2024年1月10日掲載
ワンポイント:【長文注意】。スクリップス研究所(Scripps Research)・教授のアンダーセンは「2020年4月のNat Med」論文で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したのではなく、武漢の水産市場で自然発生したと、結論した。ところが、実は、武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩した可能性が十分にあると、論文の結論を否定する認識をしていたことが、2023年7月に発覚した。米国連邦政府が武漢ウイルス研究所に資金提供していたために、水産市場で自然発生したとするねつ造(?)論文を書いた。2023年7月11日、国会で公聴会が開かれた。現在、論文は撤回されておらず、撤回を要求するキャンペーンが張られている。スクリップス研究所は調査していない。科学に政治が介入した例。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
クリスチャン・アンダーセン(クリスティアン・アンダーソン、Kristian Andersen、Kristian G. Andersen、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のスクリップス研究所(Scripps Research)・教授で医師免許は持っていない。専門は進化生物学(ウイルス)である。
2020年4月(38歳?)、アンダーセンは「2020年4月のNat Med」論文で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したのではなく、武漢の水産市場(華南海鮮卸売市場)で自然発生したと、結論した。
ところが、2020年当時、アンダーセンは、実は、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から漏洩した可能性が十分にある、と上記論文の結論を否定する認識をしていたことが、2023年7月に発覚した。
実は、米国連邦政府は武漢ウイルス研究所に資金を提供していた。
そうなると、結果として、米国連邦政府が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の作成・漏洩に加担していたことになる。
それで、国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ・所長らは、裏で画策し、アンダーセンに「2020年4月のNat Med」論文で自然発生説を唱えさせ、武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩した説を陰謀論として中傷・否定することをたくらんだ、という話しである(真偽不明)。
フランシス・コリンズNIH所長やファウチ・所長を巻き込んだ大スキャンダルだが、デタラメ論文を発表したアンダーセンを含め、2024年1月9日現在、誰も処罰されていない。
スクリップス研究所(Scripps Research)がネカト調査を始めたという話しも聞こえてこない。
2024年1月9日現在、「2020年4月のNat Med」論文は撤回されていない。
スクリップス研究所(Scripps Research)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:デンマーク
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:英国のケンブリッジ大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2004年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
- 現在の年齢:42 歳?
- 分野:進化生物学(ウイルス)
- 不正論文発表:2020年(38歳?)
- ネカト行為時の地位:スクリップス研究所・教授
- 発覚年:2023年(41歳?)
- 発覚時地位:スクリップス研究所・教授
- ステップ1(発覚):ハッキングした電子メールを下院監視委員会の小委員会が入手して公聴会で追及。最初にハッキングした人、事態を把握した人は誰なのか不明
- ステップ2(メディア):「Daily Wire」、「Public」など多数のメディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①下院監視委員会・小委員会。②スクリップス研究所は調査していない。③研究公正局は調査していない
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
- 研究所の透明性:調査していない。発表なし(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:1報
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:(1):Kristian G. Andersen – Wikipedia、(2):研究費申請書では2018~2023年の職位が準教授とあるので、準教授が正式な職位かもしれない
- 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2004年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
- 2004年(22歳?):デンマークのオーフス大学(Aarhus University)で学士号取得:分子生物学
- 2009年(27歳?):英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)で研究博士号(PhD)を取得:免疫学
- 20xx年(xx歳):米国のハーバード大学(Harvard University)・ポスドク
- 2015年夏(33歳?):米国のスクリップス研究所(Scripps Research)・準教授、その後、教授(?)
- 2020年4月(38歳?):後で問題視される「2020年4月のNat Med」論文を発表
- 2023年7月(41歳?):不正が発覚
- 2024年1月9日現在(42歳?):スクリップス研究所(Scripps Research)・教授職を維持:Kristian Andersen | Scripps Research
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
講演動画:「Outsmarting Emerging Pathogens in an Interconnected World: Kristian Andersen, PhD, Scripps Research- YouTube」(英語)1時間2分21秒。
Scripps Researchが2020/04/16に公開
●4.【日本語の解説】
★2021年6月5日:朱 CK(CRI):米国の研究者 新型ウイルス発生源の見直しを表明
米国の著名なウイルス研究者のクリスティアン・アンダーソン(Kristian G Andersen)氏は新型コロナウイルスの発生源について、これまで、自然界からかそれとも実験室からか断言してきませんでしたが、このほど「自然界からだ」と断定しました。
続きは、原典をお読みください。
★2023年3月27日:Bethany Dawson [原文] (翻訳:大場真由子、編集:井上俊彦)(Business Insider Japan):新型コロナウイルス、武漢の市場発生説が有力に…WHO事務局長「中国は3年前にデータを共有するべきだった」
[原文]:China: Data May Link COVID-19 Virus to Raccoon Dogs in Wuhan Market
アメリカの学術雑誌のサイエンス(Science)によると、中国のチームが武漢の華南水産市場から収集した遺伝子サンプルの分析データを、フランスの国立科学研究センター(CNRS)の進化生物学者フローレンス・デバール(Florence Débarre)が削除される前に見つけたという。
このデータを分析したアメリカのスクリプス研究所(Scripps Research Institute)の進化生物学者クリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen)は、「このデータは(新型コロナウイルスの)起源が水産市場であったことをさらに指し示すものだ」と話している。
続きは、原典をお読みください。
★◎2023年8月10日:山崎洋介(世界日報):新型コロナ 流出説否定論文に撤回求める声 著者ら「ウイルス操作」認識 「科学的に有害」との指摘
新型コロナウイルスの起源を巡り、中国・武漢ウイルス研究所(WIV)からの流出を否定した2020年3月の論文の撤回を求める声が上がっている。著者らが実際にはウイルスが操作された可能性を認めるなど、論文の結論とは異なる考えを持っていたことが明らかになったからだ。(ワシントン・山崎洋介)
問題となっている論文は同年3月17日、医学誌ネイチャー・メディシンに発表された「SARS-CoV-2の近位起源」だ。新型コロナが「実験室で構築されたものでも、意図的に操作されたウイルスでもないことを明白に示している」などとして、流出説を全面的に否定した。
当時、同論文はメディアから高い注目を集め、流出説を「陰謀論」としてレッテル貼りするのに用いられた。国立アレルギー感染症研究所の所長だったアンソニー・ファウチ氏は、ホワイトハウスでの会見でこの論文に言及するなど、新型コロナの発生から1年以上もの間、議論すら否定する風潮をつくり出すことに大きな影響を与えた。
しかし先月、この論文の著者たちが、新型コロナがWIVから流出した可能性が十分にあると認識していたことが明るみに出た。
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
クリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen、Kristian G. Andersen)はデンマークのオーフス大学・学部を卒業し、英国のケンブリッジ大学で研究博士号(PhD)を取得した。その後、米国のスクリップス研究所(Scripps Research)・教授になった。
アンダーセン研究室には若い人がたくさんいる(下図出典、2023年の写真だと思う)。
★獲得研究費
クリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen、Kristian G. Andersen)は、2018~2023年の6年間で29件、計32,562,192ドル(約33億円)の研究費を得ていた。膨大な研究費だ。 → RePORT ⟩ Kristian G. Andersen
以下に2023年の5件を示した。
★問題点
2020年4月(38歳?)、クリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen)は「2020年4月のNat Med」論文で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したのではなく、武漢の水産市場(華南海鮮卸売市場)で自然発生したと、結論した。
- The proximal origin of SARS-CoV-2.
Andersen KG, Rambaut A, Lipkin WI, Holmes EC, Garry RF.
Nat Med. 2020 Apr;26(4):450-452. doi: 10.1038/s41591-020-0820-9.
下記の「2022年8月のScience」論文で上記主張を補強した。
- The molecular epidemiology of multiple zoonotic origins of SARS-CoV-2.
Pekar JE, Magee A, Parker E, Moshiri N, Izhikevich K, Havens JL, Gangavarapu K, Malpica Serrano LM, Crits-Christoph A, Matteson NL, Zeller M, Levy JI, Wang JC, Hughes S, Lee J, Park H, Park MS, Ching Zi Yan K, Lin RTP, Mat Isa MN, Noor YM, Vasylyeva TI, Garry RF, Holmes EC, Rambaut A, Suchard MA, Andersen KG, Worobey M, Wertheim JO.
Science. 2022 Aug 26;377(6609):960-966. doi: 10.1126/science.abp8337. Epub 2022 Jul 26.
しかし、2023年7月19日の「Public」記事によると、アンダーセンは、実は、2020年当時、新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所から漏洩した可能性が十分にある、と上記論文の結論と真逆の認識をしていた。 → 2023年7月19日の「Public」記事:Top Scientists Misled Congress About Covid Origins, Newly Released Emails And Messages Show
★ハッキング
連邦政府職員の電子メール上の職務上のやりとりは、仕事で行なっている公務である。私的な通信ではない。
情報公開法でその電子メールの公開を求められると、公開しなければならない。
それで、NIH 高官のデイビッド・モーレンス(David M. Morens、写真出典)は、「あるグループ」に対して、公務なのに、個人的な電子メールアカウントである「gmail」を使っていた。これは違法である。
アンソニー・ファウチ(Anthony Fauci)は、1984年11月2日~2022年12月31日、NIH・国立アレルギー感染症研究所・所長を務め、退職した。
モーレンスはファウチが退職するまでの25年間、ファウチの上級科学顧問を務めていた。
そして、「あるグループ」とは、新型コロナウイルスの自然発生説の支持者たちで、スクリップ研究所のクリスチャン・アンダーセン、テュレーン大学のロバート・ギャリー(Robert Garry)、オーストラリアのシドニー大学のエドワード・ホームズ(Edward Holmes)などである。
2021年9月8日、モーレンスの「gmail」サイトがハッキングされ、メールのやり取りが外部に漏れた。
誰が、どういう意図でハッキングしたのか?
モーレンスのメールには「GoF」にハッキングされた、とあるが、「GoF」が「ギャング・オブ・フォー (情報工学) – Wikipedia」を指しているのかどうか、白楽はわからない。とにかく、ハッキングされた。
以下は「ハッキングされた」メールのやり取りの部分(出典:同)。全文(46ページ)は → https://www.documentcloud.org/documents/23863749-david_morens_nih_emails_redacted
最初に、テキスト部分のグーグル翻訳を示す。
Peter とその同僚、
ご存知のとおり、NIH の電子メールは常に FOIA に設定されているため、私は常に Gmail で通信するようにしています。
昨日、私の Gmail がおそらく GoF の野郎たちによってハッキングされました。IT 部門がそれを修正するまで、NIH アカウントから時々メールを送信する必要があるかもしれません。
今日は数時間かかりましたが修正できませんでした。
私の Gmail に送信されたものは私の携帯電話には届きますが、NIH のコンピューターには届きません。
心配しないでください。私のアドレスのいずれかに送信してください。ニューヨーク タイムズに掲載されたくないものはすべて削除します。
d
デビッド M. モーレンス。 医学博士
★国会の委員会
2023年6月29日、ハッキングの1年9か月後、コロナウイルスパンデミックに関する下院・特別小委員会の委員長であるブラッド・ウェンストラップ下院議員(Brad Wenstrup、共和党、オハイオ州)は、小委員会が入手した文書(ハッキングされた電子メール)についてモーレンスに書簡を送った。
以下はウェンストラップ下院議員の書簡の冒頭部分(出典:同)。全文(9ページ)は → https://www.documentcloud.org/documents/23863745-20230629-brw-letter-to-dm-re-origins_redacted
書簡では、小委員会が所有する文書(ハッキングされた電子メール)によると、「モーレンスは透明性と情報公開法(FOIA)を回避するために個人的な電子メールを使用し、意図的に連邦記録を削除した可能性があり、公的な立場で名誉を傷つけた可能性がある」とした。
また、アンソニー・ファウチ所長が表に出ない方法で、新型コロナウイルス感染症の起源に影響を与えたい(つまり、自然発生説にしたい)と考えていたことを示す情報をモーレンスが持っているとした。
以下、山崎洋介の日本語の解説文が詳しいので、修正引用する。 → 2023年8月10日:山崎洋介(世界日報):新型コロナ 流出説否定論文に撤回求める声 著者ら「ウイルス操作」認識 「科学的に有害」との指摘
先月(2023年7月)、「2020年4月のNat Med」論文の著者たちが、新型コロナが武漢ウイルス研究所(WIV)から流出した可能性が十分にあると認識していたことが明るみに出た。新型コロナの起源について調査する下院監視委員会の小委員会が、著者たちによるメールや職場用チャット「スラック」の内容の提出を命じて入手し、その後、メディアなどを通して公開されたことによるものだ。
例えば、同論文を作成した2020年2月上旬、主著者であるカリフォルニア州スクリップス研究所のウイルス学者、クリスチャン・アンダーソン氏はスラックで、「分子データが流出説のシナリオと完全に一致しているため、この研究所から流出が起こった可能性が非常に高い」と主張。別の著者、テュレーン大学のウイルス学者ロバート・ギャリー氏は、新型コロナが武漢ウイルス研究所(WIV)の研究室で作成された可能性について「(ウイルスの感染力などを高める)機能獲得研究が行われていたことを考えれば、突飛なことではない」と指摘した。
一方、2023年7月11日に行われた同小委員会の公聴会で、アンダーソン氏はギャリー氏と共に証言に臨んだ。共和党議員からこの食い違いについて追及を受けたが、アンダーソン氏は、証拠を慎重に検討した結果、流出説が否定されたとして、「純粋な科学的なプロセス」だと強い口調で否定した。
アンダーソン氏はメールの中で、論文は、ファウチ氏とその上司だった当時のフランシス・コリンズ国立衛生研究所(NIH)所長らが執筆を促したとしている。両氏は論文の草稿にコメントしていたことが明らかになっており、作成にも関わっていたとみられる。
【動画2】 2023年7月11日の下院監視委員会・小委員会の公聴会
(英語)3時間17分13秒。
https://www.c-span.org/video/?529219-1/hearing-origins-covid-19
実は、新型コロナウイルス感染症のパンデミックの初期に、アンダーセンら科学者は、NIHとNIH・国立アレルギー感染症研究所から新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩した可能性について相談を受けていた。
アンダーセンは、2020年1月にアンソニー・ファウチ所長に宛てた電子メールの中で、ウイルスの特徴からウイルスが実験室で加工操作されたと思うと述べていた。
アンダーセンと彼の同僚は当初、ウイルスが中国の武漢にある研究所から流出した可能性があると考えていた。
しかし追加の分析と科学的証拠の集めた後、アンダーセンらはこの説には根拠がないと結論し、「2022年8月のScience」論文で、中国の武漢の市場で売られていた動物がウイルスの感染源である可能性が最も高いと結論した。
米国下院の共和党は、アンダーセンらとアンソニー・ファウチとの間の個人的なやりとりの情報から、両者は研究室漏洩の可能性を意図的に捻じ曲げて軽視しようとしているとした。
2023年7月、アンダーセンは米国下院特別小委員会で、コロナウイルスの発生源をめぐる彼と他の科学者との間の2020年初頭の議論について特別委員会で証言した。
アンダーセンは自分と共著者らに対する非難に反論し、新しいデータを検討した後、結論を変えるのは科学そのものだと主張した。
★批判
ラトガース大学のリチャード・エブライト教授(Richard H. Ebright、写真出典)は、この「2020年4月のNat Med」論文を「科学的詐欺でネカト(scientific fraud and scientific misconduct)」だと述べている。
「2020年4月のNat Med」論文で、新型コロナウイルスの起源が武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したのではなく、武漢の水産市場(華南海鮮卸売市場)で自然に発生したとしているが、著者らは、彼ら自身が論文の結論を信じていなかった。これは「科学的詐欺でネカト(scientific fraud and scientific misconduct)」だと批判した。
The 2020 “Proximal Origin” paper falsely claimed science showed COVID-19 did not have a lab origin. Newly released messages from the authors show they did not believe th「2020年4月のNat Med」論文e conclusions of the paper and show the paper is the product of scientific fraud and scientific misconduct.… pic.twitter.com/61daITfmA9
— Richard H. Ebright (@R_H_Ebright) July 22, 2023
「Biosafety Now! 」チームは「2020年4月のNat Med」論文の撤回を求める請願活動をしている。エブライト教授は、その「Biosafety Now! 」チームの主力メンバーの1人である 。
2024年1月8日現在、請願活動の賛同者は5,221人にのぼっていた。 → オンライン署名 · Retract “The proximal origin of SARS-CoV-2” (a fraudulent paper on the origin of COVID-19) · Change.org
2023年8月3日、米国のジャーナリストであるポール・タッカー(Paul D. Thacker – Wikipedia)のツイッターを以下に示す。話がそれるけど、「rhetorical jujitsu」と柔術(jujitsu)が英語として使われている。
まず、グーグルの翻訳(下線白楽)。
学術科学者が腐敗した行為に巻き込まれると、ほとんどの場合、彼らは「科学は攻撃を受けている」というレトリック柔術の動きに走る。
いいえ、あなたは社内コミュニケーションで不正行為を説明したことがバレた詐欺師です。
Pretty much anytime an academic scientist is caught in corrupt behavior they go for the “science is under attack” rhetorical jujitsu move.
No. You’re a fraud who got caught explaining your fraud in your own internal communications. pic.twitter.com/Hc3BPNyFx2
— Paul D. Thacker (@thackerpd) August 3, 2023
★論文撤回
学術誌「Nat Med」のジョアン・モンテイロ編集長(Joao Monteiro、写真出典)は、論文撤回を拒否している。
アンダーセンは単に意見を表明しただけで、論文の結論を否定したわけではない、という理由だ。
とはいえ、「2020年4月のNat Med」論文の研究結果には多くの問題があるのに、モンテイロ編集長は撤回に抵抗していると批判された。
批判されている理由には、2020年3月18日、実験室漏出仮説は陰謀論だとモンテイロ編集長自身がアンダーセンを擁護するツイートしたこともある。つまり、アンダーセンに肩入れしている印象が強いのだ。
Let’s put conspiracy theories about the origin of #SARSCoV2 to rest and help to stop spread of misinformation – great work from @K_G_Andersen #covid19 https://t.co/ekJNDl9Brx
— Joao Monteiro (@JMinImmunoland) March 17, 2020
★理由または邪推
新型コロナウイルスが武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したのではなく、武漢の水産市場(華南海鮮卸売市場)で自然に発生したと、結論した理由は、米国連邦政府が武漢ウイルス研究所のコロナウイルス研究に資金を提供していたためだと、指摘されている。
フランシス・コリンズNIH所長が、武漢ウイルス研究所のコロナウイルス研究にNIHが資金を提供していたと書いている。NIHは米国連邦政府の研究助成機関である。
出典:2023年7月25日:https://twitter.com/miltimore79/status/1683609182816161795
米国連邦政府は資金提供して、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の技術・知識などの研究成果を入手したかった。
それで、米国 連邦政府の NIHは武漢ウイルス研究所に資金を提供していた。しかし、そうなると、結果として、米国連邦政府が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の作成・漏洩に加担していたことになる。
資金提供を隠蔽したかったが隠蔽できない。となると、新型コロナウイルスが自然に発生したなら、米国連邦政府は非難されない。
それで、国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ・所長らは、裏で画策し、アンダーセンに「2020年4月のNat Med」論文で自然発生説を唱えさせ、武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩した説を陰謀論として中傷・否定することをたくらんだ、という話しである(真偽不明)。
キタナイやり方だ。(本当なら)
なお、アンダーソンは、「2020年4月のNat Med」論文の投稿を、国立アレルギー感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長(Anthony Fauci)の最終承認を待っている間、NIHから890万ドル(約9億円)の研究助成金を受け取っていた。アンダーソンはカネに目がくらんだということだ(そういう見方もできる)。 → 2023年7月17日記事:The US Government Sent Millions of Grant Dollars to Alleged COVID ‘Patient Zero,’ Documents Show | AIER
★処罰
NIH所長やアンソニー・ファウチを巻き込んだ大スキャンダルだが、デタラメ論文を発表したクリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen)を含め、今のところ誰も責任を問われていない。処罰されていない。
スクリップス研究所(Scripps Research)がネカト調査を始めたという話しも聞こえてこない。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
「2020年4月のNat Med」論文で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したのではなく、武漢の水産市場(華南海鮮卸売市場)で自然に発生したと、ねつ造した。
- The proximal origin of SARS-CoV-2.
Andersen KG, Rambaut A, Lipkin WI, Holmes EC, Garry RF.
Nat Med. 2020 Apr;26(4):450-452. doi: 10.1038/s41591-020-0820-9.
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。
★パブメド(PubMed)
2024年1月9日現在、パブメド(PubMed)で、クリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen、Kristian G. Andersen)の論文を「Kristian Andersen[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2006~2024年の19年間の145論文がヒットした。
2024年1月9日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2024年1月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでクリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen、Kristian G. Andersen)を「Kristian G. Andersen」で検索すると、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2024年1月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、クリスチャン・アンダーセン(Kristian Andersen、Kristian G. Andersen)の論文のコメントを「”Kristian G. Andersen”」で検索すると、7論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》政治的
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したのか自然発生したのか、感染症の研究では大きな問題である。
しかし、中国と米国の政治的攻防が大きく、科学的「真実」として伝えられる情報は、政治的な影響を受ける。どのような結論でも鵜呑みできない。「事実」は闇の中だろう。
アンダーセン事件を調べていて、政治が介入したエイズウイルスの発見者論争を思い出した。政治が介入すると、「事実」とは異なる結論になってしまう。 → 2009年10月14日記事:エイズウイルス発見の真実 | MRのための読書論 | ミクスOnline
更に書くと、ジャーナリストが「真実」を暴く旗手となり、「真実」を暴いた記事が社会にもてはやされる場合も危険である。世間はこの「真実」を受け入れやすい。
しかし、その「真実」も、意図的に仕組まれた「真実」の可能性が高い。白楽は鵜呑みにできない。
《2》スゴイ3点
―――1
アンダーセンの「2020年4月のNat Med」論文について、米国の国会が公聴会を開いて真偽を確かめた。
なんか、スゴイですね。
―――2
そして、その公聴会の動画を、公表する。 → Hearing on the Origins of COVID-19 | C-SPAN.org(右の画像出典)
これもスゴイですね。
―――3
NIH高官のデイビッド・モーレンス(David M. Morens)の個人電子メールをハッキングしたのも、スゴイ。
《3》ヘン3点
白楽ブログはアンダーセン事件をネカト問題として扱う。
仮にアンダーセンはクロで、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩した、としよう。
―――1
アンダーセンはなぜ、「2020年4月のNat Med」論文の結論と異なることを、論文投稿当時、電子メールで述べていたのだろう?
電子メールで述べていれば、メールの受診者がいるし、何かの折に、リークされる。
今回は、電子メールがハッキングされたとのことだ。
モーレンスの電子メールのパスワードが簡単だったためか、盗み取られたのだろうが、ハッキングした「GoF」(?)は、どんな意図でハッキングしたのだろう?
なんかヘンである。
モーレンスはハッキングされた被害者を装っているが、実は、意図的にリークしたのではないだろうか?
―――2
リチャード・エブライト教授(Richard H. Ebright)ら科学者たちが「2020年4月のNat Med」論文の撤回を求めて署名活動している。
これもヘンだ。
論文撤回を多数で求めるのは異常である。
科学的事実は多数決で決まらない。科学的事実は研究者の好み、思想信条、多数決とは無縁である。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は自然に発生したのではなく、武漢ウイルス研究所(WIV)から漏洩したという証拠を示して、「2020年4月のNat Med」論文の結論を否定するのが通常の学術論争ではないのか?
―――3
スクリップス研究所がアンダーセンのネカト調査をしないのも、ヘンである。
「2020年4月のNat Med」論文がネカトだと糾弾されている。それなら、データを精査し、事実なら、ねつ造・改ざん箇所を指摘できるハズだ。
アンダーセンは、6年間で約33億円の研究費を獲得しているスーパースターなので、調査したくないのだろうか?
今回も、研究公正は巨額のカネにひれ伏しているのか?
イヤ、研究公正はひれ伏さないけど、研究所長はひれ伏してしまう。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Kristian G. Andersen – Wikipedia
② ◎2023年6月29日のジミー・トビアス(Jimmy Tobias)記者の「Intercept」記事:NIH Official Advised Covid Scientists to Use His Personal Email
③ 2023年7月12日のマックス・コズロフ(Max Kozlov)記者の「Nature」記事:閲覧有料なので白楽未読:US congressional hearing produces heat but no light on COVID-origins debate
④ 2023年7月13日のダニエル・チェイティン(Daniel Chaitin)記者の「Daily Wire」記事:Scientists Agreed To Downplay Chinese Lab Leak Theory For Fear Of ‘S*** Show’, Messages Indicate | The Daily Wire
⑤ ◎2023年7月19日のアレックス・グーテンタグら(ALEX GUTENTAG, LEIGHTON WOODHOUSE, MICHAEL SHELLENBERGER, AND MATT TAIBBI)記者の「Public」記事:Top Scientists Misled Congress About Covid Origins, Newly Released Emails And Messages Show
⑥ ◎2023年8月1日のジョン・ミルティモア(Jon Miltimore)記者の「Catalyst」記事:Nature Journal ‘Caught-Red-Handed’ in Alleged Scientific Fraud
⑦ 2023年8月1日のイアン・マイルズ・チョン(Ian Miles Cheong)記者の「Rebel News」記事:Top scientists call for withdrawal of landmark Fauci-backed COVID-19 origins paper – Rebel News
⑧ 2023年8月7日のジョン・ミルティモア(Jon Miltimore)記者の「Foundation for Economic Education」記事:Nature’s Proximal Origin Paper Was a Work of ‘Fraud and Scientific Misconduct,’ Say Scientists Demanding a Retraction – Foundation for Economic Education
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