2018年12月10日掲載
白楽の意図:捕食学術業の実態を、被害を被った本人から経験談を語ってもらいたい。サラエヴォ大学(University of Sarajevo)のイゼット・マシック教授(Izet Masic)は捕食学術業とは知らずに、オミックス・インターナショナル社の新しい学術誌「Journal of Forensic Anthropology(法医学人類学)」の編集長を引き受けた。その顛末を述べた2017年10月の論文を読んだので、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。
●1.【論文概要】
オミックス・インターナショナル社の学術誌「Journal of Forensic Anthropology(法医学人類学)」の編集委員、そして、編集長を引き受けたら、学術誌のウェブサイトに顔写真入りで紹介された。その後、オミックス・インターナショナル社が捕食学術社だとわかり、編集長を辞任し、学術誌のウェブサイトの顔写真入り紹介を削除するように依頼した。しかし、削除されない。その顛末を報告する。
●2.【書誌情報と著者】
★書誌情報
- 論文名:Predatory Publishing – Experience with OMICS International
日本語訳:捕食出版―オミックス・インターナショナル社との経験 - 著者:Izet Masic
- 掲載誌・巻・ページ:Med Arch. 2017 Oct; 71(5): 304–307.
- 発行年月日:2017年10月
- DOI:10.5455/medarh.2017.71.304-307
- ウェブ:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5723186/
- PDF:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5723186/pdf/MA-71-304.pdf
- 著作権:本論文はクリエイティブコモンズ帰属非営利目的ライセンス(http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/4.0/)で配布されたオープンアクセス論文である。非商用利用と配布は無制限で、元の著作物が適切に引用されていれば、いかなる媒体でも複製できる。
★著者
- 著者(単著):イゼット・マシック(Izet Masic) http://www.imasic.org/
- 写真: http://unsa-ba.academia.edu/IzetMasic
- 履歴:http://unsa-ba.academia.edu/IzetMasic/CurriculumVitae
- 国:ボスニア・ヘルツェゴビナ
- 学歴:1952年生まれ。1976年にサラエボ大学医学部を卒業し、インスブルック大学(オーストリア)・医学部で医学卒業書を取得した。1990年にサラエボ大学医学部で博士号を取得した。博士論文タイトルは「プライマリヘルスケアにおけるコンピュータ化された情報システムの評価(Evaluation of computerized information system in primary health care)」。資格: MD, PhD, FEFMI, FACMI, MIAHSI
- 分野:家庭医学
- 論文出版時の地位・所属:教授・サラエヴォ大学(University of Sarajevo, Department of Family medicine, Faculty Member)
●3.【論文内容】
●【1.オミックス・インターナショナル社との経験】
私は、40年にわたり学術・科学研究をし、医学情報学、家庭医学、公衆衛生学、健康管理学、科学編集などの分野で、多くの学術誌の編集者として働いてきた。スパムメールもたくさん受け取った。その1つとして、人類学に関する学術誌のメールを受け取った(図1)。人類学は興味深いと思う科学分野の1つである。
事件の始まりは上記のメールだった。
その後、何回かのメールを往復し、私は編集委員、そして後に編集長になり(図2と図3)、新しい学術誌「Journal of Forensic Anthropology(法医学人類学)」の編集長になった。
私は論説を書くことに同意した。
その後の2016年4月、編集長として私の写真と私の経歴が学術誌のウェブサイトに掲載された。
私は編集委員会を強化するために、他国の著名な2人の友人(マケドニア共和国のDoncho M. Donev教授とクロアチアのSrecko Gajevic教授)に、編集委員になって欲しいと依頼した。彼らの了承が得られ、3人の編集委員が写真付きで学術誌「Journal of Forensic Anthropology(法医学人類学)」のウェブサイトに掲載された(図4)。
なお、私はオミックス・インターナショナル社とは、コミュニケーション担当のジェームス・フランクリン(James Franklin)とだけ電子メールのやり取りをしていた。
ある日、私は何気なくオミックス・インターナショナル社のことをグーグルで検索した。そして、驚いたことに、オミックス・インターナショナル社が捕食業者であることに気が付いた。
→ 企業:学術業(academic business):オミックス・インターナショナル社(OMICS International)(インド) | 研究倫理(ネカト、研究規範)
編集委員になってもらったDonev氏とGajević氏にすぐに連絡を取り、話し合った。結局、オミックス・インターナショナル社の運営方法を理解した私たちは、上記のウェブサイトから私たちの名前と写真を削除するよう依頼した。
しかし、今日までの私たちの依頼は無視され、ジェームス・フランクリンは私たちのメッセージに答えることを拒否している。一方、ジェームス・フランクリンは論文原稿を送付してきた著者に対して、論文の受理や連絡を、私の名前で対応し続けている。
なお、オミックス・インターナショナル社は、オープンアクセス学術誌を出版し、国際会議も主催している。学術誌は、臨床、医療、ライフサイエンス、エンジニアリング&テクノロジー関連の700誌を出版し、臨床、医療、医薬、ライフサイエンス、ビジネス、エンジニアリング、テクノロジー分野で年間3,000件の国際会議を開催している。
●【2.捕食学術は科学技術界における重大な問題】
オミックス・インターナショナル社は、捕食出版社である。捕食出版社とは、査読をせずに論文を出版するオープンアクセス学術誌を発行している会社のことだ。このタイプの出版の主な特徴は、かなり高額な論文掲載料を要求し、査読なしで、原稿を受け取るとすぐに論文として出版する。この悪意のある行為の数は非常に多く、特に世界でも貧しい国や途上国では非常に多い。
ーー中略ーー (白楽注:ここで、捕食出版の問題点を指摘しているが、白楽が他の記事で書いた内容とおおむね同じなので省略した)
捕食出版の最大の問題は、何万人もの人々が、捕食論文で修士号や博士号を取得し、他の資格や認定資格が与えられ、研究職に採用され、昇進していることだ。捕食論文という形での科学の進歩は、科学の信頼を失うだろう。
●4.【関連情報】
【捕食学術に関する白楽の記事リスト】
- 大学:捕食:「コクハラ」:デレク・パイン(Derek Pyne) 対 トンプソンリバーズ大学(Thompson Rivers University)(カナダ)2018年12月7日掲載
- 企業:学術業(academic business):ダブリュシーズ社(WSEAS:World Scientific and Engineering Academy and Society)(ギリシャ)2018年12月4日掲載
- 7-21.捕食学術社からのメチャクチャな勧誘 2018年12月1日掲載
- 企業:学術業(academic business):ワセット社(WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology)(トルコ)2018年11月28日掲載
- 「捕食」:ビジネスエンジニアリング学:ベルント・ショルツ=ライター(Bernd Scholz-Reiter)(ドイツ)2018年11月25日掲載
- 7-20.ビールのライフワーク:捕食出版社との闘い 2018年11月22日掲載
- 企業:学術業(academic business):オミックス・インターナショナル社(OMICS International)(インド)2018年11月19日掲載
- 7-19.捕食学術誌の餌食にならない方法2018年11月13日掲載
- 7-1.ねつ造医学論文を出版する捕食出版社:クロエ・コスタ(Chloe Costa)、2015年5月15日掲載
●5.【白楽の感想】
《1》捕食出版社を取り締る
学術誌の編集委員や編集長を依頼されると、多くの研究者はホイホイ応募する。そして、捕食出版社は一度、編集委員や編集長になった人を手放さない。辞任したいと言っても、無視して、名前を使用し続ける。
捕食出版社側に立てば、なかなか、うまい商売だ。
数十億を稼いでいるとのことだが、さもありなん。
手口を見ている限り、犯罪として立件するのは「ネカト罪」などの法律を作らない限り、現行法では取り締まれない。
なんとかしないと、科学は急速に弱体化するだろう。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●6.【コメント】