ワンポイント:2015年に研究公正局が発表した中国人ポスドクの米国での軽微なデータねつ造・改ざん事件
●【概略】
ビン・カン(Bin Kang、写真出典)は、中国で研究博士号(PhD)を取得し、米国・オクラホマ医学研究機構(Oklahoma Medical Research Foundation)でポスドクをしていた。専門は癌細胞の研究だった。
2014年9月(31歳?)、投稿原稿のデータが不正ではないかと調査が入った。
2015年1月(32歳?)、米国・研究公正局がビン・カンの論文と研究費申請書にデータ改ざん(ねつ造も?)があったと発表した。カンは、処分期間3年に調停合意した。
米国・オクラホマ医学研究機構。写真出典:”Oklahoma Medical Research Foundation Nima” by Nightryder84 – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons –
- 国:米国
- 成長国:中国
- 研究博士号(PhD)取得:中国科学院大学(The Chinese Academy of School Sciences)
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に、1983年1月1日とする
- 現在の年齢:41歳?
- 分野:癌細胞
- 最初の不正論文:2014年(31歳?)
- 発覚年:2014年(31歳?)
- 発覚時地位:米国・オクラホマ医学研究機構・ポスドク
- 発覚:ジャーナル査読者
- 調査:①オクラホマ医学研究機構・調査委員会。2014年9月から3か月。②研究公正局。~2015年1月
- 不正:改ざん
- 不正論文数:原稿1報、NIH研究費申請書1件
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:解雇
●【経歴と経過】
不明点多い。
- xxxx年:中国で生まれる
- xxxx年(xx歳):中国のxx大学を卒業
- xxxx年(xx歳):中国・北京にある中国科学院大学(The Chinese Academy of School Sciences)で研究博士号(PhD)を取得
- 20xx年(xx歳):米国・ミネソタ州の名門病院・メイヨー・クリニック(Mayo Clinic)でポスドク
- 2012年9月(29歳?):米国・オクラホマ医学研究機構(Oklahoma Medical Research Foundation)のポスドクに移籍。ボスは米国・コーネル大学で研究博士号(PhD)を取得した免疫癌教授のシャオホン・スン(Xiao-Hong Sun)
- 2014年(31歳?):不正研究が発覚する
- 2014年12月(31歳?):解雇
●【不正発覚の経緯】
2014年6月、カンはジャーナル「Molecular Cell」に以下の論文を投稿した。
- Asb2 regulates the activity of SCF E3 ubiquitin ligases by antagonizing CAND1-mediated exchange of F-box proteins,” submitted to Molecular Cell on June 26, 2014
論文は修正が要求された。修正し、2014年9月、カンは改訂版を投稿した。
- Asb2 regulates the activity of SCF E3 ubiquitin ligases by antagonizing CAND1-mediated exchange of F-box proteins,” submitted to Molecular Cell on September 29, 2014
改訂版原稿を審査していた審査員は、カンの原稿に「普通ではありえない新規な発見の記述」に、不正研究ではないかと疑念を感じた。
論文編集部は、直ちに調査をはじめた。3か月の調査の末、最終的に、ビン・カンに詰問すると、カンは画像の改ざん(ねつ造も?)を認めた。
2015年1月16日、研究公正局はビン・カンの論文原稿とNIH研究費申請書にデータ改ざん(ねつ造も?)があったと発表した。カンは、処分期間3年に調停合意した。
なお、論文原稿とNIH研究費申請書は両方とも非公開である。どのようなデータ改ざん(ねつ造?)なのか、詳細は不明である。
米国・オクラホマ医学研究機構・副所長のポール・キンケイド(Paul Kincade、写真出典)は、「私達のすべての従業員においてするように、ポスドク就任にあたって、ビン・カン氏の成績証明書、履歴書をチェックしております。彼は評判が良いジャーナルに論文を出版しており、よく訓練され、将来を嘱望される研究者だと判断いたしました」と述べている。
「彼は、優秀な研究キャリアをもち、よく訓練された分子生物学者で、ここでの研究に最適な人物だと、私たちは理解したのです」
そして、「どの研究者もこのようなことを犯す可能性があることにギョッとしました。これは信頼の裏切りです。このようなことをすれば、研究者としてのキャリアは終わることをすべての科学者は知っているはずです。科学者にとって最も重要なことは信頼性(credibility)です。科学者が、どうして、研究ネカトをするのか、私は全くわかりません」
●【論文数と撤回論文】
2015年9月2日、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ビン・カン(Bin Kang)の論文を「Bin Kang [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002年‐2015年の14年間の78論文がヒットした。78論文には同姓同名の他人の論文が含まれているが、この記事のビン・カン(Bin Kang)の論文と区別しにくい。
2015年9月2日現在、明示された撤回論文はない。
不正は、2014年に「Molecular Cell」に投稿した論文原稿で発覚している。論文として出版されていないので、当然ながら、論文原稿は撤回論文の対象にならない。
しかし、2014年以前にカンが出版した論文は大丈夫なのだろうか?
●【白楽の感想】
《1》査読者に座布団2枚
投稿論文の査読で不正と見抜いた査読者は素晴らしい。論文出版前に発見したこと、カンの研究経歴の初期に発見したことで、放置すれば、その後に続くと予想された研究ネカトの発生と被害を防げた。
《2》指導教授にペナルティを
投稿原稿の査読者が不正に気付くなら、どうして、ボスの免疫癌教授のシャオホン・スン(Xiao-Hong Sun、写真出典)は気が付かなかったのだろう? この場合、何らかのペナルティが必要ではないのか?
●【主要情報源】
① 2015年1月16日、研究公正局の報告:Case Summary: Kang, Bin | ORI – The Office of Research Integrity
② 2015年1月18日の「論文撤回監視(Retraction Watch)」記事:Oklahoma postdoc admits to faking data in grant application, submitted paper – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 動画あり。2015年1月21日、ジャクリン・コスグローヴ(Jaclyn Cosgrove)の「News Oklahoma」記事:Oklahoma City-based scientist fired after investigation shows he made up research, report finds | News OK
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