2021年12月18日掲載
ワンポイント:2014年12月12日(37歳?)、大学が調査を終えてから7年後(遅いですね)、研究公正局は、ミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)・ポスドクだったカウシィク・デブの「2006年2月のScience」論文の画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。2014年11月17日(37歳?)から3年間の締め出し処分を科した。なお、カウシィク・デブはインドに育ち、インドのジワジ大学(Jiwaji University)で研究博士号(PhD)を取得後、ミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)・ポスドクになった。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。なお、研究公正局は毎年、10件程度、クロと発表しているが、今年(2021年)はまだ3件しか発表していない。あと13日しかない。
ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
ーーーーーーー
●1.【概略】
カウシィク・デブ(Kaushik Deb、写真出典)は、インドに育ち、インドのジワジ大学(Jiwaji University)で研究博士号(PhD)を取得し、2005年(28歳?)頃、米国のミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)のポスドクになった。専門は発生生物学である。
2006年xx月(29歳?)、カウシィク・デブ(Kaushik Deb)の「2006年2月のScience」論文の画像がおかしいと、「Science」誌とミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)に匿名の通報があった。
2007年7月26日(30歳?)、ミズーリ大学コロンビア校はネカト調査の結果、カウシィク・デブが画像をねつ造・改ざんしたと発表した。
この頃、カウシィク・デブはミズーリ大学コロンビア校を辞職した(させられた?)。それ以降、行方不明・音信不通である。
2014年12月12日(37歳?)、2007年7月にミズーリ大学コロンビア校が調査を終えてから7年後(遅いですね)、研究公正局はカウシィク・デブが1報の発表論文(「2006年2月のScience」論文)の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2014年11月17日から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は普通の処分である。
ミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:インド
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ジワジ大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1977年1月1日生まれとする。2005年にポスドクに就いた時を28歳とした
- 現在の年齢:47 歳?
- 分野:発生生物学
- 最初の不正論文発表:2006年(29歳?)
- 不正論文発表:2006年(29歳?)の1年間
- 発覚年:2006年(29歳?)
- 発覚時地位:ミズーリ大学コロンビア校・ポスドク
- ステップ1(発覚):第一次追及者は匿名で、「Science」誌とミズーリ大学コロンビア校に通報
- ステップ2(メディア):「Scientist」、「USA TODAY」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミズーリ大学コロンビア校・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:1報の出版論文。撤回された
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:NIHから 3年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1977年1月1日生まれとする。2005年にポスドクに就いた時を28歳とした
- 19xx年(xx歳):インドのxx大学で学士号を取得
- 19xx年(xx歳):インドのジワジ大学(Jiwaji University)で研究博士号(PhD)を取得:分子生物学
- 2005年(28歳?)?:ミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)・ポスドク
- 2006年2月(29歳?):後に問題視される「2006年2月のScience」論文を出版
- 2006年(29歳?):不正研究が発覚
- 2006年(29歳?):ミズーリ大学コロンビア校・辞職。行方不明
- 2007年7月26日(30歳?):ミズーリ大学コロンビア校は調査の結果、カウシィク・デブがネカト者と発表
- 2014年12月12日(37歳?):研究公正局がネカトと発表
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★カウシィク・デブ(Kaushik Deb)
カウシィク・デブ(Kaushik Deb)はインドで生まれ、インドのジワジ大学(Jiwaji University)で分子生物学の研究博士号(PhD)を取得後、2005年(28歳?)頃、米国のミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)のポスドクになった。
ボスはマイケル・ロバーツ教授(R. Michael Roberts、写真 出典)である。
なお、カウシィク・デブ(Kaushik Deb、写真 出典)という同姓同名の別の研究者がいる。バングラデシュのチッタゴン工科大学(Chittagong University of Engineering & Technology)・教授だが、論文で検索すると、一緒にヒットしてしまう。
★ネカト
2006年xx月(29歳?)、カウシィク・デブ(Kaushik Deb)の「2006年2月のScience」論文の画像がおかしいと、「Science」誌とミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)に匿名の通報があった。
ミズーリ大学コロンビア校はネカト調査を開始した。
カウシィク・デブはネカト調査の開始を知り、ポスドクを辞め、行方不明になった。
2006年10月(29歳?)、「Science」誌は論文に懸念表明(expression of concern)を付けた。
2007年7月26日(30歳?)、ミズーリ大学コロンビア校は調査の結果、カウシィク・デブが画像をねつ造・改ざんしたと発表した。
発表翌日の2007年7月27日(30歳?)、「Science」誌はカウシィク・デブの「2006年2月のScience」論文を撤回した。この時、「Science」誌はカウシィク・デブの論文撤回の了承を得られなかった。他の著者3人からは論文撤回の了承を得ていた。
「Science」誌は、カウシィク・デブの連絡先が不明で、連絡できなかったと述べている。
★研究公正局
2014年12月12日(37歳?)、2007年7月にミズーリ大学コロンビア校が調査を終えてから7年後(遅いですね)、研究公正局はカウシィク・デブが1報の発表論文の画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。
2014年11月17日(37歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は普通の処分である。
1報の発表論文の書誌情報を以下に示す。
- Cdx2 gene expression and trophectoderm lineage specification in mouse embryos.
Deb K, Sivaguru M, Yong HY, Roberts RM.
Science. 2006 Feb 17;311(5763):992-6. doi: 10.1126/science.1120925.
上記の「2006年2月のScience」論文は、実は、2005年6月24日に「Nature」に投稿し、修正原稿を2005年9月14日に再投稿していた。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2014年12月12日(37歳?)の研究公正局の発表で、論文のネカト部分を指摘している。
★「2006年2月のScience」論文
「2006年2月のScience」論文の書誌情報を以下に示す。2007年7月27日、撤回された。
- Cdx2 gene expression and trophectoderm lineage specification in mouse embryos.
Deb K, Sivaguru M, Yong HY, Roberts RM.
Science. 2006 Feb 17;311(5763):992-6. doi: 10.1126/science.1120925.
研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見ようと思ったが、上記論文の閲覧は有料である。
本ブログの基本方針では、有料記事を引用しない。
それで、具体的な図を示せない。
ただ、研究公正局の説明によると、共焦点蛍光画像を写真である図1(図1C、1D、および1E)のデータをねつ造・改ざんした、とある。また、他の共焦点蛍光画像にもねつ造・改ざんがあった。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年12月17日現在、パブメド(PubMed)で、カウシィク・デブ(Kaushik Deb)の論文を「Kaushik Deb [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004~2021年の18年間の30論文がヒットした。
同姓同名の別人の論文がかなり含まれていると思われる。
2021年12月17日現在、「Kaushik Deb [Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2006年2月のScience」論文・1論文が2007年7月27日に撤回されていた。
★撤回監視データベース
2021年12月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでカウシィク・デブ(Kaushik Deb)を「Kaushik Deb」で検索すると、本記事で問題にした「2006年2月のScience」論文・1論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2021年12月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、カウシィク・デブ(Kaushik Deb)の論文のコメントを「Kaushik Deb」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》グズ・のろま
2007年7月にミズーリ大学コロンビア校が調査を終えてから、7年後の2014年12月12日に、研究公正局はカウシィク・デブ(Kaushik Deb)のねつ造・改ざんを発表した。
多くのネカトウオッチャーが何度も批判しているが、研究公正局は「グズ・のろま」である。
ネカト調査の「グズ・のろま」は、「グズ・のろま」そのものが大きな弊害をもたらす。
研究公正局は、長年、何度も批判されているのに、改善しない・できない。
どうしてなんだろう?
《2》他論文
デブ事件は、ポスドクのカウシィク・デブの「2006年2月のScience」論文にねつ造・改ざんがあったという事件である。
匿名者がこの論文の疑惑を通報した。
ミズーリ大学コロンビア校の調査報告書は非公開なので、白楽は読んでいないが、印象として、調べたのは「2006年2月のScience」論文だけである。
それ以前、カウシィク・デブは9報の論文を出版しているが、所属はインドのジワジ大学(Jiwaji University)である。だからミズーリ大学コロンビア校は調査しない。
ネカト論文のチェックという意味では、この9論文を含め、カウシィク・デブの全論文を調べる必要があると思うが、現在のネカト調査システムはそうなっていない。
なんとかすべきだ。
《3》2021年は3件で終り?
以下は、修正引用 → 引用元は、ヤ・ワン(王雅、Ya Wang)(米) | 白楽の研究者倫理
研究公正局は毎年、10件程度、クロと発表している。 → 1‐5‐2 米国・研究公正局(ORI、Office of Research Integrity) | 白楽の研究者倫理
今年(2021年)は、1月28日に「イビン・リン(Yibin Lin)」事件を1件発表し、その後、半年間、発表がなかった。8月16日にようやく2件目の「ヴァイラヴース・イン(Viravuth Yin)(米)」事件を発表した。
その後、2021年 9月15日、今年3件目の発表をした。 → ヤ・ワン(王雅、Ya Wang)(米) | 白楽の研究者倫理
そして、2021年12月18日現在、4件目の発表はない。今年の残りはあと13日間である。この13日間にクロを数件、イヤ、1件でも発表するだろうか?
今年は、2021年6月7日に、エリザベス・ハンドリー局長(Elisabeth Handley)が在任期間1年10か月弱で退任した。その後、2021年12月18日現在、新局長は就任していない。
それ以前から、研究公正局の内部人事は、何かとゴタゴタしていた。
現在もゴタゴタしているのだろうか?
研究公正局は1件のネカト調査に数年もかける。長年、グズ、のろま、と批判されてきた。
ネカト調査に数年もかけては、結果がシロであれクロであれ、被告発者とその研究室員、及び所属大学は宙ぶらりんのママを強いられるので、おかしくなってしまう。
現在のゴタゴタが「グズ、のろま」をさらに増長しないといいのだが、普通に考えれば、増長するだろう。コマッタもんだ。
と言っても、局員が怠惰というわけではなく、システムの問題と言われている。
米国政府がシステムを改善すべきなのだ。
なお、研究公正局のクロ発表数が減ったのは、米国のネカト行為数が減ったためだ、という可能性は、まず、ないでしょう。白楽が関知する米国のネカト事件数は研究公正局のクロ発表件数の数十倍あり、減っていません。
ーーーーーー
日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓
ーーーーーー
●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2014年12月12日:Case Summary: Deb, Kaushik | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2014年12月9日の連邦官報:2014-28859.pdf。(3)2014年12月9日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Misconduct in Science。(4)2014年12月12日:NOT-OD-15-034: Findings of Research Misconduct
② 2014年12月9日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Faking data earns stem cell researcher a ban on federal funding – Retraction Watch
③ 2006年11月14日のケリー・グレンズ(Kerry Grens)記者の「Scientist」記事:University of Missouri probes possible fraud – The Scientist – Magazine of the Life Sciences
④ 2007年2月13日のケリー・グレンズ(Kerry Grens)記者の「Scientist」記事:Biologists cleared of misconduct | The Scientist Magazine®
⑤ 2007年7月27日の著者名不記載の「USA TODAY」記事:‘Science’ retracts research for doctored photos – USATODAY.com
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します