2022年7月10日掲載
ワンポイント:サハダットはローレンシャン大学サドベリー校(Laurentian University of Sudbury)・教授(男性)で、2021年5月3日、85歳で亡くなった。その約40年前、当時26歳だった女性学部生のバーバラ・ロビンソンに性交を強要した。ロビンソンは妊娠し、その後流産し、人生がメチャメチャになった。2021年、サハダットの没後直ぐ、ロビンソンはローレンシャン大学サドベリー校に損害賠償として5億円を要求する訴訟を起こした。話が複雑になるが、ローレンシャン大学は訴訟の直前の2021年2月、倒産を申請している。約40年前のレイプ事件の真偽、加害教授は死亡、大学は倒産かもという状況で損害賠償はどうなるのか、他に被害女性がいるのか、特殊な事件です。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ジョン・サハダット(John Sahadat、写真出典)は、トリニダード・トバゴで生まれ育ち、カナダのローレンシャン大学サドベリー校(Laurentian University of Sudbury)の教授になった。専門は宗教学だった。
2021年5月3日、85歳で亡くなった。
その42年前、1979年(43歳)、当時26歳だった女性学部生のバーバラ・ロビンソン(Barbara Robinson)に性交を強要した。
ロビンソンは妊娠し、その後流産し、人生がメチャメチャになった。
2021年、サハダットの没後直ぐ、ロビンソンはローレンシャン大学サドベリー校に損害賠償として5億円を要求する訴訟を起こした。
話が複雑になるが、サドベリー大学はローレンシャン大学に併合されていて、ローレンシャン大学は訴訟の直前の2021年2月、財政危機で債権者保護を申請した。
この事件はいろいろな疑問が湧く。
約40年前のレイプ事件の真偽、加害教授は当時独身、裁判時点では加害者は死亡、このような状況で損害賠償はどうなるのか、他に被害女性がいるのか、よくわからない事件です。
ローレンシャン大学サドベリー校(Laurentian University of Sudbury)を。写真出典
- 国:カナダ
- 成長国:トリニダード・トバゴ
- 研究博士号(PhD)取得:サドベリー大学
- 男女:男性
- 生年月日:1936年2月22日
- 没年月日:2021年5月3日。享年85歳
- 没後年:2年
- 分野:宗教学
- レイプ行為:1979年(43歳)の約1年間(?)
- 最初に訴えられた:2021年(没後1年未満)
- 社会に公表年:2021年(没後1年未満)
- 社会に公表時地位:ローレンシャン大学サドベリー校・元教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の女性・バーバラ・ロビンソン(Barbara Robinson)で裁判所に訴えた
- ステップ2(メディア):「Sudbury News」紙
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①裁判所
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:レイプ
- 被害者数:女性学部生1人
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)、と言っても裁判前に死亡
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。損害賠償の要求額が5億円を2件なので
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:1936年2月22日。トリニダード・トバゴで生まれ育つ
- 1964年(28歳):カナダのハンティントン大学(Huntington University)で学士号取得
- 1964~1970年(28~30歳):インドと英国に滞在
- 1970~2010年(34~74歳):サドベリー大学(ローレンシャン大学Laurentian Universityと合併)・教授
- 1979年(43歳):女性学部生のバーバラ・ロビンソン(Barbara Robinson)(26歳)に性交を強要し、ロビンソンを妊娠させた
- 2021年5月3日(85歳):死亡:John Sahadat Obituary – Sudbury, ON
- 2021年7月28日(没2か月後):ロビンソンはサハダットによるレイプ処置の責任を、大学を被告に損賠賠償を求めた裁判を起こした
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ジョン・サハダット(John Sahadat)の人生
ジョン・サハダット(John Sahadat)は、トリニダード・トバゴで生まれ育ち、カナダのハンティントン大学(Huntington University)で学士号取得した。一時、インドと英国に滞在したが、1970年、カナダのサドベリー大学(University of Sudbury)の教員となった。その後、正教授となり、その地で生涯を過ごした。。
サハダットは、ローレンシャン大学サドベリー校での教え子のロレーヌ(Lorraine Sahadat)と卒業後かなり経った1987年(51歳)に再会し、その後、結婚した。2人の間に子供はいない。
サハダットは2021年5月3日、85歳で亡くなったが、妻・ロレーヌはその4か月後の2021 年9月18日、80歳で亡くなった。 → 出典と写真:SAHADAT, Lorraine – Obituary – Sudbury – Sudbury News
レイプ事件を起こした1979年当時、サハダットは独身だった。セクハラ事件と結婚や家族などの個人生活がどう絡むか不明であるが、関係していると考え、一応、記載している。
★ジョン・サハダット(John Sahadat)のレイプ事件概略
1979年(43歳)、サハダット教授は女性学部生のバーバラ・ロビンソン(Barbara Robinson、Barbara Jean Robinson)(26歳、1952年7月8日生まれ)に性交を強要し、挙句の果てに、ロビンソンを妊娠させた。
ロビンソンはその後流産した。
それから約40年がたった。
2021年5月3日、サハダットは85歳で亡くなった。
2021年7月28日、サハダットの没2か月後、バーバラ・ロビンソンはローレンシャン大学(Laurentian University)に損害賠償金として500万ドル(約5億円)を要求する訴訟を起こした。
2022年3月14日、バーバラ・ロビンソンはローレンシャン大学サドベリー校(Laurentian University of Sudbury)にも損害賠償金として500万ドル(約5億円)を要求する訴訟を起こした。
なお、1963年にサドベリー大学(University of Sudbury)は他大学を連合し、ローレンシャン大学(Laurentian University)の連合大学になった。それで、本記事ではローレンシャン大学サドベリー校(Laurentian University of Sudbury)としている。
2021年2月1日、突然だが、ローレンシャン大学は財政的に厳しく破産を宣言した。 → Laurentian University – Wikipedia
★レイプ事件と裁判
ロビンソンの主張の法廷で証明されていないが、裁判所の文書が2つ公表されている。
以下は法廷文書の冒頭部分(出典:同)。全文(93ページ)は → https://documentcentre.ey.com/api/Document/download?docId=35326&language=EN
以下も法廷文書の冒頭部分(出典:同)。全文(193ページ)は → https://documentcentre.ey.com/api/Document/download?docId=35315&language=EN
法廷文書によれば、サハダット教授は学部生であるロビンソンとは「信頼と権威」の上下関係にあり、「ロビンソンに対して強い影響力と支配力で、ロビンソンを性的に支配できた」。
サハダット教授はロビンソンに性交を強要し、その結果としてロビンソンは妊娠し、その後流産した。
この後、ロビンソンは、うつ病になり、大学教育が阻害され、その後の人生を支える収入を得る能力を獲得ができず、多くの損害をこうむった。
ローレンシャン大学サドベリー校がロビンソンに対して必要な義務を果たさなかった。これには、サハダット教授を適切に監督しなかったことや、ロビンソンや他の人々にサハダットの性向について警告しなかったことも含まれる。
ローレンシャン大学サドベリー校は、サハダット教授の不正行為を認識した後も、被害者を支援するために、サハダット教授の活動を調査するなどの措置を講じなかった。
★大学の財政危機
1960年、サドベリー大学はローレンシャン大学(Laurentian University)の一部になっている。
ローレンシャン大学は連合大学で、カナダのハンティントン大学(Huntington College)、サドベリー大学(University of Sudbury)、ソーンロー大学(Thorneloe College)などの集合体である。他のNipissing University College とAlgoma University Collegeと連合したり解消したりと変化激しい(白楽のここの記述は不正確かもしれません)。
ややこしいことに、2021年2月1日、ローレンシャン大学が訴えられる数か月前、財政的危機で債権者保護を申請した。
→ 2021年2月1日の「CBC News」記事:Laurentian University files for creditor protection | CBC News
2021年4月12日、再健の一環として、ローレンシャン大学は、58の学部プログラムと11の大学院プログラムの閉鎖を発表し、約200人の教職員を解雇した。残り、107の学部プログラムと33の大学院プログラムと約900人の教職員は維持している。
レイプ被害で賠償請求訴訟を起こしたロビンソンの訴訟は、裁判長が同じ人で債権者整理法に基づくローレンシャン大学の破産手続きと一緒に進行している。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》不思議な点
この事件は不明点が多い。一方、教訓、学ぶ点も多々あるように思う。
サハダット事件は約40年前のレイプ事件で、加害者のサハダットは死亡している。
なぜ、当時、刑事・民事事件にしなかったのか?
レイプ事件とはいえ、約40年前なので時効ではないのか?
時効で刑事事件にならないから損害賠償を大学に訴えたのか?
ロビンソンは1952年7月8日生まれなので、裁判を起こした2021年7月28日の時点で、69歳である。なぜ今頃になって裁判を起こしたのか?・・・弁護士に賠償金が得られると吹聴されたのか? サハダットが生きていては困ることがあったのか?
ロビンソンはレイプされた時、26歳で学部生だった。26歳の学部生は、通常より4~8年、歳を取っているが、この事件と関係があるのか?
ロビンソンは妊娠し流産したが、このようなレイプ事件で加害教授の子供を産んだ学生は、欧米、そして、日本ではかなりいた(いる)のだろうか? 調査データはあるのか?
サハダットはロビンソン以外にも女性学生を食い物にしたと思うが、その犠牲者はどうなっているのだろうか?
訴えられたローレンシャン大学は財政的に厳しく破産状態である。ロビンソンが裁判で全面的に勝訴しても5億円の賠償金は得られないのか?
《2》日本
日本とカナダで法律は異なる。もちろん文化も異なる。
日本では大学教授の性不正事件で、大学に損害賠償を請求した裁判はどのくらいあるのだろうか? 調べていないが、結構多い気もする。
最近の事件では、早稲田大学が被告になっている。加害准教授(女性)も被告だが、加害者の言い分を鵜呑みにしてチャンと調査しない早稲田大学は計750万円の損害賠償を要求された。 → 2022年3月26日記事:早大の女性准教授が教え子男性からセクハラで訴えられた!出張先や自宅、研究室で性交渉強要|日刊ゲンダイDIGITAL
性不正ではなくアカハラだが、被害者の男性教授が奈良女子大学に330万円を求める訴えを起こした。 → 2021年7月15日記事: 「学長からパワハラ」 評議員への指名拒否された奈良女子大教授が大学側を提訴
日本の大学は性不正・アカハラへの対処がいい加減なので、このような訴訟が今後、日本でもっとたくさん起こるだろう。
逆に言えば、被害者は日本の大学の対応の記録を残し、弁護士と相談し、大学を被告にすることで、賠償額を大きくできる。
日本の大学は、そのつもりで無策の性不正対策を改善すべきだが、まるで馬耳東風なので、当分は大学を被告にできる。
ただ、チョッと待て、早稲田大学への賠償請求額の750万円、奈良女子大学で330万円。これは低すぎないかい。サハダット事件では5億円を2件でっせ。2桁も違うのだから、日本では最低でも従来額より1桁以上アップしましょう。
「日本は先進国と価値観を共有」と偉い政治家が念仏のように何度も言っていた。「先進国と同等の賠償額を共有」しましょう。
《3》「性不正、アカハラ」ウオッチャー
性不正、アカハラの研究は今後発展すると思う。院生の博士論文そして、大学教員の研究テーマとして、有望だと思う。
「性不正、アカハラ」ウオッチャー ①
外国の研究者の「性不正、アカハラ」事件を解説し、日本の同問題を掘下げ・指摘・改善策を提案する方いませんかね。
白楽とは別の独立サイトで。
白楽はネカトだけでアップアップ。
乞ご連絡。Email:haklak“at”https://t.co/yKJYEuvwtU “at”の部分を@に pic.twitter.com/xTLBU1pZOX— 白楽ロックビル (@haklak) June 9, 2022
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① 2021年9月8日記事のジェニー・ラモス(Jenny Lamothe)記者の「Sudbury News」記事::Lifestory: Much-loved prof John Sahadat remembered for his wisdom, dedication – Sudbury News
② 2022年4月1日のハイジ・ウルリッヒセン(Heidi Ulrichsen)記者の「Sudbury News」記事:Historic sexual abuse allegation caught up in Laurentian’s CCAA process – Sudbury News
③ 2022年3月14日の裁判文書:Court File No./N° du dossier du greffe: CV-22-00078337-0000
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