2021年6月18日掲載
ワンポイント:ハーウッドは英国出身で、米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・準教授になった。2012~2015年(37~40歳?)の3年間、複数の院生にセクハラと性的暴行を繰り返した。2015年( 40歳?)、被害者が大学に告発し、大学は調査し、ハーウッドは辞職した。しかし、大学は調査報告書と性的暴行事件を隠蔽した。被害者の女性院生は激怒し、情報提供した学生新聞「ケンタッキー・カーネル」紙が大学を執拗に追求し大騒動になった。大学の透明性、事実の公表、個人情報の保護に関して、ケンタッキー州司法長官も発言し、大学が裁判で学生新聞を訴えるなど、考えさせられる事件になった。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ジェームズ・ハーウッド(James Harwood、写真出典)は英国出身で、2003年、28歳(?)で、米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・準教授になった。専門は昆虫学である。
2012~2015年(37 – 40歳?)の3年間、ハーウッド準教授は複数の院生(男女)にセクハラと性的暴行を繰り返した。
2015年(40歳?)、被害院生の内2人が大学に告発した。
2015年12月xx日(40歳?)、ケンタッキー大学はハーウッド事件の調査を終了した。しかし、調査報告書を秘密にした。
というのは、ハーウッドの辞職と引き換えに、ハーウッドが別の大学で教授職を得られるように調査報告書を公表しないという示談を締結したからだ。
被害院生(女性)は、ケンタッキー大学がハーウッドの性的暴行を隠蔽したことに激怒し、ケンタッキー大学の学生新聞「ケンタッキー・カーネル」に訴えた。
「ケンタッキー・カーネル」紙は調査報告書を入手し事件を報道した。
この事件は、ケンタッキー州のアンディ・ベシア司法長官(Andy Beshear)が情報開示を求めたり、ケンタッキー大学が自分の大学の学生新聞「ケンタッキー・カーネル」を裁判に訴えたり、個人情報の開示論争を引き起こした。 → この点に関しては、明日(2021年6月19日)の記事「7-72 大学が守るプライバシーは誰のため?」もご覧ください。
なお、ハーウッドは、事件発覚4年後の2020年9月22日(45歳?)、ケンタッキー大学・昆虫学科に研究員に、コッソリ復職していた。
ケンタッキー大学(University of Kentucky)。出典:https://www.axiomimages.com/aerial-stock-photos/view/DXP001_100_0012。Royalty Free Aerial stock photo of the William T Young Library at the campus of the University of Kentucky; Lexington, Kentucky
ケンタッキー大学・昆虫学科棟(Department of Entomology University of Kentucky)。グーグルマップで白楽が作成。写真出典
- 国:米国
- 成長国:英国
- 研究博士号(PhD)取得:英国のカーディフ大学
- 男女:男性
- 生年月日: 不明。仮に1975年1月1日生まれとする。1993年に大学に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:49 歳?
- 分野:昆虫学
- セクハラ行為:1912 – 2015年(37 – 40歳?)の3年間
- 最初に訴えられた:2015年(40歳?)
- 社会に公表年:2016年(41歳?)
- 社会に公表時地位:ケンタッキー大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の女性院生(氏名不開示)で大学に公益通報
- ステップ2(メディア):ケンタッキー大学の学生新聞「Kentucky Kernel」、「USA Today」、「BuzzFeed」など
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ケンタッキー大学・調査委員会。②裁判
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:大学は隠蔽の意図あり(✖)
- 不正:セクハラと性的暴行
- 被害者数:ハッキリしている被害院生(女性と男性)は5人
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
- 処分:辞職
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1975年1月1日生まれとする。1993年に大学に入学した時を18歳とした
- 1993 – 1997年(18 – 22歳?):英国のカーディフ大学(Cardiff University)で学士号取得:生物学
- 1997 – 2001年(22 – 26歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得
- 2003年(28歳?):米国のケンタッキー大学(University of Kentucky)・準教授
- 2012 – 2015年(37 – 40歳?):3年間、複数の院生にセクハラと性的暴行を繰り返した
- 2015年(40歳?):被害者が大学に告発
- 2015年12月xx日(40歳?):ケンタッキー大学は調査を終了。大学は、調査報告書を秘匿
- 2016年2月xx日(41歳? ):ケンタッキー大学・辞職
- ハワイ、中国の大学などを転々とする
- 2020年9月22日(45歳?):ケンタッキー大学・昆虫学科に研究員として復職
●3.【動画】
【動画1】
セクハラ事件の動画ではない。ハーウッドは話がとても上手。研究説明動画:「Professor James Harwood discusses the upcoming Frontiers Symposium – YouTube」(英語)3分15秒。
KAUST Officialが2015/11/17に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ セクハラと性的暴行
2012~2015年(37 – 40歳?)の3年間、ハーウッド準教授は複数の院生にセクハラと性的暴行を繰り返した。
ハッキリしている被害院生(女性と男性)の人数は5人で、内2人が2015年に大学に告発した。
2015年12月xx日(40歳?)、ケンタッキー大学はハーウッド事件の調査を終了した。しかし、調査報告書を、当初は秘密にしていた。
調査報告書は、ハーウッド準教授を解雇しテニュアを取り消すよう勧告した。
しかし、ケンタッキー大学はハーウッド準教授と別の内容の示談を結んだ。
その内容は、ハーウッド準教授が別の大学で教授職を得られるように調査報告書を開示しない。それと引き換えに、大学は懲戒聴聞会を開くなどの長いプロセスを経て解雇することの代わりに、ハーウッド準教授が自発的に辞任する、という内容だった。
以下は示談書の冒頭部分(出典:同)。全文(7ページ)は →https://www.documentcloud.org/documents/3235027-James-Harwood-Resignation-from-UK.html
2016年2月xx日(41歳?)、ハーウッド準教授は2016年 8月31日までの4か月間の給料をもらう契約でケンタッキー大学を辞職すると発表した。なお、年俸は$109,900(約1,099万円)である。
辞職の理由を新聞記者に聞かれ、ケンタッキー大学は家族の病気のためだと答えた。
この発表に対して、ケンタッキー大学は被害院生、在籍生、一般市民を犠牲にしてハーウッド準教授を擁護し、過剰に守っていると、被害院生は激怒した。
ハーウッド準教授が辞任した後、2人の被害院生はケンタッキー大学の学生新聞であるケンタッキー・カーネル社(Kentucky Kernel)に性不正事件の内容を伝え、記事にするよう要請した。
★情報開示要求
ケンタッキー大学の学生新聞であるケンタッキー・カーネル社は大学に事件記録の開示を請求した。
ケンタッキー大学は当初、ケンタッキー・カーネル社にハーウッド準教授との和解文書を提供した。しかし、調査報告書の開示を拒否した。 → Kentucky Kernel appeals UK’s decision to deny open records request | News | kykernel.com
それで、ケンタッキー・カーネル社はケンタッキー州のアンディ・ベシア司法長官(Andy Beshear、写真出典。3年後の2019年12月からケンタッキー州知事)に相談した。
2016年8月8日(41歳?)、ケンタッキー州のアンディ・ベシア司法長官(Andy Beshear)は、関係者の名前と個人識別子をクロ塗りして事件記録を公開すべきだと裁定した。
→ UK violated open records law by keeping documents from Kernel, Attorney General rules | News | kykernel.com
翌日の2016年8月9日(41歳?)、ところが、ケンタッキー大学のイーライ・カピルート学長(Eli Capilouto、写真出典)はそれがプライバシーの侵害になるという理由でこの要求を拒否した。 → 2016年8月9日のケンタッキー大学のブログ:The Tension of Competing Values | UKNow
しかし、拒否は「ケンタッキー州記録公開法Kentucky’s Open Records Act」に違反していた。 → 資料①https://transparency.ky.gov/accountability/Pages/openrecords.aspx、②https://web.archive.org/web/20210428075532/https://kentuckystatepolice.org/open-records-requests/、③https://web.archive.org/web/20180921081033/http://www.lrc.ky.gov:80/Lrcpubs/OpenMtgsRecords.pdf
「ケンタッキー州記録公開法」によれば、ハーウッド準教授が辞任し調査が終了した時点で、ケンタッキー大学は事件記録の開示を拒否できないと思われた。
ところが、2016年8月(41歳?)、ケンタッキー大学は自分の大学の学生新聞であるケンタッキー・カーネル社を裁判所に訴えた。 → 2016年8 月23日のアジーン・ゴーラシ(Azeen Ghorayshi)記者の「BuzzFeed」記事:University Will Sue Its Own Student Newspaper For Reporting On Sexual Assault Case
そしてナント、2017年1月(42歳?)、ケンタッキー大学は勝訴したのである。
→ 2017年1月24日のタイラー・キングケード(Tyler Kingkade)記者の「BuzzFeed」記事:A University Sued Its Own Student Newspaper And Won
ケンタッキー州レキシントンのファイエット郡巡回裁判所(Fayette County Circuit Court)のトーマス・クラーク裁判長(Thomas Clark)は、被害者や目撃者の名前をクロ塗しても、性的暴行やアカハラの詳細を開示すると、被害院生が誰であったかが特定され、「学生プライバシー連邦法(federal privacy laws for students)」に違反すると判決したのだ。 → Federal Student Privacy Laws – FERPA & COPPA
★事件記録
ケンタッキー大学は事件記録を公式には開示しなかったが、実は、匿名の関係者が、ケンタッキー・カーネル社に全調査報告書(全部で122ページ)をリークした。白楽が思うに、こういう点、米国って、面白いですね。
事件記録には、ハーウッド準教授に対する7か月にわたる調査の詳細が含まれていた。また、被害院生がハーウッド準教授に対して約3年間、告発していた事項も含まれていた。
ケンタッキー・カーネル社が入手したケンタッキー大学の調査報告書。写真出典
この事件記録は、ケンタッキー大学の「タイトル・ナイン(Title IX)」副コーディネーターであるマーサ・アレクサンダー(Martha L. Alexander、写真出典)が署名していた。そして、ケンタッキー大学農学部長、副顧問(associate general counsel)、「タイトル・ナイン(Title IX)」コーディネーターに送付されていた。
2016年8月13日、ケンタッキー・カーネル社のマージョリー・カーク編集長(Marjorie Kirk、写真出典)は、内容を新聞記事に掲載した。
→ 2016年8月13日のマージョリー・カーク(Marjorie Kirk)記者の「Kentucky Kernel」記事:Kernel obtains withheld records; victims say UK trying to protect professor in sexual assault case | News | kykernel.com、(保存版)
ケンタッキー・カーネル社の方針には、性的暴行の被害者の許可なく被害者の氏名など特定できる情報を報道しない、とある。
調査報告書には記載されているが、被害者の許可を得ていないので、上記記事では被害者の氏名は公表していない。ただ、後述するように、この調査報告書を基に、被害状況を新聞記事に掲載した。
★ネカトもあった
ハーウッド事件は性不正行為として述べてきたが、実は、データねつ造もあった。 → 2016年8月22日のマージョリー・カーク(Marjorie Kirk)記者の「Kentucky Kernel」記事:Resigned professor accused of research misconduct | News | kykernel.com
2016年6月1日(41歳?)、ハーウッド準教授は、英国とオマーンとの国際研究「グンバイウンカ・プロジェクト(Dubas Bug Project)」で約5万ドル(約500万円)の研究助成金を得ていた。
しかし、その研究申請書にデータねつ造があったと、共同研究者のマイケル・シトヴァリン(Michael Sitvarin、写真出典)が告発した。
シトヴァリンは、2014年からハーウッド準教授のポスドクだったが、告発した時は、ジョージア州立大学(Georgia State University)・講師で、2021年6月17日現在はクレイトン州立大学 (Clayton State University)・助教授である。 → Clayton State University、保存版
シトヴァリン助教授によると、ケンタッキー大学に告発すると、直ぐに、ケンタッキー大学の捜査官が「ラボを襲撃(“stormed the lab”)」し、研究室のハードドライブとファイルをコピーした。そして、研究室の全員に、調査に関する情報を削除または破棄しない契約書に署名させた。
その契約書には秘密保持条項として、「これは機密事項であり、大学の調査員以外の誰ともこの問題について話すことを禁止する」とあった。シトヴァリン助教授はほぼ強制的にその書類に署名させられた。
ところが、ケンタッキー大学は予備調査をした後、しばらくして、本調査をしないと決定したのである。
ケンタッキー大学のウィリアム・トロ顧問弁護士(William Thro、写真出典)は、予備調査の後、データねつ造の本調査をすることになった。しかし、ハーウッドが2016年2月に辞任し、ケンタッキー大学は8月末で彼の雇用を終了するので、大学は本調査を継続しないと決定したのだ、と説明した。
本調査を継続することで、大学は多くの時間とお金がかかる。しかし、最終的には、どのみち、ほぼ同じ結果になる。ネカトの本調査をする・しないの違いは、クロとなった時に、ハーウッドは辞任ではなく解雇になる程度だと、トロ顧問弁護士は説明を追加した。
★裁判記録:2021年3月25日
2021年3月25日公開の裁判記録もある。白楽は軽く読んだだけで精読していない。
以下は2021年3月25日公開の裁判記録の冒頭部分(出典:同)。全文(37ページ)は → https://www.uky.edu/legal/sites/www.uky.edu.legal/files/Decisions/University%20of%20Kentucky%20v.%20Kernel%20Press%20%28Ky.%202021%29.pdf
★ハーウッド準教授のその後
2016年2月xx日(41歳?)、ハーウッド準教授は、ケンタッキー大学を辞職した。
その後、米国内を転々とし、2017年頃、中国の大学に職を見つけ、中国に移住し、研究を続けていた。
中国で、性不正行為やネカトを再度犯したかどうか不明である。採用した中国の大学が米国での性不正事件やネカト事件を知っているかどうかも不明である。
2017年頃~2020年9月の3年間、中国内で一度転籍している。性不正事件やネカト事件と関連があるかもしれない。
そして、なんと、2020年9月22日(45歳?)、ハーウッド準教授は、古巣のケンタッキー大学・昆虫学科に舞い戻った。
性不正やネカト事件を犯した人を呼び戻したいほど、ハーウッドは優秀だったのだろうか?
ハーウッド準教授が米国政府から獲得したグラントを調べると、1件もヒットしなかった、つまり科学庁(NSF)などからの研究助成額はゼロだった。ケンタッキー大学に巨額のお金をもたらしたわけではなかった。 → Grantome: Search
それなのにケンタッキー大学・昆虫学科はハーウッドをどうして呼び戻したのだろうか?
――――以下は2016年~2020年9月のハーウッドの所在・所属
「2016年9月のJ Am Mosq Control Assoc」論文では、所属は米国の海軍昆虫学センターオブエクセレンス:Navy Entomology Center of Excellence, Box 43, Building 937, Naval Air Station, Jacksonville, FL
「2017年2月のJ Chem Ecol」論文では、所属大学がなく、米国ハワイのホノルルの滞在先と思われる「2847 Gordon Street, Honolulu, HI, USA.」が書いてあった。
「2018年2月のChemosphere」論文~「2019年12月のPest Manag Sci.」での所属は、中国の青島農業大学(College of Plant Health and Medicine, Qingdao Agricultural University, Qingdao, China)だった。
そして、以下の「2020年11月のJ Agric Food Chem.」論文での所属は、北京農林科学アカデミー・植物環境保護研究所(Institute of Plant and Environment Protection, Beijing Academy of Agricultural and Forestry Sciences)所属になっている。
- Identification and Functional Characterization of a Sigma Glutathione S-Transferase CpGSTs2 Involved in λ-Cyhalothrin Resistance in the Codling Moth Cydia pomonella.
Hu C, Wei ZH, Li PR, Harwood JD, Li XY, Yang XQ.
J Agric Food Chem. 2020 Nov 11;68(45):12585-12594. doi: 10.1021/acs.jafc.0c05233. Epub 2020 Oct 27.PMID: 33107730
2020年9月22日、ハーウッド準教授は、古巣のケンタッキー大学・昆虫学科に舞い戻った。
ジョン・オブリッキ学科長(John J. Obrycki、写真出典)の研究員(Postdoctoral Associate)になっていた(保存版)。
そして、その後、ケンタッキー大学・所属で論文を発表している。
●【性不正行為の具体例】
ハーウッド準教授の性不正行為の事件記録は公式には開示されなかったが、ケンタッキー・カーネル社はケンタッキー大学の調査報告書を非公式に入手していた。
以下は、ケンタッキー・カーネル社にリークされた事件記録(全部で122ページ)を基にしたケンタッキー・カーネル新聞の記事に基づく。 → 2016年8月13日のマージョリー・カーク(Marjorie Kirk)記者の「Kentucky Kernel」記事:Kernel obtains withheld records; victims say UK trying to protect professor in sexual assault case | News | kykernel.com、(保存版)
2016年9月8日公開の裁判記録。匿名被害者がケンタッキー大学を訴えた。
以下は2016年9月8日公開の裁判記録の冒頭部分(出典:同)。全文(23ページ)は → https://www.uky.edu/legal/sites/www.uky.edu.legal/files/Victim-Survivors-Amicus_Brief_as_Filed.pdf
【被害者:女性院生A】
2013年(38歳?)、ジェームズ・ハーウッド準教授(James Harwood)の指導を受けていた女性院生A(被害者)は、別の女性院生Bと一緒に昆虫学の学術集会に出席した。
旅行の間中、女性院生Aはハーウッド準教授が不適切な言動をするのを不快に感じていた。
ある晩、ハーウッド準教授は2人の院生とレストランで夕食をとった。その間、彼は女性院生Aのお尻、胸、股間を繰り返し触った。一緒にいた女性院生Bは女性院生Aが嫌がっていたのは明らかだったと証言している。
夕食が終わって、レストランから帰るその晩、女性院生Aが嫌がっているのに、ハーウッド準教授が真夜中頃まで院生Aの身体を触る性的暴行をしていた。ハーウッド準教授が去ったとき、女性院生Aは道端の縁石に座って泣いていたと、女性院生Bは述べている。
翌日、ショックで消沈していた女性院生Aは、なんとか振り絞って、ハーウッド準教授に、学術集会での研究発表にこないで欲しいと電子メールで伝えた。
彼は、「わかった。そんなことはどうでもいいや」と答えた。
彼女は「どうでもよくありません。あなたは昨夜、してはいけない一線を越えていました。私が研究発表する時、あなたが会場にいて欲しくない理由がわからないなら、あなたは深刻な問題を抱えることになります」。
報告書によると、調査では、ハーウッド準教授は女性院生Aに性的暴行をしていないと主張し、女性院生Aの申立てを否定した。
ハーウッド準教授は次のように、「私が女性院生Aの博士論文を批判したので、それを根に持った女性院生Aが嘘をついたのです」と女性院生Aを非難した。
報告書によると、女性院生Aは、自分の博士論文の審査が終了するまで報復されることを恐れ、表立った行動を控えていた。
博士論文の審査が終わった後、ハーウッド準教授からの性的暴行の証拠を大学に提出した。つまり、昆虫学の学術集会の夜の性的暴行を受けた時の状況の説明、写真による証拠、タイムスタンプ付きの電子メール、事件当夜のハーウッド準教授・女性院生Bの証言、を提出し、ハーウッド準教授の主張を反証し、大学に調査を進めさせた。
女性院生Aは、ハーウッド準教授が別の女性学生にも性的暴行をしたと聞いたとき、さらなる事件を食い止めるため、事件を告発することに決めていた。
女性院生Aは、博士論文の審査が終了すれば、ハーウッド準教授は女性院生Aに強い報復をできないと考え、博士論文の審査が終了した後に性的暴行とアカハラを告発した、と述べている。
報告書によると、研究室の別の人物も、ハーウッド準教授の主張は事実に反していると述べた。
【被害者:女性院生C】
女性院生Cは、2012年(37歳?)の別の学術集会で被害にあっていた。
学術集会はケンタッキー大学で行なわれ、そのミキサーでハーウッド準教授に近づいたとき、女性院生Cは、ハーウッド準教授をほとんど知らなかった。
飲み物を飲んでいた時、ハーウッド準教授は女性院生Cの背中に腕を回し、彼女の乳房を触るように身を乗り出し、彼女の耳に何かささやいた。
その状況を、別の学生Dが目撃していた。
性的暴行の似たような話だから、以下略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2021年6月17日現在、パブメド(PubMed)で、ジェームズ・ハーウッド(James Harwood)の論文を「James Harwood[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の71論文がヒットした。
「Harwood JD」で検索すると、2001~2021年の21年間の40論文がヒットした。
2021年6月17日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2021年6月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジェームズ・ハーウッド(James Harwood)を「James Harwood」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2021年6月17日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジェームズ・ハーウッド(James Harwood)の論文のコメントを「James Harwood」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》感心いろいろ
ジェームズ・ハーウッド事件での情報公開はいろいろ考えさせられた。
2016年、大学の学生新聞社が大学に情報開示を求めたのを、白楽はスゴイと思った。日本の学生新聞もがかつては勢いがあったが、今は見る影もない。10年ほど前、東京大学の学生新聞から取材されたが、日本のほとんどの大学に、学生新聞がない(と思う)。イヤ、あるようだが、活気はない。 → 学生新聞 – Wikipedia
その学生新聞社「ケンタッキー・カーネル社」(この名前もスゴイ!)からの開示要求を、ケンタッキー大学が一蹴した。
すると、学生新聞社はケンタッキー州司法長官に訴えた。白楽は、これも、スゴイと思った。
そして、ケンタッキー州司法長官(3年後に州知事になった権力者)は、開示するようケンタッキー大学に命じた。これも、スゴイと思った。
裁判では、ケンタッキー州司法長官の指示と反対の結論をだした。ウ~ン。
さらに、ケンタッキー大学の関係者が事件記録を学生新聞社にリークしている点も、白楽は、これも、スゴイと思った。
なお、リークは正義感だけではない面もあるから注意しないと・・・。例 → 2020年06月19日の高田昌幸の「論座」記事:「リーク」とは何か~当局はジャーナリズムを使って情報操作する
「スゴイと思った」最期だが、当時、司法長官補だったエイミー・ベンセネヘイヴァー(Amye Bensenhaver)が、この問題を2020年のコラムに記述した。要職についていた人がその事情をコラムに書くということは、日本では滅多にない。白楽は、これも、スゴイと思った。 → これは、明日(2021年6月19日)の記事「7-72 大学が守るプライバシーは誰のため?」。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① 2016年8月13日のマージョリー・カーク(Marjorie Kirk)記者の「Kentucky Kernel」記事:Kernel obtains withheld records; victims say UK trying to protect professor in sexual assault case | News | kykernel.com、(保存版)
② 2016年8月26日のソフィア・タルプ(Sophia Tulp)記者の「USA Today」記事:u-kentucky-is-suing-its-own-student-newspaper-over-a-sexual-assault-investigation
③ 2016年8 月23日のアジーン・ゴーラシ(Azeen Ghorayshi)記者の「BuzzFeed」記事:University Will Sue Its Own Student Newspaper For Reporting On Sexual Assault Case
④ 2017年1月24日のタイラー・キングケード(Tyler Kingkade)記者の「BuzzFeed」記事:A University Sued Its Own Student Newspaper And Won
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●9.【コメント】
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