2018年6月15日掲載。
ワンポイント:テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・テクニシャン(Research Interviewer)で、がん臨床研究のアシスタントだった。2010 – 2012年(25-27歳?)、自分の血液で98人分の血液サンプルを作った。研究室はこのねつ造データを2015年の2つの論文に発表し、2つの研究費申請書に記載した。2018年5月10日(33歳?)、研究公正局は、エルクートゥブにねつ造・改ざんがあったと発表し、3年間の締め出し処分を科した。損害額の総額(推定)は2億6200万円。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
マリア・エルクートゥブ(Maria Elqutub、女性、マリア・クリスティーナ・ミロン・エルクートゥブ:Maria Cristina Miron Elqutub、顔写真見つからない)は、米国のテキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・テクニシャン(Research Interviewer)で、がん臨床研究のアシスタントだった。
エルクートゥブは2010 – 2012年(25-27歳?)の間、テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンターで働いたが、その時、自分の血液で98人分の血液サンプルを作った。研究室はこのねつ造データを2015年の2つの論文に発表し、2つの研究費申請書に記載した。
発覚は2016年頃だろう。研究者が、エルクートゥブが提供した血液サンプルの異常に気が付いた。
テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンターは調査し、調査結果を研究公正局に伝えた。
2018年5月10日(33歳?)、研究公正局は、エルクートゥブの2015年の2論文と2研究費申請書にねつ造・改ざんがあったと発表した。3年間の締め出し処分を科した。
2018年5月26日現在(33歳?)、エルクートゥブは中学校の養護教諭として勤務している。
米国・テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2010年、テクニシャンに就任した時を25歳とした
- 現在の年齢:39歳?
- 分野:がん臨床研究
- 最初の不正論文発表:2015年(30歳?)
- 発覚年:2016年(31歳?)?
- 発覚時地位:テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター・テクニシャン
- ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ研究室の研究員で、大学に公益通報(推定)
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター・調査委員会。②研究公正局。
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)。
- 不正:ねつ造
- 不正論文数:2報。1報撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 損害額:総額(推定)は2億6200万円。内訳 → ①研究者ではないので、育成費の損害額はゼロ円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円だが、2年間として4000万円。③院生の損害が1人1000万円だが、院生の損害額は②に含めた。④外部研究費は少なくとも1億3千万円が損害。⑤調査経費(大学、研究公正局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。撤回論文1報で、損害額は200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから 3年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明。
- 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2010年、テクニシャンに就任した時を25歳とした
- xxxx年(xx歳):xx大学(xx University)で学士号取得
- 2010年8月 – 2012年11月(25-27歳?):テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・テクニシャン(Research Interviewer)。この時、ネカトを行なった
- 2018年5月10日(33歳?):研究公正局は、エルクートゥブにねつ造・改ざんがあったと発表
- 2018年5月26日現在(33歳?):中学校の養護教諭として勤務
●5.【不正発覚の経緯と内容】
マリア・エルクートゥブ(Maria Elqutub)は、テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・テクニシャン(Research Interviewer)だった。
2018年5月10日(49歳?)、研究公正局は、エルクートゥブが、以下の2015年の2論文と2研究費申請書でねつ造・改ざんをしたと発表した。
- PLoS One 10(6):e0128753, 2015 Jun 2 (hereafter referred to as “PLoS One 2015”)
- Cancer 121(14):2367-74, 2015 Jul 15 (hereafter referred to as “Cancer 2015”)
- 5 U01 DE019765-04
- 5 U01 DE019765-05
ネカトの内容は、自分1人の血液をラベルを変えて98人分の血液として研究に提供したというのだ。そのデータを使用した論文と研究費申請書がねつ造・改ざんとなった。
2つの論文の書誌情報は以下の通りだ。
- Genetic variants in DNA double-strand break repair genes and risk of salivary gland carcinoma: a case-control study.
Xu L, Tang H, El-Naggar AK, Wei P, Sturgis EM.
PLoS One. 2015 Jun 2;10(6):e0128753. doi: 10.1371/journal.pone.0128753. eCollection 2015. - Genome-wide association study identifies common genetic variants associated with salivary gland carcinoma and its subtypes.
Xu L, Tang H, Chen DW, El-Naggar AK, Wei P, Sturgis EM.
Cancer. 2015 Jul 15;121(14):2367-74. doi: 10.1002/cncr.29381. Epub 2015 Mar 30. Retraction in: Cancer. 2018 Feb 15;124(4):869.
ところが、エルクートゥブは上記論文の著者に入っていないし、謝辞にも入っていない。
研究公正局の発表だけではわかりにくいので、他の記事を参照しながら解読しよう。
エルクートゥブは2010 – 2012年の間、テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)のエリック・スタージス(Erich Madison Sturgis、写真出典)研究室のテクニシャン(Research Interviewer)だった。
「Research Interviewer」はどういう職種か把握していないが、テクニシャンと分類した。
自分1人の血液をラベルを変えて98人分の血液として研究に提供したのだから、エルクートゥブは看護師免許を持つ採血担当者だったのだろう。事件後、養護教諭(スクール・ナース)として働いているので看護師免許を持っていると考えた。なお、「Research Interviewer」には特別な資格は必要ない。
2010 – 2012年に採血したサンプルを2015年の6月・7月の論文に発表した。ということは、2015年の7月時点では、エルクートゥブのネカトに気が付いていなかったと思われる。
2012年11月(27歳?)、エルクートゥブは、テクニシャンを辞めた。
2016年頃(推定)、研究者は、エルクートゥブが提供した血液サンプルと同じ血液サンプルを他の研究で使用したときに何かが間違っていると気が付いた。
「何かが間違っている」の「何か」が具体的に記載されていないので、何なのかわからないが、こんなに年月が経過してからよく気が付いたもんだ。
多分、98件検体の血液サンプルの測定値が異常なほど同じ値を示したのだろう。しかし、それなら、もっと早く気が付いたハズだ。遅い。
エルクートゥブのネカトで論文共著者のアデル・エル=ナガー教授(Adel K. El-Naggar、写真出典)はNIHからの約130万ドル(約1億3千万円)の研究費がパアにになってしまった。
→ Project Information – NIH RePORTER – NIH Research Portfolio Online Reporting Tools Expenditures and Results
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2018年5月26日現在、パブメド(PubMed)で、マリア・エルクートゥブ(Maria Elqutub)の論文を「Maria Elqutub [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。
エルクートゥブは、テクニシャンで論文は出版していなかった。
★パブピア(PubPeer)
省略。
●7.【白楽の感想】
《1》テクニシャンのネカト
米国ではテクニシャンのネカトが多い。教育上の問題が大ありだ。以下、メラニー・ココニスから再掲載する。
→ メラニー・ココニス(Melanie Cokonis)(米)改訂 | 研究倫理(ネカト)
米国で、テクニシャンが「どうして?」研究ネカトをするのだろうか?
コロンビア大学名誉教授(精神医学)のドナルド・コーンフェルド(Donald S.Kornfeld、写真出典)が2012年の論文に書いている (「Perspective: Research Misconduct: The Search for a Remedy」 Academic Medicine: July 2012 – Volume 87 – Issue 7 – p 877?882、doi: 10.1097/ACM.0b013e318257ee6a)。
テクニシャンが血液サンプルを集めた時刻の記録が、実際に集めた時刻ではなかった。なぜ改ザンしたか? テクニシャンは、プロトコルに記載されたスケジュール通りに血液サンプルを集められなかったからだ。
テクニシャンに能力以上の仕事量が割り当てられていたと、米国・研究公正局の調査委員会は結論している。また、そのテクニシャンは血液サンプルを集めた時刻が重要だとは知らなかったと述べている。
この場合、ボス(研究者)の指示が不適切、あるいは、ボスとのコミュニケーションが不適切だと、白楽には思える。
ボスがテクニシャンに作業を指示する時、「採血時刻は重要だ」と伝えるべきだし、作業量は多すぎないか(少なすぎないか)をチェックするのはボスの仕事である。
ましてや、ネカトがあったとしても、実験をやり直すなどして研究室内で処理すべきだろう。研究室外の研究公正局に研究ネカトを告発してしまうなんて、白楽には異常な気がする。
ドナルド・コーンフェルドは、
テクニシャンは科学界のメンバーではない。職業規範の感覚は低く、研究結果と自分の収入は無関係である。そして、ネカトすることの重大さと、その後自分の身に降りかかる不幸の重大さを理解していない。そのような状況なのに、もっとデータをだすようにという圧力を強くかけられている。
と書いている。
これが実態なら、「米国の生物医学で研究ネカトをする職階は、テクニシャンが最も多い」のに納得する。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1) 2018年5月10日:Case Summary: Elqutub, Maria Cristina Miron | ORI – The Office of Research Integrity、(2) 2018年5月23日:NOT-OD-18-186: Findings of Research Misconduct
② 2018年5月14日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A cancer researcher said she collected blood from 98 people. It was all her own. – Retraction Watch
③ 2018年5月17日のピーター・ドックリール(Peter Dockrill)記者の「Science Alert」記事:A Cancer Researcher Was Caught Using Her Own Blood For Almost 100 Samples
④ 2018年5月15日のトッド・アッカーマン(Todd Ackerman)記者の「Houston Chronicle」記事:MD Anderson research assistant subbed in her blood for study participants – Houston Chronicle
⑤ 2018年5月15日のアンドリュー・マスターソン(Andrew Masterson)記者の「Cosmos」記事:US researcher disciplined for using her own blood in research | Cosmos
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