犯罪「所得申告義務違反」:シャオジャン・リー(李晓江、李暁江、Xiao-Jiang Li)、シーワー・リー(李世华、李世華、Shihua Li)(米)

2021年3月14日掲載 

ワンポイント:米国の中国系科学者を排斥する「中国イニシアチブ」の1例。リー夫妻は2人共、米国に帰化し、エモリー大学(Emory University)に23年勤めた著名な教授で、2018年に世界初のハンチントン病遺伝子ノックイン豚の作成に成功した。中国の千人計画に選ばれ、中国にも研究拠点を設けた。2018年、NIHからの調査依頼を受け、調査の結果、2019年5月、エモリー大学はリー夫妻が中国からの収入を米国に申告していなかったことで、解雇した。2020年5月(63歳)、裁判所は所得申告義務違反で夫・リーを有罪とし1年間のプロベーションに科した。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

シャオジャン・リー(李晓江、李暁江、Xiao-Jiang Li)とシーワー・リー(李世华、李世華、Shihua Li)(写真出典)は夫婦で共同研究者である。単純化のため夫を中心に記載する。

2人共、中国出身だが米国に帰化し、米国籍をもつ。米国のエモリー大学(Emory University)・教授で、専門は神経分子生物学(ハンチントン病など)である。

2018年、リー夫妻は、世界初のハンチントン病遺伝子ノックイン豚の作成に成功した著名な研究者である。

中国の千人計画に選ばれたが、中国からの収入を米国に申告していなかった。米国の法律は政府資金の受給者に、受け入れた資金情報の全てを開示するよう規定している。

2018年11月(61歳)、NIHが所得申告義務違反を見つけ、エモリー大学に調査を依頼した。

2019年5月(62歳)、エモリー大学は調査の結果、リー夫妻の不正を見つけ、解雇し、研究室を閉鎖した。

2020年5月(63歳)、連邦裁判所は所得申告義務違反で夫・リーを有罪とし、1年間のプロベーション(日本の保護観察とは異質)を科した。

国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

エモリー大学(Emory University)。写真出典

★夫のシャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)を中心に記載

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:中国の江西医科大学
  • 研究博士号(PhD)取得:オレゴン健康科学大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:仮に1957年1月1日生まれとする。2020年5月11日の司法省の記事で63歳とあったので
  • 現在の年齢:67 歳
  • 分野:神経科学
  • 不正期間:2012~2018年(55~61歳)
  • 発覚年:2018年(61歳)
  • 発覚時地位:エモリー大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はNIHの「中国イニシアチブ」調査員でエモリー大学に調査を指示
  • ステップ2(メディア):「Science」、多数の産業メディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①NIH・調査委員会。②エモリー大学・調査委員会。③国税庁犯罪捜査局、連邦捜査局(FBI)、米国健康福祉省が犯罪捜査。④連邦地裁
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし(✖)、大学以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:所得申告義務違反
  • ネカト論文数:0報
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:解雇。裁判で有罪。1年間のプロベーション(日本の保護観察とは異質)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

★シャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)
出典:Li XJ CV English 10-10-14

  • 生年月日:仮に1957年1月1日生まれとする。2020年5月11日の司法省の記事で63歳とあったので
  • 1977-1982年(20-25歳):中国の江西医科大学(Jiangxi Medical College)で医師免許取得
  • 1983-1986年(26-29歳):中国の蘇州医科大学(Suzhou Medical College)で修士号取得:薬理学
  • 1987-1991年(30-34歳):米国のオレゴン健康科学大学(Oregon Health Sciences University)で研究博士号(PhD)を取得:薬理学。マイケル・フォルテ教授(Michael Forte)
  • 1991-1995年(34-38歳):ジョンズ・ホプキンス大学医科大学院(Johns Hopkins University School of Medicine)・ポスドク
  • 1995-1996年(38-39歳):ジョンズ・ホプキンス大学医科大学院(Johns Hopkins University School of Medicine)・助教授
  • 1996-2001年(39-44歳):エモリー大学(Emory University)・助教授
  • xxxx年(xx歳):米国籍取得
  • 2001-2005年(44-48歳):同大学・準教授
  • 2005年-2019年(48-62歳):同大学・教授
  • 2007年-2019年(50-62歳):同大学・殊勲教授(Distinguished Professor)
  • 2018年11月(61歳):NIHが不正を見つけ、エモリー大学に調査依頼
  • 2019年(62歳):連邦税申告書に海外所得の申告なしが確認
  • 2019年5月(62歳):エモリー大学から解雇
  • 2020年5月(63歳):裁判所は虚偽の収入申告で有罪判決

●3.【動画】

【動画1】
「シャオジャン・リー」と自己紹介。
ニュース動画:「Two Chinese-American professors arrested for participating in the “Thousand Talents Program” – YouTube」(英語)2分23秒。
The Epoch Timesが2020/05/25 に公開

【動画2】
ニュース動画:「FBI Uncovers Professors’ CCP Ties | NTD – YouTube」(英語)2分11秒。
NTDが2020/05/14 に公開

●4.【日本語の解説】

★2010年7月28日:東京大学大学院医学系研究科神経病理学・岩坪威:「疾患のケミカルバイオロジー・セミナーのお知らせ」

出典 → ココ 

Xiao-Jiang Li 教授は神経変性、特にポリグルタミン病の分子機構に関して先端的な研究を進めてこられた著名な研究者です。今回来日された機会にご講演をお願いしました。多数のご来聴をお願い申し上げます。

★2018年04月02日:人民網日本語版(編集YF):「世界初の神経変性疾患モデル豚が誕生」

出典 → ココ、(保存版) 

中国人科学者が中心となった国際研究チームが(2018年)3月31日、4年間の取り組みを経て、初めてゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)と体細胞核移植技術を利用し、世界初のハンチントン病遺伝子ノックイン豚の育成に成功した。

人類の神経変性疾患を正確にシミュレーションし、ハンチントン舞踏病や認知症などの治療に安定的かつ信頼性の高い動物モデルを提供し、スクリーニングと治療プランの決定を促すことになる。この成果は北京時間(2018年)3月30日未明、セル誌(電子版)に掲載された。新華社が伝えた。

3月28日に広州市九龍実験動物基地で撮影されたハンチントン舞踏病遺伝子ノックイン豚(写真提供・中国科学院広州生物医薬・健康研究院)。

広州市の曁南大学で、世界初の神経変性疾患遺伝子ノックイン豚と国際科学研究チームによる記念撮影(左から李世華氏、涂著池氏、閻森氏、李暁江氏、劉朝明氏、頼良学氏、趙宇氏)。

★2019年08月08日:大紀元(翻訳編集・佐渡道世):「米、中国の学術スパイ取り締まり強化 米国人も対象」

出典 → ココ、(保存版) 

米トランプ政権は中国共産党政権による学術界への浸透に追及の手を強めている。その対象は中国系住民から米国人まで拡大した。

米名門エモリー大学は5月、23年間在職していた中国出身米国籍の李暁江と李世華両氏の研究室を閉鎖し、両氏を解雇した。同研究室に所属する数人の中国人研究者も同時に解雇され、30日以内に中国への帰国を命じられた。

夫婦でもある2人は遺伝子編集技術を使用したハンチントン病治療研究の権威的存在で、2008年、世界初の遺伝子組み換えハンチントン病モデルサルの構築に成功し、2010年に別の研究者と初めて遺伝子組み換えハンチントン病・モデル豚を構築した。

2人の研究プロジェクトは米国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)からの資金提供を受けていた。

解雇の理由は、外国政府からの資金提供の隠蔽、技術の海外移転などの疑いがあるという。

李暁江氏は中国当局が支援する海外ハイレベル研究者リクルート計画「千人計画」に参加している。同氏は2008年、華中科技大学の客員教授に就任した。

2人は、エモリー大学で完成させた医学研究成果を、中国の研究機関や大学に渡したとされている。

・・・中略・・・

国立衛生研究所(NIH)は最近、同所が資金提供した米国の数十の大学および研究機関に対して、所属する教員や研究者の外国政府や企業との関係について調査するよう通知を出した。エモリー大学もその一つに含まれる。

米国連邦捜査局(FBI)は、中国政府が米国の学術界に侵入し、米国の知的財産権を盗み、米国の国家安全保障に脅威を及ぼす可能性があることを繰り返し警告している。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★優秀な研究者

シャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)と妻のシーワー・リー(李世華、Shihua Li)(写真出典)は、中国出身だが、2人共、米国市民権を取得した米国人で、エモリー大学に23年間も在職し、神経科学で顕著な業績を上げていた。

リー夫妻は、2015年に世界初のパーキンソン病のモデル動物であるトランスジェニック・サルを作成した。

2017年、そして、リー夫妻は、ハンチントン病のマウスモデルの作成にも成功した。

2017年6月27日、NIHのフランシス・コリンズ所長(Francis Collins)は、ブログで、リー夫妻の研究を称賛していた。 → Huntington’s Disease: Gene Editing Shows Promise in Mouse Studies – NIH Director’s Blog

2018年、リー夫妻はさらに、中国科学院広州生物医薬・健康研究院の頼良学(Lai Liangxue)と共同で、世界初のハンチントン病遺伝子ノックイン豚を作成した。(参照。【日本語の解説】。2018年04月02日:人民網日本語版(編集YF):「世界初の神経変性疾患モデル豚が誕生」)
 → 2018年5月16日記事:4年間の取り組みを経て、世界初のハンチントン舞踏病遺伝子ノックイン豚が中国で誕生 « デイリーウォッチャー|研究開発戦略センター(CRDS)

このブタは、人間の神経変性疾患を正確に反映するので、ハンチントン病治療方法の研究が格段に進むと期待される。同様な手法を用いることで、人間の神経変性疾患であるアルツハイマー病などの治療方法の研究に大きく貢献すると思われる。

ハンチントン病遺伝子ノックイン豚の写真を再掲する。出典:人民網日本語版 2018年04月02日 http://j.people.com.cn/n3/2018/0402/c95952-9444622-4.html

★NIH研究費

シャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)はNIHから1997~2018年の22年間に59件のグラントを受給していた。(Grantome: Search

以下に最新の6件を示す。2018年が最後で、2018年の採択に対して、お金が支給されていない。2018年11月、NIHが不正を見つけているので、2019年以降、NIHからの採択グラントがないのは妥当である。

妻のシーワー・リー(李世華、Shihua Li)には採択グラントがなかった。 → Grantome: Search

★発覚

21世紀に入り、中国が経済、軍事、政治で台頭し、世界の大国になってきた。米国が中国に恐怖を抱き、中国を蹴落とそうと冷戦状態になっている。

例えば、ファーウェイを筆頭とする科学技術でも中国を蹴落とそうとしはじめた。そして、学術研究や教育で、米国内の中国勢力を排除することで、中国を蹴落とそうとしている。

2018年8月、米国は中国人・中国系米国人(含・非中国系の米国人)が米国の科学技術を盗んで米国に持っていくスパイ行為を摘発する「中国イニシアチブ」を立ち上げた。格好の対象が「千人計画」に参加した中国系科学者たちだった。 → 2018年8月27日の「Science」記事:NIH investigating whether U.S. scientists are sharing ideas with foreign governments | Science | AAAS

摘発する理由は犯罪行為で、罪名は産業スパイである。しかし、この立証は難しかった。今まで、1人しか有罪にできていない。

それで、今度は所得申告義務違反で逮捕するようになった。つまり、米国在住の研究者が、中国からお金をもらっていることを米国に申告しなかったという所得申告義務違反(脱税行為)である。

米国の法律は政府資金の受給者に全ての資金原の開示を義務付けている。

中国から受給した研究費を米国にチャンと伝えない研究者はそこそこいる。摘発の理由が合理的で、証拠もハッキリするので、捜査と有罪化が比較的容易である。

2018年11月、NIHはエモリー大学に、リー夫妻の所得申告義務違反の調査を依頼した。

2019年初頭、NIHは、NIHグラント受給者の中に外国資金を受給している研究者が、米国全体では少なくとも190人いて、調査するよう通達した結果、少なくとも55大学が調査を開始した、と議会で述べた。

★解雇

エモリー大学は、NIHからの通達を受けて調査し、リー夫妻が中国からの収入を大学に完全には開示していない不正を見つけた。

2019年5月16日、エモリー大学は、8か月の調査の結果、シャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)、シーワー・リー(李世華、Shihua Li)の2人を解雇した。外国資金の開示に関する米国政府機関の規則に違反したので解雇した、とエモリー大学は述べた。

大学はリー夫妻の研究室を閉鎖し、リー夫妻のウェブサイトにアクセスできなくした。研究室で働いていた4人の中国人ポスドクは、解雇の理由も伝えられず、30日以内に米国を去るように言われた。

夫・シャオジャン・リーは、「私は2012年以来、中国での研究活動をエモリー大学に毎年開示しています。 2018年11月以降の中国での研究活動もエモリー大学から要求されたので、文書にして提出しました」と反論している。

しかし、開示は不完全だったようだ。

★裁判で有罪

国税庁犯罪捜査局、連邦捜査局(FBI)、米国健康福祉省の3部署が合同で、夫・シャオジャン・リーの犯罪を捜査した。

2019年11月21日、サミール・カウシャル連邦検事補(Samir Kaushal)と司法省・国家安全保障局のマシュー・マッケンジー裁判弁護士(Matthew J. McKenzie)が事件を起訴した。

2020年5月8日、連邦裁判所は、所得申告義務違反で夫・シャオジャン・リーに有罪の判決を下した。1年間のプロベーション(日本の保護観察とは異質)を科した。夫・シャオジャン・リーは罪を認めた。さらに、国税庁に3万5000ドル(約350万円)を納付するよう命じた。

法廷で提示された情報によると、2011年後半、夫・シャオジャン・リーは中国政府の千人計画に参加し、中国科学院(Chinese Academy of Sciences)遺伝発生生物学研究所(Institute of Genetics and Developmental Biology)の研究チームリーダーになることに同意した。

夫・シャオジャン・リーは、研究室の建設に2年間を費やし、2014年から、その作業に1年間に9か月を費やすことを約束した。

2015年2月、夫・シャオジャン・リーとエモリー大学は、夫・シャオジャン・リーが次の2年間、エモリー大学の給与を半分にしたパートタイムで働くことに同意した。しかし、夫・シャオジャン・リーはその書類に署名せず、フルタイムの地位を保持し続けた。

2012年から2018年まで、夫・シャオジャン・リーは、エモリー大学でハンチントン病の大型動物モデルの開発をしている間、中国科学院(Chinese Academy of Sciences)・遺伝発生生物学研究所(Institute of Genetics and Developmental Biology)で、次いで曁南大学(きなんだいがく、Jinan University)で、同じような大型動物モデル研究を行なっていた。

この6年間で、夫・シャオジャン・リーは少なくとも50万ドル(約5000万円)の外国所得を得たが、連邦所得税の確定申告でその収入を申告していなかった。

夫・シャオジャン・リーは、2015年に3つのNIH助成金から約92,000ドル(約920万円)の給与を受け取り、同時に2015年と2016年に中国科学院(Chinese Academy of Sciences)から年間約80,000ドル(約800万円)の給与を受け取っていた。

結局、 夫・シャオジャン・リーは、米国政府をだまして34,888ドル(約349万円)の収入を得た罪で起訴された。

★中国パージ

リー夫妻事件は、米国から排除された中国系科学者の2番目の事件である。

1番目はMDアンダーソンがんセンター(MD Anderson Cancer Center)の3人の上級研究者が、リー夫妻事件の1か月前の2019年4月に解雇されていた。3人はアジア系である。ただ、氏名は公表されなかった。 → 2019年4月19日の「Science」記事:Exclusive: Major U.S. cancer center ousts ‘Asian’ researchers after NIH flags their foreign ties | Science | AAAS

その後、2021年3月2日現在に至るまで、「中国イニシアチブ」で随分たくさんの人が罪に問われている。
 →  2021年2月11日更新の「中国イニシアチブ」についての「Department of Justice」記事:Information About the Department of Justice’s China Initiative and a Compilation of China-Related Prosecutions Since 2018
 → 2021年3月2日のエリザベス・レッドデン(Elizabeth Redden)記者の「insidehighered」記事:Criminal initiative targeting scholars who allegedly hid Chinese funding and affiliations comes under growing scrutiny

【不正の具体例】

シャオジャン・リー(李晓江、李暁江、Xiao-Jiang Li)とシーワー・リー(李世华、李世華、Shihua Li)の公式な罪状は、中国からお金をもらっていることを米国に申告しなかったという所得申告義務違反(脱税行為)である。

非公式には、中国系追放である。

上記したので、省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

本事件はネカト事件でないので、撤回論文はないと思われる。

念のため、2002年以降のシャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)の論文を調べた。妻のシーワー・リー(李世華、Shihua Li)の共著論文数も調べた。

★パブメド(PubMed)

2021年3月13日現在、パブメド(PubMed)で、シャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)の論文を「Xiao-Jiang Li [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2020年の19年間の167論文がヒットした。

167論文の内、118論文が妻のシーワー・リー(李世華、Shihua Li)と共著である。

2021年3月13日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年3月13日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)を「Xiao-Jiang Li」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年3月13日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シャオジャン・リー(李暁江、Xiao-Jiang Li)の論文のコメントを「”Xiao-Jiang Li”」で検索すると、2論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》中国系科学者の追放 

米国から中国系科学者を追放することをどうとらえるか?

昔は「科学に国境はない」・「科学知は世界の財産」と言われた。

白楽は、若い時から、これらを疑って聞いていた。どう考えたって、上記は「勝者の論理」である。強い国が弱い国の科学者と研究成果を吸い上げる論理だと理解していた。

また、若い時から「科学の国際共通語は英語だから研究成果を英語でしなさい」と言われて育ってきた。日本の学術界は、まことしやかに、そう洗脳していた。これも、白楽はズーッと、ヘンだと思っていた。

日本国民の税金で行なった研究成果を日本国民に還元すべきだと思っていた。

まず、日本語で発表すべし。その後、英語で発表しても・しなくてもよい。それなのに、日本語で発表しないで、英語で発表し、英語圏の人々に奉仕するのはおかしい、と白楽は思っていた。

21世紀、米国が衰退しはじめ、中国が追い抜ける力を付けた時、「科学に国境がある」・「(米国の)科学知は米国の財産」と米国が言い出したのだ。いい加減なもんだ。

日本では米国の肩を持ち尻馬に乗る人が多い。中国の科学に協力する科学者は悪者だという人もいる。 → 2020年10月29日の森清勇の記事:「学問の自由」掲げ、中国に魂売る能天気な科学者 スパイ防止法の必要性を見せつける日本学術会議問題(1/7) | JBpress(Japan Business Press)

学術研究だけでなく、イロイロな領域で中国を悪者視するような記事を目にするようになった。例えば → 2020年4月12日の朝日新聞記事:CIAに中国スパイ、消された協力者 米国諜報網に異変:朝日新聞デジタル

香港出身で米国籍を持つリーは、1994年からCIA特殊要員として東京や北京などで勤務した。2007年にCIAを去った後、香港に戻ったが、10年4月に中国の情報機関員と接触。米国の機密を渡して数十万ドルを受け取った。

17年5月、米紙ニューヨーク・タイムズは、米国が中国内に張った諜報網に起きた異変を報道。10年から12年の間に十数人のCIA協力者が殺され、ある者は見せしめで政府庁舎の中庭で射殺されたと伝えた。

同紙は当時、CIA協力者たちが次々に拘束された理由は絞り切れていないとしたが、事件の経緯を知る米中双方の政府関係者は、粛清は「リーが中国側に提供した情報がきっかけだ」と口をそろえる。

他国で諜報活動するCIA特殊要員はそもそも、許容される活動をしているのでしょうか?

中国を単純に敵視するのではなく、中国の台頭にどう対処するのが、大多数の日本人にとってベターなのかを、白楽は、静かに考えたい。

《2》米国はどうしたいのだろう?

第二次大戦で欧州から移住した大勢の科学者が、20世紀の米国の科学の発展、そして米国の発展を担ってきた。戦後しばらくすると、優秀な科学者は欧州から少ししか移住してこなくなった。

それで、貧しい(貧しかった)日本、中国、インド、中東などから優秀な科学者を引き抜き、米国の科学を発展させる制度を充実させてきた。米国は日本人の生命科学系ポスドクを毎年数百人招聘し(奴隷なみにこき使っ)ていた。

白楽が米国に滞在した1980年代、日本で博士号を取得したばかりの若手研究者を、NIHは、毎年100人以上受け入れていた。通常は2~3年間の研究滞在だが、優秀なポスドクはそのまま米国に残ったので、NIHには、常時300人ほどの生命科学系・日本人博士が滞在していた。

当時、日本人科学者の「頭脳流出」と批判する言説はあったが、日本の大学全体で、生命科学系ポスドクを毎年数百人も受け入れる制度はなかったし、作ろうともしなかった。

中国は世界で最も深刻な頭脳流出の影響を受けており、外国の大学に進学した学生のうち10人中7人は本国に帰らないとの調査結果がある。(出典:頭脳流出 – Wikipedia

他国に比べて治安がよく、経済力も保持するこの国からも頭脳流出が起こっています。近年話題になっている「日本の」ノーベル賞受賞者にも米国在住あるいは受賞時点で外国籍を取得していた研究者が多数いることからも、それは明らかです。(出典:2017年頃の記事:頭脳流出が進むラテンアメリカ-日本は大丈夫? – 学術英語アカデミー

2018年8月、米国は中国人・中国系米国人を追放する「中国イニシアチブ」を立ち上げた。

しかし、優秀な中国人・中国系米国人を追放したら、米国の科学はますます衰退するだろう。

すでに現在、いわゆる「WASP (ワスプ)」的な伝統的米国人だけで米国の学術界をとても維持できない、と思われる。

米国の「中国イニシアチブ」と時を同じくして、中国は、外国で活躍している優秀な中国人が、中国に帰ってもらう「千人計画」を展開中だ。

米政府によれば、2018年に「千人計画」に参加した在米の研究者・科学者は2629人。そのアメリカでの勤務先の内訳は3分の2が大学、600人が米企業、300人が米政府および政府の研究機関だった(例えば米国立衛生研究所〔NIH〕は倫理違反や外国の影響が疑われる140人を調査中と報じられた)。(出典:2020年11月19日のニューズウィーク日本版記事:中国への頭脳流出は締め付けを強化しても止められない……「千人計画」の知られざる真実

「千人計画」の成否はハッキリしないが、中国は外国で活躍する優秀な中国人の確保に四苦八苦している。

アメリカが締め付けを強化すれば、優秀な人材が中国など外国に大量に流出しかねない。大学院で人工知能(AI)、量子コンピューティング、半導体、航空学といった科学技術の要となる分野を専攻する中国系学生へのビザ発給を制限するにせよ、在米の中国系研究者の間に不信感や差別や不安を生むにせよだ。

2015~17年にアメリカの科学技術分野で博士号を取得した3万1052人の16%が中国人だった(工学では22%、数学では25%)。科学技術系の中国人学生の約90%が博士課程修了後も最低10年はアメリカにとどまる。アメリカでの研究環境が良くなければ、多くの人材が中国に帰国しかねない。

今をときめくAIの分野では、中国系の優秀な人材に対する過度の強硬措置はかえって進歩を鈍らせる可能性がある。この分野をリードする中国系研究者・科学者のほとんどは生活と研究の拠点をアメリカに置いているからだ。(出典:2020年11月19日のニューズウィーク日本版記事:中国への頭脳流出は締め付けを強化しても止められない……「千人計画」の知られざる真実

米国が「中国イニシアチブ」で国益を守るつもりが、意図は裏目に出て、米国で活躍する優秀な中国人を中国に帰らせてしまう。なんだか、中国の「千人計画」に協力しているように思える。

米国は一体どうしたいのだろう?

https://greatgameindia.com/xiao-jiang-li-chinese-agent/

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

① 2019年5月23日のデイヴィッド・マラコフ(David Malakoff)記者の「Science」記事:Emory ousts two Chinese American researchers after investigation into foreign ties | Science | AAAS
② 2019年5月23日のゲンシェン・ス(苏更生)記者の「侨报网」記事:华人教授李晓江夫妇被解雇 中国雇员遭强制遣返 含孕妇_侨报网
③ 2019年5月24日のジョン・コーエン(Jon Cohen)記者の「Science」記事:Terminated Emory researcher disputes university’s allegations about China ties | Science | AAAS
④ 2019年5月24日のアリエル・ハート(Ariel Hart)記者の「Atlanta Journal-Constitution」記事:Two Emory researchers did not disclose Chinese funding, ties
⑤ 2020年5月11日の「Department of Justice」記事:Former Emory University Professor and Chinese “Thousand Talents” Participant Convicted and Sentenced for Filing a False Tax Return | OPA | Department of Justice
⑥ 2020年5月12日のジェフリー・マーヴィス(Jeffrey Mervis)記者の「Science」記事:Fired Emory University neuroscientist with ties to China sentenced on tax charge | Science | AAAS
⑦ 2021年2月11日更新の「中国イニシアチブ」についての「Department of Justice」記事:Information About the Department of Justice’s China Initiative and a Compilation of China-Related Prosecutions Since 2018
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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