハリー教授は金銭的な利益相反があるため、データ生成に関与すべきではありません」とターナー所長は説明した。

看護師(女性)はまた、調査委員会に対し、ガハリー教授が研究プロトコルで認められている範囲を超えて、ほとんどの被験者に追加の治療を行なうよう圧力をかけてきたと証言した。看護師が抵抗すると、ガハリー教授は彼女をオフィスに追い詰め、ドアを閉めたと主張した。

ドアを閉められた部屋で、看護師(女性)は、ガハリー教授から「この仕事がどれほど重要か分かっているのか?」と言われたことをはっきりと覚えている、と述べた。

ガハリー教授は、研究プロトコルで認められている範囲を超えた治療を行なうことに同意するまで、看護師を脅し続け、部屋から出させなかった。

なお、ガハリー教授は、このような出来事は一切なかったと否定した。しかし、調査委員会は看護師の証言を受け入れた。

★効能はない

パップ医師の最終的な分析では、メッシュフィルを使用しても床ずれの傷(慢性創傷 chronic wound healing)は改善されなかった。

看護師は調査員に対し、「自分が同じ症状になってもメッシュフィルを決して使いません」と述べている。

この臨床試験には、潰瘍創患者(ulcer wounds)と手術創患者(surgery wounds)各5人が参加した。

手術創のうち3例は完全に治癒したが、潰瘍創はいずれも治癒せず、数例で感染の兆候が見られた。

しかし、ガハリー教授が倫理委員会に試験申請する時、その事実を伝えなかった。

2018年にパイロット臨床試験を拡大するための倫理承認を申請した際、ガハリー教授は、「過去2~5年間治癒しなかった3人の患者の潰瘍創の治癒に著しい改善が見られた。実際、これらの患者のうち2人の傷は4週間で完全に治癒した」と記していた。

ガハリー教授が医療研究財団向けに作成したポスター発表では、「画期的な可能性を秘めた」結果が謳われ、「新しく開発されたメッシュフィル液体皮膚は、これまで治療不可能だった潰瘍創を治療している」と誇示した。

ガハリー教授はまた、YouTubeに体験談動画を投稿し、治験に参加した患者を紹介したが、その患者が潰瘍創ではなく手術創の治療を受けていたことを明かさなかった。

「ガハリー教授は、被験者に潰瘍創があり、それがわずか2週間で治癒したという誤った印象をビデオの中で意図的に与えた」と調査委員会は結論付けた。

2019年9月、研究不正の告発がされた後なのに、ガハリー教授はにブリティッシュコロンビア州の労災補償委員会(WCB: WorkSafeBC)で同様のプレゼンテーションをした。

調査報告書は「驚くべきことに、この調査の過程で行われた労災補償委員会(WCB)のプレゼンテーションに、パイロット臨床試験の結果に関する新たな虚偽および誇張された主張が含まれていた」と述べている。

結局、このパイロット臨床試験は完了する前に中止され、追跡調査のための倫理承認も取り消された。

【捏造・改ざんの具体例】

アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)は、自分が開発し、特許を取得したメッシュフィル(Meshfill)のパイロット臨床試験で、治療に効果があるとデータを捏造・改ざんしていた。

具体例は既に記述した、この節に再掲しない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2026年6月1日現在、パブメド(PubMed)で、アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)の論文を「Aziz Ghahary[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2024年の23年間の138論文がヒットした。

2026年6月1日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2013年1月のMol Cell Biochem」・1論文が2024年12月に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2026年6月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでアジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)を「Aziz Ghahary」で検索すると、「2013年1月のMol Cell Biochem」・1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2026年6月1日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)の論文のコメントを「authors:”Aziz Ghahary”」で検索すると、10論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》AI川柳

  • 開示せぬ 不正の事実 誰のため
    (プライバシー保護を大義名分にして、調査報告書や不正の事実を社会に隠そうとする大学への疑問)
  • 治らぬが 動画の中では 完全完治
    (実際の床ずれは治っていないのに、YouTubeの体験談動画ではまるで奇跡が起きたかのように演出した誇大広告)
  • 利害ある ボスを入れぬな 臨床試験
    (特許を持つガハリー教授が、関与してはならないはずのデータ収集や患者の面談に介入したルール違反)

《2》珍しい箇所 

アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)事件は、自分が得するようにデータを捏造・改ざんした事件で、珍しくない事件だが、珍しい部分が多い事件でもある。

ガハリー事件の特徴をあげれば以下のようだ。

  1. ブリティッシュコロンビア大学とカナダの隠蔽の徹底ぶり。こんなにネカト者を守ると、今後も研究不正は起こるだろう。科学の進歩は遅れ、被害者は救われない。
  2. ブリティッシュコロンビア大学は不正者のガハリー教授を処罰していない。
  3. ガハリー教授が70代後半で行なった不正行為である。それ以前にも不正行為をしていただろう。なぜ調査しないのか?
  4. メディアが事件を報道したのは、ブリティッシュコロンビア大学が調査報告書を完成した4年後である。同時に、ガハリー教授が退職してから4年後である。報道がとても遅い、遅すぎである。
  5. 他のメディアは報道しないのはなぜだろう?

《3》カナダは研究不正に大甘

カナダは研究不正に大甘な国という印象を受けた。というか、研究不正を抑止しようという意欲がない国という印象だ。

カナダは大きなネカト事件をいくつも起こしているのに、改善されない。日本人の白楽がどの口で言える? とカナダ人に批判されそうだけど・・・。

印象に残るカナダのいくつかの事件を以下に羅列した(網羅的ではない)。

《4》研究不正を防ぐ方法

アジズ・ガハリー(Aziz Ghahary)の研究不正を防ぐには、どうすればよかったか?

また、今後、同じような研究不正を起こさせないためにはどうすべきか?

以下の「―研究不正を防ぐポイント(ブログ共通)―」の中から2~3件、選んだ。

「②大学院での(学術)規範教育の徹底」、「③研究不正を軽視する有力賞受賞研究者・学会ボス・有名研究者を特別視せず厳格に処罰する」、「⑦大学の研究不正隠蔽を糾弾する」が大きいと思う。

――研究不正を防ぐポイント(ブログ共通)――

生物(含・人間)の原理は「種と畑」または「遺伝と環境」である。
研究不正の行動原理を「個人と環境(含・システム)」としよう。

つまり、「個人」の性向・体質が基本だが、ズルや不正をしてでも得しようという人生観(人生成功観)が根本にあって、それが、特定の「環境(含・システム)」に置かれると研究不正をする。

「個人」と「環境(含・システム)」の寄与度は、どちらが大きいかというと、大多数の研究者は同じ「システム」でも研究不正をしないので、「個人」の寄与度が大きいと思う。

「個人」と書いたが、不正を実行する「個人」はもちろんだが、研究室のボス(教授など)、学術誌編集長、大学の調査委員、大学長、担当大臣、担当政治家などの「個人」も、研究不正への寄与では重要である。ただ、これらは、不正実行者の「個人」を取り巻く人間たちなので「環境」として扱う。

「環境(含・システム)」は、規則(法律、政府のガイドライン、大学・学術誌・研究室の規則、不正調査の仕組み、不正者処罰・発表、透明性)、構造(出版か死か、雇用制度、研究費獲得、栄誉・名声・受賞制度)、研究環境(毒研究室)、文化(評価基準・メトリックス、不正許容、匿名・隠蔽体質、告発報復、メディア報道)などである。

「環境(含・システム)」要素をいくつも並べたが、院生・ポスドク・初期研究者にとって大きな「環境」は、研究室のボス(教授など)や先輩である。研究室のボス(教授など)や先輩が研究不正をそそのかす言動をすれば、それに合わせて研究不正をする傾向は高い。

同様に、中堅の研究員や上級者(教授など)は、研究規範に違反してでも、研究費獲得・昇進・メンツ・見栄を満たそうとする意識が強いと、軽い気持ち・魔が差す・自己に甘い性格も加味され、研究不正をする。

研究不正を防ぐ基本は「ネカト許さない文化」の構築であるが、「個人」と「環境(含・システム)」を分けて考えよう。

「個人」対策は、①家庭での道徳教育と小中高までの厳格な倫理観の育成。②大学の学部・院、特に研究室での学術規範しつけの徹底。

「環境(含・システム)」対策は、上記全項目への対応なので、たくさんあって書ききれない。少し書くと、③研究不正を軽視する有力賞受賞研究者・学会ボス・有名研究者を特別視せず厳格に処罰する。また、研究不正に甘いボス(教授など)や先輩をハッキリ処罰する。つまり、厳罰化(理由は上記)。④一般社会・メディアが研究不正にもっと厳しくするシステム・文化の構築。⑤ネカト監視・告発を促進するシステムの構築(告発者保護)。⑥ネカト告発者への報償制度導入。などがある。

根本的解決の1つは、⑦大学がネカト調査をするのではなく、麻薬取締部などのような捜査権を持つ政府機関がネカト調査すべきだと思う。現状、これがないので、大学は研究不正を隠蔽する・調査しない・調査してもクロをシロと捻じ曲げる・関係者を脅迫する。また、大学・学長や研究所・理事長の研究不正は調査が泥沼化する。⑧他に、研究倫理学者の育成、規範意識の低い人を昇進させないシステム作り、法改正して研究不正を刑事罰化など、すべきことはたくさんある。

――ここまでブログ共通――

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① 2025年10月15日のベサニー・リンゼイとミシェル・グースブ(Bethany Lindsay& Michelle Ghoussoub)記者とCBC News & IJFの「CBC News」記事:Investigation found UBC researcher fabricated data, gave spinal patients ‘false hope.’ The public was not told | CBC News