テレシタ・ブリオネス(Teresita Briones)(米)

2017年10月24日掲載。

ワンポイント:ウェイン州立大学の女性・準教授で、専門は神経科学。2014年(41歳?)、ネカト・ハンターのポール・ブルックスがパブピアでブリオネスのデータねつ造・改ざんを指摘した。2015年4月7日(42歳?)、研究公正局がクロと結論し、3年間の締め出し処分を科した。大学を辞職(解雇?)。損害額の総額(推定)は6億6千万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

テレシタ・ブリオネス(Teresita L. Briones、写真出典)は、米国・デトロイトにあるウェイン州立大学(Wayne State University)・看護学部・準教授で、専門は神経科学だった。

2014年12月29日(41歳?)、ネカト・ハンターのポール・ブルックス(Paul S Brookes)がパブピアでブリオネスのネカトを指摘した。ウェイン州立大学は研究公正局に伝え、調査に入った。

2015年(42歳?)、ウェイン州立大学の調査でクロと確定した。この時、ブリオネスは大学を辞職した(推定)。

2015年4月7日(42歳?)、研究公正局は、ブリオネスにねつ造・改ざんがあったと発表した。締め出し期間は標準の3年間を科した。

ウェイン州立大学(Wayne State University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得: なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ミシガン大学(推定)
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。2000年の論文を博士号取得論文とし、その時、27歳とした
  • 現在の年齢:51 歳?
  • 分野:神経科学
  • 最初の不正論文発表:2009年(36歳?)
  • 発覚年:2014年(41歳?)(推定)
  • 発覚時地位:ウェイン州立大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカト・ハンターのポール・ブルックス(Paul S Brookes)で、パブピアでブリオネスのネカトを指摘し、ウェイン州立大学と研究公正局に公益通報した(推定)
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ウェイン州立大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:5報
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 損害額:総額(推定)は6億6千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が15年間=3億円。③院生の損害は不明なので、ゼロ円。④外部研究費はNIHから13件、2,530,113ドル(約2億5301万円)のグラントを受給していた。⑤調査経費(大学と研究公正局と学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。5報撤回=1000万円。
  • 結末:辞職。3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明

  • 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。2000年の論文を博士号取得論文とし、その時、27歳とした
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 1995年(22歳?):ミシガン大学(University of Michigan)・所属でNIHからプレドク奨学金(F31)を受給している
  • 2000年(27歳?):ミシガン大学(University of Michigan)・所属の論文あり。院生?
  • 2000年(27歳?):ミシガン大学(University of Michigan)で研究博士号(PhD)を取得?
  • 2004-2009年(31-36歳?):イリノイ大学(University of Illinois)・所属の論文あり。助教授?
  • 2010年(37歳?)?:ウェイン州立大学(Wayne State University)・看護学部・準教授
  • 2014年(41歳?):不正研究が発覚する
  • 2015年(42歳?):ウェイン州立大学・準教授を辞職(推定)
  • 2015年4月7日(42歳?):研究公正局がクロと発表

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2014年12月29日(41歳?)、ネカト・ハンターのポール・ブルックス(Paul S Brookes)がパブピアでブリオネスのネカトを指摘した。

2015年4月7日(42歳?)、研究公正局は、ブリオネスにねつ造・改ざんがあったと発表した。

ブリオネス研究室のスタッフやポスドク・院生など諸状況は不明である。

なお、ブリオネスはウェイン州立大学(Wayne State University)・看護学部・準教授として、約12万ドル(約1200万円)の年俸をもらっていた(出典:Wayne State University Salary Search)。

外部研究費として1995年~2006年の12年間にNIHから13件のグラント、2,530,113ドル(約2億5301万円)を得ていた(Query Form – NIH RePORTER )。 

2007年~2014年のNIHグラントが出てこない? 探し方を間違えた? それとも、採択されていない?

【ねつ造・改ざんの具体例】

2015年4月7日(42歳?)、研究公正局は、ブリオネスが5報の論文、3つの研究費申請書で、ねつ造・改ざんしたと発表した(【主要情報源】①)。締め出し期間は標準の3年間を科した。

5つの論文:

  1.  Behavioural Brain Research 279:112-22, 2015 Feb 15 (hereafter referred to as “BBR 2015″) のFigures 2E and 5D
  2. Journal of Neuroinflammation 11:13, 2014 Jan 22 (hereafter referred to as “JNI 2014″) のFigures 2A and 2C
  3. Journal of Neurotrauma 26(4):613-25, 2009 Apr (hereafter referred to as “JNT 2009″) のFigures 2B and 5
  4. Journal of Neurotrauma 28(12):2485-92, 2011 Dec (hereafter referred to as “JNT 2011″) のFigure 2
  5. Neuroscience 262:143-55, 2014 Mar 14 (hereafter referred to as “NS 2014″) のFigure 4

3つの研究費申請書:

  1. R01 NR011167-01のFigures 5 and 6
  2. R01 NR011167-01A1の Figures 4A and 4B
  3. R01 NR 011167-01A2 のFigures 4A and 4B

5つの論文の内の1報・「2015年のBehav Brain Res.」論文でのデータねつ造・改ざんをパブピアで具体的に見てみよう。

★「2015年のBehav Brain Res.」論文

「2015年のBehav Brain Res.」論文の書誌情報を以下に示す。2014年3月にオンライン出版され、2016年1月に撤回された。

どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。

研究公正局は、図2Eと図5Dに問題があると指摘した。以下のパブピアでの指摘と同じである。

2014年12月29日、図2Eと図5Dの電気泳動バンドに同じバンドの使い回しがあると、ネカト・ハンターのポール・ブルックス(Paul S Brookes)がパブピアで指摘していた「commented Mon Dec 29 2014 20:12:22 GMT+0000 and accepted Mon Dec 29 2014 20:12:22 GMT+0000」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/FB7967D1081CAE144A02A6DE18FCA1#1

図2E

図5D両図とも電気泳動バンドの使い回しだが、単純な使い回しではない。バンドを反転させたり、180度回転させたり、ねつ造・改ざんを工夫している。こうなると、うっかり「間違い」ということはあり得ない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年10月23日現在、パブメド(PubMed)で、テレシタ・ブリオネス(Teresita L. Briones)の論文を「Teresita L. Briones [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004年から2014年までの11年間の19論文がヒットした。

「Briones TL[Author]」で検索すると、1988~2015年の28年間の30論文がヒットした。1992年から2000年まで論文がないことと論文タイトルから判断して、1992年以前の7論文は、本記事で問題にしている研究者の論文ではないと思われる。となると、2000年~2015年の16年間の23論文が本記事で問題にしている研究者の論文になる。

2017年10月23日現在、「Briones TL[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2009年から2015年までの7年間の5論文が撤回されていた。

  1. Involvement of insulin-like growth factor-1 in chemotherapy-related cognitive impairment.
    Briones TL, Woods J, Wadowska M.
    Behav Brain Res. 2015 Feb 15;279:112-22. doi: 10.1016/j.bbr.2014.02.052. Epub 2014 Mar 12.
    Retraction in: Behav Brain Res. 2016 Jan 1;296:468.
    PMID:24632471
  2. Chronic neuroinflammation and cognitive impairment following transient global cerebral ischemia: role of fractalkine/CX3CR1 signaling.
    Briones TL
    , Woods J, Wadowska M.
    J Neuroinflammation. 2014 Jan 22;11:13. doi: 10.1186/1742-2094-11-13.
    Retraction in: J Neuroinflammation. 2015;12:220.
    PMID:24447880
  3. Decrease in age-related tau hyperphosphorylation and cognitive improvement following vitamin D supplementation are associated with modulation of brain energy metabolism and redox state.
    Briones TL
    , Darwish H.
    Neuroscience. 2014 Mar 14;262:143-55. doi: 10.1016/j.neuroscience.2013.12.064. Epub 2014 Jan 8.
    Retraction in: Neuroscience. 2015 Jul 9;298:475.
    PMID:24412233
  4. Modulation of ischemia-induced NMDAR1 activation by environmental enrichment decreases oxidative damage.
    Briones TL, Rogozinska M, Woods J.
    J Neurotrauma. 2011 Dec;28(12):2485-92. doi: 10.1089/neu.2011.1842. Epub 2011 Aug 29.
    Retraction in: J Neurotrauma. 2015 Jun 1;32(11):863.
    PMID:21612313
  5. Environmental experience modulates ischemia-induced amyloidogenesis and enhances functional recovery.
    Briones TL, Rogozinska M, Woods J.
    J Neurotrauma. 2009 Apr;26(4):613-25. doi: 10.1089/neu.2008.0707. Retraction in: J Neurotrauma. 2015 Jun 1;32(11):863.
    PMID:19271963

★パブピア(PubPeer)

2017年10月23日現在、「パブピア(PubPeer)」はテレシタ・ブリオネス(Teresita L. Briones)の1論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

どうしてねつ造・改ざんをしたのか? 研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?

全くわかりません。

本ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説している。分析していての実感だが、この事件のように詳細不明のネカト事件は、かなりの割合を占める(3~7割?)。

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●8.【主要情報源】

① 2015年4月7日、研究公正局の報告:Case Summary: Briones, Teresita L | ORI – The Office of Research Integrity、2015年4月15日:NOT-OD-15-093: Findings of Research Misconduct
② 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Teresita L. Briones – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 「パブピア(PubPeer)」はテレシタ・ブリオネス(Teresita L. Briones)の1論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

http://slideplayer.com/slide/6853627/

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