ジーユ・リー(Zhiyu Li)(米)

2016年8月28日掲載。

ワンポイント:2016年に研究公正局から5年間の締め出し処分を受けた中国人(?)ポスドクの画像改ざん事件

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】

Lost_or_Unknown_svgジーユ・リー(Zhiyu Li、顔写真未発見、男女不明)は、米国・マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)のサヴィオ・ウー教授(Savio L.C. Woo)のポスドクだった。ウー教授は遺伝子治療研究では世界的リーダーの1人で、当然ながら、リーの専門は遺伝子治療学だった。医師ではない。

2010年(32歳?)、マウントサイナイ医科大学はジーユ・リーが研究ネカトをし、解雇したと発表した。

それから6年が経過した。

2016年7月28日(38歳?)、研究公正局はジーユ・リーのデータねつ造・改ざんを報告し、5年間の締め出し処分を科した。

なお、ジーユ・リー(Zhiyu Li)と同姓同名の生命科学者が米国・フィラデルフィアの科学大学(University of the Sciences in Philadelphia)・準教授にいる。この記事の該当者なのか不明だが、別人と考えた。

1280px-SinaiMedマウントサイナイ医科大学。”SinaiMed” by Homieg340 – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons – 写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国?
  • 研究博士号(PhD)取得:?
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。全く、あてずっぽう
  • 現在の年齢:56 歳?
  • 分野:遺伝子治療
  • 最初の不正論文発表:2008年(30歳?)
  • 発覚年:2010年(32歳?)
  • 発覚時地位:マウントサイナイ医科大学・ポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は研究室主宰者のサヴィオ・ウー教授で、マウントサイナイ医科大学へ公益通報した
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①マウントサイナイ医科大学・調査委員会。~2010年9月17日。②研究公正局。~2016年7月28日
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2出版論文、1投稿論文、2ポスター発表、7研究費申請書・報告書の57画像のねつ造・改ざん。撤回論文は2報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:解雇。3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1968年1月1日生まれとする。全く、あてずっぽう
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • xxxx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)取得
  • 20xx年(xx歳):米国・マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)のサヴィオ・ウー教授(Savio L.C. Woo)のポスドク
  • 2010年9月17日(32歳?):不正研究が発覚し、解雇
  • 2016年7月28日(38歳?):研究公正局はジーユ・リーのデータねつ造・改ざんと、5年間の締め出し処分を発表した

●5.【不正発覚の経緯と内容】

sac_woo_177px2009年(推定)、米国・マウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)のサヴィオ・ウー教授(Savio L.C. Woo、写真出典)が自分の研究室の論文(論文原稿?)に異常を感じ、マウントサイナイ医科大学に調査を申し出たのが発端である。

2010年9月15日、サヴィオ・ウー教授(Savio L.C. Woo)の論文が4報撤回されたと「撤回監視(Retraction Watch)」が報告した。
Work from noted gene therapy researcher Savio Woo under scrutiny with slew of retractions – Retraction Watch at Retraction Watch

撤回された論文は「2005年のPNAS」「2008年のJ Natl Cancer Inst.」「2009年のHum Gene Ther.」などの論文だ。

2010年9月17日、マウントサイナイ医科大学はサヴィオ・ウー教授(Savio L.C. Woo)の研究室で研究ネカトがあったと発表した。同時に、論文の第一著者だった、2人のポスドク、ジーユ・リー(Zhiyu Li 、男女不明)とリー・チェン(Li Chen、男女不明)を解雇した。なお、ウー教授にはなんら不正はなかったと発表した。

解雇者も出したことだから、マウントサイナイ医科大学の調査は、2010年9月17日に終了したと思われる。

ところが、研究公正局が調査結果を発表したのはそれから4年後だった。それも解雇した2人の不正者のうちの1人である。

2014年4月25日、研究公正局は、2人の不正者のうちの1人・リー・チェン(Li Chen)のデータねつ造・改ざんを発表し、3年間の締め出し処分を科した(Federal Register | Findings of Research Misconduct)。その時、ジーユ・リーに関しては、何ら言及していない。

2016年7月28日、研究公正局は、もう1人の不正者・ジーユ・リーのデータねつ造・改ざんを発表し、5年間の締め出し処分を科した。

ジーユ・リーに関しては、2010年の解雇後、何ら発表もなく、6年後の発表である。

6年間、研究公正局は調査していたのでしょうか? 遅すぎません?

★ジーユ・リーの不正論文など

2016年7月28日、、研究公正局は、ジーユ・リーが2出版論文、1投稿論文、2ポスター発表、7研究費申請書・報告書の57画像のねつ造・改ざんしたと発表した(【主要情報源】①)。

以下はそのリストである。

 • Li, Z., Fallon, J., Mandeli, J., Wetmur, J., & Woo, S.L.C. “A Genetically Enhanced Anaerobic Bacterium for Oncopathic Therapy of Pancreatic Cancer.” JNCI 100(19):1389-1400, October 2008 (hereafter referred to as “JNCI 2008”) (Retracted 02/2010).
• Li, Z., Fallon, J., Mandeli, J., Wetmur, J., & Woo, S.L.C. “The Oncopathic Potency of Clostridium perfringens is Independent of its [alpha]-Toxin Gene.” HGT 20:751-758, July 2009 (hereafter referred to as “HGT 2009”) (Retracted 03/2010).
• Li, Z., Fallon, J., Mandeli, J., Wetmur, J., & Woo, S.L.C. “Oncopathic Bacteriotherapy with Engineered C. perfringens Spores is Superior and Complementary to Gemcitabine Treatment in an Orthotopic Murine Model of Pancreatic Cancer.” Submitted for publication in Can. Res. (hereafter referred to as the “Can. Res. Manuscript 2009”).
• Li, Z., Fallon, J., Mandeli, J., Wetmur, J., & Woo, S.L.C. “Oncopathic Bacteriotherapy with Cp/plc-/sod-/PVL is Complementary to Gemcitabine Treatment for Pancreatic Cancer in Mice.” Presented at the 12th Annual Meeting of the American Society of Gene Therapy, May 27-30, 2009.
• R21 CA120017-02
• R21 CA120017 Final Progress Report
• R01 CA130897-01
• R01 CA130897-01 A1
• R01 CA130897-01 A2
• R01 CA130897-01 A2 Supplemental Materi
• R01 CA148697-01

 ★「2009年のHum Gene Ther.」論文

研究ネカトと指摘された2出版論文のうちの1つ「2009年のHum Gene Ther.」論文を閲覧してみよう。

研究公正局は以下の点を不正とした。
——-
Figure 3A (left panel):別論文の画像を改ざんし、ここで使用。
Figure 3A (middle and right panels) :別論文の画像を改ざんし、ここで使用。
Figure 3, row D (right panel), :別論文の画像を改ざんし、ここで使用。
Figures 3A-D:データねつ造
——-
問題の図3(Figure 3)を論文から探り、以下に掲載した。

fig-3

左側の組織化学画像は別の論文の画像を改ざんして再使用されたと指摘されている。

この図だけを見ていても、どこがどう改ざんされたのかわからない。元図と比較しないとわからない。

元図と似ていたので再使用が発覚したのだろうが、大きく改ざんしたら、元図との類似性が減り、改ざんは発覚しなかったかもしれない。

●6.【論文数と撤回論文】

2016年8月27日現在、パブメド(PubMed)で、ジーユ・リー(Zhiyu Li)の論文を「Zhiyu Li [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の140論文がヒットした。

論文タイトルから考え、この記事で記述しているジーユ・リーとは別人の論文が多数含まれている印象だ。

2016年8月27日現在、以下の2論文が撤回されている。この記事で問題視した論文である。

●7.【白楽の感想】

《1》研究公正局の調査が遅い

2010年9月17日にマウントサイナイ医科大学の調査は終了した。

ところが、研究公正局が調査結果を発表したのはそれから6年後だった。

遅すぎる。

研究公正局は、同じ研究室のポスドクのリー・チェン(Li Chen)のデータねつ造・改ざんと、ジーユ・リー(Zhiyu Li)のデータねつ造・改ざんの調査を同時に進めていたと思われる。

2014年4月25日にリー・チェンのデータねつ造・改ざんを発表したのに、ジーユ・リーのは発表しなかった。どうして、さらに2年間も必要だったのだろうか?

調査に年数がかかりすぎることは、研究公正局の機能の欠陥である。研究倫理システムとして大きな問題になる。どうして改善しない(できない)のだろうか?

マウントサイナイ医科大学の調査でクロと判定した人を、6年後、もしシロと判定したらどうなってしまうのだ。

調査は正確であるべきだが、迅速でもあるべきだ。

●8.【主要情報源】

① 2016年7月28日、研究公正局の報告:NOT-OD-16-124: Findings of Research Misconduct保存版
② 2016年7月20日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Ex-Mount Sinai postdoc who falsified 50+ images earns 5-year funding ban – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2010年9月17日のグレッグ・ミラー(Greg Miller)の「Science」記事:Mount Sinai Says Misconduct by Postdocs Led to Retraction of Gene Therapy Papers | Science | AAAS保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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