哲学:マガリ・ロケス(Magali Roques)(フランス)

2024年1月15日掲載 

ワンポイント:国立科学研究センター(CNRS)・研究員のロケスは、2015~2020年に出版した14論文が盗用で2020~2021年に撤回された連続盗用者(Serial Plagiarist)である。しかし、国立科学研究センターのネカト調査委員会は「剽窃だが盗用ではない(‘unacknowledged borrowings’ but not plagiarism)」と、研究公正の基準・認識が異常な結論を下した。典型的な「研究機関のネカト調査不正」事件である。但し、ロケスは、2021年に国立科学研究センターを解雇され、研究者を廃業した。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

マガリ・ロケス(Magali Roques、ORCID iD:?、写真出典)は、フランスの国立科学研究センター(CNRS:Centre national de la recherche scientifique)・研究員で、専門は哲学(中世哲学)である。

2020年夏(37歳)、デンマークのネカトハンターであるパーニル・ハースティング(Pernille Harsting)が、ロケスの盗用を見つけ、論文を掲載していた学術誌「Vivarium」に通報した。

2021年3月xx日(38歳)、国立科学研究センター(CNRS)のネカト調査委員会は、驚いたことに、ロケスの論文は「剽窃だが盗用ではない(‘unacknowledged borrowings’ but not plagiarism)」と異常な結論を下した。つまり、学術的不正行為ではないとした。

2021年7月4日(38歳)頃、しかし、ロケスはフランスの国立科学研究センターから解雇された。

ロケスは連続盗用者(Serial Plagiarist)で、2015~2020年に出版した14論文が盗用で2020~2021年に撤回された。この盗用事件を契機に、ロケスは研究者を廃業した。

国立科学研究センター(CNRS:Centre national de la recherche scientifique)。写真出典

  • 国:フランス
  • 成長国:フランス
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:トゥール大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:1983年生まれ。仮に1983年12月31日生まれとする
  • 現在の年齢:40 歳?
  • 分野:哲学
  • 不正論文発表:2015~2020年(32~37歳)の6年間
  • ネカト行為時の地位:ドイツのベルリン自由大学、スイスのジュネーヴ大学、フィンランドのヘルシンキ大学などのポスドク、国立科学研究センター・研究員
  • 発覚年:2020年(37歳)
  • 発覚時地位:国立科学研究センター・研究員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのパーニル・ハースティング(Pernille Harsting)
  • ステップ2(メディア):「Daily Nous」紙のジャスティン・ワインバーグ(Justin Weinberg)記者が秀逸。「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②国立科学研究センター・調査委員会
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:あり。https://mis.cnrs.fr/wp-content/uploads/2021/06/Report-on-MR-case.pdf
  • 所属機関の事件への透明性:ロケスを「MR」と呼ぶ匿名発表(Ⅹ)[機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)]
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:14論文が撤回
  • 盗用ページ率:未算出%
  • 盗用文字率:未算出%
  • 時期:研究キャリアの初期と中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:国立科学研究センターから解雇処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Magali Roques | LinkedIn

  • 生年月日:1983年生まれ。仮に1983年12月31日生まれとする
  • 2005年(22歳):フランスのソルボンヌ大学(Université Paris-Sorbonne)で学士号取得:哲学
  • 2007年(24歳):同大学で修士号取得:哲学
  • 2008~2012年(25~29歳):トゥール大学(Université de Tours)で研究博士号(PhD)を取得:哲学
  • 2012~2019年(29~36歳):ドイツのベルリン自由大学、スイスのジュネーヴ大学、フィンランドのヘルシンキ大学などでポスドク
  • 2015~2020年(32~37歳):この6年間に出版した14論文が後に撤回
  • 2019年10月(36歳):フランスの国立科学研究センター(CNRS:Centre national de la recherche scientifique)・研究員
  • 2020年夏(37歳):盗用が発覚
  • 2020~2021年(37~38歳):2015~2020年に出版した14論文が撤回
  • 2021年7月4 日(38歳)頃:フランスの国立科学研究センターから解雇
  • 2024年1月14日(41歳)現在:2021年以降は論文を出版していこともあり、研究者を廃業したようだ

●4.【日本語の解説】

★202x年x月xx日:著者不記載:「科学的違法行為事件のリスト List Of Scientific Misconduct Incidents」

英語文章の機械翻訳の印象。

出典 → ココ

パリの国立科学研究センター(CNRS)の哲学者で臨時研究員であるマガリ・エリーゼ・ロケス(フランス)は、2020年の学術盗作捜査の対象となった。その後、彼女の雑誌出版物のいくつかが撤回され、詳細な撤回通知が記載されている彼女の雑誌「ビバリウム」に掲載されました。 CNRS調査委員会は、ロケスに対する盗作疑惑は不当であるとしたものの、「英語で書かれた[ロケスの]著作全体には、いわゆる悪い学術慣行が定期的に存在することにより重大な欠陥があった」と認定した。ある」と彼は報告した。これは積極的過失の一形態である。2023年の時点で、ロケス氏は発表した論文のうち13本が撤回されている。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★発覚の経緯

2020年夏(37歳)、デンマークのネカトハンターであるパーニル・ハースティング(Pernille Harsting、写真出典)が、マガリ・ロケス(Magali Roques)の論文を掲載していた学術誌「Vivarium」に、論文の盗用疑惑を通報した。

ハースティングはマーチン・ストーン(Martin Stone)の盗用摘発にも貢献した。ストーン事件の白楽記事では、ハースティングの貢献を記載し損なった。ゴメン。 → 哲学:マーチン・ストーン(Martin Stone)(ベルギー) | 白楽の研究者倫理

哲学:マーチン・ストーン(Martin Stone)(ベルギー)

ハースティングの通報を受け、学術誌「Vivarium」は調査を始めた。その調査中に、ロケスは盗用を認めた。

★学術誌「Vivarium」

学術誌「Vivarium」はロケスの論文を撤回した。

最初にまとめて書くと、ロケスは連続盗用者(Serial Plagiarist)で、2015~2020年に出版した14論文が盗用で2020~2021年に撤回された。

2020年10月22日、編集者のクリストファー・シャベル(Christopher Schabel)とウィリアム・デュバ(William Duba)は、ロケスの盗用を証拠を示して、強く批判した。

盗用することで、限られた研究費、職、地位を不当に得るという盗用の悪影響を説明し、また、次の盗用を検出するのに役立つので、盗用の解析を公表すると説明した。

以下は学術誌「Vivarium」のその部分(英語のママ)。

★国立科学研究センター(CNRS)のネカト調査

マガリ・ロケス(Magali Roques)が所属する国立科学研究センター(CNRS)はフランス人以外の3人の専門家で構成するネカト調査委員会を設置した。

3人の委員は、①ルエディ・インバッハ(Ruedi Imbach、ソルボンヌ大学中世哲学名誉教授、写真出典)、②ジョン・マレンボン(John Marenbon、ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジ上級研究員、ケンブリッジ大学中世哲学名誉教授、イタリア・スヴィッツェラ大学客員教授)、③ティツィアナ・スアレス=ナニ(スイス・フリブール大学哲学科中世哲学教授Tiziana Suarez-Nani)、だった。

委員長は不明だが、白楽記事では、この委員会を仮にインバッハ委員会と呼ぶ。

2021年3月xx日、インバッハ委員会は調査を終え、調査報告書まとめた。

以下は論文の冒頭部分(出典:同)。全文(5ページ)は → https://mis.cnrs.fr/wp-content/uploads/2021/06/Report-on-MR-case.pdf

驚いたことに、インバッハ委員会は、「未承認の借用(unacknowledged borrowings)」と「盗用(plagiarism)」を区別し、ロケスの論文に学術的不正行為の盗用はないとした。つまり、「剽窃だが盗用ではない(‘unacknowledged borrowings’ but not plagiarism)」と異常な結論を下した。

告発者の1人で米国のオハイオ・ドミニカ大学(Ohio Dominican University)のマイケル・ドハティ準教授(写真出典)は、中世哲学の分野では依然として研究公正の基準・認識が異常である、と調査委員会の結論を批判した。

調査報告書は、ロケスの多くの論文が盗用で撤回されたこと、ロケスの論文を掲載した2つの学術誌が典型的な盗用だと指摘したことに触れていない、とも批判した。

典型的な盗用と認定し、撤回した学術誌・編集者の対処と比べると、インバッハ委員会はまるで茶番である。

★その後

中世思想の学術団体の国際中世哲学協会( Société Internationale pour l’Étude de la Philosophie Médiévale )・理事会は、インバッハ委員会の「剽窃だが盗用ではない(‘unacknowledged borrowings’ but not plagiarism)」と、シロの結論を下したことに大きな危惧を抱いた。

それで、盗用に関する次の声明を発表した。

盗用とは「意図的か非意図的かにかかわらず、出典の正確な書誌情報を引用せず、他人の言葉遣い、画像、アイデアを自分のもののように使うこと」と理解されるべきです。 → 声明全文はココ

2021年7月4日(38歳)頃、ロケスはフランスの国立科学研究センターから解雇された。

スコーパス(Scopus)でロケスの出版論文を検索すると、2020年に1報出版し、2021年以降は論文を出版していない。以下の図出典 → Roques, Magali – Scopus Preview

この盗用事件を契機に、ロケスは研究者を廃業したようだ。

【盗用の具体例】

盗用の具体例を2つ示す。

左が被盗用文章、右がマガリ・ロケス(Magali Roques)の盗用文章。
赤字が逐語盗用の単語

以下の盗用比較図の出典:https://dailynous.com/2020/11/11/philosopher-revealed-serial-plagiarist/

――――――――――1つ目

――――――――――2つ目

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★スコーパス(Scopus)

2024年1月14日現在、スコーパス(Scopus)で、マガリ・ロケス(Magali Roques)を「Magali Roques」で検索した。26論文がヒットした。

但し、2020年の1報が最後で、2021年以降は論文を出版していない。

★撤回監視データベース

2024年1月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマガリ・ロケス(Magali Roques)を「Magali Roques」で検索すると、2015~2020年に出版した14論文が2020~2021年に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年1月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マガリ・ロケス(Magali Roques)の論文のコメントを「Magali Roques」で検索すると、1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》異常な調査不正 

ロケス事件はマガリ・ロケス(Magali Roques)の明白な連続盗用事件だが、ネカト調査が異常である。

国立科学研究センター(CNRS)・研究員のロケスは、2015~2020年に出版した14論文が盗用で2020~2021年に撤回された。

しかし、国立科学研究センターから委嘱された3人の委員からなるネカト調査委員会は「剽窃だが盗用ではない(‘unacknowledged borrowings’ but not plagiarism)」と、異常な結論を下した。

驚くほど堂々たる「研究機関のネカト調査不正」である。

国際中世哲学協会・理事会は、困って、ネカト調査委員会の結論を真っ向から否定する声明を発表した。

そして、2021年7月4 日(38歳)、フランスの国立科学研究センターはロケスを解雇した。

ロケスは研究者を廃業した。

マガリ・ロケス(Magali Roques)、https://www.rtl.fr/actu/debats-societe/magali-roques-ecrivain-public-a-aix-en-provence-7789497240

《2》日本の似た調査不正 

日本の大学は「ネカト調査不正」だらけだが、ロケス事件と酷似した「ネカト調査不正」事件を以下に1つ示す。

2022年9月2日、岩手大学は、教育学部の菊地洋・准教授の盗用疑惑事件で、「不適切な流用(剽窃)」があったが、「盗用」(つまり、研究不正)ではない、とした。端的に言えば「剽窃だが盗用ではない」と結論した(下線は白楽)。

このたび、本学教員が執筆した論文に、研究者以外の者が執筆・公表した文章を引用元を明記するなどの適切な表示なく流用していたことから、研究活動において不適切な流用(剽窃)があったとして、国立大学法人岩手大学職員就業規則に基づき、当該教員に対して厳重注意を行いました。(出典:2022年9月2日:研究活動における不適切な行為について 国立大学法人 岩手大学

繰り返すが、岩手大学はネカト調査の結果、「不適切な流用(剽窃)があったが研究不正(盗用)ではない」とのこと。論旨が矛盾している。

なお、岩手大学の規則は盗用を「不正行為」としている(下線は白楽)。

盗用 他の研究者のアイディア、分析・解析手法、データ、研究結果、論文又は用語を、当該研究者の了解又は適切な表示なく流用する行為(岩手大学における研究活動に係る不正行為防止規則

世界変動展望が次のように批判している。

告発者の三宅勝久氏によると岩手大学は特定研究不正行為としての盗用ではなく不適切な流用(剽窃)であり、特定研究不正行為以外の不正行為だという。そのように判断した根拠は不明。剽窃だが特定研究不正行為としての盗用でないという判断は最近徐開欽の事件に対する国立環境研究所の判断と同様不正行為を隠蔽する研究機関について執筆したとおり、不正行為を認めたくないという考えが先にあり、でたらめな扱いで不正を隠蔽する。研究機関が腐っている事が原因である。このような研究機関は規則が紙切れで、実際には好き勝手に扱っている。(2022年9月6日:菊地洋 岩手大が盗用で厳重注意! – 世界変動展望

日本でこのデタラメな「ネカト調査不正」がまかり通っている。

ロケス事件と大きく異なる点は、日本の公的立場の人たち(岩手大学の教員、文部科学省、日本学術会議など)は誰一人、問題を是正しようとしなかったことだ。

そして、岩手大学は盗用者の菊地洋を解雇しなかった。

2024年1月14日現在、岩手大学・准教授に在職している:研究者詳細 – 菊地 洋

《3》防ぐ方法 

ロケスは連続盗用者(Serial Plagiarist)である。2015~2020年(32~37歳)の6年間の14論文が盗用で撤回された。多分、それ以外に論文も盗用論文なのだろう。

この場合の最も重要な点は、以下である。

ネカトの法則:「ネカトでは早期発見・厳罰処分が重要である」。

2015年(32歳)の1報目や2報目で摘発しておけば、その後のネカトは防げたはずだ。これに尽きる。

ネカトハンターを育成・奨励すべきなのだ。

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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】

① ◎2020年11月11日のジャスティン・ワインバーグ(Justin Weinberg)記者の「Daily Nous」記事:Philosopher Revealed as Serial Plagiarist (multiple updates) – Daily Nous
② ◎2021年6月26日のジャスティン・ワインバーグ(Justin Weinberg)記者の「Daily Nous」記事:CNRS Commission Defends Roques in Response to Plagiarism Accusations / Update: Roques Dismissed from CNRS (updated) – Daily Nous
③ 2021年6月26日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘A fig leaf that doesn’t quite cover up’: Commission says philosopher engaged in ‘unacknowledged borrowings’ but not plagiarism – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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