2020年8月19日掲載
ワンポイント:2020年7月21日(55歳?)、研究公正局は、南カリフォルニア大学(University of Southern California)付属・ロサンゼルス小児病院(Children’s Hospital Los Angeles)・教授だったネマニの4件の研究費申請書、1報の発表論文の画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。2020年7月7日から4年間の締め出し処分を科した。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
プラサダラオ・ネマニ(Prasadarao Nemani、Nemani V Prasadarao、写真出典)は、南カリフォルニア大学(University of Southern California)付属・ロサンゼルス小児病院(Children’s Hospital Los Angeles)・教授で、医師ではない。専門は感染症学である。経歴は不明だが、名前(テレグ語:インド)と風貌と英語発音からインド出身と思われるので、インド出身とした。
ネカト発覚の経緯は不明であるが、2016年11月以降、論文を出版していないので、発覚は2016年(51歳?)と思われる。同じ研究室または同僚が見つけ告発したらしいが、白楽は特定できていない。
2020年7月21日(55歳?)、発覚から4年後(遅いですね)、研究公正局はネマニが1報の発表論文、4件の研究費申請書で、画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2020年7月7日(44歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。
ロサンゼルス小児病院(Children’s Hospital Los Angeles)。写真(Photo/Ricardo Carrasco III) 出典
- 国:米国
- 成長国:インド?
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:xx大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする
- 現在の年齢:59 歳?
- 分野:感染症学
- 最初の不正論文発表:2009年(44歳?)
- 不正論文発表:2009年(44歳?)の1回
- 発覚年:2016年(51歳?)
- 発覚時地位:南カリフォルニア大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ロサンゼルス小児病院・調査委員会。②研究公正局
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:4件の研究費申請書、1報の出版論文
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから 4年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
ほとんど不明
- 生年月日:不明。仮に1965年1月1日生まれとする。インド?
- 19xx年(xx歳):xx大学で学士号を取得
- 19xx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得
- 1993年(28歳?):南カリフォルニア大学(University of Southern California)・ロサンゼルス小児病院(Children’s Hospital Los Angeles)所属の論文を発表している
- xxxx年(xx歳):南カリフォルニア大学(University of Southern California)・ロサンゼルス小児病院(Children’s Hospital Los Angeles)・教授
- 2009年(44歳?):後の問題視される「2009年3月のInfect Immun.」論文を発表
- 2016年(51歳?)?:ネカト発覚
- xxxx年(xx歳):ロサンゼルス小児病院・辞職(解雇?)
- 2020年7月21日(55歳?):研究公正局がネカトと発表
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
研究紹介動画:「Prasadarao Nemani, PhD, Professor – YouTube」(英語)1分34秒。
Children’s Hospital Los Angelesが2012/04/19に公開
以下の画像から始まる動画「https://www.youtube.com/watch?v=vwNBkU6FRjE&feature=emb_logo」があったが、最近、削除された。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経歴
プラサダラオ・ネマニ(Prasadarao Nemani)の経歴は不明である。名前と風貌と英語発音からインド出身と思われる。
1993年(33歳?)、最初の論文を出版していて、所属は南カリフォルニア大学(University of Southern California)・ロサンゼルス小児病院(Children’s Hospital Los Angeles)である。
最後著者はクァンシク・キム(Kwang Sik Kim、写真出典)で、キムとの共著論文はネマニの出版論文73報中16報ある。
特に1993~2000年までの人生最初の論文から12報目までがキムと共著で、その内10報は全部キムが最後著者である。
つまり、キムが研究指導者と思われる。
今回のネカト事件に絡んで、ネマニは2010年以降、NIHから420万ドル(約4億2千万円)以上の研究費を受領していた。
★ネカト
ネカト発覚の経緯は不明であるが、2016年11月以降、論文を出版していないので、発覚は2016年(51歳?)と思われる。同じ研究室または同僚が見つけ告発したらしいが、白楽は特定できていない。
2017年3月23日(52歳?)、アメリカ微生物学会 (American Society for Microbiology)と学術誌「Infection and Immunity (IAI)」がネマニの「2009年3月のInfect Immun.」論文の図1C, 2D, 5A, 5Bの細胞像とウェスターンブロット像に重複使用があると、懸念表明をした。 → Publisher’s Expression of Concern: Lactobacillus bulgaricus Prevents Intestinal Epithelial Cell Injury Caused by Enterobacter sakazakii-Induced Nitric Oxide both In Vitro and in the Newborn Rat Model of Necrotizing Enterocolitis | Infection and Immunity
2020年7月21日(55歳?)、発覚から4年後(遅いですね)、研究公正局はネマニが1報の発表論文、4件の研究費申請書で、画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2020年7月7日(55歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分はかなり重い処分である。
4件の研究費申請書は以下の通り。採否決定前、つまり研究費を支給する前にネカトを見つけている。エライ!
- R01 AI107015-01 submitted to NIAID, NIH
- R01 AI125595-01A1 submitted to NIAID, NIH
- R01 AI125595-01 submitted to NIAID, NIH
- R01 NS073115-06A1 submitted to the National Institute of Neurological Disorders and Stroke (NINDS), NIH
1報の発表論文は以下の通り。「2009年3月のInfect Immun.」論文で、2018年5月に撤回された。
- Lactobacillus bulgaricus prevents intestinal epithelial cell injury caused by Enterobacter sakazakii-induced nitric oxide both in vitro and in the newborn rat model of necrotizing enterocolitis.
Hunter CJ, Williams M, Petrosyan M, Guner Y, Mittal R, Mock D, Upperman JS, Ford HR, Prasadarao NV.
Infect Immun. 2009 Mar;77(3):1031-43. doi: 10.1128/IAI.01192-08. Epub 2008 Dec 15.
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2020年7月21日(37歳?)の研究公正局の発表に、各研究費申請書・論文のネカト部分を指摘している。
しかし、白楽は研究費申請書を閲覧できない。論文を対象に研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見ていこう。
★「2009年3月のInfect Immun.」論文
「2009年3月のInfect Immun.」論文の書誌情報を再度、以下に示す。2018年5月に撤回された。
- Lactobacillus bulgaricus prevents intestinal epithelial cell injury caused by Enterobacter sakazakii-induced nitric oxide both in vitro and in the newborn rat model of necrotizing enterocolitis.
Hunter CJ, Williams M, Petrosyan M, Guner Y, Mittal R, Mock D, Upperman JS, Ford HR, Prasadarao NV.
Infect Immun. 2009 Mar;77(3):1031-43. doi: 10.1128/IAI.01192-08. Epub 2008 Dec 15.
研究公正局の指摘箇所は図1C(以下)である(図の出典:原著論文)。
図1C画像は集密的に培養したIEC-6細胞の像である。重複使用と言われれば、似ている画像がいくつもあるので、そうかもしれないとは思う。しかし、どこが、どう、重複使用されたのか、軽く眺めた程度の白楽にはわからない。
アメリカ微生物学会 (American Society for Microbiology)と学術誌「Infection and Immunity (IAI)」は、図1C, 2D, 5A, 5Bの細胞像とウェスターンブロット像の重複使用に懸念表明していた。しかし、研究公正局は図1Cだけを問題にし、他を不問とした。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年8月18日現在、パブメド(PubMed)で、プラサダラオ・ネマニ(Prasadarao Nemani)の論文を「Prasadarao Nemani [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2018年の17年間の61論文がヒットした。
「Prasadarao NV」で検索すると、1993~2018年の26年間の73論文がヒットした。
2020年8月18日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2009年3月のInfect Immun.」論文・1論文が2018年5月に撤回されていた。
★撤回監視データベース
2020年8月18日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでプラサダラオ・ネマニ(Prasadarao Nemani)を「Nemani, Prasadarao V」で検索すると、本記事で問題にした「2009年3月のInfect Immun.」論文・1論文が撤回されていた。2報ヒットするが同じ論文である。
★パブピア(PubPeer)
2020年8月18日現在、「パブピア(PubPeer)」では、プラサダラオ・ネマニ(Prasadarao Nemani)の論文のコメントを「Prasadarao Nemani」で検索すると、本記事で問題にした「2009年3月のInfect Immun.」論文・1論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》不明
ネマニ事件では、プラサダラオ・ネマニ(Prasadarao Nemani、写真出典)が「どのような状況で、どうして」ネカトをしたのか、見えてこない。
これでは、ネカト対策に役立つ点は少ない。
《2》不可解
ネマニは73報の論文を発表している。「2009年3月のInfect Immun.」論文だけがネカトだというのは、なんかヘンである。
さらに、「2009年3月のInfect Immun.」論文が、どうして7年後の2016年に問題視されたのだろう? 意図的にアラ捜しをされたのだろうか? なんかヘンである。
前向きに考えると、昇進話があって、それで身体検査があった。
後ろ向きに考えると、ネマニを排除したい悪意があって、人種差別的な処分をした。ということはないのだろうか?
論文としては「2009年3月のInfect Immun.」論文だけのネカトなのに、4年間の締め出し処分を科したのは、ヘン?
いや、論文は1報だが、 4件の研究費申請書もネカトなので、通常より重い処分を科したのだろう。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2020年7月21日:Case Summary: Nemani, Prasadarao | ORI – The Office of Research Integrity(2024年7月にリンク切れる)。(2)2020年7月17日の連邦官報:FRN 2020-16034 (Nemani).pdf 。(3)2020年7月24日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2020年7月29日:NOT-OD-20-154: Findings of Research Misconduct
② 2020年7月21日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Infectious disease researcher “recklessly” faked data in grants worth millions, says federal watchdog – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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