2016年6月14日アップ。
ワンポイント:2016年に研究公正局から5年間の締め出し処分を受けた詳細不明のねつ造・改ざん事件
●1.【概略】
ジョン・パストリノ(John G. Pastorino、写真出典)は、米国・ローワン大学整骨療法科大学院(Rowan University School of Osteopathic Medicine:RUSOM)・準教授で、専門は細胞生物学(細胞障害や細胞死でのミトコンドリア)だった。医師ではない。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.研究内容
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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2016年5月10日(50歳?)、研究公正局は、パストリノが、8論文、1原稿、1研究費申請書で、58個のウェスタンブロット画像をねつ造・改ざんしたと発表した。5年間の締め出し処分を科したので、悪質と判断したことになる。
この事件の詳細は不明です。
米国・ローワン大学整骨療法科大学院(Rowan University School of Osteopathic Medicine:RUSOM)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:トーマス·ジェファーソン大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1966年1月1日生まれとする。1988年に大学卒業した時を22歳とした。
- 現在の年齢:58 歳?
- 分野:細胞生物学
- 最初の不正論文発表:2010年(44歳?)
- 発覚年:2015年?(49歳?)
- 発覚時地位:ローワン大学整骨療法科大学院・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(不明)は論文読者で、学術誌編集局に指摘
- ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌編集局 ②ローワン大学整骨療法科大学院・調査委員会。③研究公正局。~2016年5月10日
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:8論文、1原稿、1研究費申請書
- 時期:研究キャリアの中期から
- 結末:辞職(解雇?)
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1966年1月1日生まれとする。1988年に大学卒業した時を22歳とした。米国・フィラデルフィアで生まれる
- 1988年(22歳?):米国・テンプル大学(Temple University)を卒業。学士号:薬学
- 1994年(28歳?):米国・トーマス·ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)で研究博士号(PhD)取得:細胞生物学
- xxxx年(xx歳):米国・ローワン大学整骨療法科大学院(Rowan University School of Osteopathic Medicine:RUSOM)・準教授
- 2016年5月10日(50歳?):研究公正局がパストリノの研究ネカトを発表した
- 2016年5月13日(50歳?):ローワン大学整骨療法科大学院を辞職(解雇?)
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2016年2月29日(50歳?)、「撤回監視(Retraction Watch)」によると、パストリノの論文のウェスタンブロット画像が使いまわされているとの論文読者からの指摘をうけ、学術誌編集局は、パストリノの6論文に「懸念表明」をした。
第一次追及者(詳細不明)である論文読者は、大学(ローワン大学整骨療法科大学院)や研究公正局にも伝えたらしく、いつからか不明だが、大学も研究公正局も調査していた。
2016年5月10日(50歳?)、研究公正局が調査結果を発表した(【主要情報源】①)。
発表によると、パストリノは、8論文、1原稿、1研究費申請書で、58個のウェスタンブロット画像をねつ造・改ざんした。
8つの論文:
- J. Cell Sci. 123:894-902, 2010 (hereafter referred to as “J. Cell Sci. 2010a”) → Figures 2A, 2C, 3B, 5A, 7B, and 8A
- J. Cell. Sci. 123:4117-4127, 2010 (hereafter referred to as “J. Cell Sci. 2010b”) → Figures 2B, 5A, 6A, and 6B
- J. Cell. Sci. 125:2995-3003, 2012 (hereafter referred to as “J. Cell Sci. 2012”) → Figures 1A, 2A, 2B, 4C, 5A, 5B, 6A, 7A, 7B, and 7C
- J. Cell. Sci. 126:274-288, 2013 (hereafter referred to as “J. Cell Sci. 2013”) → Figures 4F, 5H, and 6A
- J. Cell. Sci. 127:896-907, 2014 (hereafter referred to as “J. Cell Sci. 2014”) → Figures 1B, 2B, 2C, 3A, 3B, and 4D
- Biol Open. 1-11:10;bio.014712, 2015 (hereafter referred to as “Biol Open. 2015”) → Figures 3A and 6B
- BioChim Biophys Acta. 1827:38-49, 2013 (hereafter referred to as “BioChim Biophys Acta. 2013”) → Figure 2A
- J. Biol. Chem. 289:26213-26225, 2014 (hereafter referred to as “J. Biol. Chem. 2014”) → Figures 1B, 3A, 4D, 5E, and 6C
1つの原稿:
- J. Cell Science, Submitted manuscript, 2015 (hereafter referred to as “J. Cell Sci. manuscript 2015”) → Figure 3A
1つの研究費申請書:
- R01 HL132672-01, “Regulation by Sirtuin-3 and Mitoneet of the Permeability Transition Pore in Heart during Ischemia/Reperfusion Injury,” John Pastorino, Ph.D., Principal Investigator → Figures 3, 8A, 12, and 13A
パブピアでは2002年-2009年の3論文の図に疑念が指摘されているが(【主要情報源】③)、研究公正局はそれらについては触れていない。
★「2014年のJ. Biol. Chem.」論文
58個のウェスタンブロット画像がねつ造・改ざんなので、どの画像を見ても大差ないだろう。最新の「2014年のJ. Biol. Chem.」論文を閲覧してみよう。
ねつ造・改ざんは図1B, 3A, 4D, 5E, 6Cだとある。
以下は、ねつ造・改ざんされた図1Bである。う~ん、見ていてもどこが不正なのかわかりません(白楽には)。
図1Bはあきらめて、図3Aを見てみよう。
以下は、ねつ造・改ざんされた図3Aである。う~ん、「やはり」、見ていてもどこが不正なのかわかりません(白楽には)。
★「2008年のJ. Biol. Chem.」論文
研究公正局の報告(【主要情報源】①)では、「2008年のJ. Biol. Chem.」論文をねつ造・改ざん論文に指定していないが、パブピアでは「2008年のJ. Biol. Chem.」論文のウェスタンブロット画像が使いまわされている、と指摘している。
参考に見てみよう。
パブピアのPeer 2: (2016年5月16日) の指摘を以下に引用した。
2つの赤枠のバンドが別の試料なのに全く同じバンドに見える。使いまわしだ。2つの緑枠のバンドも使いまわし。別の試料なのに、確かに、全く同じバンドに見える。研究ネカト・ハンターは鋭い(白楽がぼんくらなだけ?)。
●6.【論文数と撤回論文】
2016年6月13日現在、パブメド(PubMed)で、ジョン・パストリノ(John G. Pastorino)の論文を「John G. Pastorino[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の26論文がヒットした。
2016年6月13日現在、撤回論文はない。おいおい撤回されるのだろう。
●7.【白楽の感想】
《1》パーティン新体制の2人目研究ネカト者
研究公正局はこの事件を 2016年5月10日に発表した。
研究公正局は2014年3月以来、約2年間空席だった所長職に、2015年12月末、コロラド州立大学・神経科学教授だったキャシー・パーティン(Kathy Partin)を迎えた。
それから、4か月間、研究公正局は研究ネカト者を発表しなかった。その間、何があったのかわからないが、機構改革が行なわれていたに違いない。
新体制発足後の2人目の研究ネカト者として、パストリノを5年間の締め出し処分と発表した。報告書を見る限り、新体制に伴う変化はないように思える。
《2》詳細は不明
この事件の詳細は不明です。
パストリノは、どうしてねつ造・改ざんをしたのか? 第一次追及者はどのような人で、どうやってねつ造・改ざんを見つけたのか? 事件後、大学・研究機関はどんな改善策を施したのか? 事例分析し、研究ネカトシステムの改善につながる点、学べる点は何か?
全くわかりません。
ブログでは、比較的、情報が得られる事件を解説しているが、実は、この事件のように、詳細が不明なことが多い。
なお、新聞記者等の記者が取材し、事件を報道してくれると、詳細が把握できるのだが、研究公正局、撤回監視(Retraction Watch)、パブピアはどれも、不正点を指摘するが、その裏に潜む研究ネカト問題の分析・解説はしない。人間臭い面には全く触れないので、事情がわからない。
そして、最近の新聞は研究ネカトを報道しなくなった。
●8.【主要情報源】
① 2016年5月10日、研究公正局の報告:Case Summary: Pastorino, John G. | ORI – The Office of Research Integrity (保存版)、NOT-OD-16-104: Findings of Research Misconduct
② 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for John Pastorino – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 「パブピア(PubPeer)」記事群:PubPeer – Results for John Pastorino
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。