ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis）（米）

2023年8月25日掲載

ワンポイント：2023年6月26日（30歳?）、研究公正局は、オハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドク、同時に、ジョンズ・ホプキンズ大学（Johns Hopkins University）・ポスドクでもあったラリオティスの2件の研究費申請書、3報の発表論文、2報の未発表原稿にねつ造・改ざんがあったと発表した。2023年6月12日から3年間の監督期間（Supervision Period）処分を科した。3年間の監督期間（Supervision Period）処分は普通の処分である。なお、ラリオティスはギリシャのクレタ大学医学部（University of Crete, School of Medicine）で医師免許（MD）と研究博士号（PhD）を取得し、米国でポスドクになった。記事執筆時点では、撤回論文は3報。国民の損害額（推定）は3億円（大雑把）。
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目次（クリックすると内部リンク先に飛びます）
１．概略
２．経歴と経過
５．不正発覚の経緯と内容
６．論文数と撤回論文とパブピア
７．白楽の感想
９．主要情報源
１０．コメント
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●１．【概略】

ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis、Yiorgos I. Laliotis、ORCID iD：、写真出典）は、ギリシャに育ち、ギリシャのクレタ大学医学部（University of Crete, School of Medicine）で医師免許（MD）と研究博士号（PhD）を取得し、米国のオハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドク、同時に、ジョンズ・ホプキンズ大学（Johns Hopkins University）・ポスドクになった。専門はがんの分子生物学である。

2021年11月13日（28歳?）、オハイオ州立大学（Ohio State University）のラリオティスのボスであるフィリップ・ツィクリス教授（Philip Tsichlis）は、フランス国立衛生医学研究所（NSERM）の研究者・アレクサンドル・モーキュエ（Alexandre Maucuer）から、論文結果を再現できないというメールを受け取った。

8日後の2021年11月21日（28歳?）、ツィクリス教授は自分なりに調査し、結局、「2021年10月のCommunications Biology」論文と、「2021年7月のNature Communications」論文の撤回を学術誌に依頼した。

2021年11月30日（28歳?）、ラリオティスはオハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドクを辞職した（解雇？）。

推測だが、ツィクリス教授は、ラリオティスがネカト犯だとを突きとめ、ラリオティスを解雇したと思われる。同時に、ツィクリス教授は、オハイオ州立大学にネカト調査を依頼したと思われる。

オハイオ州立大学がネカト予備調査でクロと判定し、研究公正局に報告した。なお、オハイオ州立大学は本調査をしていない。

2023年6月26日（30歳?）、発覚から1年7か月後（普通には遅いけど、研究公正局としては早い）、研究公正局はラリオティスが2件の研究費申請書、3報の発表論文、2報の未発表原稿の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。

オハイオ州立大学（Ohio State University）。写真出典

  • 国：米国
  • 成長国：ギリシャ
  • 医師免許（MD）取得：ギリシャのクレタ大学医学部
  • 研究博士号（PhD）取得：ギリシャのクレタ大学医学部
  • 男女：男性
  • 生年月日：不明。仮に1993年1月1日生まれとする。2011年に大学に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢：31 歳?
  • 分野：がんの分子生物学
  • 不正論文発表：2021年（28歳?）の1年間
  • ネカト行為時の地位：オハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドク、ジョンズ・ホプキンズ大学（Johns Hopkins University）・ポスドク
  • 発覚年：2021年（28歳?）
  • 発覚時地位：オハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドク、ジョンズ・ホプキンズ大学（Johns Hopkins University）・ポスドク
  • ステップ１（発覚）：第一次追及者はフランス国立衛生医学研究所（NSERM）の研究者・アレクサンドル・モーキュエ（Alexandre Maucuer）。ラリオティスのボスであるフィリップ・ツィクリス教授（Philip Tsichlis） に再現できないと連絡
  • ステップ2（メディア）：「撤回監視（Retraction Watch）」
  • ステップ3（調査・処分、当局：オーソリティ）：①オハイオ州立大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表：なし
  • 大学の透明性：研究公正局でクロ判定（〇）
  • 不正：ねつ造・改ざん
  • 不正論文数：2件の研究費申請書、3報の発表論文、2報の未発表原稿。2023年8月24日現在、撤回論文は3報
  • 時期：研究キャリアの初期
  • 職：事件後に研究職（または発覚時の地位）を続けられなかった（Ⅹ）
  • 処分： NIHから3年間の監督期間（Supervision Period）処分
  • 日本人の弟子・友人：不明

【国民の損害額】
国民の損害額：総額（推定）は3億円（大雑把）。

●２．【経歴と経過】

主な出典：Georgios I. Laliotis | Boston Science Publishing。注：同じ期間に所属が重複していて、どこかヘン。

  • 生年月日：不明。仮に1993年1月1日生まれとする。2011年に大学に入学した時を18歳とした
  • 2011～2017年（18～24歳?）：ギリシャのクレタ大学医学部（University of Crete, School of Medicine）で医師免許（MD）を取得
  • 2017～2021年9月（24～28歳?）：同大学で研究博士号（PhD）を取得
  • 2019～2021年5月（26～28歳?）：米国のオハイオ州立大学公衆衛生学部（Ohio State University, College of Public Health）で公衆衛生学修士号（M.P.H）を取得
  • 2018～2021年11月30日（25～28歳?）：米国のオハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドク、同時に、ジョンズ・ホプキンズ大学（Johns Hopkins University）・ポスドク
  • 2021年（28歳?）：後で不正が発覚する3論文を発表
  • 2021年11月（28歳?）：不正が発覚
  • 2021年11月30日（28歳?）：オハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドクを辞職（解雇？）
  • 2023年6月26日（30歳?）：研究公正局がネカトと発表

●５．【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis）はギリシャに育ち、ギリシャのクレタ大学医学部（University of Crete, School of Medicine）で医師免許（MD）と研究博士号（PhD）を取得した。

2019年（26歳?）に渡米し、米国のオハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドクになった。ボスは、フィリップ・ツィクリス教授（Philip Tsichlis、写真出典）だった。

どういう手段か白楽にはわからないが、オハイオ州立大学・ポスドクと同時に、ジョンズ・ホプキンズ大学（Johns Hopkins University）・ポスドクにもなっていた。

2つの大学のポスドクを同時に務めるのは珍しいというか、不正行為のように思える。両者の間は650㎞も離れているので、両方に通うのは簡単ではない。

★獲得研究費

ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis）自身が代表者になって獲得したNIHの研究費はない。ポスドクなので、当然と言えば当然である。
　→　RePORT ⟩ Georgios Laliotis

★ネカト発覚の経緯

2021年11月13日（28歳?）、ラリオティスのオハイオ州立大学（Ohio State University）のボスであるフィリップ・ツィクリス教授（Philip Tsichlis）は、フランス国立衛生医学研究所（NSERM）の研究者・アレクサンドル・モーキュエ（Alexandre Maucuer、写真出典）から、論文結果を再現できないというメールを受け取った。

2021年11月21日（28歳?）、ツィクリス教授は自分なりに調査し、結局、「2021年10月のCommunications Biology」論文と、「2021年7月のNature Communications」論文の撤回を学術誌に依頼した。

ツィクリス教授と学術誌、またはオハイオ州立大学・研究公正官とのメールのやり取りは以下の資料に詳しい。

以下は「撤回監視（Retraction Watch）」が情報公開法で得たツィクリス教授と学術誌、またはオハイオ州立大学・研究公正官とのメールのやり取り（2022年2月7日が最新メール）の冒頭部分（出典：同）。全文（25ページ）は　→　https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/06/Tsichlis-emails.pdf

結局、2021年11月30日（28歳?）、ラリオティスはオハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドクを辞職した（解雇？）。なお、大学の予備調査報告書では2021年2月28日に辞職した（解雇？）とあり、矛盾するけど、そのまま話しを進める。

推測だが、ラリオティスはツィクリス教授に、ネカト行為を追求・非難され、オハイオ州立大学を辞職した（解雇？）。

ツィクリス教授は、同時に、オハイオ州立大学にネカトを報告した。

オハイオ州立大学はネカト調査委員会を立ち上げ、予備調査の結果、本調査が必要と結論した。その報告書を研究公正局に送付した。なお、後述するように、オハイオ州立大学は本調査をしなかった。

以下は「撤回監視（Retraction Watch）」が開示請求で入手したオハイオ州立大学・予備調査報告書（2022年5月4日）の冒頭部分（出典：同）。全文（12ページ）は　→　https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/07/20220504-Laliotis-Preliminary-Inquiry-Report.pdf

予備調査報告書では、「2021年7月のNature Communications」論文の疑惑を調査すると、データは明らかに意図的な操作がされていて、「誠実な間違い（honest error）」ではないとしている。従って、本調査すべしと結論している。

しかし、オハイオ州立大学は本調査をしなかった。

ラリオティスがネカトを自白したので本調査をしなかった、とオハイオ州立大学は述べている。［白楽注：ヘンです。自白しても、本調査するのが基本でしょう。マー、本調査すると、費用（数千万円）が無駄と言えば無駄です。ただ、研究公正局案件になり、ウヤムヤになっていないので、結果オーライですが］

予備調査報告書によると、ラリオティスはこの報告書に対して書面による回答をしなかった。また、予定されていたインタビューを「ギリシャでの兵役のため」という理由でキャンセルしている。

★研究公正局

2023年6月26日（30歳?）、発覚から1年7か月後（普通には遅いけど、研究公正局としては早い）、研究公正局はラリオティスが2件の研究費申請書、3報の発表論文、2報の未発表原稿の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。

2023年6月12日から3年間の監督期間（Supervision Period）処分を科した。3年間の監督期間（Supervision Period）処分は普通の処分である。

以下の英文情報は、研究公正局の発表をほぼそのまま貼り付けた。

2件の研究費申請書は以下の通り。

  1. 申請段階：R01 CA186729–07, “The role of IWS1-dependent alternative RNA splicing in lung cancer,” submitted to NCI, NIH, on November 5, 2020.
  2. 申請段階：R01 CA198117–05, “The role of IWS1 in development and tumorigenesis,” submitted to NCI, NIH, on June 3, 2019.

2件の研究費申請書の研究代表者を調べると、以下に示すように、申請者はボスのフィリップ・ツィクリス教授（Philip Tsichlis）だった。出典：RePORT ⟩ R01 CA186729–07とRePORT ⟩ R01 CA198117–05

R01 CA186729–07関係

R01 CA198117–05

3報の発表論文は以下の通り。2021～2022年（28～29歳?）の2年間の3論文である。

  1. AKT3-mediated IWS1 phosphorylation promotes the proliferation of EGFR-mutant lung adenocarcinomas through cell cycle-regulated U2AF2 RNA splicing. Nat. Commun. 2021 Jul 30; 12(1):4624. doi: 10.1038/s41467–021–24795–1 (hereafter referred to as “ Nat. Commun. 2021”). Retraction in: Nat. Commun. 2022 Jun 28;13(1):3711. doi: 10.1038/s41467–022–31445–7.
  2. Phosphor-IWS1-dependent U2AF2 splicing regulates trafficking of CAR–E-positive intronless gene mRNAs and sensitivity to viral infection. Commun. Biol. 2021 Oct 11; 4(1):1179. doi: 10.1038/s42003–021–02668-z (hereafter referred to as “ Commun. Biol. 2021”). Retraction in: Commun. Biol. 2021 Dec 15;4(1):1419. doi: 10.1038/s42003–021–02941–1.
  3. Overexpression of the SETD2 WW domain inhibits the phosphor-IWS1/SETD2 interaction and the oncogenic AKT/IWS1 RNA splicing program. bioRxiv 2021.08.12.454141. doi: 10.1101/2021.08.12.454141 (hereafter referred to as “bioRxiv 2021”). Withdrawn.

2報の未発表原稿は以下の通り。20xx年x月に投稿した原稿と、2021年に用意した原稿である。

  1. The transcriptomic landscape of oncogenic P13K reveals key functions in splicing and gene expression regulation. Manuscript submitted to Cancer Res. (hereafter referred to as the “ Cancer Res. manuscript”).
  2. Interpretable deep learning for chromatin-informed inference of transcriptional programs driven by somatic alterations across cancers. Manuscript in preparation (hereafter referred to as “Manuscript 2021”).

★悪あがき：詐欺で有罪

ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis）を研究公正局がネカトでクロと結論した話とは別件で、ラリオティスは事件を起こしていた。

2021年11月30日（28歳?）、大学警察の報告書によると、ラリオティスはオハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドクを辞職した（解雇？）。なお、大学の予備調査報告書では2021年2月28日に辞職した（解雇？）とあり、矛盾するけど、そのまま話しを進める。

辞職した（解雇？）ので、ラリオティスは次の就職先を見つける活動を始めた。

企業に打診したのだが、ポスドクの就活なのでボスの推薦状（letters of recommendation）は必須である。

辞職（解雇？）17日後の、2021年12月17日と21日（28歳?）、ラリオティスは、ボスのツィクリス教授になりすまして、推薦状（letters of recommendation）を2回、就活先に送った。

ラリオティスは、ツィクリス教授に無断で、「Philip Tsichlis」の名前でOutlookの電子メール・アドレス「p.tsichlis@outlook.com」を作った。

推薦状を受け取った企業・リヴァートクス社（Revirtx）は、大学教授がOutlookの電子メール・アドレスを使用しているのを不審に思い、確認のためにツィクリス教授に連絡した。

それで、「なりすまし」がバレた。

ツィクリス教授はラリオティスがニセの推薦状を送ったこと知り、自分とオハイオ州立大学の評判が悪くなると懸念し、この件をオハイオ州立大学の大学ポリス（OSU police）に通報した。

大学ポリスが調べると、「p.tsichlis@outlook.com」はラリオティスの電子メール・アドレス「glaliot7@gmail.com」にリンクしていた。また、IPアドレスはラリオティスが使用していた場所や電子機器のIPアドレスと一致した。

それで、ラリオティスは逮捕され（推測）、オハイオ州のフランクリン郡地方裁判所（Franklin County Municipal Court）で裁判が行なわれた。ウ～ン、結果がどうなったのか、白楽は把握できていない。でも有罪でしょう。

以下は「撤回監視（Retraction Watch）」が示した法廷文書（2022年7月13日）の冒頭部分（出典：同）。全文（2ページ）は　→　https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2022/09/22-CRA-102730001.pdf

「結果がどうなったのか、白楽は把握できていない。でも有罪でしょう」と書いたが、その後、結果が見つかった。

2023年6月27日（30歳?）、ラリオティスは偽造未遂という軽い罪状で有罪を認め、検察は他の罪状を取り下げた。

2023年6月29日（30歳?）、裁判官は、ラリオティスが今後4年間、ツィクリス教授にコンタクトしないこと、「健康診断を受けることを申請しない」（コレを白楽は理解できていない。ゴメン）ことを条件に、6か月の懲役刑の代わりに、ラリオティスに1年間の無報告執行猶予（non-reporting probation）を言い渡した。 

以下は「撤回監視（Retraction Watch）」が示した法廷文書（2023年6月27日）の冒頭部分（出典：同）。全文（1ページ）は　→　https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/08/laliotis-plea-1.pdf

以下は「撤回監視（Retraction Watch）」が示した法廷文書（2023年6月29日）の冒頭部分（出典：同）。全文（3ページ）は　→　https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/08/laliotis-judgment.pdf

●【ねつ造・改ざんの具体例】

2023年6月26日（30歳?）の研究公正局の発表で、各研究費申請書・論文のネカト部分を指摘している。

★「2021年7月のNat Commun.」論文

研究公正局がネカト・リストした1番目の論文・「2021年7月のNat Commun.」論文の書誌情報を以下に示す。2022年6月28日に撤回された。

研究公正局の指摘箇所を以下に示す。

―――図 1g

配列データの改ざん。2つの配列決定クロマトグラムをつなぎ合わせて、エクソン2を欠くこれまで記載されていないU2AF2 RNA転写産物を新規に同定したとした。図の出典は原著論文。

―――図1f, 2a, 2b, 2c, 3d, 4a, 4b, 4c, 4e, 5h, 6f, 6i, 7c

ねつ造したU2AF2スプライスバリアントに関する偽りの結論。

図2a, 2b, 2cだけ以下に示す。図の出典は原著論文。 この図のどの部分がネカトなのか白楽は把握できていない。

他にもねつ造・改ざん箇所があるが、省略した。

★「2021年10月のCommun Biol.」論文

研究公正局がネカト・リストした2番目の論文・「2021年10月のCommun Biol.」論文の書誌情報を以下に示す。2021年12月15日に撤回された。

―――図 1e

 α-actininの箇所で、shISWS1/U2AF65β-V5ではなくshISWS1のバンドを使用した。図の出典は原著論文。

他にもねつ造・改ざん箇所があるが、省略した。

●６．【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★パブメド（PubMed）

2023年8月24日現在、パブメド（PubMed）で、ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis、Yiorgos I. Laliotis）の論文を「Georgios Laliotis[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2020～2022年の3年間の10論文がヒットした。

「Yiorgos I. Laliotis[Author]」で検索すると、0論文がヒットした。

「Yiorgos Laliotis[Author]」で検索すると、0論文がヒットした。

2023年8月24日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年8月24日現在、「撤回監視（Retraction Watch）」の撤回監視データベースでゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis、Yiorgos I. Laliotis）を「Laliotis」で検索すると、3論文が撤回されていた。

「2021年10月のCommun Biol.」論文が2021年12月15日に、「2021年7月のNat Commun.」論文が2022年6月28日に、「2021年8月のBioRxiv」論文が2022年8月4日に撤回された。3論文とも、撤回理由にデータねつ造・改ざんが入っている。

★パブピア（PubPeer）

2023年8月24日現在、「パブピア（PubPeer）」では、ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis、Yiorgos I. Laliotis）の論文のコメントを「Georgios Laliotis」で検索すると、3論文にコメントがあった。

なお、ラリオティスのボスのフィリップ・ツィクリス（Philip Tsichlis）には、17論文にコメントがある。

17論文の内、ラリオティスと共著の論文は3報で、他の14論文にはラリオティスは共著者になっていない。

ツィクリス教授自身もネカト者なのだろうか？

●７．【白楽の感想】

《１》複数のヘン　

①　ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis）の経歴を見ると、同時期に所属が重複していて、ヘン。

②　ラリオティスは、オハイオ州立大学（Ohio State University）・ポスドクで、同時に、ジョンズ・ホプキンズ大学（Johns Hopkins University）・ポスドクだった。この二重在籍もヘン。

2つの大学のポスドクを同時に務めるのは珍しいというか、不正行為のように思える。両者の間は650㎞も離れているので、両方に通うのは簡単ではない。

③　オハイオ州立大学は予備調査でクロ濃厚としたが、本調査をしていない。本調査なしで研究公正局が受け付け、クロと判定した。なんかヘン。

④　ラリオティスは、ポスドクを辞職（解雇？）し、就活に必死だったのだろうが、ボスのフィリップ・ツィクリス教授（Philip Tsichlis）の名前でOutlookの電子メール・アドレス「p.tsichlis@outlook.com」を作り、ツィクリス教授になりすまして、推薦状（letters of recommendation）を相手企業に送った。これは、犯罪レベルのヘンである。

やはり、犯罪となり、「なりすまし」は、裁判で有罪になった。

ラリオティスは、根っからのズル人間のように思える。

2022年11月29日の「Business Matters」記事を読むと、ラリオティスは優秀な研究者と描かれている。しかし、ネカトでクロとなった事実を知ると、ラリオティスは根っからの詐欺師という人に思えてきた。　→　Getting to Know You: George Laliotis, Medical Research Scientist

この事件を防ぐには、このようなタイプの人間を、なるべく早く、学術界から排除することだろう。

研究者として、このような処世術をどの段階でどのように身につけてしまったのか？　これも十分解析したいテーマである。

大学院の研究初期に、研究規範を習得させるのは、ラリオティスの場合、既に遅い気がした。

《２》複数の素晴らしい

ラリオティス事件の記事を書いていると、米国の素晴らしさを感じる部分がある。日本が学ぶ点がたくさんあるけど、日本は学ぶことを拒否している。

素晴らしさを感じた部分は、情報の公開、つまり透明性である。

研究公正局はネカト犯とネカト行為を具体的に発表した。そして、「撤回監視（Retraction Watch）」は多くの情報を公表した。

つまり以下の情報が公表されている

  1. 研究公正局の発表
  2. 大学の調査報告書
  3. 関係者のメールのやり取り
  4. 関係者の意見・主張・弁解
  5. 裁判記録

振り返って、日本はどうだろう。「1」「2」「5」は発表されても、曖昧化・隠蔽化されている。「3」「4」は全く報道されない。要するに、事件は具体的（5W1H）には公表されない。

研究不正大国の名に恥じない、非透明化・曖昧化・隠蔽化が進行中である。

《３》類は友を呼ぶか？

ラリオティス事件ではラリオティスだけがクロと研究公正局が結論したのだが、ラリオティスのボスのフィリップ・ツィクリス（Philip Tsichlis）には、「パブピア（PubPeer）」で17論文にコメントがある。

17論文の内、ラリオティスと共著の論文は3報で、他の14論文にはラリオティスは共著者になっていない。

ツィクリス教授自身もネカト者なのだろうか？

オハイオ州立大学はツィクリス教授の「他の14論文」のネカト調査をしないのだろうか？

ゲオルギオス・ラリオティス（Georgios Laliotis）。https://archive.md/wip/EL6Xw

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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7～8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7～8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実（integrity）・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●９．【主要情報源】

① 　研究公正局の報告：（１）2023年6月26日：Case Summary: Laliotis, Yiorgos (Georgios) I. | ORI – The Office of Research Integrity。（２）2023年6月29日の連邦官報：2023-13847.pdf 。（３）2023年6月29日の連邦官報：Federal Register :: Findings of Research Misconduct。（４）2023年6月30日：NOT-OD-23-155: Findings of Research Misconduct
② 2022年6月14日のエリー・キンケイド（Ellie Kincaid）記者の「撤回監視（Retraction Watch）」記事：‘This has been a nightmare’: One paper was retracted. The other still lingers. – Retraction Watch
③ 2022年9月22日のエリー・キンケイド（Ellie Kincaid）記者の「撤回監視（Retraction Watch）」記事：Fired postdoc faked recommendation letters from supervisor, OSU alleges – Retraction Watch
④ 2023年6月26日のエリー・キンケイド（Ellie Kincaid）記者の「撤回監視（Retraction Watch）」記事：Fired OSU postdoc charged with forgery admitted to faking data, feds say – Retraction Watch
⑤ 2022年11月29日の著者名不記載の「Business Matters」記事：Getting to Know You: George Laliotis, Medical Research Scientist、（保存版）
⑥ 2023年8月4日のエリー・キンケイド（Ellie Kincaid）記者の「撤回監視（Retraction Watch）」記事：Former postdoc who admitted to faking data pleads guilty to attempted forgery – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

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